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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇アラベラ・美歩・シュタインバッハーのメンデルスゾーン/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

2017-09-12 17:31:45 | 協奏曲(ヴァイオリン)

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:アラベラ・美歩・シュタインバッハー

指揮:シャルル・デュトワ

管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団

録音:2014年9月22日~24日、スイス、ジュネーブ、ヴィクトリア・ホール

CD:キング・インターナショナル(PENTATONE) PTC 5186504

 このCDは、今、世界から注目を浴びるアラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリン、シャルル・デュトワ指揮スイス・ロマンド管弦楽団の演奏によるメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を収めた魅力的なアルバムである。アラベラ・美歩・シュタインバッハー(1981年生れ)は、ドイツのヴァイオリニスト。ミュンヘンでドイツ人の父親と日本人の母親との間に生まれる。9歳の時、ミュンヘン音楽大学でヴァイオリンを学び、2000年にハノーファーで開催された「ヨーゼフ・ヨアヒム・ヴァイオリン・コンクール」で入賞、翌年にはバイエルン州より奨学金を授与された。以後、ゲルギエフ、マゼール、パッパーノ、シャイーといった数多くの巨匠指揮者たち、世界を代表するオーケストラと共演し、今やドイツ音楽界の新時代を担う一人としての地位を確立している。厳しい批評で名高い「ニューヨーク・タイムズ」からは、「叙情と情熱のバランスのよさ―彼女の長所は、とりわけ磨き抜かれたテクニックと美しく多彩な音色にある」と高く評されている。

 指揮のシャルル・デュトワ(1936年生れ )は、スイス、ローザンヌ出身。ジュネーヴの音楽院の指揮科を首席で卒業後、シエナのキジアーナ音楽院で学ぶ。その後、アメリカ合衆国のタングルウッド音楽祭でシャルル・ミュンシュに師事。1958年から1963年までローザンヌ大学合唱団の指揮者を務める。1959年ローザンヌ放送所属のオーケストラを指揮して指揮者としてのプロデビューを果たす。その後、チューリヒ放送所属のオーケストラの指揮者を務める。1967年から1978年までベルン交響楽団首席指揮者を務める。1977年にモントリオール交響楽団の音楽監督に就任し、短期間で同楽団をカナダ随一の世界的なオーケストラに育て上げた。以後、フランス国立管弦楽団首席指揮者・音楽監督、フィラデルフィア管弦楽団音楽監督、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者などを歴任。日本との係わりも深く、1996年から2003年までNHK交響楽団常任指揮者・音楽監督を務め、2003年からは同楽団の名誉音楽監督に就任している。

 メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調op.64は、メンデルスゾーンが1844年に作曲したヴァイオリン協奏曲。ドイツ・ロマン派音楽を代表する名作として知られ、ベートーヴェン、ブラームスの作品と並んで、“3大ヴァイオリン協奏曲”と称されている。この作品は、1838年、メンデルスゾーンがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の常任指揮者の地位にあった時、そのコンサート・マスターであったフェルディナント・ダヴィッドに演奏上の技術的な助言を得ながら作曲が進められ、完成したのは1844年であった。3つの楽章からなっているが、これらは中断なく続けて演奏される。初演は、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会において1845年3月13日に行われた。このCDでのアラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリン独奏は、気品と優雅さに満ち溢れた演奏内容となっている。目では見えないが、しなうような弓づかいから発せられる音色は美しく、温かみがあり、心の奥底からこの曲への共感しながらの熱演を聴かせる。何処にもオーバーな表現は見当たらず、どちらかといえば控えめな表現ではあるが、聴きなれた曲なのに少しも陳腐さがない。ゆったりとしたテンポで、しみじみとしたその演奏内容を聴いていると、最近のアラベラ・美歩・シュタインバッハーの評価の高さの根源が見えてくるようだ。

 チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、1878年に作曲された。ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスのいわゆる3大ヴァイオリン協奏曲に次ぐ著名なヴァイオリン協奏曲だ。1878年に1ヶ月ほどの間で書き上げられたと言われている。チャイコフスキーは、当時ロシアで最も偉大なヴァイオリニストであったレオポルト・アウアーに楽譜を送ったが、アウアーから「楽譜を読むと演奏不可能」として初演を拒絶されてしまう。当初は評価が低かったこの曲も何回も演奏されるに従い評価が高まり、最後は当初演奏を拒否したアウアーからも評価を得るまでになったという。曲は3つの楽章からなる。このCDでのアラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリン独奏は、都会的センスに溢れ、そして、まるで雲の中を歩くような夢幻的な美しさを持った、類まれなチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲をつくり出している。この協奏曲は、まなじりを決して演奏されるケースが多いが、アラベラ・美歩・シュタインバッハーは、それらとは全く無縁な独自の世界を繰り広げる。一音一音を噛みしめるようにゆっくりと演奏が進む。リスナーはその一音一音を追い、次第にアラベラ・美歩・シュタインバッハーの世界に入り込むことになる。懐が深い演奏内容とでも言ったらいいのであろうか。これに加えシャルル・デュトワ指揮スイス・ロマンド管弦楽団が、ダイナミックな起伏に富んだ演奏を聴かせ、全体を見栄えの良い構成につくり上げている。(蔵 志津久)


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