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思索 電子回路 論評等 byホロン commux@mail.goo.ne.jp

トランジスタの 端子接地

2015-01-03 21:31:06 | 電子回路
トランジスタを使って増幅回路を構成する場合、3つ端子のどれかを接地して使います。つまり、エミッタ接地、コレクタ接地、ベース接地のいずれかになりますが、「エミッタ接地」「コレクタ接地」の2つは既におなじみですね。添付図にそれぞれの接地方法による増幅回路を示します。

「接地」の意味はインピーダンスの低い直流電源に接続するということです。グランド、VCC、あるいは別途直流電源もそれに相当します。

エミッタ接地はもう何ら問題ないですね(実際にはエミッタ抵抗を入れます)。トランジスタの解説書などでも最初に紹介される代表的増幅回路です。コレクタ接地は電力増幅回路やエミッタフォロワなどと呼ばれます。これも問題ないですね。さて見慣れないのがベース接地です。確かにこのように構成しても増幅器として働きそうです。中段の表はこの3種類の増幅器の特徴を比較したものです。

これだけではまだピンときませんね。
実際のベース接地はエミッタ接地増幅回路を補うものとしてよく用いられます。エミッタ接地は入力インピーダンスもゲインも大きく取れ、なかなか好都合な増幅回路なのですが、扱う周波数が高周波になると理屈どおりには動かなくなります。というのもMOS-FETほどではないにしろトランジスタにも帰還容量があり、“入力電圧と出力電圧は位相が反転している”ので、高周波になるほど帰還容量を通ってベースに負帰還されゲインが低下してしまうのです。そこでベース接地と組み合わせてこの現象を回避しようとしたのがカスコード接続(カスケード接続)です。高周波増幅用の手法として考案されました。

図を見てください。カスコード接続ではQAのコレクタは電圧増幅しないので出力が入力に帰還されることはありません。QBはベース接地増幅回路であり入力インピーダンスは小さいですが、QAが電流増幅しているので問題ありません。QBのコレクタ電流はQAのコレクタ電流そのものであり、QBのコレクタ抵抗によって電圧出力します。QBのベースは接地されているため出力が帰還されても何ら影響を受けません。結果として高周波のゲイン低下を抑えることができるということです。

2009-12-16 22:08:17

関連記事:
トランジスタ増幅回路
定電圧電源を作ろう②エミッタフォロワ 2009-12-18
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PLL (フェーズ ロックド ループ)の原理

2012-12-16 01:48:46 | 電子回路
図はPLL(フェーズ ロックド ループ)による「FM復調」の原理を示しています。オペアンプを理解していれば一目瞭然ですね。

VCO(Voltage Controlled Oscillator)は「V/Fコンバータ」であり、入力電圧に比例して出力周波数が変化します。よってVCOの出力は入力信号の周波数と位相が一致し(同一波形であり)、VCOの入力(オペアンプの出力)が復調された信号波形になります。

すなわちこれもオペアンプの核心部。ネガティブフィードバックする限り必ずプラス入力端とマイナス入力端の値は一致するということです。もしVCOの代わりに抵抗を取り付けたら、プラス入力端、マイナス入力端、オペアンプの出力の3か所の波形がすべて同じになりますね。

関連記事:オペアンプとは何か? 2007-09-02
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コイルとは何か② 自己誘導起電力

2012-10-21 17:24:38 | 電子回路
発電機の原理はご存知のことと思います。

磁界の中でコイルを動かせば、あるいはコイルを変動する磁界の中に置けば、コイルの端子間に起電力が発生します。これを「誘導起電力」といいますが、前述のようにコイルに電流を流せば磁界(磁束φ)が発生し、この磁束の変化によってやはり起電力が発生します。これをコイルの「自己誘導起電力」といい、次式で表わされます。

自己誘導起電力 e = -N dφ/dt [V] (N:巻数)

最も重要な点は「マイナス符号」が付いていることです。これは、この起電力は「コイルの端子電圧に対し常に『逆極性』である」ことを意味します。

例えば、コイルの端子にDC10V を印加したとします。これにより電流I が流れますが同時に磁束φが生じ、e = -N dφ/dt の起電力が生じます。電流I が増加しようとすると dφ/dt は「プラス」となり結果として e は「マイナス」になります。電流I を増加させようとするのは DC10V の電圧ですが、これと逆極性の起電力 e が電流増加に抵抗します。ここでコイルの端子電圧をDC-10V に入れ替えた場合は e はプラスとなって、こんどは電流減少に抵抗することになります。(この e の仕業によって、この場合、コイルL に流れる電流 I は、I= ±10/L t と1次関数になります。もし e が無ければ短絡ですね)

つまり

誘導起電力 e = -N dφ/dt は磁束φの変化によって生じ「磁束φの変化を妨げる」ということです。

また、磁束φの一般式は φ=NI [μ(S/d) =1]です。よって誘導起電力の式は

e = -N dNI /dt   よって
e = -N^2 dI /dt   となり、N^2 を記号 L で表せば  [ L は巻数N の2乗に比例します]
e = -L dI /dt   となります。

この「 L 」がインダクタンス[H ](ヘンリー)であり、この場合は

誘導起電力 e = -L dI /dt は電流I の変化によって生じ「電流I の変化を妨げる」ということです。
(φ=NI だから同じことですが)。


【まとめ】
e = -L dI /dt が存在する時、コイルの端子に電圧 v = L dI /dt が存在します。「 v があるとき e があり、e があるとき v がある」。これは「電流と磁気」の関係のように、「ペア」として把握しておくべきでしょう。

余談ですが、端子電圧の式 V = L dI /dt からコイルに流れる電流 I の一般式が得られます。

V = L dI /dt   の両辺を積分します。
∫V dt = LI
I = 1/L∫V dt   ということですね。

関連記事:
コイルとは何か① 電流と磁気 2012-10-15
磁気の話① 磁界Hと磁束φ、電流Iと巻数N 2012-09-27
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磁気の話② 磁束φと鎖交磁束数Φ(磁束鎖交数)

2012-10-19 15:26:50 | 電子回路
(画像は http://www.ike-dyn.ritsumei.ac.jp/~hyoo/em0.pdf からお借りしました)



磁束ΦとインダクタンスL の関係は、一般的に次式で表わされます。
Φ= LI

これは磁気の解説書などに必ず登場するポピュラーなものですが、いささか注意が必要です。それは φ=LI ではなく、Φ=LI ということです。よく見てくださいね、記号φとΦが違うのです。つまり異なる2種類の磁束があるということですが、これは一体どういうことなのでしょう。

「磁気の話①」では、コイルにおける磁束φを次のように定義しました。
φ=μ(S/d)NI [μ:透磁率 S:コイルの断面積 d:コイルの長さ N:巻数]

