涙が出てきた。それもうっすら、じゃなく・・・何故だろう、とめどなく。自分のために歌ってくれた、その感激ももちろんあるけど、もっともっと・・・うまく言えないけど・・・。アタシはそれをぬぐうのも忘れてユウジさんを見つめながらただただ涙を流していた。
歌が終わって、やっと我に返ったアタシはハンカチを急いで取り出して目にあてて、それでもすぐには落ち着けなくてしばらく肘をついて泣いていた。感涙にむせぶってヤツ? ここまで感動しちゃうなんて、なんか自分で恥ずかしい・・・。ユウジさんは何も言わずに見守ってくれているみたい・・・。恥ずかしくてアタシは余計顔をあげられないよ・・・。
「大丈夫?」
しばらくして、ユウジさんがそっと声をかけてくれた。アタシはやっと涙を押さえてかすかに頷いた。と、
「いやあ・・・ははは、女の子泣かせるなんてオレってホント罪な男だねえ~! まったく、自分が怖いわ!」
と、軽い声が・・・。はい・・・おかげでちょっと冷えました。ようやく顔を上げるとユウジさんはまたシートにもたれるように腰をおろして足を組んでいる。
「すみません・・・でも、すごく嬉しいっていうか・・・感動したっていうか・・・なんて言っていいかわかんないんですけど・・・。でも、なんでここまでしてくださるんですか? ただのファンの一人なのに・・・。」
「んー? 君に惚れたからって言えばいいかな~?」
「えええええ――――――――――――――?!」
もういいってば・・・。
「あはは、それもあるけど、まあ、お礼だね。」
「お礼?」
「それとお詫びもあるかも。」
ユウジさんは声を落としてそう言った。お詫び? 何のことだろう・・・。
「なんかオレに聞きたいことがあるんでしょ。オレは君のこと逆ナンしたいミーハーファンの女の子だと思って、メアドをみゆ希姉に伝えてもらったんじゃないよ。迷いながらも、どうしても聞きたいことがあって連絡してくれると想像したから、伝えてもらったんだ。まあ、その想像が当たるかどうかは正直カケだったんだけど、連絡くれてよかったよ、オレはそれを望んだんだ。だからそのお礼。それと、そのカケを君に預けたことへのお詫び・・・もある。」
そう言われるとアタシももはや舞い上がってばかりはいられない。
「・・・アタシがユウジさんに聞きたいことがあるって・・・どうしてそう思うんですか?」
「さあ・・・。カン、かな。・・・やっぱり聞きたいこと、あるんだね。」
アタシは黙って頷いた。この人・・・やっぱり軽薄な人なんかじゃない。
「みゆ希姉の言ったとおりだ、君は聡明で思いやりのある人だね。安心した。と、その話の前に・・・悪ィ、そのユウジさんてのやめてくれる? 今はオフなんで。ユウジってのは芸名なんでね。今はプライベートの一個人だよ。オレの本名は浅野祐一朗。ユウイチロウじゃ長いからユウでいいよ。ま、そーするとユウイチロウかユウジかどのみちわかんないんだけど。」
え・・・?! いきなり本名教えてくれたよ!! 浅野祐一朗さん・・・ていうんだ・・・。わ、嬉しい!! でも今は舞い上がってる場合じゃないんだよね・・・。
「あ・・・はい、じゃあ・・・ユウさん。・・・あ、だからみゆ希さんはユウくんって・・・。」
「ああ・・・まーね。みゆ希姉とはそれなりに長いつきあいだから。」
「・・・みゆ希さんとは・・・どういう関係・・・て、あ、聞いちゃいけなかったですね、ごめんなさい!」
「おいおい、それじゃ秘密の関係みたいじゃん。別に不倫なんてしてないよ、あの人はオレの憧れで、ついでに何度もコクってそのたびに肘鉄くらってるってだけよ! みゆ希姉とマブダチなら知ってるでしょ、みゆ希姉がどんだけ旦那さん一途かってことくらい。」
アタシは思いっきり頷いた。ハイハイ、会うたびどんだけ当てられてることか。店長はともかく、みゆ希さんは半端ない。そりゃあね・・・店長はそうそう安くはないこのアタシが惚れちゃった人ですからね・・・て、その話ももういいってば!
