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喫茶 輪

コーヒーカップの耳

別冊・コーヒーカップの耳 14

2019-01-20 23:04:51 | 別冊・コーヒーカップの耳
別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
14「選挙権」

日本とブラジルがやる時は もちろん日本を応援しまっせ。ほんで 韓国とどっかがやる時は そら韓国応援しまんがな。そやけど 日本と韓国がやる時は ほんま困るんや。わし どっち応援したらええか分かりまへんねん。「シュート、入った!」言うても 「やったーっ」言いかけて 上げた手ェ そろーっと下ろして 考えてしまいますねん。見んかったらええんですけどな そんな試合に限って ごっつう見たいんや。わしの体には韓国の血ィ流れてるし 生まれ育ったんは日本やし 言葉も大阪弁やし。そやけどわし 選挙権 おまへんねん。
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別冊・コーヒーカップの耳 13

2019-01-20 08:25:04 | 別冊・コーヒーカップの耳
今、ぼちぼちと~塀のうちそと~をネット上でご披露しているのだが、このあたりで語り部のKさんのことを紹介する意味で2001年に出版した『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)に載せた「刑期」を上げておきます。

別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
13「刑期」(『コーヒーカップの耳』より再掲)

その頃 チャカ(拳銃)一丁一年が相場でした。わしは二丁で捕まって それに常習賭博が重なったもんやから 二年半でした。入れられたんが カレーライスの旨い刑務所で 卵が一個ついとりました。そこでも胴元になって その卵やティッシュペーパーなんかの生活必需品を賭けて博打やってたんです。あの中ではそんなもんをようけ持ってるもんが金持ちですわ。金では買えん ええ経験させてもろたおもてます。
父親はもう死んでました。韓国から十九歳で強制連行されて来た言うてましたけど 詳しいことはわしにも喋りたがりませんでしたなあ。おふくろは八歳の時 新天地を夢見た父親に連れられて日本に来た言うてました。そのおふくろがある日 家内と一緒に面会に来よったんです。胃の具合が悪いから手術することになった言うて。わしは一目見てガンかも知れんと思いました。家内の目ェ見て間違いないと思いました。そしたらやっぱり 後で手紙が来て 半年の命と言うことでした。刑期がまだ一年ほど残ってましたんで 家内が最後の別れに連れて来てくれよったんです。それからは真面目に務めました。本読むこと覚えて 山本周五郎が好きになりました。靴づくりの作業もさせられてましたけど 時間はなんぼでもあって 習字の通信教育も受けました。字 ちょっとは上手くなりましたけど これはムショ初段です。
やっと刑期終えて出てきたら おふくろまだ生きてました。わしが出てくるまで死なれへん言うて 待ってくれとったんです。見る影も無(の)うなってましたけど 執念で生きてました。顔合わせたら 黙って涙流すだけでした。それからまだ半年生き続けました。毎日看病に通いました。死ぬまで通いました。
チャカと賭博で捕まったんやけど わしは泥棒したり素人さんにケガさせたわけと違います。チャカと賭博は わしらの商売道具でした。それで捕まったんやから しょうがないとおもてました。そやけど 足 洗うてなかったら 今ごろは命無くなってるか 逃げ回ってるか また長い懲役暮らししてるかですやろな。
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別冊・コーヒーカップの耳 10

2019-01-19 07:34:49 | 別冊・コーヒーカップの耳
別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
10「慰問」

おもろないのんは 慰問に来る演芸を観なあかんことです。あれは嫌やった。趣味でやってる奥様族の発表の場にされとるようで。特に子どもの合唱なんかの慰問は苦手やった。わしも家に三人の子ども残しとったんや。お涙の押し売りみたいでな。あの中は悪人の坩堝です。あらゆる悪人がいてます。そんなとこに子どもを連れてくること おまへんやないか。女の子に悪さして掴まった奴もおりまんがな。なに考えてるか分からん連中ばっかりや。慰問観てる間があったら わしは本読んでる方がよっぽど良かった。ただし 鳥肌立つような プロの芸観るのは良かったけどな。
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別冊・コーヒーカップの耳 7、8

2019-01-18 09:24:52 | 別冊・コーヒーカップの耳
別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
7「読書」

事務所で本読みよったら おやじ(組長)に言われました。「そんなことしてる間ァあったら 役に立つことしとれ。本読みたかったら 向こう(懲役)へ行ってから読め。あっち行ったら なんぼでも時間ある」