一方、コイルのインダクタンスL は、実際のコイルの設計資料などでは、しばしば次式のように示されています。
L=Kμ(S/d)N^2 [K:長岡係数(コイルの形状等による)]

K=1 として、磁束φ=μ(S/d)NI に代入すると
Nφ=LI となります。

これが磁束φとインダクタンスL の関係式ですが、実はφはコイル1巻きを貫通(鎖交)する磁束であり、実際にはN 数に鎖交するのでコイルの全磁束はNφとなり、それを記号Φで表わすのです。これはWeb上の説明も借りてみましょう。

http://www.cqpub.co.jp/hanbai/books/30/30671/30671_1syo.pdf
「巻き線が生む磁束は、すべてがコイルを貫くわけではありませんが、コアが十分長く、かつ透磁率が高ければ、生じた磁束φはすべての巻き線と鎖交し、巻数をN とすれば鎖交磁束数Φは、Φ=Nφに近似することができます」

さすがは専門書。こちらの方がフィットしているかも知れませんね。φを「磁束」、Φを「鎖交磁束数」といいます。

誘導起電力を示す式は、e =-N dφ/dt と e =-dΦ/dt のどちらがしっくり来ますか?
私は e =-N dφ/dt がいいですね。N があるからφの変動が巻き線に鎖交して誘導起電力e を発生させる様子が見えるようではないですか。

関連記事:
磁気の話① 磁界Hと磁束φ、電流Iと巻数N 2012-09-27
電荷と電気③ 電気力線と電束 2011-02-06
コイルとはなにか (電流と磁気) 2012-10-15
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コイルとは何か① 電流と磁気

2012-10-15 20:37:52 | 電子回路
電流と磁気は常に共に存在し「電流のあるところ磁気あり、磁気あるところ電流あり」です。

例えば1本の電線に電流が流れると、その電線を中心として円を描くように磁気が発生します。(磁気の強さが及ぶ範囲を「磁界」といいます)。磁気の強さは円の中心に近付くほど強くなりますが、それを表すために半径の異なる同心円をたくさん書いて、半径が隣り合う円の粗密で磁気の強さを表します。つまり中心に近付くほど半径の差が小さく、遠ざかるほど差が大きいということですね。(この円周を描く線を「磁力線」といいます)。この円は電流が流れている点すべてに存在するので、円×電線の長さが生じている磁界になります。

磁界中の任意の点の磁気の強さをH で表わし、その点が接する円の半径をr [m]とすると、H=i / 2πr [A/m]となります。

通常、1本の電線に生じる磁界はさほど気にしません。というのも、パワーエレクトロニクスの世界でもなければ、電線に流れる電流は相対的に小さく、生じる磁界も無視できるほど小さいからです。しかし電線をスプリング(引バネに近似)のような形に何回も巻けば、電線に流れる電流は小さくても大きな磁界が生じるようになります。これが「コイル」です。基本的にコイルの磁界の強さは「電流と巻数の掛け算」になります。

【コイルは電流増幅器】
ではなぜ、形状の異なる1本の電線でしかないコイルが大きな磁界を生じるのでしょう。それを考えるために、電線が隙間なく50回 巻かれた長さが3cm のコイルを想定します。このコイルに1A が流れているものとし、円筒を縦に切る方向のコイルの断面を思い浮かべて下さい。まず1巻目の電線には1A が流れています。そして2巻目の電線にも同じ個所、同じ方向に1A の電流が流れています。そして3巻目の電線にも1A が流れており、結局、隣り合う50巻すべてに1A が流れています。これは幅が3cmの平らな電線に50A が流れているとみることもできますね。よって巻数をN とすると、コイルはN 倍の電流を流す電線と見なせるのです。比喩的には「コイルは電流増幅器」といえますね。

【コアは磁気増幅器】
コイルが生成する基本的な磁界の強さはNI によりますが、磁界を表す磁力線の粗密が磁界の強さであることは前述しました。コイルが生じる磁力線は巻線の内部が最も密になります。(参考図)。NI が大きくなれば磁力線の数が増えます。ということは巻線の内側の磁力線はさらに密になるということですね。そして次に登場するのが「コア」です。

市販のコイルは鉄やフェライトなどの「磁性体」に電線を巻いてあるものが多いですね。この磁性体がコアです。コイルの巻線内にコアがあれば、磁力線の数がまた更に倍増するのです。しかも100倍、1000倍という桁違いの増え方になります。これはコアの有する「透磁率」という物性の効果です。透磁率は記号μで表し、空気(真空)の透磁率をμ=1とすると、センダストはμ=100、鉄はμ=5000 のようになります。よってコイルが生成する磁界の強さを μNI で表せばより実際に近くなります。コアを用いることによって、巻線のN 数を大幅に減らすことができるので、電子部品としてのコイルを小型にすることが可能になります。

磁気の話は詳しく語り始めると切がないのですが、下の関連記事「磁気の話① 磁界Hと磁束φ、電流Iと巻数N」で細かく説明しているので興味のある方はどうぞ。

関連記事:
磁気の話① 磁界Hと磁束φ、電流Iと巻数N 2012-09-27
コイルとは何か② 自己誘導起電力 2012-10-21
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LC共振回路の解(ラプラス変換)

2012-10-04 01:47:12 | 電子回路
まずは方程式をたてます。

L di(t)/dt+1/C∫ i(t)dt =e(t) (ただし i(0)=0 )

ラプラス変換します。

sLI+I/sC=E/s
(sL+1/sC )I=E/s
I=E/s 1/ (sL+1/sC )
 
右辺の分母分子に s/L をかけます。

I=E/L 1/ (s^2+1/LC )
√(1/LC)=aとおくと

I=E/L 1/ (s^2+a^2 )

ここで、1/ (s^2+a^2 ) が変換表にあれば逆ラプラス変換できるが、ない!
しかたがないので両辺にsをかけてみる

sI=E/L s/ (s^2+a^2 ) ----- ①

cos at → s/ (s^2+a^2 )であるから(変換表)
式①を逆ラプラス変換すると

d i(t)/dt=E/L cos at

両辺を積分すると

i(t)=E/L 1/a sin at

√(1/LC)=a だから 1/√(LC) =a
代入すると

i(t)=E/L 1/a sin at
i(t)=E/L √(LC) sin {1/√(LC)}t ----- 終わり

さらに
√(LC) =1/ω  だから
i(t)=E/ωL sinωt

関連記事:
LCR回路の過渡特性 2009-05-11
LC共振回路 2007-10-03
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磁気の話① 磁界H と磁束φ、電流 I と巻数 N

