猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

PITY ある不幸な男

2022-03-03 05:10:39 | 日記
2018年のギリシャ・ポーランド合作映画「PITY ある不幸な男」。

10代の息子と小綺麗な家に住み、礼儀正しく身だしなみも良い弁護士の中年
男性(ヤニス・ドラコプロス)。何不自由ない暮らしを送っているように見える
が、彼の妻は不慮の事故で昏睡状態に陥っている。彼の1日は妻を思ってベッ
ドの隅でむせび泣き、取り乱すことから始まる。彼の境遇を知って、毎朝手作
りのオレンジケーキを差し入れる同じマンションの住人、割引きをするクリー
ニング屋の店主、気持ちに寄り添う秘書など、同情心から親切になる周囲の人
々。この出来事がもたらした悲しみは、いつしか彼の心の支えとなり、次第に
依存していく。ところがある日、妻が奇跡的に目を覚まし、悲しみに暮れる日
々に変化が訪れる。

ちょっと変わったサイコ・サスペンス。裕福な弁護士の男は息子(小学生か中
学生くらい)と暮らしているが、彼の妻は事故で昏睡状態が続いており、医者
からも見放されていた。彼は毎日妻を見舞い、意識のない妻にキスをする。彼
と息子を気の毒に思い、同じマンションの上階の女性はいつも手作りのケーキ
を差し入れる。クリーニング屋の店主は割引きをしてくれる。秘書は「この十
字架を奥様に」と渡してくれた。周囲の人々は一様に「奥さんの容態は?」と
尋ね、男は「望みはあまりない」と答える。皆「きっと良くなるわ」とか「気
をしっかり持って」などと言ってくれる。男はそういった日常にある心地よさ
を感じるようになっていた。そんなある日、妻が奇跡的に回復し、退院してく
る。
奇妙な物語だった。前半の男と息子は本当にかわいそうである。男は家事に手
が回らないため家政婦を雇うことを提案するが、息子は「ママの料理じゃなき
ゃ嫌だ」と言う。妻のことが大好きな飼い犬も元気がない。男が毎朝妻を思っ
て泣いていることも息子は知っていた。この父子は本当にママを愛しているの
だ。やがて妻は回復し、家に戻ってくる。家族が元通りになり、妻の作る料理
を食べる。父子が待ち望んでいた日常だ。息子は全編を通して表情が薄いが、
喜んでいるのだと思う。愛犬も嬉しそうだ。だが男はそんな日々に不満や不安
を抱き、精神のバランスを崩していく。
妻が元気になったので上階の女性はケーキの差し入れをしなくなるのだが、男
は「妻が戻ってからケーキの差し入れがないですね」と声をかけ、女性は気味
悪く感じる。同情からしていたことなので当たり前なのだが。「今焼いている
のなら焼けるまで待ちますよ」とまで言う。そんな催促するようなことを普通
言うだろうか。男はクリーニング屋の店主に妻が戻ってきたことを言わない。
相変わらず「望みは薄い」と言う。息子はピアノを習っており、先生から才能
があると期待される。かわいそうな男だった男は、普通の男になってしまった
のだ。
登場人物の名前が出てこないのに物語が成り立っているのがすごいと思った。
唯一男が友達の名前を呼ぶシーンがあるが、他はなかったと思う。男の異常さ
は次第に増していく。あまりにも異常なので笑えるところもあり、男が自作の
歌を息子に歌って聞かせるシーンなどは怖すぎて笑えるのだ。ブラック・コメ
ディの要素もあるのかなと思ったが、やっぱりコメディではなくてサスペンス
だ。無表情な男の存在感が圧倒的で、とても不気味である。ネットのレビュー
に「この手の映画が好きな人には変態が多い」と書いている人がいて、笑って
しまった。とてもおもしろかった私は変態なのかもしれない。ラストで、海で
死んだかと思われた愛犬が生きていて良かった、と思った。ずっと気になって
いた。


投稿した記事を誤って削除してしまったので、書き直しました。リアクション
をくださった皆様、申し訳ありません



映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする