やっぱり・・・アタシは幼馴染の三人組をかき回していただけなんだ・・・。
向こうから姫島くんがやって来た。アタシが避けるヒマもなく、姫島くんは手を振る。アタシは気まずい顔のままでちょっと立ち止まった。
「ヨッ! 菊川も来てたんだ、ナニもう帰るの?」
「・・・うん・・・。あの・・・姫島くん・・・いろいろごめんなさい!」
「へ?」
アタシはわけも分からず立ち止まって怪訝そうな顔の姫島君にも頭を下げると、そのまま脇を通り抜けてロビーへ向かった。
「おーい、菊川! なんだよ、どうしたんだよ?」
と言う声を振り切って・・・。
ため息が出る。・・・ていうか、ため息しか出ない。
あの三人は幼いころから長い、深い付き合いがあって絆がある。きっといっぱいいろんなことがあって、泣いたり笑ったり、楽しいことも悲しいこともいつも一緒に分かち合って来た三人だもの、何があってもお互いに助け合ってきたはずだよね。そんな中に後から飛び込んだアタシだ、きっとKYなこといっぱいしちゃってたんだろうな・・・。よかれと思ってても、実際はアタシの一人相撲だったんだよ、きっと・・・。路美ちゃんに嫌な思いさせてたんだろうな、すごく・・・。
ユウさん、ごめんなさい。せっかくアタシのこと信じていろいろ託してくれたのに、こんなことになっちゃったよ・・・どうしよう・・・。見守ってあげて欲しいと言われたのに、どうしよう。どうすればいい・・・?
「涼香さん!」
急に声を掛けられて、アタシはハッとして声の方を向いた。そこにいたのは総くんのお母さん、冬美さんだった。ユウさんの生みのお母さんでもある人・・・。アタシったら、どんな顔をしていたんだろ。おばさんは心配そうな目で、でも静かにアタシを見つめている。
「おばさん・・・。」
おばさんは口元に笑みを浮かべると
「・・・時間、いいかしら? 良かったらお茶でも飲まない? ちょっとお喋りでもしましょうよ。」
と、明るく誘ってくれた。
「え? あ・・・はい・・・。」
アタシは誘われるままにおばさんに促され、病院の中にある喫茶店に入った。病院付属とは言っても、中は普通の喫茶店と違いはない。窓際の席は外からの光がいっぱいに入って眩しいくらい。席に着くとウエイトレスがすぐに来てブラインドを下ろしてくれた。西日は淡い、ほんのり暖かい光になった。アタシはふと、ユウさんの『光の裏側』という歌を思い出した。総くんも好きだって言ってたし、こないだ直にユウさんに歌ってももらった歌。光があれば影がある、光を支える影が必ずある、それを忘れちゃいけない・・・そんなコンセプトの歌。
おばさんは優しく微笑んで
「涼香さん、どうしたの? 何があったの? 良かったら話してみない?」
と聞いてくれた。あ・・・! アタシはちょっと驚いてしまった。だって・・・その目はやっぱりユウさんとそっくりなんだもの・・・。うん、やっぱり親子なんだね。そしてもちろん総くんにも似てる・・・。
気がつくと、アタシは今しがたあったほんの少しのできごとと、ずっと感じていたことをおばさんに打ち明けていた。
おばさんは頷きながら聞いてくれた。そして
「そう・・・。涼香さんも寂しかったわね。でもお願い、路美ちゃんを嫌いにならないであげて。」
「嫌いだなんて、そんな・・・。」
「路美ちゃんはね・・・、路美ちゃんにとっては光汰くんと総司はお兄ちゃんなの。もう失くしたくない、ね。」
「え・・・?」
「涼香、待てよ!」
総司は涼香が身を翻して行ってしまうのを止めようと身を乗り出しましたが、やはり体は言うことを聞いてくれません。上半身を捻じっても足は錘のように重くつんのめるだけです。あわてて路美が支えないとベッドから落ちるところでした。
「総ちゃん!」
「ちくしょう、この足が! 動かねえ・・・。くっそお・・・。」
「無理しないで! 落ちたら危ないよ!」
「路美! オマエなんてこと言うんだよ! 行って涼香に謝って来い!」
「・・・総ちゃん・・。」
悲しそうな目で路美が総司を見つめ返したところへ光汰がやってきました。
「なんだかなあ・・・。あれ? どしたの二人とも・・・。何かあったの? 今菊川が何故か僕に謝って行っちゃったけど・・・。」
「光ちゃん・・・。」
光汰を見た路美はきまり悪そうにうつむきました。
「イヤ・・・こいつがさあ・・・涼香を邪魔者扱いしたからさ・・・。」
「そんなんじゃないよ! ただ・・・あたしはずっと小さい頃から三人幼馴染で来たのに、この頃総ちゃんがあたしたちより涼香センパイとずっと仲良くしてるから・・・。こないだだってあたし達を置いてユウジのコンサート行ったりしたし・・・。何か・・・総ちゃんが離れてくみたいな気がしたから・・・だからそれを言っただけ・・・。なんで涼香センパイの方と仲良くするのって・・・。」
「そしたらたまたまそれを涼香本人に聞かれたんだよ。」
「はあ・・・それでか、僕にいろいろごめんなんて言ったのは・・・。」
光汰はドアの方へ振り向き、頭を掻きながら得心して言いました。
「路美、お前ヤキモチやいてんだろ、菊川に。総司取られるような気がしてさあ。」
「・・・そんなんじゃ・・・。」
「そんなんじゃん。気持ちはわからんでもないけどさあ・・・。」
「だからそんな・・・。」
口をとがらせる路美に、総司がため息まじりに言いました。
「お前、ずっとクウガのこと引きずってんだよな。今でも、ずうっと・・・。」
路美はビクッとして総司を見返しました――
こちらは病院内の喫茶室――
「クウガ・・・くん?」
アタシはおばさんから聞きなれない名前を聞いて思わずオウム返しに聞いた。仮面ライダー・クウガから取ったのかしら、などとどうでもいいことはアタマから追い出しながら。
「ええ。路美ちゃんには総司より一つ上の、空我くんていうお兄ちゃんがいたの。」
「いた・・・っていうことは・・・。」
「ええ、そう。空我くんは亡くなったの。まだたったの7歳だった・・・。」
「7歳・・・てことは、その頃の路美ちゃんはまだ4歳くらいじゃないんですか?」
「ええ。・・・元々はね、空我くん、光汰君くんと総司の三人で幼馴染だったの。その中で空我くんが一番やんちゃ、光汰くんは大人しくて、うちの総司がその真ん中。いじめてたわけじゃないけど、空我くんはいつも光汰くんをからかっていじわるしちゃっててね、それを総司が仲裁するみたいな感じで、でも、とっても仲良しだったのよ。路美ちゃんはそんなお兄ちゃんが大好きでいつもくっついてきてたの。」
「空我・・・くんはどうして亡くなったんですか?」
「・・・事故だったの。交通事故。ほんと、あっという間ね、人が死んじゃう時って。路美ちゃんは小さかったから死がどういうものかはわからなかったでしょう。でも、いつもいたはずの大好きなお兄ちゃんが突然いなくなって寂しかったのでしょうね、よく泣いて探しに来たのよ、うちにも。だから総司が『オレがお兄ちゃんになってやるから泣くな』なんて言ってさ。総司もそれ、覚えてるかどうかわかんないけど。それからは光汰くんと総司が路美ちゃんのお兄ちゃんがわりになったのよ。」
「そうだったんですか・・・。」
路美ちゃんは「あたしのほうがお姉ちゃんみたい」と言ってたけど、やっぱり妹分なんだね・・・。二人はやっぱり大事な大事なお兄ちゃんたちなんだ。
・・・TO BE CONTINUED.