2012-09-27 18:30:05 | 電子回路
上の絵を見ながら、しみじみと考えている。コイル(ソレノイド)に電流が流れて磁界がつくられ、磁界の様子を磁力線で表している、誰もがよく目にする平凡な絵である。しかしこの絵は見れば見るほど奥が深い。そもそも磁界とは何か?磁力線とは何か?磁界はH で表わし強さを意味する。それがこのコイルの磁気の強さかと思いきや「磁気の強さは磁束密度である」などといわれる。では磁束とは何なのか?と疑問が疑問を呼ぶ。これはひとえに磁気にまつわる用語の定義が曖昧だからと思われる。(それが明確に区別できるにも関わらず)。驚くのは、磁束密度を磁界と呼ぶこともあり、それが間違いではないことだ。こうなるともう訳が分からなくなる。

そこでここでは、磁気にまつわる用語の意味を明確にすることを試み、「磁気の強さ」その他諸々を考えてみたいと思う。

【 磁界H 】
磁界は磁場とも言う。「場」なのだからエリア、つまり磁気の力が働いている空間である。上の絵では磁力線が場を占める範囲である。この磁界を記号H で表わすとき、それはエリアではなく磁気の強さの意味になる。図の磁界中のA点とB点では磁気の強さが異なることは容易に想像できるだろう。つまり磁界H とは磁界中の各箇所の磁気の強さを意味し、単位は[A/m]である。これは単位長さ[m]当たりの「起磁力」であるが、起磁力については後述する。

【 起磁力F 】
起磁力は電気回路における起電力に相当し、起電力によって電流が流れるように起磁力によって磁界が生じる。起磁力は次式で表わされる。

F=NI [A] (アンペア)

N は電線の巻数、I は電流である。単位が示すように起磁力とは「電流」である。これに対し、起電力は「電圧」である。この相対関係は起磁力の概念を捉えやすい。すなわち「磁気の起源は電流である」ということである。

さて、Wikipediaには起磁力について次のように記述されている。

「起磁力は磁気回路に磁束を生じさせる力。電気回路の起電力に相当し、1つの磁束線上にある2点間の磁位の差といいかえることもできる。電磁石では鉄心に巻いてあるコイルの巻き回数と、そこに流れる電流(アンペア)の積によって決まり、かつてはMKSA 単位系ではアンペア回数(AT)という単位が用いられたことがあるが、現在のSI ではSI 単位としてアンペア(A)を用いる」

説明不足もあるが、やはり用語が曖昧なためスッキリしない。単位の話など参考にはなるが。

【 磁束φと磁束密度B 】
上の絵では作画の関係上、磁力線を6本しか描いてないが、塗りつぶさない限り、できるだけ数多くの磁力線によって磁界を表した方がより実際に近い。よってこの絵にも、もっとたくさんの磁力線があるものとして見て頂きたい。

さて、磁界中の任意の場所に面積S[m^2]の平面を磁力線と直交するように配置すると、複数の磁力線がこの平面を貫通する。この平面を貫通する磁力線の本数が「磁束」である。磁束は記号φで表わし単位は[Tm^2](テスラm^2)又は[Wb](ウェーバ)である。

そして、この平面S を単位面積 m^2とした場合の磁束が「磁束密度」であり、記号B で表わし、単位は[T](テスラ)である。以上の定義より、磁束φは任意の面積S[m^2]を磁束密度B に乗じたものとして表わされる。(磁束密度を別の言い方で表せば、磁界中のある個所の磁束を、その箇所の面積S[m^2]で割ったものが「磁束密度」である)。

φ= BS [T m^2]

【 磁界H と磁束密度B の関係 】
さて「磁気の強さ」に話を戻そう。ある文献から一節を引用する。

「すなわち、磁力線に直角な『 1m^2の面を通る磁力線の数は、磁界の大きさと等しい』。このように考えると磁界の強さH(A/m)の点の磁力線の密度はH(本/m^2)となるわけである」(電磁理論 p95 東京電機大学)

同様に、とあるWebサイトから。
http://ji6rcy.no-ip.info/top/junk_cology/circuit_tips/making/inductance/inductance_top.htm#chap1

「ここでまた約束があります。『磁力線と直角な面の磁力線の密度は磁界の大きさと等しいものとする』と定義されています。定義から磁界の強さがH[AT/m]の点では1[㎡]当りH 本の磁力線が垂直に通っています」(上の絵の右下に添えている図はこのサイトからお借りしました)

どちらも同じことを言っている。重要な内容でありながら語られることが少ないので2例引用した。この定義の意味は

H [A/m]= H [本数/m^2]  であり
  [A/m]=[本数/m^2]  である。

左辺は「磁界強度」右辺は「磁束密度」である。それが等号で結ばれるということは、磁界中のある個所の磁界の強さと、その箇所の磁束密度は互いに置き換えられるということである。そしてこのことに、次の「透磁率」が大きく関与する。

起電力(電圧)V 抵抗R 電流I の関係において、V が一定のとき、R によってI の大きさが変化するように、磁気の場合も起磁力 NI [A]、磁界 H [A/m]が一定であっても磁力線が通る物質の性質によって磁力線の数(磁束密度:磁界の強さ)は変化する。例えば空気中を通る磁力線の数よりも、鉄やフェライトを通る磁力線の数の方が遥かに多くなる。物質が有するこの性質を「透磁率」といい、記号μで表わし単位は[H/m](ヘンリー毎 m)である。透磁率は電気回路の導電率[S/m](シーメンス毎 m)に相当する。

ということは、一般に磁界の強さは H [A/m]とするが、実際はμH ということになる。よって磁界H と磁束密度B の関係は次式で表わされる。

B = μH [T](テスラ)


【 ティーブレイク 】 電流I と巻数N の積 NI
起磁力F は F=NI [A]であった。磁界H も H=NI [A/m](m=1)である。磁束密度B も B=NI [T](μ=1)である。磁束φも φ= NI [Tm^2](m^2 =1)である。何のことはない「磁気、磁力はすべて NI である」。これは真理。


【 コイル 】
磁気(NI )を利用した電子部品がコイルである。コイルの構造はいたって簡単である。なにしろNI なのだから電線をクルクル巻けばコイルになる。仕上がり形状が棒状のものをソレノイドと呼ぶ。上の絵はまさにソレノイドが磁界を形成している様子である。そしてソレノイドを丸め、巻き始めと巻き終わりをくっ付けて円形にしたものをトロイダル(環状コイル)と呼ぶ。

[絵では巻き線内を通る磁力線が見えやすいように巻き線間に隙間を空けて描いているが、実際には隣り合う巻き線は密接しているものとする]

