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「フェラーリ」(2023年 米・英・伊・沙合作)

2024年07月10日 | 映画の感想・批評
 イタリアのフェラーリ社創設者、エンツォ・フェラーリ氏の実話。そのエンツォ・フェラーリをアダム・ドライバーが演じる。会社の業績が振るわず、経営は危機に直面していた。このままだとレースが続けられない。共同経営者の妻ラウラ(ペネロペ・クルス)との間に生まれた息子ディーノの病死が原因で、夫婦関係は破綻している。その一方で、かなり以前から関係がある愛人(シャイリーン・ウッドリー)との間に生まれた息子ピエロを認知せずにいた。公私共々問題を抱えている。そんな折、フェラーリ躍進の大勝負に打って出ることにした。イタリア全土1,000マイルを走るロードレース“ミッレミリア”(イタリア語で「1,000」という意味らしい)への出場を決めたのである。
 決して、レース映画ではない。エンツォ・フェラーリ氏は元レーサーだったそうだが、一人の経営者としての生きざま・覚悟・気合・情熱を描いている。「ジャガーは、売るために走るが、フェラーリは、走るために売る」というセリフ、ドライバーの恋人がフェラーリのエンブレムの上に腰掛けていたら、強引に移動させるシーン、エンジンの構造の話をピエロに語る際の嬉しそうな表情・声など、常に、会社のこと、レースのことを考えていたのだろう。それが、経営者なのだろう。終始、緊張感のある映像だった。後半の公道での事故シーンは酷かった。「ドライバーは死を覚悟しているが、観客は違う」という言葉は重かったが、「事故=死」に直結していた時代かもしれないが、「死」に対する考えが希薄なのは気になった。観客や友人ドライバーが亡くなったのも、さらりと語られるだけ。事故のシーンもグロテスクなシーンだが、あっけなく幕切れ。昔は事故が当たり前だったのか。文明開化は人々の生活を一変させるが、その一方で悲劇を生む側面があるはず。現在の華やかなレースやショーとは全く違う一面が観られた。
 恐妻を演じたペネロペ・クルスは上手かった。特に、銀行でのやりとりや愛人宅を発見したシーン。苛立ち、怒りが身体から伝わってくる。常に、影をまとい、「暗さ」を背負っている。また、アダム・ドライバーも『ハウス・オブ・グッチ』の時もそう思ったが、一見、彼だと分からないぐらい、その人物に成り切っている。二人の共演も見物であった。
 最後に、製作国が英語圏で、舞台がヨーロッパの映画にありがちな話。イタリアで生まれ、ずっとイタリアで生活する人は、イタリア語を話すと思う。でも、本作品はイタリア語訛りの「英語」。気になるのは自分だけだろうか。アダム・ドライバー出演なので、観る前から分かってはいたが、やはり気になる。映画でよく取り上げられる“ナポレオン”や“ヒットラー”が英語をしゃべっているのと同じ。では、「観なければ良い」という意見も頂きましたが、赤字のタイトル「Ferrari」には勝てませんでした。
*余談。フェラーリのエンブレム背景色は赤ではなく黄色です。そこに国旗の3色と跳ね馬が描かれておりますね。所説あるようですが、赤は「イタリアイメージカラー」ということのようです。
(kenya)

原題:Ferrari
監督:マイケル・マン
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
撮影:ピエトロ・スカリア
出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、サラ・カドン、ガブリエル・レオーネ、ジャック・オコンネル、パトリック・デンプシー


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