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「アウシュヴィッツ・レポート」(2020年 スロバキア・チェコ・ドイツ映画)

2021年08月11日 | 映画の感想・批評
 アウシュヴィッツに強制収容された二人の若い男性が、この収容所で繰り返される惨劇をレポートにして世に知らしめ、12万人の命を救った実話をベースとした映画である。
 本作は、収容所を脱走前、脱走後、レポートを届けた後の3部構成になっている。脱走する目的は誰もが理解出来るが、脱走方法(宿舎から抜け出し、最初は収容所内の木材置き場の穴倉に隠れるので不思議に思った。その後、看守の目をはぐらかす為と理解した)や、何故二人で脱走するのか(これは最後まで分からず)、脱走後に住民に助けられるが、道案内をし、食事を与え、傷の手当をし、寝る場所まで与えるだろうか等々、疑問点が次々と出てきて、集中出来なかった。極めつけは、レポートを届けた際に、流暢な英語で説明をするのには驚いた。説明を受ける相手(赤十字)は英語圏の人物であろうとは想像出来るが、はたして、実際に、脱走した二人は英語を話したのだろうか、自分の解釈が違うのだろうかと、「?」が多い映画だった。
 色々書いてしまったが、本作で良かったのは、レポートを届けてから、そのレポートが公になるのに、7か月も掛かったとテロップが流れること。二人は時間を惜しんで、レポートを届けたのに・・・。何と虚しい。すべてがうまく運んだ訳ではない。それがラストに明かされることも相まって、深く印象付けられた。映像にも力があり、ファーストカットや宿舎仲間が拷問されるシーン、脱走中のシーンでは、恐怖や気味悪さが際立った。
 冒頭に、過去のことを忘れてはならないという監督のメッセージがテロップで流れる。アウシュヴィッツに限らず、日本でも戦争体験を語れる人が少なくなり、次世代に受け継ぐことが難しくなっているというニュースをよく耳にする。武力行使を軽く口にする議員がいる国、軍が統制力を持つ国、自国ファーストを叫ぶ国々・・・。戦争に向かっていった時代に戻らないことを祈念する。
 最後に、アカデミー賞候補だと思っていたが、正しくは、「スロバキア代表」で「国際長編映画賞」部門に選出されたということが分かった。オリンピックに準えると、代表選手になって、オリンピック予選で負けたというところか。でも、一国の代表になるだけでも普通では出来ない。
(kenya)

原題:The Auschwitz Report
監督:ペテル・ベブヤク
脚本:ペテル・ベブヤク、トマーシュ・ボムビク、ジョゼフ・パシュテーカ
撮影:マルティン・ジアラン
出演:ノエル・ツツォル、ペテル・オンドレイチカ、ジョン・ハナー、ボイチェフ・メツファルドフスキ、ヤツェク・ベレル、ヤン・ネドバル、フロリアン・パンツナー、ラース・ルドルフ


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