コイルにおける磁界H 、磁束密度B 、磁束φ等は、巻き線の内側空間(筒状の内側)に限定して扱う。上の絵ではソレノイドの内側の磁力線は並行であり密度が高い。ソレノイドの外側にも磁力線はあるが磁界(強度)H は内側に比べて遥かに小さい。よってこれは無視する。またトロイダルの場合の磁力線を想像できるだろうか。電線の巻き始めと巻き終わりが同じ位置にあるのだから、磁力線はすべて巻き線内部を通り外には現れない。

では上の絵を見ながらソレノイドにおける磁気の諸々を考えてみよう。

起磁力F はいかなる場合も F=NI [A] であり不動である。

磁界H は H=NI/d [A/m]となり、コイルの長さd [m]がパラメータとして加わる。ソレノイドのd は直線長そのものであるが、トロイダルは d=2πr である。

磁束密度B は、前述の「透磁率μ」がより重要な要素として関与する。実際ソレノイドであれ、トロイダルであれ「フェライトなどの磁性体」をコアにして電線を巻きつけている品物が多い。これはできるだけ少ない巻数で、より大きな磁束密度B を得るためである。

上の絵のソレノイドにはコアがない。これを空芯ソレノイドという。しかし空気(真空)をコアにしていると考えることもできる。なぜなら真空にも「透磁率」があるからである。真空の透磁率はμ0で表わし、μ0 =4π×10^-7 である。

よって磁束密度B は B=μ0 (NI /d) である。

[透磁率の余談]
真空の透磁率μ0 を1とした場合の各物質の透磁率を「比透磁率」といいμr で表わす。鉄の場合μr =5000 だったり、センダストはμr =100 だったりするが、磁束密度B を求めるためには絶対値μが必要であるから、次式のようになる。

B = μrμ0 H [T] (μr =μ/μ0 )

【磁束とインダクタンスL】
磁束φは φ= BS(Sはソレノイドの断面積[m^2])だから、φ=μ (S/d)NI [Tm^2]である。このφに巻数N を乗じたもの(磁束鎖交数)がソレノイドの磁気の強さの絶対値(総量)であり、記号Φで表す。すなわち
Φ= Nφ

φ=μ (S/d)NI だから
Φ=μ (S/d)N^2 I

μ (S/d)N^2 を記号L で表せば
Φ =LI あるいは Nφ=LI

このL がインダクタンスである。

自己誘導起電力は次式で表される。 e = -N dφ/dt [V]

Nφ=LI だから φ=LI /N を自己誘導起電力の式に代入すると e = -L dI/dt [V] となる。

誘導起電力 e = -L dI/dt が生じているときのコイルの端子電圧 v は  v = L dI/dt である。符号に注意。

つまりコイルの端子電圧 v と誘導起電力 e は同時に存在し、常に逆極性ということである。コイルに電流を流す力は端子電圧 v であるから、同時に存在する逆極性の e によって電流の変化を妨げられることが、このことからも理解できる。

【 一応の まとめ 】
漠然とおさらいをする。磁気あるいは磁界の強さを示す複数の用語、起磁力F 、磁界H 、磁束密度B 、磁束φ、これらすべてはNI [A]に起因する。つまり「電流」が磁気の源。そして磁気の強さは何によって示されるか。磁力線の本数である。「磁気が強い」=「磁力線の本数が多い」である。NI のNが 増えるとどうなるか、NI のI が増えるとどうなるか。磁力線を高い透磁率に通せばどうなるか。すべて磁力線の数が増えるのである。

[2012/10/18 全面改訂]

関連記事:
磁気の話② 磁束φと鎖交磁束数Φ(磁束鎖交数) 2012-10-19
エネルギとしての電荷と磁気① 2010-11-29
コイルとはなにか。(電流と磁束) 2012-10-15
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LC共振回路とDC/DCコンバータ(本稿)

2012-09-19 14:30:41 | 電子回路
【 コイルLとコンデンサC 】
電気回路における受動素子は「抵抗R 」「コイルL 」「コンデンサC 」の3種類です。それぞれに電流I を流すとエネルギを生じます。もう少し厳密にいうと、電流I を流す原動力のエネルギを、それぞれの素子が別のエネルギに変換するということです。

抵抗R に生じるエネルギは「熱:W 」であり、コイルLに生じるエネルギは「磁気(磁荷:Φ」であり、コンデンサC に生じるエネルギは「電気(電荷):Q 」です。熱は放熱によって消滅しますが、コイルの磁気エネルギとコンデンサの電気エネルギは放置しても無くなりません。これがコイルとコンデンサ、最大の特徴です。両者はエネルギを溜める「容器」なのです。

「コイルとコンデンサは容器(容量)であること以外にも特性に相補性があり、対称的に共通する非常に興味深い素子です。機械的構造も、コイルは1本の電線を巻いたもの、コンデンサは金属平板を向かい合わせたもの、似ているようにも思えます」

コイルの単位H(ヘンリー)とコンデンサの単位F(ファラド)は容器の「定面積」であり、容器の「高さ」は、コイルの場合は電流容量、コンデンサの場合は耐圧です。

「容積=定面積×高さ」

【対称的特性】
コイルに溜まる磁気量(磁荷)をΦ、コンデンサに溜まる電気量(電荷)をQ で 表わすと、次式が成り立ちます。

Φ= LI   (I :コイルに流れる電流)
Φ=∫V dt   (V :コイルの端子間電圧)

Q = CV   ( V:コンデンサの端子間電圧)
Q =∫I dt   ( I:コンデンサに流れる電流)

ΦとQ の式よりコイル電流I とコンデンサの端子電圧V は

I = 1/L∫V dt   V が定数の場合    I = V/L t
V = 1/C∫I dt   I が定数の場合    V = I/C t

磁気エネルギと電気エネルギの大きさは

EΦ= 1/2 LI^2 
EQ = 1/2 CV^2

以上の式からも、コイルとコンデンサが対称的に共通していることがわかりますね。

【LC 共振】
このコイルL とコンデンサC の対称特性によって、LC を接続して閉回路にして回路の中にエネルギがあれば「LC 共振」という現象が生じ、エネルギ交換によって永久運動することになります。

左の「LC 共振回路」の動作を、順を追ってみてみましょう。いまコンデンサC は電気量Q(電気エネルギ)を溜めており端子電圧はV であり(V = Q/C )、電流はI = 0であり、よってコイルL の磁気エネルギはΦ= 0であるとします。この状態から時間を進めます。

[記号V とI に付く±は極性。電流の±は向きを示す]
コイルL の端子電圧V+ によってコイルに電流I- が流れ始め、同時に磁気エネルギΦが生じます。電流I- はコンデンサC から流れるので V = 1/C∫I dt により端子電圧V+ は減少していきます。コイル電流I- は I = 1/L∫V dt だからV+ が減少しても増加を続け、磁気エネルギΦも増大していきます。

