★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇サラ・チャン&サヴァリッシュ共演のR.シュトラウス:ヴァイオリン協奏曲/ヴァイオリンソナタ

2017-03-07 07:33:46 | 協奏曲(ヴァイオリン)

R.シュトラウス:ヴァイオリン協奏曲 op.8
         ヴァイオリンソナタ op.18

ヴァイオリン:サラ・チャン

指揮・ピアノ:ヴォルフガング・サヴァリッシュ

管弦楽:バイエルン放送交響楽団

CD:EMIミュージック・ジャパン TOCE‐16182

 このCDは、R.シュトラウスの初期の作品であるヴァイオリン協奏曲とヴァイオリンソナタの2曲を、サラ・チャンのヴァイオリン、ヴォルフガング・サヴァリッシュの指揮とピアノ、それにバイエルン放送交響楽団の演奏を収めた1枚である。普段あまり聴く機会がない曲ではあるが、2曲とも如何にも青年らしい若々しい曲想に満ち溢れた作品で、しかも大変聴きやすい曲でもある。ヴァイオリンのサラ・チャン(1980年生まれ)は、韓国系アメリカ人でフィラデルフィア生まれ。6歳でジュリアード音楽院に入学し、ドロシー・ディレイに師事。8歳でメータ指揮ニューヨーク・フィルやムーティ指揮ピラデルフィア管と共演するなど神童ぶりを発揮。また、10歳でファーストアルバムの録音を行いったというから若くして才能を開花させたヴァイオリニストと言うことが出来よう。1993年「グラモフォン年間最優秀若手音楽家賞」、1994年「国際クラシック音楽賞」、1999年「エイヴリー・フィッシャー賞」、2004年イタリア・キジアーナ音楽院から「国際賞」をそれぞれ受賞している。2004年史上最年少でハリウッド・ボウルの殿堂入りを果たし、さらに、2008年世界経済フォーラム(WEF)から「ヤング・グローバル・リーダーズ」の一人に選ばれたほか、2011年アメリカ大使館より「芸術大使」に任命されるなど、活躍の場は音楽以外にも広がってきている。

 指揮およびピアノのヴォルフガング・サヴァリッシュ(1923年―2013年)は、ドイツ・バイエルン州出身で、我々にとっては長年NHK交響楽団の指揮者を務めてきたのでお馴染の人だ。サヴァリッシュは、第二次世界大戦後の1947年にアウクスブルク市立歌劇場でデビューを果たす。以後、指揮者とピアニスト(主に伴奏者)としての活動を並行して行う。1953年にはアーヘン、1958年にヴィースバーデン、1960年にケルンのそれぞれの市立歌劇場の音楽総監督に就任。また、ウィーン交響楽団やハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団の首席指揮者を歴任した。1971年バイエルン国立歌劇場の音楽監督就任の後、リッカルド・ムーティの後任としてフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督に就任した。1964年の初来日以来、ほぼ毎年のように来日。以降、N響への客演のほか、バイエルン国立歌劇場やフィラデルフィア管弦楽団との来日公演を行った。1967年からはN響名誉指揮者、1994年からは同楽団桂冠名誉指揮者に就任。サヴァリッシュはこれほどまでに来日しているにも関わらず、N響以外の指揮を一切断るほどN響との結びつきが深い指揮者であった。勲三等旭日中綬章を受章。

 R.シュトラウス:ヴァイオリン協奏曲は、まだ18歳であった1882年に作曲した作品。R.シュトラウス唯一のヴァイオリン協奏曲であると共に、彼が初めて手がけた協奏曲でもある。R.シュトラウスは、少年時代よりヴァイオリンの演奏技巧に精通しており、この曲の後にはヴァイオリンソナタを完成させている。曲は伝統的な3楽章制をとり、ロマン主義の伝統を受け継ぎながらもR.シュトラウス独自の個性も覗かせる完成度の高い、若々しい雰囲気に包まれたヴァイオリン協奏曲となっている。叔父で王立バイエルン管弦楽団のコンサートマスターを務めていたベンノ・ヴァルターに献呈された。初演は、R.シュトラウス自身の手によるピアノ編曲版が演奏されたという。この曲でのサラ・チャンのヴァイオリン独奏は、実に伸び伸びと歌い、青年期のR.シュトラウスの想いを存分に表現することに成功している。特に透明感を持った温かみのあるそのヴァイオリンの音色はこの曲にぴたりと合い、この曲を初めて聴くリスナーでも思わず引き寄せられてしまうほど魅力的だ。この曲は、実演でも録音でも、あまりお目にかかることのない曲であるが、一度聴くとリスナーの心に残るヴァイオリン協奏曲であることには間違いない。演奏時間が30分ほどを要する大曲なだけに惜しい気がする。

 R.シュトラウス:ヴァイオリンソナタは、R.シュトラウスが1888年に完成させた3楽章からなるヴァイオリンソナタ。R.シュトラウスは、13歳から父親が結成したオーケストラでヴァイオリンを弾いていたという。つまり、ヴァイオリンについての造詣が深かったわけであるが、ヴァイオリン協奏曲とヴァイオリンソナタを1曲づつしか遺していないのが不思議といえば不思議だ。しかも若い時の作品に限られる。このことは、R.シュトラウスが若い頃は、古典的な作風であったが、作曲家として深化をとげるに従い、交響詩やオペラの世界で大作を発表したことに関係があるのであろうか。このヴァイオリンソナタは古典的な手法を取り入れて作曲されているが、自らヴァイオリンを熟知しているために、華やかな演奏効果が発揮されるとともに高度な演奏技術が要求されることで知られる曲。この曲でのサラ・チャンのヴァイオリン演奏は、基本的にはヴァイオリン協奏曲の時と変わりがないが、より一層繊細さが発揮され、ぐいぐいと曲の本質に迫って行く様が聴き取れる。この曲は、表面的な表現よりも、内面に向かってぐんぐん深まって行くような性格を有している。サラ・チャンの演奏もこのような性格の曲に相応しく、精神性が十分に感じられる熱演を聴かせてくれる。さらに、サヴァリッシュのピアノ伴奏の上手さには舌を巻く。ヴァイオリン協奏曲と同じだが、このヴァイオリンソナタは、もっと聴かれて然るべき曲であることは確かなことである。(蔵 志津久)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇歴史的名盤C... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

協奏曲(ヴァイオリン)」カテゴリの最新記事