御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

桐野 夏生 「OUT」

2006-09-11 13:53:49 | 書評
うーん、こんなものかなあ。。。面白くはあったけど。土曜の夜から未明までに読み終わった。結構残虐なシーンが多くてね、また記述もリアルなのでけっこうぞっとした。途中で終わるとイメージが残って眠れないので結局最後までよんだってこと。記述がリアルなんで、死体を解体するということがどういうことなのかかなり具体的にイメージできた。これはたいしたものだと思う。佐竹のスプラッター趣味の思いつめた背景もよくわかるような気がしたし。
されど、されど。よくわからないのはヒロイン雅子の心だなあ。それなりの生活ができている中でなんで好き好んで夜勤の弁当つめをやっていたんだろう。信金で勤めた20年の空しさを抱えているのはよくわかるんだけど。だから弁当詰めの夜勤、というのは飛びすぎるし、それで今度は死体の解体を引き受けちゃうってのもよくわからない。いや、そんなものかなあ、って気もしないではなく、そういうことであればよりリアルさのある話だなあ、とはおもうけどねぇ。
リアルで結構ぞっとするのは、義母の介護と貧困にあえいでいた初老の脇役(名前忘れた)が、娘が家出した後に動けぬ義母ひとりの自宅に放火すること。そうは明示的に書かず、遠い会話として響いているのがまた良い表現だ。この初老の脇役の記述はかなり高等だと思う。放火の部分に限らず。
最後の佐竹の暴行と雅子の逆襲シーンは今ひとつかなあ。雅子は逆襲で致命傷を負わせた後急にやさしくなり、両者のやり取りが「似たものと理解しあうものたちの、相手をそれなりと思うが故の手加減のない攻撃の放ちあい」というものから急速に普通の仲良しになってしまった。ま、一方が死ぬ直前という異様な状況ではあるが。
Outとは鬱屈をためる主婦たちが現状からOUTしてゆくということなのだろう。雅子は5千6百万円をもって「どこかへ」と行く。それを果たしたかったのだが、このような形で果たしてしまった。いろいろ考えさせる面はあると思うなあ。社会的弱者同士の連帯と隠微な競い合い、いがみ合いはうまく出ているように思った。おそらく、惜しいのはこのような残虐な事件を通じてではなく(というか描写を通じてではなく)、微妙な心理や行動の襞がそのまま残るような形で全体のストーリーがまとめられると良かったのかなあ、と思う。と、書いてて気がついた。自分の違和感は微妙な情景や心理の優れた描写と極端な出来事の描写の相性があまりあっていないことから来ているようだ。
殺人のような刺激的な出来事を排した小説であればおそらく筆者はかなり腕がある。また、小池真理子のようにショッキングな事件を軸としても、そこ自体のリアルな描写で他の部分の印象を掻き消してしまわないようなやり方だってあったのではないだろうか。高村薫や宮部みゆきよりかなり上手のようなので、組み立てや描写の焦点の絞り方などは惜しまれる。
なお、アマゾンの書評はかなりいいのが多かった。が、評点が高くない少数の論評に見るべきものがあったと思う。