コンデンサC の電気エネルギQ はΦの増加分だけ減少します。いずれV = 0となり、このときI- は最大であり、Φも最大であり、Q = 0になっています。磁気エネルギΦによって電流I- は継続して流れV はV- になります。これにより I = 1/L∫V dt だからI- は減少していきます。I- が減少しても V = 1/C∫I dt だからV- は増加を続けます。いずれI = 0となり、このときV- は最大であり、Q も最大であり(Q = CV )、Φ= 0になっています。

V- によってコイルにI+ が流れ始め、コイルにΦが溜まり始めます。電流I+ はコンデンサC から流れるので V = 1/C∫I dt により端子電圧V- は減少していきます。コイル電流I+ は I = 1/L∫V dt だからV- が減少しても増加を続け、磁気エネルギΦも増大していきます。

コンデンサC の電気エネルギ QはΦの増加分だけ減少します。いずれV = 0となり、このときI+ は最大であり、Φも最大であり、Q = 0になっています。磁気エネルギΦによって電流I+ は継続して流れV はV+ になります。これにより I = 1/L∫V dt だからI+ は減少していきます。I+ が減少しても V = 1/C∫I dt だからV+ は増加を続けます。いずれI = 0となり、このときV+ は最大であり、Q も最大であり(Q = CV )、Φ= 0になっています。

これで最初の状態に戻りました。この先は同じサイクルを永久に繰り返します。コンデンサの電気エネルギQ とコイルの磁気エネルギΦが行ったり来たりしますね。ここが重要なポイントです。
「参考までに、このLC 共振におけるI とV の式を示します」

I =-I sin ωt   [ω=1/√LC]
V = V cos ωt

[参考波形

【外部電源を用いたLC 共振回路】
右の図は電圧V の直流電源を初期エネルギに用いた、LC 共振回路です。スイッチをON すると、上記とまったく同じ動作をします。ただしコイルL の電源側がV に固定されるので、共振電圧Vc は0点がV だけオフセットし、式で表わせば次のようになります。

I = I sin ωt   [ω=1/√LC]
Vc =-V cos ωt+V

実はこの右の図のLC 共振回路と電流と電圧の式が、DC/DC コンバータに大きく関係するのです。

【昇圧チョッパの回路】
どのようなDC/DC コンバータでも同じなのですが、ここでは「昇圧チョッパ」の回路と動作を確認してみましょう。添付図を見てください。

VIN 端子に電源V を接続し、トランジスタをOFF にしてダイオードD を短絡してみてください。いかがでしょう、これはLC 共振回路そのものですね。この回路構成からDC/DC コンバータはLC 共振の動作原理を応用したものであることが伺えます。

コンデンサC の端子が出力電圧OUT になっています。このC はDC/DC コンバータの回路では「出力コンデンサ」と呼ばれ、C が溜めている電気エネルギQ によって出力電圧を得ます(V=Q/C )。出力から負荷電流を取り出すとQ が減少し出力電圧が低下しますが、「LC 共振の原理に基づいて」コイルL の磁気エネルギΦを即座にC の電気エネルギQ に変換して補充します。ダイオードD は逆流防止ですね。

負荷がC の電気エネルギQ を消費している間に、トランジスタをON にしてコイルLに電流I を流し磁気エネルギΦを作ります。Φが適量溜まればトランジスタをOFF して電流I をコンデンサC に流し、磁気エネルギΦを電気エネルギQ に変換するわけです。

[トランジスタON 時は、コイル電流I は「電源-グランド間」に流れますが、トランジスタをOFF すると電流I は大きさを保ったままダイオードの方に向きを変えます]

実際のDC/DC コンバータは10kHz~100kHz でスイッチングしますので、1秒間に10000回以上「磁気エネルギ-電気エネルギ変換」やっているということですね。


関連記事:
LC共振回路とDC/DCコンバータ(構想) 2012-09-18 21
LC共振回路 2007-10-03
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LC共振回路とDC/DCコンバータ(構想)

2012-09-18 21:38:19 | 電子回路
左の図は平凡なLC 共振回路です。スイッチをON すると、電流i がサイン波でL とC を行き交い、C の端子電圧Vc はサイン波で振動します。
(厳密には、i=sinωt とすると、Vc=-cosωt )。

このLC 共振の動作をしばらく思い巡らし、ハタと思いつきました。LC 共振とは(電流i を介した)磁気エネルギと電気エネルギの相互変換であり、それによる永久運動です。L は磁気エネルギを、C は電気エネルギを溜めます。つまり一定量のエネルギが姿を変えてL とC を行ったり来たり。「これはDC/DC コンバータの原理そのものではないのか?」

【構想】
LC 共振において、L の磁気エネルギがゼロでC の電気エネルギがフルのときに、「C からL への電流i の逆流を止め」、「C の電気エネルギを外部に出力し」、「外部電力によってL の磁気エネルギを生成し」、「C の電気エネルギの減少分を補う」。これを繰り返せば、「おお!これはまさにDC/DC コンバータではないか」。

【昇圧チョッパ】
DC/DC コンバータの例として「昇圧チョッパ」を見てみましょう。トランジスタをOFF しダイオードD を短絡させれば、LC 共振回路になりますね。

では、あらためて昇圧チョッパの機能を確認します。ダイオードD は電流の逆流を阻止する。トランジスタをON すればコイル電流i が流れコイルL に磁気エネルギが溜まる。次にトランジスタをOFF すれば電流i はダイオードD に向きを変え、コンデンサC に電気エネルギを溜める。このときL の磁気エネルギがC の電気エネルギに変換される。以上。この昇圧チョッパの動作は上記の【構想】と一致しますね。

ということで、「LC 共振回路とDC/DC(本稿)」に飛びましょう。

関連記事:
LC共振回路とDC/DCコンバータ(本稿) 2012-09-19
昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)① 2012-09-09
LC共振回路 2007-10-03
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昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)③

2012-09-10 23:54:01 | 電子回路

本記事をご覧いただく前に、【昇圧チョッパ】をご一読されることをお勧めします。


【降圧チョッパ】

「降圧チョッパ」の図を見てください。VIN にDC50V を入力しトランジスタQ をON すると出力OUT はどうなるでしょう。トランジスタをON の状態で放置すると、昇圧チョッパのトランジスタOFF の状態と同じなので、出力OUT は最大電圧が100V になり、その後、電流ラインにダイオードがないので、コンデンサC からコイルLに逆電流が流れます。しかし降圧チョッパは入力電圧よりも低い出力電圧を得るのが目的ですから、出力OUT が50V に達するまでにトランジスタをOFF しなければ意味がありません。

