「そんなこと言われても、あたし空我兄さんのことはほとんど覚えてないもん・・・。」
「だから余計引きずってんじゃねーの? どんなだったかわかんないからさ。」
路美は力なくうなだれて総司のベッドの傍らに腰を下ろしています。総司はベッドに座って、その路美を見守るような目で見ています。光汰も向こう側の窓際のソファに陣取りました。
「お前、考えてみりゃずっとオレ達の後ついてきたよな。高校だって普通科行くか機械科にするか結構マジで考えてたろ。オレは母子家庭だから早く就職して母さん楽にしてやりたかったから機械科行ったんだけど、お前は機械科へ行く理由なんてなかったじゃん、別にメカ好きでもねえしさ、迷う必要なかったのに。大学だって、あんま考えずに光汰の後追っかけたんじゃね? ついてくるなとは言わねーよ、来たけりゃ来ればいい。でも、オレ達ちょっと一緒に固まりすぎて周りに壁みたいなもん作っちまってんじゃねえかな・・・。」
「ああ、確かに内輪で固まって排他的になってるかもね。」
光汰がうんうん頷いて言いました。
「近寄りがたい雰囲醸し出てたかもしれないなあ・・・。」
「仲良しなのはいいんだけどな。でもほら、例えば・・・光汰んちって4人きょうだいじゃん。でも葵姉ちゃんは近くだけど結婚して家出てってるし、皐姉ちゃんは東京で働いてるだろ。楓太は高1だっけ?」
「ああ、山瀬高校だよ、僕らとは違うとこへ行ってる。」
「・・・な。本当のきょうだいでもそんな風にバラバラになるもんだろ。ましてや幼馴染、いつまでも一緒にはいないし、いられないんじゃね? けど、何かあったら駆けつけるし、悩みごとがあれば相談に乗るさ。もしこの先遠く離れてもきっとまた会えば遊びにも行くし飲みにも行くじゃん。一生つきあえるよ。離れたくない気持ちはオレにもわかるってか・・・そんな気持ち、オレにもなくはないけど、だからって涼香に文句言うのは筋違いだろ。涼香、何も悪いことしてねーじゃんか。それよか、むしろオレは彼女が仲間になって良かったって思ってんだよな。」
「ほいほい、総司はやっぱり菊川が好きなんだよね。」
光汰がにんまりして言うので、総司はあわてて手を振りました。
「そ・・・そーいうことじゃなくて!! そうじゃなくて、さっき言ったろ、内輪で固まりすぎて排他的になってるとこへ彼女が入ってきてくれて、だからもっと外を向けるようになったってことでさ!」
と、路美が立ち上がると何も言わずにバッグを取って、くるりを背を向けるとドアを開けて出て行ってしまいました。
「おい、路美! 話まだ終わってないぞ! ・・・て・・・行っちまった・・・。」
追いたい総司ですが、どうしても動けません。諦めて大きく息を吐くとベッドにもたれかかりました。
「・・・あ~、やれやれ、女って結構メンドくさいんだなあ・・・。」
「あはは、そーだね。」
と、光汰も苦笑いします。
「まったく、僕らだったら、仲間が増えて、いろいろ今までにない話題とか振ってくれて、新鮮で面白いなあって思うだけなのにね。菊川って人なつっこくて気安くていい人なのにさ・・・。路美は身内意識強いんだな、意外と。ていうか、総司ちょっと言い過ぎ。」
「だ・・・だってよ・・・。」
「しゃあないか、菊川がもう来なくなったら失恋だもんね。」
「だからそんなんじゃねえってば!! お前だって嫌だろ、こんなつまんないことで涼香が来なくなったら。」
「そりゃあね。でも路美にとってはつまんなくないんだな~、そこが厄介じゃん。」
「・・・ああ、やっぱメンドくさい・・・。なんとかなんねーかな・・・。」
「多分、今路美にこれ以上言っても余計意固地になるだけだよ。しばらく様子見るしかないな。」
「つーか、お前もややこしくしたぞ! オレが涼香が好きだなんてお前が言うから、路美、余計むくれたんじゃんか!」
「はっはっは! モテる男は辛いねえ!」
「シバくぞ!!」
「はっはっは~!・・・まあ、お前もそうやって元気出せよ! もうすぐ退院だろ?」
「あ?・・・ああ・・・。まあ・・・当分は通院だけどな・・・。」
総司はため息混じりに足をさすりました。
そうかあ・・・。路美ちゃん、総くんも事故にあったから余計心配なんだな・・・。空我くんみたいに大事な人を同じような状況で亡くしたら・・・。そう思うと心配で仕方なかったんだ。それなのに、アタシは彼女の役割を奪っていたのかも知れない・・・。それに・・・それに・・・。
「涼香さん、あなたは何も悪くないよ。たとえ路美ちゃんが少しばかりあなたに冷たい態度をとっても、あなたはこれまで通り普通にして、総司に会いに来てやって。・・・もっとももうすぐ退院するのだけど。」
「そうだ、アタシそれを姫島くんに聞いて・・・。」
