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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇17歳の五嶋みどり&ズービン・メータのドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲他

2015-09-08 12:46:30 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲
            ロマンスop.11
            序曲「謝肉祭」

ヴァイオリン:五嶋みどり

指揮:ズービン・メータ

管弦楽:ニューヨーク・フィルハーモニック

CD:ソニー・ミュージック SICC 1841(ライヴ録音盤)

 このCDは、五嶋みどりがまだ17歳の時の1989年5月、ニューヨークのエイヴリー・フィッシャー・ホールで行われたズービン・メータ指揮ニューヨーク・フィルの定期演奏会のライヴ録音盤である。まるでスタジオ録音盤のように正確無比で、しかもライヴ録音特有の起伏のある、迫力を持った、堂々としたその演奏内容は、正に驚きである。五嶋みどりは、大阪府枚方市出身で、現在はアメリカを拠点に活躍している。1982年渡米し、ジュリアード音楽院でヴァイオリンを学ぶ。11歳で、ズービン・メータ指揮のニューヨーク・フィルとパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番で協演して米国デビューを果たす。当時、日本でも「天才少女デビュー」として大きな話題となった。また、1986年、ボストン交響楽団と共演したタングルウッド音楽祭では、レナード・バーンスタインの指揮での演奏中に、ヴァイオリンの線が2度も切れるというアクシデントに見舞われたが、五嶋みどりはヴァイオリンをその場で借り、何事もなかったかのように弾き終えた。このことは、「タングルウッドの奇跡」として、アメリカの小学校の教科書に掲載されたほど。2001年にエイヴリー・フィッシャー賞を受賞したが、その賞金をもとに「パートナーズ・イン・パフォーマンス」基金を設立。日本でも、「みどり教育財団」を改組し、2002年「ミュージック・シェアリング」を発足させた。これは、音楽を通して子どもたちのクリエイティビティを育てるだけでなく、音楽家の社会貢献活動に対する理解を深める場を提供する活動。さらに2006年より、開発途上国での社会貢献型の演奏活動組織「インターナショナル・コミュニティ・エンゲージメント・プログラム」を立ち上げるなど、演奏活動と並行して社会活動でも大いに活躍している。2007年9月からは、日本人として初めて国連ピース・メッセンジャーに就任している。

 指揮のズービン・メータ(1936年生まれ)は、インド出身。1954年ウィーン国立音楽大学に留学。1958年にリヴァプールで行われた指揮者の国際コンクールで優勝。一躍世界の注目を集める。その後、モントリオール交響楽団音楽監督、ロサンジェルス・フィルハーモニック音楽監督を歴任。ロサンジェルス辞任後は、ニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任し、1991年まで在任。その後、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団名誉指揮者、ミュンヘンのバイエルン州立歌劇場音楽総監督を務める。これまで5度、ウィーン・フィル新年恒例のニューイヤーコンサートの指揮台に立ったことでも、その人気のほどが窺える。2001年ウィーン・フィルの名誉団員、2007年ウィーン楽友協会名誉会員となるなど、現在世界を代表する指揮者の一人。ズービン・メータは、2011年3月11日の東日本大震災のとき東京に滞在中であったが、その後多くの演奏家が来日を控える中、4月10には再来日し、復興支援慈善演奏会を行った。そして、5月2日にミュンヘンにおいて東京と同じ曲目の慈善演奏会を開催した。 

 第1曲目のドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲は、ドヴォルザークの唯一のヴァイオリン協奏曲。ドヴォルザークの協奏曲というと、直ぐに思い浮かぶのはチェロ協奏曲で、その陰に隠れて、このヴァイオリン協奏曲は、それほど有名な曲とはなってはいない。しかし、じっくりと聴き込むと、ドヴォルザークらしい哀愁を秘めたメロディーが心に深く響く、知る人ぞ知る的なヴァイオリン協奏曲。ドヴォルザークがこの曲の作曲を思い立ったのは、1878年の名ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムとの出逢いにあったようだ。この結果、完成した作品はヨアヒムに献呈されたが、ヨアヒムは演奏することはなく、ドヴォルザークからの感想の求めにも何の反応も見せなかったという。それでも、ドヴォルザークはあきらめずヨアヒムに意見を求め、この結果、ヨアヒムもしぶしぶドヴォルザークに意見を書き送った。つまり、完全にドヴォルザークの片思いというのが、この曲が生まれた背景にはある。それでも何とか完成し、初演は1883年に、ヨアヒムではなく、フランティシェック・オンジーチェクのヴァイオリン独奏でプラハで行われた。第1楽章は、力強い印象の音楽だが、ここでの五嶋みどりは、これが17歳の少女の演奏かと思わせるような、迫力のある、芯の強い、説得力に富んだ演奏を聴かせる。この歳で、ズービン・メータ指揮ニューヨーク・フィルハーモニックを相手にに堂々と渡り合う演奏を聴いていると、何か清々しい思いにとらわれる。第2楽章は、全体に抒情的な旋律が何とも美しい雰囲気を漂わす。五嶋みどりの演奏は、第1楽章とがらりと変わり、抒情味たっぷりと弾き込む。これを聴くと五嶋みどりは、ただ一本調子に弾くヴァイオリンにストとは異なり、若い時から、曲の核心にぐいぐいと迫っていく能力に長けていたヴァイオリニストであったことがよく聴き取れる。第3楽章は、土俗的な匂いが全体を覆い尽くす音楽。ここでの五嶋みどりは、あまり民族的な雰囲気にとらわれることなく、都会的な洒落たセンスで弾き込み、これがまんまと成功している。

 第2曲目は、ドヴォルザーク:ロマンス ヘ短調 op.11。この曲の原曲は、1873年に書かれた弦楽四重奏曲第5番の第2楽章を、1877年にヴァイオリンとオーケストラのための曲として、ドヴォルザーク自身が改作したもの。如何にもドヴォルザークの曲らしく、哀愁に満ちたその曲想は、リスナーを物悲しい心境に誘うようでもある。何か、夕日が暮れかかる草原の風に身を任せているかのような、切ない感覚が辺りを包み込む。五嶋みどりは、このことを意識してか、自分が表面に立つことはなく、ズービン・メータ指揮ニューヨーク・フィルを立てるような演奏に終始する。このことがこの曲の物悲しさを一層強めているようにも感じ取れる。第3曲目は、ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」。この曲は、ドヴォルザークが作曲した演奏会用序曲の3部作「自然と生命と愛」の中の1曲。この序曲の3部作は、「自然の中で」「謝肉祭」「オセロ」の3曲からなる。3曲まとめて演奏することを意図して作曲されており、一種の組曲とも見ることもできる。しかし、現実には、3曲をまとめて演奏することは、現在あまり多くなく、通常「謝肉祭」が単独で演奏される。それぞれ標題が付いているが、3曲とも標題の内容を具体的に表している曲ではないようである。「謝肉祭」は、華々しく始まって華々しく終わる10分ほどの曲。ズービン・メータ指揮ニューヨーク・フィルの演奏は、最初と最後の生き生きとした部分の演奏と、中間部のしみじみと聴かせる部分での演奏との対比が誠に鮮やかであり、実力を備えたオーケストラであることが手に取るように聴き取れる。この曲は、一流の指揮者、一流のオーケストラの手にかかると、突如光り輝くような性格の曲であることがよく分かる。(蔵 志津久) 


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