トランジスタのON によって出力OUT が20V に達した時点で、トランジスタをOFF するとどうなるでしょう。コイルL にはコイル電流I (I=1/L ∫ V dt)が流れており、Φ=LI の磁気エネルギを溜めているので、電流I はダイオードD を通ってコイルL に流れ続け、コンデンサC をチャージします。これによりコンデンサC の端子電圧は (20+α)V になりますが、この時コイルL の入力端子は0V(0.6V)、出力端子は (20+α)V だから、電流I の方向に対して端子間電圧V はマイナスになります(逆バイアス)。よって、I=1/L ∫ V dt だから電流I は減少しいずれゼロになります。電流I=0 時点の出力端子の電圧は計算で求められますが、面倒なのでここではやりません。参考までに、電流I の定義式を記述しておきます。

I=V/ωL sin ωt [ω=1/√LC]

実際の降圧チョッパは(電流I=0まで律儀に待つわけではなく)、トランジスタを高速にスイッチングさせながらコンデンサC への供給電流を調整しています。降圧チョッパも出力に負荷が接続されるのが前提ですから、負荷電流によって出力電圧が低下します。よって、出力電圧が一定値を保つようにトランジスタのON-OFF タイミングを調整することで、出力電圧を負荷変動に対して定電圧化することができます。これは昇圧チョッパの場合とまったく同じです。(PWM 制御)。というか、いかなるDC/DC コンバータもすべて同じです。

【降圧チョッパが昇圧できない理由】
電源電圧が50V で出力OUT の電圧が50V の時にトランジスタQ をON するとどうなるでしょう。何も起こりませんね。これが、降圧チョッパが電源電圧の値以下の電圧しか出力できない理由です。


【電流可逆チョッパ(双方向DC/DC)】

「電流可逆チョッパ」の美しさはどうでしょう。いつまでも見入ってしまいそうです。チョークコイルを「昇圧チョッパ」と「降圧チョッパ」が共有し、見事に「双方向DC/DC コンバータ」が実現しています。トランジスタQ1 をスイッチングすれば降圧チョッパ、Q2 をスイッチングすれば昇圧チョッパになることが見て取れるでしょう。これはもうこれ以外に言うべき言葉を持ちません。惚れ惚れとしばらく眺めていることにしましょう。

関連記事:
「昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)② 2012-09-10」
「昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)① 2012-09-09」
LC共振回路とDC/DCコンバータ 2012-09-18
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昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)②

2012-09-10 19:46:24 | 電子回路


【昇圧チョッパ】
「昇圧チョッパ」の図を見てください。トランジスタをOFF にして、VIN に5V を入力すると出力OUT はどうなるでしょう。電流がコイルL とダイオードD を通ってコンデンサC に流れ込み、Cの端子電圧(出力OUT)が時間とともに上昇していくと想像されると思います。事実その通りで間違いはありません。

では何故C の端子電圧は「いきなり」ではなく、「徐々」に上昇するのでしょう。厳密にこれを考えればかなり難しいのですが、とりあえずは大雑把にやって、その後厳密に行きましょう。概念的に言えば、コイルに電圧を与えると電流がゼロから徐々に増加し、コンデンサに電流が流れると徐々に端子電圧が増加していくのです。つまりコイルもコンデンサも共に「徐々」に貢献しているわけですね。

これを少し学術的に表してみましょう。

【コイルLとコンデンサC】
コイルL の端子電圧をV、流れる電流をI とすると、I は次式になります。
I = 1/L∫V dt ------①

もしV が一定値の場合は
I = V/L t (1次関数)です。I は徐々に増えますね。

コンデンサC に流れる電流をI、端子電圧をV とすると、V は次式になります。
V = 1/C∫I dt -----②

もしI が一定の場合は
V = I/C t (1次関数)です。V は徐々に増えますね。

さて前置きが長くなりそうな気配ですがもう少し我慢してください。チョッパ回路やDC/DC コンバータを理解するためには、頑張ってここを通るのが早道なのです。

【磁気と電気のエネルギ】
コイルの式①より
LI = ∫V dt この両辺を記号Φで表わして
Φ= LI また Φ=∫V dt

コンデンサの式②より
CV =∫I dt この両辺を記号Q で表わして
Q = CV また Q =∫I dt

さてΦとは、またQ とは何でしょう。Φは「磁気量(磁荷)」であり、Q は「電気量(電荷)」です。磁気量も電気量もエネルギですから、Φは容器L に溜められた「磁気エネルギ」であり、Q は容器C に溜められた「電気エネルギ」ということです。

(エネルギ量は E = 1/2 ΦI [Ws] E = 1/2 QV [Ws]です)

【早くも結論】
はい。ここでもう結論を言ってしまいましょう。昇圧であれ降圧であれ、非絶縁であれ絶縁型であれ、すべてのDC/DC コンバータは「入力電力を使ってコイルL に磁気エネルギを溜め、それをコンデンサC の電気エネルギに変換し、その電気エネルギ(電力)を出力している」のです。

つまり「磁気エネルギを蓄積して電気エネルギに変換する」をスイッチング毎に行い、周波数10kHz なら、それを1秒間に10000回繰り返しているわけですね。だから、DC/DC コンバータには入力部にコイルL、出力部にコンデンサC が必ず搭載されています。

【本論に復帰】
さて長らくお待たせしてしまいました。昇圧チョッパの話を続けましょう。トランジスタをOFF にして、VIN に5Vを入力すると出力電圧が徐々に上昇します。では出力OUT(コンデンサC の端子電圧)はいったいどこまで上昇するでしょう。

少なからぬ人が「入力電圧と等しい5V に達して止まる」と回答されます。しかしそれではコイルL は抵抗R と同じということになります。コイルL は磁気エネルギを溜めているはずですね、それは一体どうなるのでしょう。Φ=LI ですから、もし出力が5V になった時に電流I がゼロであればΦ=0で磁気は消滅していますが、実際はどうなのでしょう。

I = 1/L∫V dt(あるいはΦ=∫V dt)でした。電源5V の入力時はコイルL の端子間電圧V はV = 5V ですが出力電圧(C の端子電圧)の上昇に伴い低下し、出力電圧が5V に達した時点でV = 0V になります。ということは I = 1/L∫V dt ですから、その間の端子間電圧V が積分されて、コイル電流I は最大になっています。すなわち磁気エネルギΦも最大。「これは瞬時にI がゼロになるはずがない!」と直観的に思いますよね。

その通りです。コイル電流I は最大値のまま、さらにコンデンサC に流れ続けるのです。そしてC の端子電圧は5V を超えて上昇します。これがコイルに生じる磁気エネルギΦのなせる技ですが、これはコイルと磁気の関係における「自己誘導起電力」と呼ばれる作用によります。

