ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
クララ・シューマン:3つのロマンス~ヴァイオリンとピアノのための~ 作品22
ブラームス:ハンガリー舞曲第2番
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ
ピアノ:アリス=紗良・オット
指揮:クリスティアン・ティーレマン
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン
CD:ユニバーサル ミュージック UCCG‐51061
ヴァイオリンのリサ・バティアシュヴィリ (1979年生れ) は、ジョージア(旧グルジア)、トビリシ出身。1994年に一家でドイツのミュンヘンに移住する。1995年にはわずか16歳にしてシベリウス国際ヴァイオリン・コンクールにおいて2位に入賞し、一躍脚光を浴びる。2001年にBBCプロムスのコンサートに初出演して絶賛を浴びたほか、2007年にはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やニューヨーク・フィルハーモニックの演奏会にも出演。2003年にはシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭において「レナード・バーンスタイン賞」を受賞した。日本ではこれまでNHK交響楽団としばしば共演してきている。2001年にEMIよりCDデビューした後、2010年にドイツ・グラモフォンへ移籍した。
ピアノのアリス=紗良・オット(1988年生れ)は、ドイツ、ミュンヘン出身。モーツァルテウム音楽大学で学ぶ。1997年「スタインウェイ国際コンクール」優勝。1998年「イタリア・リゲティ国際コンクール」優勝。2001年「カール・ラングピアノコンクール」優勝。2003年「リンダウ・ロータリー・ヤング・ミュージックコンクール」優勝、「ケーテン・バッハ・青少年コンクール」優勝および市長特別賞受賞。また、バイロイト音楽祭に招かれ、ワーグナー愛用のピアノを使用してリサイタルを開催。2004年「イタリア・シルヴィオ・ベンガーリ・コンクール」優勝し、中村紘子の招きにより日本でのデビューを果たす。2010年 「クラシック・エコー・アワード2010」にて「ヤング・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」を受賞。
指揮のクリスティアン・ティーレマン(1959年生れ)は、ドイツ、ベルリン出身。カラヤン財団のオーケストラ・アカデミー、ベルリンのシュテルン音楽院なので学ぶ。1978年、19歳でベルリン・ドイツ・オペラのコレペティートア(歌劇場などでオペラ歌手やバレエダンサーに音楽稽古をつけるピアニスト)に採用された。コレペティートアとして働くようになってからは、ヘルベルト・フォン・カラヤンとの交流も深まった。1985年にデュッセルドルフ・ライン歌劇場の首席指揮者としてキャリアをスタート、1988年ニュルンベルク州立劇場の音楽総監督に就任した。ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者を歴任した後、2012年からはシュターツカペレ・ドレスデン音楽総監督・首席指揮を務めている。
このCDでのブラームス:ヴァイオリン協奏曲のリサ・バティアシュヴィリのヴァイオリン独奏は、“流麗”と言う言葉がぴったりあてはまるような、それは、それは美しい演奏を披露する。ブラームス:ヴァイオリン協奏曲は、その多くは、男性のヴァイオリニストにより、武骨と言った感じの演奏で我々の耳に馴染んでいる曲である。このため、リサ・バティアシュヴィリの演奏を初めて聴くと、少々とまどいを覚えることも確かだ。しかし、聴き進むうちに、ブラームス:ヴァイオリン協奏曲は、こんなにも美しく光り輝く側面が存在していたことに初めて気が付かされる。これとは対照的に、クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンは、雄大で男性的な演奏を聴かせるが、ちょうど両者のバランスがうまく取れていて、結果的に聴いていて非常に心地良く聴き通すことができる。リサ・バティアシュヴィリのこの演奏を聴いていると、幸福感が自然に心の底から湧き出して止まらない。こんな感情を持つことはそう滅多にあるものではない。その意味から、リサ・バティアシュヴィリは、感性の面において、あまたのヴァイオリニストをはるかに凌駕する“稀有のヴァイオリニスト”と言ってもいいのかもしれない。一方、クララ・シューマン:3つのロマンスにおいて、リサ・バティアシュヴィリ は、一転して、構成力をきちっと持った、力強さを内面に秘めた演奏を聴かせる。一人のヴァイオリニストが、これほど異なる演奏内容を披瀝することはあまりないものだ。そして、ブラームス:ハンガリー舞曲第2番になると、今度は軽妙で、しかも民族音楽的なセンスがキラリと光る演奏を聴かせる。この2曲でピアノのアリス=紗良・オット演奏は、実にメリハリがある伴奏を聴かせ、その評判を裏付けるような内容となっている。(蔵 志津久)