ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET ORANGE CHAPTER2 PART.6

2014年06月12日 06時36分23秒 | 創作小品
「それにしても、アイツも音楽やってたんだな。血は争えないってか・・・冬美さんも教えたんだな。なのにやめちまったってのか。」
「はい・・・。ユウさんに憧れて同じことしてたんですよね。曲まで書いてたのに・・・もったいないと思うんですけど・・・。プロにはなれなくても、趣味としてやって行くとかすればいいのに。」
「なんかあったんじゃね? 諦めさせられたって言ったんだって? それって人のせいにしてるけど、つまり誰かに諦めろと言われた・・・それも理不尽にってことじゃね?・・・例えば、だけど。」
「理不尽に?」
「だってその言い方、やめたくなかった気満々だろ。でもやめざるをえないと思った。だからそれならもう二度とやるまいとでも思ったんじゃねーの?」
「・・・そうなんでしょうか・・・。」
「いや・・・なんかそんな気がしただけだよ。オレも似たようなとこあるからな。オヤジのしたことを知った時は、自分のしてきたことがすべて嫌になった。何のためにずっと辛いのも我慢してピアノ弾いて音楽やってきたんだろうって。オヤジの後継ぎとしてしか考えてもらってなかったんだって思うとさ、もう絶対やめてやろうって思ったんだよ。でも、考えたら他のことは何もできねーし、それに気がついたらやっぱピアノ叩いてんの・・・。今更やめられねーなって思ってさ。腹据えて、オヤジとはちがう自分のやり方で音楽やろうって思って、その結果今こうなってる。これじゃ嫌でもオヤジに感謝するしかねーじゃん。・・・いけね、オレのことはもういいよな。とにかく総司も、なんかきっかけがあればもうちょっといろんなこと、許せるようになるんじゃねーのかな。」
「許せる?」
「潔癖なんだろーよ。・・・そだな、やっぱ涼香ちゃんがコクったりしてくれたらアイツもやる気だすんじゃねーの?」
「だ・・・だーかーら!! 違いますってば!!!」
うう・・・結局そこへ行くのね・・・。
「けどまあ・・・諦めたにせよ諦めさせられたにせよ・・・言いにくいな、噛みそーだ・・・済んだことだろ、だったらまた新しいこと考えりゃいんじゃね?」
「新しいこと・・・。」
「なまじ以前の夢をいじくろうとするからややこしくなるんだ。今これから何をしたいか考えればいいんだよ。結果的に前のが復活するんならそれでもいいし、まったく新しいのでもいい。それも必ずしも最果てまで考えるこたーねーでしょ。オレなんかせいぜい来週のことくらいまでしか考えてねーよ。おかげでマネジャーに叱られてばっかだよ、いい加減スケジュール把握しろって。何言ってんの、そのためにマネジャーっているんじゃないの?」
そう言ってユウさんは軽く笑った。確かに・・・そうかも知れない。イヤ、マネジャーの存在意義じゃなくて、夢の話。詰まることろ、前向いてってことだよね。
「ユウさんはミュージシャンになるっていう夢を叶えたわけなんですよね。」
「んー? 別に。・・・なんて言っちゃ、なりたくてもなれない人に悪いけどさ・・・オレはただ自分のできること、やりたい目の前のことやってたらこうなってただけだけど。でっかい夢と目標を掲げたわけじゃないよ。」
「でも、なれない人の方が圧倒的に多いんだから、やっぱり凄いです。だいいち叶えようと思わなけりゃできませんよね?」
「さあなあ・・・。オレは他にできそうなことなかったからなあ・・・。まあ、必死だったのは確かだけど。夢・・・なんて青臭えことは考えなかった。・・・だけどつまりは夢が叶ったんだろとと言われれば・・・ま、別に言われてもいいけどさ、てか、どうでもいいや。」
「今のユウさんの夢って何ですか?」
「ああ? そりゃあ広く万民に愛を歌って聞かせることかな。愛で地球を救うことだ。」
て・・・もう・・・どこまで本気なんだか・・・。
「なーんてな・・・。そうね・・・夢っつーか・・・今も別にそんな御大層なものはねえなあ・・・。実現させたいことはあるっちゃあるけど。」
「何ですか? それ。」
「へへへ・・・今は内緒。・・・涼香ちゃんは?」