【誘導起電力】
自己誘導起電力については、定義式とポイントのみ示しここでは詳細には触れません。コイルL に電流I が流れるときに生じる自己誘導起電力は次式で表されます。
e =-L dI /dt [V]

このとき、コイルLの端子電圧をv とすると次式になります。
v = L dI /dt [V]

符号が異なりますね。この互いに「逆符号」であることがポイントであり、電流I の変化を妨げる自己誘導起電力の理解において重要な点です。

【本論に復帰】
さてコイル電流I が流れ続け、C の端子電圧(出力電圧)は5V を超えて上昇しますが、いったい何Vまで上昇するでしょうか。

この時、コイルL の入力側の端子電圧は5V、出力側の端子電圧は5V+αですから、L の端子間電圧V はマイナスになっています。(電流I の流れる方向に対して逆バイアス)。電流I の式はI = 1/L∫V dt でした。よって電流I が(最大値から)減少していくことがわかります。またコンデンサC の端子電圧VはV = 1/C∫I dt でした。よって電流I が減少し、I = 0[A]になった時点でC の端子電圧(出力電圧)の上昇は止まります。またΦ= LI ですから、この時、磁気エネルギも消滅します。

LC の時定数T はT = √LC[sec]であり、充電時間と放電時間は一致します。よってコイルL の端子間電圧V が5V~0V の時間t1と、0V~-5V の時間t2は同一です。よってt1とt2における I = 1/L∫V dt の絶対値は同じです。よってt1とt2におけるコンデンサC の端子電圧V = 1/C∫I dt の値は同一となり、結局、出力電圧(C の端子電圧)は「10V」まで上昇します。この時、コイルL の磁気エネルギは、すべてコンデンサC の電気エネルギに変換され移行しています。

そしてこの先は、もしダイオードD がなければ、コンデンサC からコイルL の方に電流I が逆流し、C の電気エネルギがL の磁気エネルギへと移行して元の状態に戻るのですが、実際にはダイオードがあるので、電気エネルギはコンデンサC に留まります。

【エンディング】
さて、トランジスタを1度もON することなく、出力電圧が入力電圧の2倍に昇圧される様子を見てきました。大変お疲れ様でした。ここまでの話で、「昇圧チョッパ」の説明をほぼ終えたに等しいのですが、せっかくスイッチングトランジスタQ があるのだから、付録としてこいつも動かしてやりましょう。

いま出力電圧は10Vになっています。そしてコイルL の電流I はゼロであり、磁気エネルギΦもゼロです。この状態でトランジスタQ をON にします。するとコイルL に電源電圧の5Vが印加され、電流I が流れ(I = V/Lt)磁気エネルギΦ(Φ= LI )が溜まり始めます。頃合いをみてトランジスタをOFF すると、電流I はダイオードD の方に向きを変えて流れ、コンデンサC をチャージし、出力電圧OUT は10V+α[V]になります。このトランジスタのスイッチングを継続するとどうなるでしょう。+α[V]は果てしなく大きくなっていきますね。これがチョッパ(スイッチング)による「昇圧の原理」です。

【定電圧出力】
DC/DC コンバータの出力には必ず負荷が接続され電流を食います。そもそも負荷を接続しないのであればDC/DC コンバータの存在意味はありません。よって「昇圧チョッパ」も必ず負荷を接続して考えます。スイッチングによって昇圧した出力電圧は負荷に電流が流れることによって低下します。例えばDC24V の定電圧を出力する昇圧チョッパとするためには、負荷が電流を食うことによる電圧の低下分を補うように、スイッチング回数を増やします。また負荷が食う電流量が小さくなれば出力電圧は上がろうとするので、即座にスイッチング回数を減らします。このようにして出力電圧を24V に保つことができるのです。

DC/DC コンバータの実際のスイッチング周波数は数10kHz~数100kHz ですが、上記のような負荷変動に対してはスイッチング周波数を変えるのではなく、デューティ比を変えて対応します。つまり負荷電流が大きい場合はトランジスタのON 時間を長くし、負荷電流が小さい場合はON 時間を短くするということですね。これをPWM 制御といいます。

関連記事:
「昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)③ 2012-09-10」
「昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)① 2012-09-09」
磁界Hと磁束φ、電流Iと巻数N 2012-09-27
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昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)①

2012-09-09 00:45:50 | 電子回路
【イントロダクション】

スイッチング電源としての「チョッパ」とは1次側(入力)と2次側(出力)が非絶縁の「DC/DC コンバータ」です。昇圧型と降圧型があり、昇圧型は「昇圧チョッパ」「昇圧コンバータ」「ステップアップチョッパ」「ステップアップコンバータ」などの名称で呼ばれ、降圧型も「降圧チョッパ」「降圧コンバータ」「ステップダウンチョッパ」「ステップダウンコンバータ」と同様です。

この回路を話題にする時、さてどう呼ぼうか?と、ふと考えたりもしますが、ここでは「昇圧チョッパ」「降圧チョッパ」と呼ぶことにします。

そして本稿は図の「電流可逆チョッパ」を説明する目的で起草しました。この回路を始めて目にしたときの感動は忘れません。昇圧チョッパと降圧チョッパが巧妙に融合し「双方向DC/DC コンバータ」を構成しています。話の最後の「電流可逆チョッパ」にたどり着くまで、少し長い道のりになりますが気長にボツボツと行きましょう。

余談ですが、絶縁型のDC/DC コンバータも紹介しておきます。「フォワード型」や「フライバック型」と呼ばれるものが絶縁型の代表です。フォワード型を非絶縁にしたものが降圧チョッパ、フライバック型を非絶縁にしたものが昇圧チョッパと言えます。よって動作原理のみを考えると「両者は同じ」になります。

余談をもう1つ。最近ネット検索をしていて気づいたのですが、昇圧チョッパの解説をするWeb サイトは数多くありますが、「コイル電流を急変(遮断)させることにより生じる高電圧が昇圧の原理である」と大間違いの説明をしているサイトが少なくないことに驚いています。しかしこれも致し方ないことのようにも思えます。物理で学ぶ電磁気学の最初に登場するのは、誘導起電力の式 e=-Ldi/dt でしょう。そしてこの式に「開閉サージ」などの事例も絡めて、コイル電流の急変で生じる高電圧を「昇圧」としてインプットしてしまうのではないでしょうか。もしかしたら、いいかげんな教師はそのように教えているのかも知れません。

さてイントロが長くなりました。では「昇圧チョッパ」の話から長い航海に旅立ちましょう。リンク【昇圧チョッパ】に飛んでください。


関連記事:
「昇圧チョッパ 降圧チョッパ 双方向DC/DC(電流可逆型チョッパ)② 2012-09-10」
「ステップダウンチョッパ 2010-04-05」
「エネルギとしての電荷と磁気① 2010-11-29」
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スピーカーのインピーダンスを考える②

