ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET ORANGE CHAPTER2 PART.3

2014年06月02日 14時27分45秒 | 創作小品
「・・・前置きが長くなったね、申し訳ない。答えを言うよ。君の言う通り、オレはあの人を知ってる。って言っても前に会った時のことなんて全然覚えていないんだけどね、なにせ赤ん坊だったから。ていうか、思わせぶりでゴメン、さっさとネタバレするわ。あの人はオレの産みの親、いわゆる実の母親だ。」
「・・・・!!」
 実はまさかと欠片も思わなかったわけじゃない。・・・けど、やっぱりそれはアタシには衝撃だった。そう・・・総くんに初めて会った時、何故かユウさんに似てると思ったけど・・・でもよくわからなくもあった。けど、こないだから間近でユウさんの顔をじっくり見る機会が増えてよくわかった。やっぱり似てるよ、目がそっくりなんだ・・・もちろんおばさんとも・・・。そうか、やっぱり・・・そうだったんだ。
「つまり・・・総くんとは・・・。」
「そーだね、兄弟ってことになるね。それも異父兄弟じゃないよ。同じ父親、同じ母親から産まれた正真正銘の兄弟だ。オレはいま27だけど・・・アイツ、いくつになるの?」
「23です。アタシと同い年で・・・。」
「そう、ああ、そんなもんだな。4つ5つ違うとか聞いてたから。イヤ、オレ、アイツと会うのは初めてだったんだよ。弟がいるとは聞いてたんだけどさ。アイツはどうやら知らないみたいだったな。じゃあ、オヤジが誰なのかも知らされてないのかな。」
「・・・小さい頃に離婚したとは聞きましたけど・・・。」
「そうか・・・。離婚じゃないんだけどね、結婚してないからね。」
「え・・・そうなんですか・・・?!」
「・・・・・・。」
ユウさんは至極真面目な顔になった。組んでいた足をおろし、まっすぐ座って、アタシの心中を測っているようだ。アタシもこれ以上聞いていいのかどうかわからず、でもまっすぐユウさんを見つめ直す。
「先に言ったように、オレは実の母親と弟に何もしてやれない。でも、二人のそばにいて二人を既に見守ってくれている君になら、オレの思いを託せると思った。別に何をしてくれというんじゃないよ。ただ、二人と血縁関係のあるオレの思いを、二人のそばにいる君に知っていて欲しいだけ。知った上で見守って欲しいだけ。」
「でも・・・いいんですか? 総くんに伝えなくて・・・自分はお兄さんなんだってこと・・・アタシじゃなく実の弟に・・・。」
「オレが伝えなくてもあの人・・・冬美さんが伝えるでしょうよ、必要だと思えば。それは冬美さんに任せるわ。ゴメンね、勝手に他人の家庭の事情押し付けて。身勝手で申し訳ないッス。」
そう言ってユウさんは頭を下げた。この人にしても、本当は苦渋の選択なんだろうか・・・。アタシはふとそんな気がした。本当は自分がそばにいて見守りたいのに、それができなくて苦しい思いしてるんじゃないかって・・・。
だから
「頭を上げてください。アタシ、正直そんな大事な役目を担えるほどの者じゃないですけど、ユウさんの気持ちは凄くわかったし・・・総くんを支えたい気持ちもホントだから・・・その、期待に添えるかどうかは自信ないですけど、だからその・・・えと・・・そんなに恐縮しないでくださいっていうか、何度も謝らないでくださいっていうか・・・」
うまく言葉が出ない・・・アタシって表現力無っ・・・。おろおろしているとユウさんは顔を上げて微笑んで
「ありがとう。それで十分だよ。二人をよろしく。・・・オレは花嫁の父親か?! て、だいぶ違うかな・・・。」
最後は自分でノリツッコミ・・・。
 「あの・・・じゃあ、もひとつ聞いていいですか? お父さんていう人は・・・ユウさんはお父さんに引き取られたってことなんですよね。ユウさんと一緒に暮らしていらっしゃるんですか?」
「オレは今は一人暮らしだよ。そりゃ、ガキの頃は一緒にいたけど。」
「お父さんはおばさんたちに会いたいって言ってらっしゃらないんですか?」
「イヤ・・・オレまだオヤジに冬美さんのことも総司のことも話してないんだよね。」
「ええっ?! どうして・・・? ユウさんもお母さんにずっと会いたかったんでしょ? なのに・・・お父さんに黙ってるんですか?」
「そりゃ、オレも会いたくなかったと言えば大ウソつきになっちゃうしね。・・・でも、そう簡単にはいかないのよ。いろいろあってさ・・・。てか、こっから先はオレの身の上話になる。君にならオレは話しても構わないけど、君は無理に背負うことはないよ。聞きたければ話すけど・・・いいの?」
「え・・・?」
あ、そうか・・・。いろいろ家庭の事情を詮索するのは良くないよね・・・。でも、ユウさんがそんな言い方するということは・・・やはり重い話なんだろうな・・・。だけど、アタシはユウさんのことも総くんのことも、もっと理解したくなった。好奇心じゃなく・・・イヤ、それもないっちゃあウソになるけど、それよりもわかりたいんだ。だからアタシは深く頷いた。
「話してください。もちろん誰にも言いません。」
「ありがとう。・・・オヤジ、ね、知ってるかな、浅野祐総(ひろふさ)っての。」
「浅野ひろ・・・って・・・ああっ!! もしかして・・・。」
これはビックリだ・・・ていうか、こないだからアタシ、何度驚かされていることか! 知ってるなんてもんじゃない、超有名人、超大物じゃないの、その人って・・・!!
「あの、世界的に有名な・・・日本を代表するピアニストで・・・」
「学校法人浅野学院三鷹音楽大学理事長の浅野祐総、それがオレらの父親だよ。」

