先日、ちょっと出先に行く途中、かなり早く着いたので、近くのお菓子屋さんによって、「ここではコーヒーいただけますか」と伺うと、「どうぞご自由に召し上がってください」といって店員さんが無料でコーヒーを持ってきてくれた。お菓子屋さんのサービスなのです。店には数々のお菓子やケーキが並んでいておいしそう。そこへ一人のしっかりした足取りで身なりもきちんとした高齢者の方が入ってきて、ひとあたり店を回った後、目の前のお菓子の中の「味見の小片」のコーナーに来て、ふたを開けて楊枝をとって口に放り込みはじめました。こんなシーンは特に珍しいことでも不思議なことでもないのですが、そのうちに二口、三口とあっという間に口いっぱいに頬張ったまま出て行ってしまいました。
近くで様子を見ていた高齢者の女性二人が、とがめるような目つきで眺め、互いに目と目とあったのでしょう。男性は、うなるような声を出してまるで”何が悪い”といわんばかりの厳しい表情で睨みつけ、そそくさと店を出て行きました。ぼくはただ唖然として眺めているだけでしたが、こんな場面はデパ地下にいけばいくらでも味見をすることができますし、何もおかしなことではないでしょうが、口いっぱいおやつ代わりに頬張る姿にどこか悲しくなりました。聞くところによると一口味見の巡回ご常連が結構いるそうだと聞きました。
豊かさの中の貧困なのか、何か病を持っていて自分のしていることがわからないのか、家にいられないために無目的に外に出て時間を過ごさざるを得ないのか、たった一つの小さな行為を通して何かを失っていることがとても気になるさびしい時間をすごしてしまいました。日本人を何か間違った方向に連れて行こうとしている今の政治社会ではないかと暗い気持ちになりました。少し思いすぎでしょうか。
やさいいタイガー