入院と手術を経験してきました。
できれば、一生経験したくはなかった種類の出来事。
今回の妊娠は、残念でしたね、という結果になった。
けれど、そこでは終われない。
子宮の中をお掃除しなければならなかった。
難しいことは何もナイ。
心配することも何もナイ。
だからといって、経験したこともナイ手術や入院に不安を覚えるなというのは無理な相談だ。
かといって、子犬のように震えているわけでもなかった。
だって、プロが大丈夫って言ってるじゃないか。
やらなければならないのなら、乗り越えてやろうじゃないか。
言うまでもナイが、正しく開き直りである。
事前に病院から渡された「入院準備」の用紙を元に、支度をする。
その後、付き添ってくれると言ってわざわざやって来た千矢母と合流し、とりあえずランチ♪
心配していたであろう千矢母は、私の思いのほか元気な様子を見て、安心してくれたようだった。
(むしろ、入院支度の少なさに驚かれたと言うか叱られたというか)
ランチの後、予定時間少し前に病院に到着。
スケジュールとしては、今日入院して手術前処置を行い、明日の午前中に手術となっている。
入院手続きを終えて待合室で待っていると、担当看護士のお姉さんが呼びに来た。
案内されるままに入院病棟に移動し、割り当てられた部屋に入室。
うっひょお! (゜□゜)ポカーン
ヘタなビジネスホテルよりも、ずーっとキレイで快適そうだねっ。
重病ってわけではナイため、大部屋なのかと勝手に思い込んでいたけれど、トイレとシャワー付き(バスタブなし)の個室。
ベッドはいかにもな病院仕様なものの、すぐ横には1人掛けのソファー。
作り付けの机にはテレビが置かれ、入り口横を見ればクローゼット。
ベッド横のキャビネットにはミニ金庫が用意され、ホテルにありがちな聖書も装備。
更に一番下の引き出しは冷蔵庫だ。
用意されていた寝巻き(?)に着替え、体温と血圧を計る。
血圧は低めだけれど、既に土曜日の段階で血圧が低めであることはカルテに記入済みらしく、スルー。(いやん看護士さんたらクール)
しかし体温はやや高かった。ここで軽く、体調不良の赤ランプ点灯。
風邪でもひいていたのだろうか。
千矢母が暇つぶしの雑誌や飲み物を買いに行ってくれた間に、手術前処置をするというので診察室に移動する。
真っ先に聞かれたのは、「今日、(手術)行っとく?」であった。
は? Σ(゜▽゜)
先生曰く、手術予定にキャンセルがあったため(そんなことあるのか)、手術室が使えるようになったとのこと。
この時、時刻は午後3時。
今から手術前処置をして、4時間もあれば手術を行うことはできる。
今日手術してしまえば、麻酔が切れるのを待つから多少遅くなるけど、今日中に帰宅できるよ、と。
…とまぁそういうわけらしいのだが、私の心の準備的なモノはどうなるんでしょうか先生?
