
チャイコフスキー:バイオリン協奏曲
シベリウス:バイオリン協奏曲
バイオリン:ヴィクトリア・ムローヴァ
小沢征爾指揮ボストン交響楽団
CD:フィリップス(日本フォノグラフ)35CD-525
ムローヴァの演奏は女流バイオリニストそのものの、まろやかで柔軟な演奏を聴かせる。バイオリンの音色が豊穣な響きを伴って、しかも一本筋の通った心地よい演奏である。そして、我らがマエストロ・小沢征爾指揮ボストン交響楽団も、伸びやかで豊かな響きで聴くものを圧倒する。さらに、録音は1985年10月と20年以上前に録音されたにもかかわらず、なんと瑞々しい音に捕らえられていることか。チャイコフスキーやシベリウスのバイオリン協奏曲は男性のバイオリニストが演奏すると、スケールは大きいが、何か力が入りすぎることが多い。それに対し、ムローヴァの演奏はまろやかな曲線を描くように進んでいく。
ムローヴァは1981年シベリウスコンクールで優勝、1982年チャイコフスキーコンクールでも優勝するなど、輝かしいコンクールの経歴を持っている。このCDにおいては、チャイコフスキーとシベリウスの協奏曲を演奏しているが、チャイコフスキーの方がより説得力のある演奏を聴かせる。これはロシア出身だからというわけでなく、チャイコフスキーの持つやわらかしさが、ムローヴァのバイオリンにより相性がいいということを意味しよう。このムローヴァのバイオリンを聴いていると、同じロシア出身の女流ピアニスト、レオンスカヤを思い出してしまう。両者とも豊穣な響きが聴くものをやわらかく包み込む。
(蔵 志津久)