「だから・・・だからユウさんもピアノ・・・。」
「まあ、そゆことなんだろね。オレの母親・・・実は戸籍上もその人が実母になってんだけどね、オヤジが何らかの圧力をかけて無理やりそうしたらしいけど・・・あの人結構とんでもない権力者だから。育ててくれた人は浅野百合恵・・・っていうか、旧姓早坂っつった方が知られてるかな。」
「・・・知ってます! 名前くらいですけど、今でも・・・有名じゃないですか?! 引退した元バイオリニストの早坂ユリエ・・・。そう言えばそうでしたよね、浅野さんの奥さんは早坂さんだって・・・うっすら知ってました。あの人が・・・お母さん・・・。」
「まあ、血は繋がってないけどね、でもオレ的にはあの人が唯一で本当の母親だ。ずっと大切に、時には優しく時には厳しく、愛情持ってオレを育ててくれたんだもの。・・・若手のホープとか言われて凄く期待されてたんだけど元々体が弱くてね、12年くらい前かな、一度大病してそれを機に一線を退いた。今はバイオリン教室でバイオリニストを育てる方にまわって講師をしたり、頼まれて素人のママさんコーラスの指導をしたり。それなりに機嫌よく暮らしてるよ。公演旅行とかハードなことは無理なんだけど普通に暮らす分には大丈夫みたいだ。今もオレのことを心から心配してくれてる。冬美さんは実母には違いないけど、オレにとっては百合恵さんの方が本当の母親なんだよ。」
「生みの親より・・・ってやつですね。」
「そうね。でも、百合恵さんはオレにお母さんとは呼ばせてくれないんよ。オレは呼びたいんだけどね~。マミィでも母上でもオカンでもなんでもいいんだけどさ。百合恵さんと呼べって、それだけは譲ってくれないんだよ~。悲しいでしょ?」
「なんで・・・ですか?」
「・・・オヤジに申し訳ないからさ。自分の体が弱いせいで、オヤジが持ってる諸々のものを継がせる子どもを産めなかったから。」
「え・・・!!」
本当に、特に今日はなんて驚くことばかりなんだろう。だけどここからの話が一番驚きで・・・しかも一番辛く悲しい話だった。
「じゃあ・・・もしかして・・・おばさんは、冬美さんは・・・。」
「そう。オヤジの愛人だったってわけ。あの人も元々ピアニストで、大学の講師だか秘書だか、なんかそんな立場だったらしい。オヤジのことは尊敬してたみたいだね。それで、百合恵さんの代わりに子孫を残す側室みたいになったんだと。まるで将軍家だろ。ピアニストの名声なんてどう考えても一代限り、学院の理事長なんて有能な経営陣から選べばいいじゃない。オヤジは祖父さんが残した学校を血縁者に繋ぐことが使命だと思ったんだよ。冗談じゃねえっしょ。オレはそんな敷かれたレールに乗るのが嫌で、オヤジと大喧嘩して飛び出したクチだよ。」


・・・TO BE CONTINUED.
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