こんな時にまで、ネタはいらない(T▽T)
が、挑戦されては引けないので、お願いすることにした。(違う)
気を取り直して、手術前の処置に入る。
私は出産経験が無いため、開腹ではナイ今回の手術にあたって、器具の通り道を確保せねばならないという。
すなわち。
「事前に何か器具を入れて時間を置き、子宮口を柔らかく広げる」という処置を行うわけだ。
当然、痛い。
腕や足などの怪我の痛みには、結構耐える。
親知らずを抜いた時の痛みにも、割と平然と耐えた。
頭痛や腹痛を覚えた時にも、限界まで薬も飲まずに耐える。
だけど、体の内部を直接えぐられるような痛みなど、どう耐えればイイのか私は知らなかった。
結果、貧血。
まんまと点滴を打たれることとなる。
血圧が下がったままの私は、元の部屋ではなく、ナースステーションに近い部屋にとりあえず運ばれた。
下腹部から、生理痛に似た、けれどどこか違う痛みが、鈍く重く続いている。
間の悪いことに、そこにまた別の腹痛が重なった。
激痛っ。
単純にトイレに行けばおさまる類の腹痛であったものの、その欲求に到達するまでにやたらと時間がかかり、意識が飛びかける。
トイレに立って落ち着き、下腹部の痛みが徐々に小さくなるのを感じながら、しばし眠りに落ちた。
正直、「寝なきゃやってらんねぇ(-_-;|||」くらいの心境だった。
お腹の調子が不安定だったため湯たんぽを用意してもらい、抱えて寝ること数時間。
手術予定の30分前になり、看護士さんがやって来た。
さっきまでとは別の看護士さんだったので、おそらく遅番の人と交代にでもなったのだろう。
てきぱきとしたベテラン風看護士さんは、素早く血圧を計り、麻酔が効きやすくなるという筋肉注射を1本打って、手術室への移動を促した。
(針を刺すまでが早かったし、痛くなかった…すごいぞこの人)
部屋で麻酔をされて運ばれるのかと思っていたが、手術室まで患者が移動して、そこで麻酔になるそうだ。
重病患者でもあるまいし、そりゃ歩けってことだよな。ドラマの見過ぎだ。
かなり落ち着いたとはいえまだ痛む下腹部をさすりつつ、点滴台を押して、手術室までの廊下を歩く。
生まれて初めての手術室は、ドラマで見るような部屋よりもずっと小振りの部屋で、きちんと整理された棚が部屋をぐるりと取り囲んでいた。
ベッドも高い位置にあり、寝返り打ったら間違いなく落ちるようなスリムなもの。
3段くらいの踏み台がセットされていて、指示通りにベッドに横になる。
真上には、幾つもぶら下るでっかいライト。
てきぱきと動く看護士さんのなすがままになりつつも、ついつい視線がきょろきょろと動く。
ただの好奇心だったのだが(オイ)、優しい看護士さんは、私が不安がっていると思ったか、笑顔で安心させるように話しかけてくれた。
簡単に説明しながら、私の体を固定し、次々と機械を装着させていく。
自動で一定時間毎に血圧を計る血圧計は、その都度モニタに血圧を表示していく。
指先に挟んだ洗濯バサミのようなものは、心拍数でもとっているようだ。
点滴の針はもう刺さっているから、そこから麻酔を入れるのだとも教えてくれた。
お腹の具合が良くないから、できれば私が眠るまで、冷えないようにお腹にタオルか何かを掛けて欲しいと頼んでみたら、笑顔でその通りにもしてくれた。
(「しちゃってもイイのよ♪」なんてことも言っていたがそれは御免だ)
麻酔を掛けたら、次に目覚めるのは病室。
稀に手術室を出る前に目を覚ます患者もいるけど、その時は朦朧としていて、例え会話が成り立っても、本人は麻酔が覚める頃にはほとんど覚えていないという。
準備が整ってから数分、先生が来るのを待つ。
今、もんのすごい格好してるんですけど私(-_-;
結局10分ほど待たされて、先生がやって来た。
体重を聞かれ、そこから算出するらしい麻酔薬の量が看護士さんに指示される。
針の無い大きな注射器に入った麻酔薬が、点滴のチューブの途中にあった接続部分にセットされ、冷たい液体が腕に流れ込む感触。
麻酔薬の威力など知らない私は、思わず素朴な疑問を口にした。
「こんなんで、本当に眠くなるんでしょうか(・_・)」
「不思議なことにね~、眠くなるのよ~(^-^)」
冷たい液体の流れ込む腕の感触に違和感を感じつつも、視線を腕から天井のライトに移す。
その瞬間、ぐらりと視界が揺れた。
うわっ、酔いそう…っ。