うっかり路美ちゃんのことで忘れてた。
「いつなんですか?」
「来週の週明けの予定。でも、しばらくは通院してリハビリね。・・・あの子、どうにもリハビリはもうひとつ乗り気じゃないんだけど・・・。確かに実際大変なんだけど、訓練次第で頑張ればなんとか歩けるようにはなるとは言われたのよ、でもどうもね・・・。完全に元へは戻らないとわかっているから、もうこのままでもいいって思ってるのかしら、どこか投げやりで。随分元気にはなって来たけど、今一つ乗り気じゃあないみたい・・・。」
そう言っておばさんはため息をついた。アタシもなんとか叱咤激励したいところだけど、正直そんな立場にはない。余計なことしちゃうくらいだもんね・・・。総くんの辛さをわかったような顔をして、でも実際は単に「わかったようなこと」を言ったにすぎない。ユウさんのコンサートで少し元気が出たみたいだけど、もうひと押し何とかなんないのかなあ・・・。
・・・などと思っているところで今度のこの路美ちゃんの件だ。もう・・・アタシ更に気が重いよ・・・。
「涼香さん? 何だかそれ以外にも気になることがありそうじゃない?」
「エ? いえ・・・。」
と、アタシはあわてて否定しようと思ったけど・・・もちろんアタシが気になっているのはユウさんに聞いた話のあれこれだ。ことがおばさんに関係あるだけに、どうしても目をそらしてしまう。やばいよ・・・そういやさっきからアタシずっとうつむいたりよそを見たり・・・せっかく話を聞いてくださっているのにマトモに目を合わせていない。無意識に合わせずに話していたよ・・・。さすがにおばさんはごまかせなかったんだ。ていうか、ごまかすことすら忘れてた・・・。
「よかったら話してみない? ホント私でよかったら、だけど・・・。何でも聞くわよ、もちろん誰にも内緒で。」
えー・・・うーん・・・どうしよう・・・。
でも、考えてみればアタシがこの話をしていい相手は多分おばさんだけだ。みゆ希さんにすら話せない。ユウさんはみゆ希さんにも言ってないって言ってたもん・・・。そうなれば当事者としか話はできない。ああ、でも。でも~~~~~~~~~!!!
完全に下を向いてしまったアタシをおばさんはじっと待ってくれている。アタシはもはや限界、少しだけ顔を上げて、でも視線は落としたままポツリとつぶやくように打ち明けた・・・。
・・・TO BE CONCLUDED.
「だから余計引きずってんじゃねーの? どんなだったかわかんないからさ。」
路美は力なくうなだれて総司のベッドの傍らに腰を下ろしています。総司はベッドに座って、その路美を見守るような目で見ています。光汰も向こう側の窓際のソファに陣取りました。
「お前、考えてみりゃずっとオレ達の後ついてきたよな。高校だって普通科行くか機械科にするか結構マジで考えてたろ。オレは母子家庭だから早く就職して母さん楽にしてやりたかったから機械科行ったんだけど、お前は機械科へ行く理由なんてなかったじゃん、別にメカ好きでもねえしさ、迷う必要なかったのに。大学だって、あんま考えずに光汰の後追っかけたんじゃね? ついてくるなとは言わねーよ、来たけりゃ来ればいい。でも、オレ達ちょっと一緒に固まりすぎて周りに壁みたいなもん作っちまってんじゃねえかな・・・。」
「ああ、確かに内輪で固まって排他的になってるかもね。」
光汰がうんうん頷いて言いました。
「近寄りがたい雰囲醸し出てたかもしれないなあ・・・。」
「仲良しなのはいいんだけどな。でもほら、例えば・・・光汰んちって4人きょうだいじゃん。でも葵姉ちゃんは近くだけど結婚して家出てってるし、皐姉ちゃんは東京で働いてるだろ。楓太は高1だっけ?」
「ああ、山瀬高校だよ、僕らとは違うとこへ行ってる。」
「・・・な。本当のきょうだいでもそんな風にバラバラになるもんだろ。ましてや幼馴染、いつまでも一緒にはいないし、いられないんじゃね? けど、何かあったら駆けつけるし、悩みごとがあれば相談に乗るさ。もしこの先遠く離れてもきっとまた会えば遊びにも行くし飲みにも行くじゃん。一生つきあえるよ。離れたくない気持ちはオレにもわかるってか・・・そんな気持ち、オレにもなくはないけど、だからって涼香に文句言うのは筋違いだろ。涼香、何も悪いことしてねーじゃんか。それよか、むしろオレは彼女が仲間になって良かったって思ってんだよな。」
「ほいほい、総司はやっぱり菊川が好きなんだよね。」
光汰がにんまりして言うので、総司はあわてて手を振りました。
「そ・・・そーいうことじゃなくて!! そうじゃなくて、さっき言ったろ、内輪で固まりすぎて排他的になってるとこへ彼女が入ってきてくれて、だからもっと外を向けるようになったってことでさ!」