「オレがハタチくらいの時かなあ、その頃の見習いマネジャーの一人・・・今のマネジャーなんだけど、そのマブダチってのが第一テレビ入社したてのアナウンサーのみゆ希姉だったの。ギョーカイのペーペー同志仲良くなって、そうこうしてるうちになんか、ね。まあ、オレの一方的な片思いよ。・・・無理も言ったのよ、『いつまでも帰ってこないオトコのこと思っててもしょうがないだろ』なんて。あ、ここまで話しちゃまずいか。」
「知ってます・・・。アタシもずっと見てきてますから・・・。」
「・・・そう。じゃあオレのそのセリフがいかに酷いかってこともわかるよね。切り返されたのよ、『思いに時間は関係ないし、あたしが納得していればいい問題だから』って。その上『ずっと待ち続けて幸せをつかむか不幸になるかを決めるのはあたしであってユウくんじゃないんだよ』だって。・・・あの人にそこまで言わせるカズさんて何なのよ。オレが太刀打ちできる人じゃないじゃない。まあ、だからオレもみゆ希姉を見習って『じゃあオレも勝手に思ってるから思わせといてよね』なんつってさ・・・。あはは、未練たらしくてみっともねーよねえ。でも、しゃ-ね-でしょ、それでもオレ、あの人が好きなんだもん。好きなものを自分の意志で嫌いにはなれないよ。だから迷惑かけない範囲でそばにいさせてもらってるわけ。ホント・・・見苦しいよなあ。みゆ希姉の思いは通じて結局その人と一緒になって・・・子どもまでいるってのにね。オレは完敗してるってのにさ。」
ユウさんはそう言って苦笑いした。アタシはそれを非難はできなかった。やっぱりこの人は本当は驚くほど真面目でストイックで、ナイーブな人なんだな・・・。軽薄なのは表面だけ。それにその件に関してはアタシはユウさんを未練たらしいなんて言えない。だってアタシも今も店長のことは大好きだもん。ただ、前とは少し意味が違ってる気はするけど。
「・・・て、イヤ、オレのコイバナはどうでもいいのよ! それより涼香ちゃんの質問に答えようじゃないの。もともとそのために会ってるんだし。」
「あ・・・はい。」
そう、ユウさんの言う通り、アタシはどうしても聞きたいことがあった。それを見越してメアドを教えてくれたこともわかった。だったら尋ねていいということだ。アタシは居ずまいを正して、素直に質問を投げかけた。
「あの・・・ユウさんは総くん・・・一緒にコンサートに招待してもらった山科くんのお母さんをご存じだったんじゃないんですか?」
あの時アタシが感じた違和感の正体は、あとで落ち着いて思い返した時になんとなくわかった。それは・・・。
ユウさんは微笑んで、ちょっと首をかしげて聞き返した。
「・・・どうしてそう思うの?」
「だって・・・あの時ユウさんはおばさんに確か『お目にかかれて光栄です、お元気でしたか?』って聞いたでしょ? お元気でしたか、なんて初対面の人にいう言葉じゃないと思ったんです。だから、少なくとも知ってる人なんじゃないかって・・・。それをどうしても確かめたくて。どうして総くんのお母さんをユウさんが知ってるんだろうって。それに、考えてみればおばさんも・・・なんだかユウさんのこと、有名人だからじゃなく、もともと知ってるって感じだったし・・・。」
「・・・・・・・。」
ユウさんは黙って微笑んでいる。アタシもその視線を受けて見返した。ま・・・実は眩しいんだけど・・・ここはアタシも引けないもん。ユウさんはふふっと笑って
「さすが、よくわかったね・・・。まあ、オレも君がそれに気づいてツッコんでくれるのを期待したからここでこうして会ってるわけだけど。ごめんね、ゲタを預けちゃって。それに・・・これから話すオレの話は君に余計なことを背負わせてしまうかもしれない。それでも君なら受けてくれると踏んだんだ。オレは君をただのファンだとは思っていない。何もできないオレの代わりに、二人を見守ってくれる人だと見込んだんだよ。勝手に申し訳ない。だけど・・・だからカケたんだよ。メアド教えて真面目に会いたいと言ってくれたら君はそれに足る人、そうなればカケは勝ち。でなければ負け。・・・ごめんね、君の預かり知らないところで勝手にカケの対象にして。」
「カケの相手は誰なんですか?」
「あー・・・まあ、神様、かな~。」
「神様?」
・・・TO BE CONTINUED.
