三月は、ふしぎな月です。
一か月前、雪で閉ざされていた町々に、まばゆい陽光が照り付けるのです。
よそよそしい枯れ木に、花が咲き、なんと数日通らなかった道端の柳が
みずみずしい新芽を吹いているのです。
不愛想に見えた土に、タンポポが開き、シロツメクサの幼い葉が顔を出しています。
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冬服が目障りになり、
空の雲に、天使の羽衣を見て、それをまとう乙女を思うのです。
若い女性たちは、一足先に春の装いになっています。
自分も、
季節を先取りして、薄物をまとって歩いていた三月があった。たしかに。
「桜を見に行きましょう。いつがいい? どこにする?」と、お誘いがありました。
ほんとに桜が咲くのでしょうか。
どうして、いっせいに、あんなにたくさんの花が咲くのでしょう。
もちろん、だれにもそんなことは言いません。
降り注ぐ陽射しと豊かな雨に、
ただ頭を下げて、打たれ続けるだけです。
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もう、桜のように、花をつけることは出来ない。
タンポポのように不敵に笑うことは出来ない。
そんな日々は、過ぎてしまった・・・。
チェストから、白いスカートを出して、
ちょっとあててみる。
まだ、着ることができるかしら。
もし、スニーカーがあったら、
白いスニーカーを見つけたら、
着ることができるかしら。
桜と、タンポポと、柳の新芽の下を、、堂々と歩くことができるかしら。
もし・・・。