8「虫歯」

刑務所へ入るときは 歯ァ治してからやないとあきまへん。あの中で虫歯になったら 治療を申し出ても 呼び出しは忘れたころですわ。それも アッという間に抜かれてしもて。ウンもスーもおまへん。抜いたら そら早いですわな。わしらの治療に手間ひまかけてくれるわけ おまへん。
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別冊・コーヒーカップの耳 6

2019-01-17 10:17:17 | 別冊・コーヒーカップの耳
別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
6「命」

チャカやらドス突き付けられて 命取られかけたら みっとものうても 土下座してでも命乞いして とにかくその場を逃れろ。ええカッコして「やれるもんならやってみろ 俺の心臓ここや」ゆうて 胸叩いて ポンて引き金引かれて死んだ奴がおる。ええカッコしたらあかん。不細工でもええ。命乞いしてでも とにかく助かれ。ほんで あとで 後ろからレンガで 頭ゴツンやったらええんや。これ うちの親父の教えです。人一倍向こう意気の強い親父でしたけど。
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別冊・コーヒーカップの耳4,5

2019-01-16 08:39:37 | 別冊・コーヒーカップの耳
別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
4「チャカ」

うちの親父の名が売れたんは 奈良少年刑務所で知り合いになった人の誘いで 会を結成してた 昭和30年代のことです。勿論そのころわしはまだ 十一二のガキやから 親父や親父の舎弟から聞いた話です。ある時 商店街の利権をめぐって 町の愚連隊とケンカになったと。その時 負けた相手方が腹いせに商店街に火ィ点けようとしたと。昔 進駐軍のジープが積んでた予備のガソリンタンク二つ持ってきて 商店街に撒いて回ってる ゆう情報が事務所に入ったんです。親父ら飛んで行ったんです。行ったら 今にも火ィ点けようとしてたから チャカをパンパン撃ったんやて。遠くから走りながらやから 当たらんかったらしいけど 飛んで逃げたゆうことです。その時 親父 両手にチャカ持ってたゆうて それから「二丁拳銃の○○」てマンガみたいなあだ名で売れたらしいです。

5「殺意」

前の話の続きですけど。ケンカの後始末に相手方へ乗り込んだんです。つまり 傘下に入るか 解散するか ゆうことですわ。ところが相手方 素直に「ウン」言わん。それでまたケンカですわ。当時は今と違うて 時間と場所決めてやったんです。場所は 昔 大阪城落城の時 豊臣方について孤軍奮闘した六文銭の旗印の人が陣を構えた茶臼山公園です。チャカ持ってるもんはチャカ 脇差あるもんは脇差持って 無いもんは竹竿の先に出刃包丁巻き付けて槍にして持って行ったゆうことです。相手が見えたとたんに うちの親父 チャカ弾いて ポテンポテンと二人ほど倒れたらしいです。親父も まさかそんな簡単に当たる思うてなかったんでびっくりした言うことです。その時の裁判での教訓を教えてもらいました。裁判長が「被告は拳銃の練習はしていたのか?」と問うので 心証悪せんように「いいえ」て返事したらしいです。そしたら裁判官が「それなら結果は別として 相手を殺してもいいと思ってやったのだな」と云われて返事に困ったと。そやから「お前ら そんな時は 練習してました。足狙いましたけど 手元狂って頭に当たってしまいました 言うんやど」て。

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別冊・コーヒーカップの耳 3

2019-01-15 13:49:35 | 別冊・コーヒーカップの耳
別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
3「深爪」

今の女と仲良うなって ちょっとしたころに気づきよった。「なに?この指!」て。両方の小指 千切れとるから そら初めて見たらびっくりするわなあ。そこでわし 言うてやった。「ちょっと深爪しただけや」て。
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別冊・コーヒーカップの耳 1「風呂」

2019-01-15 12:44:58 | 別冊・コーヒーカップの耳


別冊・コーヒーカップの耳
~塀のうちそと~
1「風呂」

その世界に入ったんは 二十二三のころでした。始めは兄貴分について教わりました。飯は親父より早よ食い終わって持ち場に戻る。外食の時は 好きなもん食え 言われても 親父より安いもんを注文する。風呂で親父の背中洗う時は 絶対に上から下向きに洗(あろ)たらあかん。こすり上げるんやと。昔 寒い時に学校でやらされた天突き運動みたいに「昇っておくんなはれ どんどん昇っておくんなはれ」ゆうて 両手そろえて上向きに洗うんです。親分が出世することは わしら子分も値打ちが上がることでっさかいに一生懸命でした。
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