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再生医療、薬理学、生理学、神経科学、創薬

腎臓再生:ラットの体内で 幹細胞から 世界初=東京慈恵会医科大学

2006年12月10日 | 再生医療
 東京慈恵会医科大と自治医大の研究チームが、ラットの胎児の体内にヒトの骨髄液由来の幹細胞を埋め込み、ヒトの腎臓の一部(糸球体と尿細管)を作ることに世界で初めて成功した。さらに、その組織を別のラットの腹部に移植したところ、移植を受けたラットの血管が入り込み、通常のラットの腎臓の10分の1の大きさまで成長した。重い腎臓病に苦しむ患者が多い中、患者自身の細胞を使って人工的に腎臓を再生し、移植後も機能させる可能性につながる成果として注目される。【永山悦子】

 研究チームは、免疫機能が確立されていない動物の胎児では、他の個体の組織への拒絶反応が低く、急速な臓器生成能力がある点に着目。

 ヒトの骨髄液に含まれる、さまざまな臓器の組織になる能力がある幹細胞を、臓器が出来る前の胎児ラット(受精後11.5日目)の腎臓が作られる部分に埋めた。2日後、腎臓の主な機能を担う糸球体と尿細管に発達し、血液から尿をろ過する能力も確認できた。

 さらに、この組織を別のラットの腹部の臓器を覆う「大網」と呼ばれる膜に移植したところ、組織内の糸球体に向かって新しい血管が伸び、移植された組織が成長した。

 チームによると、将来的には、重症腎不全の患者の骨髄幹細胞をブタなど、より大きなサイズの動物の胎児内で腎臓の初期段階まで成長させることを計画している。成長した組織を再び患者の体内に戻せば、大網から血管が伸びて尿を作ることができるようになり、人工透析治療や他者からの腎移植に頼らなくても済むとみている。

 今後、組織を移植する際、異種の動物が持つウイルスの感染をどう防ぐかという課題が解決されれば、実用化の可能性が高まるという。

 研究チームの横尾隆・東京慈恵会医科大助手(腎臓高血圧内科)は「自分自身の遺伝情報を持った臓器を再生して移植する新たな医療の可能性を、動物レベルで確かめることができた。現在の深刻なドナー(臓器提供者)不足を解決する一つの方法にしたい」と話している。

 ■解説 再生医療の実用化に一歩

 日本臓器移植ネットワークによると、先月末現在、腎臓移植を待つ患者は全国で1万1800人に上る。一方、脳死と心停止後の今年の腎臓提供者は先月末で101人で、生体腎移植や海外での移植に頼る人が後を絶たない。提供者不足が目立つ中、がんなど病気のため摘出した腎臓を使った移植まで明らかになった。

 臓器不全の難病患者にとって再生医療は、他人に頼る移植医療に代わる「頼みの綱」だ。しかし、従来は幹細胞から臓器の形状を作り、機能させることは難しかった。東京慈恵会医科大と自治医大の研究チームは、今回の成功を受け、「ギリギリの状態に追い詰められた患者のため、実用化を見据えた研究にしたい」と話す。

 動物の体内でヒトの臓器を育てて使うことは「異種移植」になるため、倫理的な問題やウイルス感染など、乗り越えるべき課題は残されている。だが、患者自身の遺伝情報を持つ臓器を実際に再生できる道筋が明らかになった意義は大きい。【永山悦子】

 ▽園田孝夫・大阪大名誉教授(日本臓器移植ネットワーク西日本支部長)の話 実際の臓器として機能するには、作られた尿を体外へ排出するために腎盂(じんう)や尿管の再生も必要だ。また臓器のサイズもブタやサルなど、より大型な動物での成功が求められる。まだ初期の段階の研究ではあるが、将来の方向性を示す糸口になる成果と言えるのではないか。

 ■幹細胞 自分と同じ細胞を作り出す能力しかない普通の細胞と違い、臓器や組織を構成する細胞に分化する能力を持つ。受精卵から作る「胚(はい)性幹細胞(ES細胞)」は、体のさまざまな細胞や臓器に成長する性質を持つため「万能幹細胞」とも呼ばれる。一方、血液、肝臓、皮膚など特定の細胞にだけ分化する幹細胞は「体性幹細胞」と呼ばれる。骨髄液由来の幹細胞は、胚性幹細胞に近い万能性が確認されている。

[毎日新聞 / 2006年12月10日]
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061210k0000m040141000c.html