腕から点滴の針が抜かれる感触に、少々焦る。
朦朧とはしているけど、眠ってはいない。
体の感覚は鈍いけど、何も感じないわけでもないようだ。
このまま手術されたら、たまらんぞ(゜Д゜;
何か言った方がイイのだろうか。
考えている間に、点滴の針どころか、血圧計も固定されていた足のベルトも外されていく。
腕も足も真っ直ぐに降ろされ、ベッドの上に姿勢良く寝かされる。
あ、終わったのか。
酔いそう、と思った一瞬後に点滴を外されたように思えたのだが、少なくとも手術が終わるまで、私は眠っていたようだった。
意識は朦朧としているものの、頭の芯は覚醒していて、後片付け(?)の様子をぼんやりと眺めている私。
うっすらと目を開けた私に気付いた看護士さんが、「気分はどう?痛みは?(^-^)」などと声を掛けてくれる。
素直に出た言葉は、「…お腹、痛い…」だったものの。
「うーん、痛いね~。ゴメンね~(^-^)」とサラリと流された。
意識が朦朧としているが故の、うわ言と思っているらしい。
私はというと、非常にゆっくりではあるけれど喋れることに気付き、そのままいろいろと喋り続けた。
時間を聞いてみたり、無事終わったかと聞いてみたり、腹痛の愚痴を言ってみたり。
動けないストレスと鈍く続く痛みに、「喋らなきゃやってらんねぇ(-_-;|||」という気分だったのだ。
多少うるさかったかもしれないが、大声が出せるわけもなし、早口に喋れるわけでもなし、うわ言を繰り返しているだけに見えただろう。
そのまま元の部屋に運ばれ、ベッドに寝かされる。
「意識が朦朧としていてうわ言を言いますけど、(手術は)無事に終了しているので心配要りませんから(^-^)」
看護士さんは部屋にいた千矢母に軽く声を掛けると、部屋を出て行った。
私の麻酔が覚めた頃、また来るようだ。
千矢母と、誰かの話す声がする。
薄く目を開けると、スーツ姿のでっぱったお腹が見えた。
聞き慣れた声は、千矢父のものだった。
急遽手術を行うことになったので、帰りが遅くなると千矢母が連絡したらしく。
月曜日なのに、電車で1時間は掛かるってのに、会社帰りにわざわざやって来たのだ。
ありがたい親心である。
うわ言にしてはバリエーションに富んだ私の言葉に、意識は朦朧としてしても、もはやうわ言でなどナイことに気付いた千矢父・千矢母。
ぼけ~っとしながらも軽口を叩きまくる私のお喋りに付き合ってくれる。
その表情は、「ああ、いつものばか娘だ(^-^;」とでも言っているかのようだった。
麻酔が切れて、起き上がれるようになったのは、それから2時間が経った頃だったろうか。
看護士さんがやって来て、トイレに行くよう促される。
その前に(全く気が付かなかったが)患部に押し込まれていたガーゼを取り除かれた。
ぎゃああああ嫌な感触ーっ(×。×)
次は薬を飲むため、千矢母がコンビニで買ってきてくれたオニギリを食べる。
当然夕飯を食べていない千矢父と千矢母も、一緒に。
腹痛以上に空腹に弱い私は、「明日手術にしていたら、朝食は抜きだったはずだから、今日済んで良かった」などと的外れもイイところなことを考えていた。
そこへ、ハルトくんがやって来た。
突然月曜日に休みを取るわけにも行かず、手術予定の火曜日には休みを取ると言ってくれていたハルトくん。
急遽今日手術になってしまったものの、仕事に追われて早めに帰ることもできなかったという。
千矢母が付き添っていることは知っていても、心配してくれていたのだろう、急いで来てくれたようだった。
千矢父が来ていたことに驚きつつも、麻酔も覚めてのん気に食事している私を見て、ほっとした様子。
一緒になって、オニギリを食べた。
薬を飲んで、退院後の説明を受けると、今日はもう帰宅してイイとのこと。
腹筋を使うような動作をするとお腹が痛いため、よろよろと歩く。
夜11時近くになっていたこともあり、千矢母が持ってきたパジャマの上にコードを着せられ、タクシーで病院を後にした。
(千矢父・千矢母は、電車で帰っていった。ありがとうね)
1週間後に、診察。
そこで感染症等の問題がなければ、通常の生活に戻ってイイとのことだ。
それまでは、自宅療養…。
思っていた以上にいろいろあった1日が、何とか終わった。
乗り切ってやったぜ、と自分を褒めてやりたい一方で。
本当に空っぽになったお腹が、何だかちょっと寂しかった。