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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇ヴァイオリンの世界的名手 イザベル・ファウストのブラームス:ヴァイオリン協奏曲/弦楽六重奏曲第2番

2017-12-12 08:25:39 | 協奏曲(ヴァイオリン)

 

ブラームス:①ヴァイオリン協奏曲
        ②弦楽六重奏曲第2番

①ヴァイオリン:イザベル・ファウスト

  指揮:ダニエル・ハーディング
  管弦楽:マーラー室内管弦楽団

  録音:2010年2月 Sociedad Filarmonica(ビルバオ)

②ヴァイオリン:イザベル・ファウスト、ユリア=マリア・クレッツ
  ビオラ:ステファン・フェーラント、ポーリーヌ・ザクセ
  チェロ:クリストフ・リヒター、シェニア・ヤンコビチ

  録音:2010年9月 テルデックス・スタジオ(ベルリン)

CD:Harmonia Mundi HMC 902075

 ヴァイオリンのイザベル・ファウストは、ドイツ出身。1987年アウグスブルクの「レオポルト・モーツァルト・コンクール」、1993年「パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール」で共に第1位。1997年には、バルトークのソナタのデビュー録音でグラモフォン賞「ヤング・アーティスト・オ ブ・ザ・イヤー」を受賞した。古典作品に加え前衛的なレパートリーも持っており、世界初演も多い。室内楽奏者としても各地の音楽祭に定期的に出演。CDで はバルトーク作品全集、フォーレ作品集、シューマンのヴァイオリン・ソナタ全集などをリリース、協奏曲ではドヴォルザーク、ジョリヴェ、ベートーヴェンなどがあり、特にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集とバッハの無伴奏集の評価が高い。2004年から、ベルリン芸術大学、ヴァイオリン専攻科の教授を務めている。日本には、1995年以来、音楽祭への参加や、NHK交響楽団、東京都交響楽団への客演などで度々来日している。現在、世界を代表するヴァイオリニストの一人に数えられている。

 指揮のダニエル・ハーディング(1975年生れ)は、イギリス・オックスフォード出身。1994年バーミンガム市交響楽団を指揮してデビュー。このデビュー演奏会がロイヤル・フィルハーモニック協会の「ベスト・デビュー賞」を受賞。クラウディオ・アバドに認められ、1996年のベルリン芸術週間においてベルリン・フィルを指揮した。同年には、最年少指揮者としてBBCプロムスにもデビューを果たした。2003年ザルツブルク音楽祭にデビュー。2004年にはマーラーの交響曲第10番を指揮してウィーン・フィルと初共演した。2002年シュヴァリエ勲章を受賞。2012年軽井沢大賀ホールの初代芸術監督に就任。そして、2016-17シーズンからは、パーヴォ・ヤルヴィの後任としてパリ管弦楽団音楽監督に就任した。初来日は1999年。これまで、マーラー室内管弦楽団初代音楽監督、ロンドン交響楽団首席客演指揮者、スウェーデン放送交響楽団音楽監督などを歴任。

 ブラームスは、1878年イタリア旅行の帰りに、避暑地ペルチャッハに滞在し、ここで本格的にヴァイオリン協奏曲の作曲を行った。10月中旬にヨアヒムは、ブラームスを説得し、翌1879年のライプツィヒでの新年のコンサートでこの曲を初演することを決めた。ブラームスがリハーサルのためにスコアとソロ・パートの楽譜をベルリンのヨアヒムに送ったのは12月12日になってからだった。1879年1月1日 ライプツィヒ・ゲヴァントハウスにおいて、ヨーゼフ・ヨアヒムの独奏、ブラームス指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団により初演された。このCDでのイザベル・ファウストのヴァイオリン演奏は、あたかもこの協奏曲がたった今、完成し、お披露目の演奏会のような新鮮味に溢れた仕上がりを見せる。ヴァイオリン協奏曲の代表的名曲のこの曲は、過去に幾多の名手たちが録音に残し、もう残された演奏法はそうないと思われるが、イザベル・ファウストの手にかかると、実にしなやかにその生命力を芽生えさせる。全体的に優雅で、憂いを持った表情は、他の奏者からはまず得られないものに高められている。そして、ダニエル・ハーディング指揮マーラー室内管弦楽団の伴奏がイザベル・ファウストのヴァイオリン独奏を十二分にサポートして見事。この演奏は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の持つ武骨さを和らげ、聴いていて心が自然に和やかに息づくような安らぎに満ちた名演となっている。

 もう一つの曲であるブラームス:弦楽六重奏曲第2番は、1865年に完成したもので、弦楽六重奏曲第1番と対をなす作品。知名度は第1番の方が高いが、第2番は第1番に比べ内容の緻密な作品となっており、どちらかというと玄人好みの内容に仕上がっている。ブラームスが作曲に取り掛かったのが、完成から10年前の1855年頃。ブラームスは1862年にウィーンに定住し作曲活動に専念するが、弦楽六重奏曲第2番はこのような最中で作曲された作品。曲想は内省的なもので、如何にもブラームスらしい晦渋さが漂う。その意味から弦楽六重奏曲第2番は、第1番よりブラームスらしい室内楽作品なのである。そんな曲を、イザベル・ファウストをヴァイオリン奏者とした6人の弦楽奏者の息はぴたりと合い、ブラームスらしい渋さを醸し出す演奏を披露する。渋さといっても、決して晦渋さを意味するのではなく、何かメランコリックな憂愁さをたっぷりと含んだ清々しさが漂う。秋風が肌に心地良い草原に佇み、暮れゆく地平線を見通しているような幽玄さを思わせる。イザベル・ファウストが加わった演奏には、その心底にロマンの香りがそこはかとなく匂い立つようでもある。私は、このブラームス:弦楽六重奏曲第2番の演奏を聴いていたら、何となく、日本の万葉の和歌の世界が目の前に現れたかのような錯覚に一瞬陥ってしまった。この演奏を聴いていると、自然にブラームスの「音楽には永遠の価値が宿っている」という言葉を思い起こす。(蔵 志津久)


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