歌が終わって、やっと我に返ったアタシはハンカチを急いで取り出して目にあてて、それでもすぐには落ち着けなくてしばらく肘をついて泣いていた。感涙にむせぶってヤツ? ここまで感動しちゃうなんて、なんか自分で恥ずかしい・・・。ユウジさんは何も言わずに見守ってくれているみたい・・・。恥ずかしくてアタシは余計顔をあげられないよ・・・。
「大丈夫?」
しばらくして、ユウジさんがそっと声をかけてくれた。アタシはやっと涙を押さえてかすかに頷いた。と、
「いやあ・・・ははは、女の子泣かせるなんてオレってホント罪な男だねえ~! まったく、自分が怖いわ!」
と、軽い声が・・・。はい・・・おかげでちょっと冷えました。ようやく顔を上げるとユウジさんはまたシートにもたれるように腰をおろして足を組んでいる。
「すみません・・・でも、すごく嬉しいっていうか・・・感動したっていうか・・・なんて言っていいかわかんないんですけど・・・。でも、なんでここまでしてくださるんですか? ただのファンの一人なのに・・・。」
「んー? 君に惚れたからって言えばいいかな~?」
「えええええ――――――――――――――?!」
もういいってば・・・。
「あはは、それもあるけど、まあ、お礼だね。」
「お礼?」
「それとお詫びもあるかも。」
ユウジさんは声を落としてそう言った。お詫び? 何のことだろう・・・。
「なんかオレに聞きたいことがあるんでしょ。オレは君のこと逆ナンしたいミーハーファンの女の子だと思って、メアドをみゆ希姉に伝えてもらったんじゃないよ。迷いながらも、どうしても聞きたいことがあって連絡してくれると想像したから、伝えてもらったんだ。まあ、その想像が当たるかどうかは正直カケだったんだけど、連絡くれてよかったよ、オレはそれを望んだんだ。だからそのお礼。それと、そのカケを君に預けたことへのお詫び・・・もある。」
そう言われるとアタシももはや舞い上がってばかりはいられない。
「・・・アタシがユウジさんに聞きたいことがあるって・・・どうしてそう思うんですか?」
「さあ・・・。カン、かな。・・・やっぱり聞きたいこと、あるんだね。」
アタシは黙って頷いた。この人・・・やっぱり軽薄な人なんかじゃない。
「みゆ希姉の言ったとおりだ、君は聡明で思いやりのある人だね。安心した。と、その話の前に・・・悪ィ、そのユウジさんてのやめてくれる? 今はオフなんで。ユウジってのは芸名なんでね。今はプライベートの一個人だよ。オレの本名は浅野祐一朗。ユウイチロウじゃ長いからユウでいいよ。ま、そーするとユウイチロウかユウジかどのみちわかんないんだけど。」
え・・・?! いきなり本名教えてくれたよ!! 浅野祐一朗さん・・・ていうんだ・・・。わ、嬉しい!! でも今は舞い上がってる場合じゃないんだよね・・・。
「あ・・・はい、じゃあ・・・ユウさん。・・・あ、だからみゆ希さんはユウくんって・・・。」
「ああ・・・まーね。みゆ希姉とはそれなりに長いつきあいだから。」
「・・・みゆ希さんとは・・・どういう関係・・・て、あ、聞いちゃいけなかったですね、ごめんなさい!」
「おいおい、それじゃ秘密の関係みたいじゃん。別に不倫なんてしてないよ、あの人はオレの憧れで、ついでに何度もコクってそのたびに肘鉄くらってるってだけよ! みゆ希姉とマブダチなら知ってるでしょ、みゆ希姉がどんだけ旦那さん一途かってことくらい。」
アタシは思いっきり頷いた。ハイハイ、会うたびどんだけ当てられてることか。店長はともかく、みゆ希さんは半端ない。そりゃあね・・・店長はそうそう安くはないこのアタシが惚れちゃった人ですからね・・・て、その話ももういいってば!