と、路美が立ち上がると何も言わずにバッグを取って、くるりを背を向けるとドアを開けて出て行ってしまいました。
「おい、路美! 話まだ終わってないぞ! ・・・て・・・行っちまった・・・。」
追いたい総司ですが、どうしても動けません。諦めて大きく息を吐くとベッドにもたれかかりました。
「・・・あ~、やれやれ、女って結構メンドくさいんだなあ・・・。」
「あはは、そーだね。」
と、光汰も苦笑いします。
「まったく、僕らだったら、仲間が増えて、いろいろ今までにない話題とか振ってくれて、新鮮で面白いなあって思うだけなのにね。菊川って人なつっこくて気安くていい人なのにさ・・・。路美は身内意識強いんだな、意外と。ていうか、総司ちょっと言い過ぎ。」
「だ・・・だってよ・・・。」
「しゃあないか、菊川がもう来なくなったら失恋だもんね。」
「だからそんなんじゃねえってば!! お前だって嫌だろ、こんなつまんないことで涼香が来なくなったら。」
「そりゃあね。でも路美にとってはつまんなくないんだな~、そこが厄介じゃん。」
「・・・ああ、やっぱメンドくさい・・・。なんとかなんねーかな・・・。」
「多分、今路美にこれ以上言っても余計意固地になるだけだよ。しばらく様子見るしかないな。」
「つーか、お前もややこしくしたぞ! オレが涼香が好きだなんてお前が言うから、路美、余計むくれたんじゃんか!」
「はっはっは! モテる男は辛いねえ!」
「シバくぞ!!」
「はっはっは~!・・・まあ、お前もそうやって元気出せよ! もうすぐ退院だろ?」
「あ?・・・ああ・・・。まあ・・・当分は通院だけどな・・・。」
総司はため息混じりに足をさすりました。
そうかあ・・・。路美ちゃん、総くんも事故にあったから余計心配なんだな・・・。空我くんみたいに大事な人を同じような状況で亡くしたら・・・。そう思うと心配で仕方なかったんだ。それなのに、アタシは彼女の役割を奪っていたのかも知れない・・・。それに・・・それに・・・。
「涼香さん、あなたは何も悪くないよ。たとえ路美ちゃんが少しばかりあなたに冷たい態度をとっても、あなたはこれまで通り普通にして、総司に会いに来てやって。・・・もっとももうすぐ退院するのだけど。」
「そうだ、アタシそれを姫島くんに聞いて・・・。」
うっかり路美ちゃんのことで忘れてた。
「いつなんですか?」
「来週の週明けの予定。でも、しばらくは通院してリハビリね。・・・あの子、どうにもリハビリはもうひとつ乗り気じゃないんだけど・・・。確かに実際大変なんだけど、訓練次第で頑張ればなんとか歩けるようにはなるとは言われたのよ、でもどうもね・・・。完全に元へは戻らないとわかっているから、もうこのままでもいいって思ってるのかしら、どこか投げやりで。随分元気にはなって来たけど、今一つ乗り気じゃあないみたい・・・。」
そう言っておばさんはため息をついた。アタシもなんとか叱咤激励したいところだけど、正直そんな立場にはない。余計なことしちゃうくらいだもんね・・・。総くんの辛さをわかったような顔をして、でも実際は単に「わかったようなこと」を言ったにすぎない。ユウさんのコンサートで少し元気が出たみたいだけど、もうひと押し何とかなんないのかなあ・・・。
・・・などと思っているところで今度のこの路美ちゃんの件だ。もう・・・アタシ更に気が重いよ・・・。
「涼香さん? 何だかそれ以外にも気になることがありそうじゃない?」
「エ? いえ・・・。」
と、アタシはあわてて否定しようと思ったけど・・・もちろんアタシが気になっているのはユウさんに聞いた話のあれこれだ。ことがおばさんに関係あるだけに、どうしても目をそらしてしまう。やばいよ・・・そういやさっきからアタシずっとうつむいたりよそを見たり・・・せっかく話を聞いてくださっているのにマトモに目を合わせていない。無意識に合わせずに話していたよ・・・。さすがにおばさんはごまかせなかったんだ。ていうか、ごまかすことすら忘れてた・・・。
「よかったら話してみない? ホント私でよかったら、だけど・・・。何でも聞くわよ、もちろん誰にも内緒で。」
えー・・・うーん・・・どうしよう・・・。
でも、考えてみればアタシがこの話をしていい相手は多分おばさんだけだ。みゆ希さんにすら話せない。ユウさんはみゆ希さんにも言ってないって言ってたもん・・・。そうなれば当事者としか話はできない。ああ、でも。でも~~~~~~~~~!!!
完全に下を向いてしまったアタシをおばさんはじっと待ってくれている。アタシはもはや限界、少しだけ顔を上げて、でも視線は落としたままポツリとつぶやくように打ち明けた・・・。
・・・TO BE CONCLUDED.