2011-07-29 19:32:41 | 電子回路
「 FOSTEX フルレンジユニット FE83En 」の紹介がてら、スピーカーのインピーダンスについてもう少し考えてみます。周波数特性の図を見ると、150Hz辺りに急峻な山の頂点があります。これはコーン紙とボイスコイルが一体になった物体の質量(M)とエッジのダイヤフラムのバネ定数(k)によって構成される共振現象であり、この時の周波数を一般に共振周波数:f0と表します。[ω0=√(k/M) f0= 1/2π × √(k/M)]

このf0においてインピーダンスが急増しています。何故でしょう。実は共振による振動は理屈上、外部からのエネルギーを必要としないのです。実際にはメカロスや空気抵抗などによって永久に振動し続けることはありませんが、ごく僅かなエネルギーを供給するだけで振動を継続させることができます。つまりf0においては、ボイスコイルが発生させた磁気エネルギーは、磁石の静磁界によってほとんど相殺されない(力に変換されない)ということです。よってボイスコイルは、ほぼ単独のインダクタンスとして働きインピーダンス(誘導性リアクタンス)を増加させているわけです。もし、ボイスコイルを機械的に固着させてインピーダンス特性を測れば、20Hz~1kHzまで直線となり、ぴったり8Ωを示すでしょう。

次に、1kHz以上において、じわじわとインピーダンスが増加しています。これはボイスコイルではなく、ボイスコイルを作っている電線(ポリウレタン線)のインダクタンス成分が効いてきているのです。ボイスコイルを解いて一本の電線に延ばしたと考えてください。電線のインダクタンスは長さに比例して大きくなります。そして、この電線のインダクタンスによって生じる磁束は、磁石の静磁界の方向と直交しているためにまったく打ち消されないのです。逆に言えば、電線が生じる磁束により力を発生することはありません。

関連記事:スピーカーのインピーダンスを考える① 2011-07-28
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スピーカーのインピーダンスを考える①

2011-07-28 15:51:57 | 電子回路
スピーカーのインピーダンスの前に、コモンモード・チョークについて、もう一度考えて見ましょう。これはスイッチング電源のなどによく使われているノイズフィルタですね。、要は巻き線比が1:1のトランスなのですが、青矢印で示すノーマルモード電流は、行きと帰りの電流によって発生する2つのチョークコイルの磁束が打ち消しあって磁束がゼロとなりインピーダンスがゼロになります。つまりノーマルモード電流にとっては、単なる銅線を通過するのと同じことです。

これに対して、赤矢印で示すコモンモード電流(コモンモードノイズ)はチョークコイルの発生磁束を2倍に増加させることになり、チョークコイルは非常に大きなインピーダンスとなって電流は流れにくくなります。つまりインピーダンスは磁束が担っているということですね。

【スピーカーのインピーダンス】
では次に、スピーカーのインピーダンスを考えてみましょう。等価回路のRは巻き線抵抗(8Ω、6Ω、4Ω)です。

スピーカのコイルに交流電圧が印加されると、電流が流れコイルの周辺に磁束が発生します。その空間には永久磁石よる静磁界が存在するので、反発と引張によりコイルに力が発生し、その力を受けてコーン紙が変位します。

ここでコイルの発生磁束と永久磁石の磁界の関係を考えてみます。コイルに生じた磁束が永久磁石の磁界と干渉して力を発生するのですから、このことは磁束エネルギーが力に変換されたことになります。磁束が力に変換されるということは、その力に相当する磁束が静磁界と打消し合って消滅したと考えられます。

つまりコイルが磁束φを発生したとすると、磁石の静磁界のφ相当分と打ち消し合い、それによりコイルの磁束φもゼロになっているということです。その消えた磁束エネルギーが力に変換されてコーン紙を動かしているわけです。

コイルの発生磁束がゼロになっているということは、もはやコイルはインダクタではなく一本の銅線です。つまり電力消費をするのは巻き線抵抗R(8Ω等)のみとなります。つまりスピーカー全体を捉えれば、ボイスコイルの存在に惑わされることなく、8Ω(6Ω、4Ω)の抵抗とみなせばよいことになります。

例えばパワーアンプの出力電力を計算する場合は、出力電圧の最大値が20Vであるならば、(20/8)2×8=50(W)と計算できます。

関連記事:スピーカーのインピーダンスを考える② 2011-07-29
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シャントレギュレータとドロッパレギュレータ

2011-05-20 12:05:52 | 電子回路
レギュレータとは安定化装置のことで、電子回路の分野では安定化電源(定電圧電源)の意味になります。ここでは定電圧電源について、シャントレギュレータとドロッパレギュレータのお話しをします。

まず「定電圧」という言葉で誰もが最初に思いつくのはツェナダイオードでしょう。抵抗に電流を流せば(オームの法則に沿って)抵抗の端子間に電圧が発生します。抵抗に流す電流を増やせば端子間電圧は増加し、電流を減らせば端子間電圧は減少します。ツェナダイオードに電流を流せば抵抗と同様に端子間に電圧が生じますが、これはオームの法則に沿いません。流す電流を増やしても減らしても、ツェナダイオードの端子間電圧はほとんど変化しないのです。

この特性を利用して、ツェナダイオードを定電圧電源(安定化電源)として使うことが考えられます。例えば電流を流しているときのツェナダイオード端子電圧(ツェナ電圧)を5Vとし、これにあらかじめ100mAの電流を流しておけば、出力電圧5V、負荷電流0~100mAの定電圧電源になります。つまりツェナダイオードの端子電圧の5Vに抵抗などの負荷をつなげば抵抗に電流(負荷電流)が流れますが、もし負荷電流が10mAであればツェナ電流は90mA、負荷電流が30mAであればツェナ電流は70mA、負荷電流が80mAであればツェナ電流は20mAとなって、この間常にツェナ電圧は5V一定なのです。

このように、負荷側に流れるであろう最大の電流(アイドリング電流)を流しておいて、その範囲内の負荷電流で定電圧を実現する電源をシャントレギュレータといいます。

次にドロッパ電源ですが、シャントレギュレータの出力にエミッタフォロワを取り付ければできあがります。この場合は、外部回路が消費する負荷電流はエミッタフォロワのコレクタから供給されるので、シャントレギュレータのアイドリング電流は少なくて済み経済的です。

シャントレギュレータもドロッパ電源も、元電源よりも低い電圧で安定化させるので、その意味では両者共にドロッパレギュレータですが、慣習に沿って上述のように使い分けています。

関連記事:
ツェナダイオードの特性 2007-09-04
定電圧電源を作ろう①ツェナ 2009-12-14
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