「オレがハタチくらいの時かなあ、その頃の見習いマネジャーの一人・・・今のマネジャーなんだけど、そのマブダチってのが第一テレビ入社したてのアナウンサーのみゆ希姉だったの。ギョーカイのペーペー同志仲良くなって、そうこうしてるうちになんか、ね。まあ、オレの一方的な片思いよ。・・・無理も言ったのよ、『いつまでも帰ってこないオトコのこと思っててもしょうがないだろ』なんて。あ、ここまで話しちゃまずいか。」
「知ってます・・・。アタシもずっと見てきてますから・・・。」
「・・・そう。じゃあオレのそのセリフがいかに酷いかってこともわかるよね。切り返されたのよ、『思いに時間は関係ないし、あたしが納得していればいい問題だから』って。その上『ずっと待ち続けて幸せをつかむか不幸になるかを決めるのはあたしであってユウくんじゃないんだよ』だって。・・・あの人にそこまで言わせるカズさんて何なのよ。オレが太刀打ちできる人じゃないじゃない。まあ、だからオレもみゆ希姉を見習って『じゃあオレも勝手に思ってるから思わせといてよね』なんつってさ・・・。あはは、未練たらしくてみっともねーよねえ。でも、しゃ-ね-でしょ、それでもオレ、あの人が好きなんだもん。好きなものを自分の意志で嫌いにはなれないよ。だから迷惑かけない範囲でそばにいさせてもらってるわけ。ホント・・・見苦しいよなあ。みゆ希姉の思いは通じて結局その人と一緒になって・・・子どもまでいるってのにね。オレは完敗してるってのにさ。」
ユウさんはそう言って苦笑いした。アタシはそれを非難はできなかった。やっぱりこの人は本当は驚くほど真面目でストイックで、ナイーブな人なんだな・・・。軽薄なのは表面だけ。それにその件に関してはアタシはユウさんを未練たらしいなんて言えない。だってアタシも今も店長のことは大好きだもん。ただ、前とは少し意味が違ってる気はするけど。
「・・・て、イヤ、オレのコイバナはどうでもいいのよ! それより涼香ちゃんの質問に答えようじゃないの。もともとそのために会ってるんだし。」
「あ・・・はい。」
そう、ユウさんの言う通り、アタシはどうしても聞きたいことがあった。それを見越してメアドを教えてくれたこともわかった。だったら尋ねていいということだ。アタシは居ずまいを正して、素直に質問を投げかけた。
「あの・・・ユウさんは総くん・・・一緒にコンサートに招待してもらった山科くんのお母さんをご存じだったんじゃないんですか?」
あの時アタシが感じた違和感の正体は、あとで落ち着いて思い返した時になんとなくわかった。それは・・・。
ユウさんは微笑んで、ちょっと首をかしげて聞き返した。
「・・・どうしてそう思うの?」
「だって・・・あの時ユウさんはおばさんに確か『お目にかかれて光栄です、お元気でしたか?』って聞いたでしょ? お元気でしたか、なんて初対面の人にいう言葉じゃないと思ったんです。だから、少なくとも知ってる人なんじゃないかって・・・。それをどうしても確かめたくて。どうして総くんのお母さんをユウさんが知ってるんだろうって。それに、考えてみればおばさんも・・・なんだかユウさんのこと、有名人だからじゃなく、もともと知ってるって感じだったし・・・。」
「・・・・・・・。」
ユウさんは黙って微笑んでいる。アタシもその視線を受けて見返した。ま・・・実は眩しいんだけど・・・ここはアタシも引けないもん。ユウさんはふふっと笑って
「さすが、よくわかったね・・・。まあ、オレも君がそれに気づいてツッコんでくれるのを期待したからここでこうして会ってるわけだけど。ごめんね、ゲタを預けちゃって。それに・・・これから話すオレの話は君に余計なことを背負わせてしまうかもしれない。それでも君なら受けてくれると踏んだんだ。オレは君をただのファンだとは思っていない。何もできないオレの代わりに、二人を見守ってくれる人だと見込んだんだよ。勝手に申し訳ない。だけど・・・だからカケたんだよ。メアド教えて真面目に会いたいと言ってくれたら君はそれに足る人、そうなればカケは勝ち。でなければ負け。・・・ごめんね、君の預かり知らないところで勝手にカケの対象にして。」
「カケの相手は誰なんですか?」
「あー・・・まあ、神様、かな~。」
「神様?」
・・・TO BE CONTINUED.