「あ・・・あたしは・・・。なんだろ・・・そういわれると・・・あたしもよくわかりません・・・。何になりたいとかやりたいとか・・・あんまり絶対的なものはないかも・・・。あああ・・・ダメですね、アタシ。夢のない人間なんだ。かといって何ができるでもないし・・・ああ、サイテー・・・。」
「んなことないよ。オレは別にそんなものなくてもいいと思ってるけどね。」
「そうですかあ? 夢がないなんて寂しくないですか?・・・こんなアタシがいうのもなんですけど・・・。」
「だからって無理やり持つもんでもないでしょーよ。夢のない人間は生きてる価値がない的な名台詞やら名文句やらがあるけど、バカ言うんじゃないよ、人間は生きてるだけで十分価値があんの。夢なんて生きてるついでに見るもんだよ。もちろんあって悪いとは言わねーけど、ないからって非難される謂れもない。夢のない人間が寂しいだとか不幸だとか決めるなっつーの。そんなの本人が決めることであって、ヒトにとやかく言われることじゃないでしょ。あろうがなかろうが、堂々としてりゃいいのよ、好きなことしてさ。」
 ユウさんはキッパリそう言い切った。何だか世間の一般的な考え方からは少しずれているようにも思えるけど、だから逆にそれって一般論に引っ張られるんじゃなく、自分の考えをちゃんと持ってるってことなんだよね、きっと。だけど悲しいかなアタシは大勢に迎合しちゃう方かもしんない。というより・・・ふと、じゃあアタシの意見て何なんだろうと思わず戸惑ってしまった。
「そんなものかなあ・・・。まあ、研究は好きでやってることではありますけど・・・。でも、それじゃあ、アタシがあれこれ総くんのためだと思ってしたことに至っては、無理やりお仕着せの夢を持たせることでしかなかったのかも、ですね・・・。はあ・・・バカだな~、アタシって・・・。なんか自分にがっかり・・・。」
「あらあら・・・。まあ、そう落ち込まないで。したことはアレでも、気持ちは間違ってないよ。それにもうケリついてんでしょ。だったらもう気にしない。・・・アイツが一緒に考えて欲しそうならそうしてやればいいんじゃないの? それからただ見守ってやれば。」
あ・・・。と、アタシは思った、ユウさん、店長と同じこと言ってる・・・。ああ、だからアタシ、この人も好きだと思えるんだな・・・。平たく言っちゃうとこういう人がアタシは好きなんだ・・・。
「そう・・・ですね・・・。うん・・・。そうします。・・・ありがとうございます、ユウさん。あー、迷いまくったけどユウさんにメールしてよかった! ホントに会ってくださってよかったです!!」
「イヤイヤ・・・。オレも君と会えてよかったよ。ありがとうね。今日は楽しかったよ。オマケにオレの歌で泣いてくれるなんてな、歌手冥利に尽きますわ。また応援してよ。そうそう招待はしてやれないけどまたライブも来てね。総司と・・・冬美さんと一緒にさ。」
「ハイ! 絶対行きます! 次はちゃんとお金払って!」
ユウさんは笑顔で手を差し伸べてくれた。アタシはその手をちょっとこわごわと遠慮がちに握る・・・と、ユウさんはしっかり握り返してくれた。・・・すごくあったかい手だった・・・。
 こうして、アタシの“夢のような怒涛の一日”は過ぎてった・・・。


 その日の夕方――とある町の高級住宅街のとある豪邸。
 インターホンの音に、この家のメイドが応対しました。二言三言話してすぐに、メイドはここの夫人に訪問者のことを伝えました。その夫人は華奢で小柄な体つきで、ソバージュヘアに童顔の無邪気そうなあどけない娘のような人ですが、その表情はどこか凛としています。高年にさしかかろうという年齢でありながら、美しいというよりは可愛い女性です。夫人は急いでメイドを下がらせて、自ら玄関口へ向かいました。そして自らドアを開けるとその訪問者を迎え入れました。
「ただいま、百合恵さん。」
「お帰りなさい、ユウちゃん。元気だった? 随分帰って来なかったのね。」
「ごめんね、心配かけて。大丈夫だよ。百合恵さんも元気?」
軽い調子で夫人に答えたのはユウジ、いや祐一朗です。夫人――百合恵さんに優しく微笑みかけながら玄関から上がりました。


・・・TO BE CONTINUED.
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