5-「関寺小町」
同じ年(1765・明和2)の11月、中村座の顔見世に小野小町晩年の所作が出た。
深草少将を袖にしたほどの小町だが、
寄る年波に美貌も衰え、腰も曲がり、言い寄る男は誰もいない。
一人寂しく、関寺に住み、物乞いをして日を送る。
長唄は、「百夜車」と同じ富士田吉治。
吉治は顔見世から中村座に移ったばかりだ。
「百夜車」を作曲したのも吉治で、「関寺小町」を作曲したのも吉治だ。
吉治はこの二曲で、小町の栄華と落魄を描こうとしたのではなかろうか。
晴れて中村座に移籍はしたけれど、
どうしても”小町落魄の巻”をやりたかったのだろう。
今やドル箱となった吉治の実力をもってすれば、少々の無理はまかり通る。
『白浪や 漂う水に鏡山
夢か現か定めなき
思いがけなき九十九髪
我が身うるさし 人目はずかし』
●水に映るおのれの姿、これは夢なのか、それとも現実なのか。
白髪ぼさぼさの見苦しい老婆がそこにいる。
ああ、なんとうっとうしく、はずかしいことよ。
近江にある鏡山を出すことで、小町の住む大津の関寺の位置を示し、
湖面に漂う白い浪で、小町の不安定な境遇を示唆する。
九十九日目でこと絶えた、少将の無念を匂わすために、九十九髪を出し、
白髪あたまの老いさらばえた小町を連想させる。
〓 〓 〓
tea breaku・海中百景
photo by 和尚
同じ年(1765・明和2)の11月、中村座の顔見世に小野小町晩年の所作が出た。
深草少将を袖にしたほどの小町だが、
寄る年波に美貌も衰え、腰も曲がり、言い寄る男は誰もいない。
一人寂しく、関寺に住み、物乞いをして日を送る。
長唄は、「百夜車」と同じ富士田吉治。
吉治は顔見世から中村座に移ったばかりだ。
「百夜車」を作曲したのも吉治で、「関寺小町」を作曲したのも吉治だ。
吉治はこの二曲で、小町の栄華と落魄を描こうとしたのではなかろうか。
晴れて中村座に移籍はしたけれど、
どうしても”小町落魄の巻”をやりたかったのだろう。
今やドル箱となった吉治の実力をもってすれば、少々の無理はまかり通る。
『白浪や 漂う水に鏡山
夢か現か定めなき
思いがけなき九十九髪
我が身うるさし 人目はずかし』
●水に映るおのれの姿、これは夢なのか、それとも現実なのか。
白髪ぼさぼさの見苦しい老婆がそこにいる。
ああ、なんとうっとうしく、はずかしいことよ。
近江にある鏡山を出すことで、小町の住む大津の関寺の位置を示し、
湖面に漂う白い浪で、小町の不安定な境遇を示唆する。
九十九日目でこと絶えた、少将の無念を匂わすために、九十九髪を出し、
白髪あたまの老いさらばえた小町を連想させる。
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tea breaku・海中百景
photo by 和尚