ちゃちゃ・ざ・わぁるど

日記と言うよりは”自分の中身”の記録です。
両親の闘病・介護顛末記、やめられないマンガのお話、創作小説などなど。

創作小説 SUNSET ORANGE CHAPTER2 PART.4

2014年06月05日 06時54分46秒 | 創作小品
「だから・・・だから本名も素性も伏せているんですね。」
「そう。親の七光りなんて欲しくなかったし、知られれば人は絶対オレをその属性付きで見る。君も今、オレのこと、あの浅野の息子だから音楽でメシを食えてるとどっかで思ったでしょ。」
「あ・・・ご・・・ごめんなさい・・・。」
確かに・・・。アタシは申し訳なくなって謝った。でもユウさんは
「イヤ、咎めたんじゃないんだよ。事実そうなんだしね。オヤジに反抗して飛び出したところで、オレの才能は結局オヤジから引き継いだものなんだ。これは動かしようがない事実だろう。まあ、そもそも二世ってのは得もするけどその分苦労もするんだけどね。オレはその得を取るの嫌さに放り出した――つもりだったんだ。ところがどうよ、音楽でメシ食ってるのは突き詰めるとオヤジのおかげじゃん。反抗するなら別の道で見返しゃいいのにそうはしなかった。だからオレは自己矛盾ばかりしてるんよ。まあ・・・近頃は、オレは親父を結局は嫌いきれず認めるしかないんだろうなと考えもしてるんだけど。せめて学院の経営者になることだけは諦めさせたがね。てか、こんなオレが継いだら間違いなく潰れるし。親不孝上等だろ!」
そう言ってユウさんは笑ったけれど、どこか寂しそうに見えたのはアタシの気のせいだろうか・・・。
 「冬美さんの話だったね。あの人はそうやって、後継ぎを産むために愛人になっていたんだ。オレはこの話を百合恵さんに聞いた。百合恵さんが大病した時、死を覚悟したんじゃないかな、そっとオレに打ち明けてくれたんだ。その時までオレは彼女を実の・・・産みの母親だと思っていたよ。・・・オヤジはオレを冬美さんの元から、乳離れする頃を見計らって奪ったんだ。そしてその後は百合恵さんに育てさせた。オレは何も知らずにオヤジの言う通り・・・小さい頃からピアノや音楽を徹底的に叩き込まれた。ハードだったよ、何度も泣いたし。・・・でも、高校に入って間もない頃に百合恵さんに真実を聞かされて、反抗期もあったんだろうよ、とうとうブチ切れた。あの時は百合恵さんが死ぬかもって危機感もあったからな・・・めちゃくちゃオヤジに逆らって・・・暴れたしな、部屋ひとつぶっ壊したよ。はは・・・それまで品行方正で優等生のお利口さんだったのにさ。イヤ、自分でも知らず知らず仮面を被ってたんだろうね。それが爆発しちゃって・・・。すったもんだの挙句出た妥協案が、とにかく大学は出る、三鷹音大でなくてもいい、それなりの音大を出ろ、と。その代わりそれ以外ではオレはオレの好きにする。・・・そんな感じで。高校は三鷹音大附属高校だよ、でもオヤジと顔合わせるの気まずいし結局寮に入った。大学は下宿して国立(くにたち)を出た・・・。ストリート始めたのは高2の時だ。オレのことを何も知らずにプロデューサーが認めてくれたのがスッゲー嬉しくてさあ・・・オヤジを見返した気になったよ。それも親父からの才能もらっててのことだってのにね。プロデューサーはオレの素性を知った時仰天してたけど、オレは頼み込んで絶対公表しないようにしてもらったんだ。・・・そいつはオレの中でオヤジとの折り合いがつけきれてないから今でも公表してないんだけどね。」
「みゆ希さんは・・・知ってるんですね、ユウさんの素性も。」
「ああ・・・みゆ希姉はだいたいのことは知ってるよ。でも、それが冬美さんたちだってことまでは知らない。うすうす勘付いてはいるだろうだけど・・・まあ、あの人は勘付いても突っ込んではこないだろうね。黙って見ててくれてると思うわ。それにしてもヒデーだろ、うちのオヤジってさ・・・。自分のもの継がせるために子ども作って、しかも正妻が産めないから愛人に産ませて奪ったんだよ、どんだけ時代錯誤なのよ・・・。オマケに・・・弟まで産ませたのは、どうやらスペアにする気だったらしいよ。」
「ス・・・スペア?! 子どもを・・・ですか?!」
「息子一人じゃ不安だったんだろ。総くん、総司っていうんだね。たぶん本当は“総二朗”だよ。オレは百合恵さんにそう聞いた。二人目が産まれたらそう名付けろとオヤジが命じたらしいから。イヤ、そう命じられてはいたけど聞かずに“総司”で出生届け出したのかな。でも、冬美さんはもう自分の子を奪われるのに耐えられなかったんだろうね・・・。オレの時は尊敬する浅野祐総の命令だから聞いたけど、後悔したんじゃないかな・・・。たとえ当初は納得ずくだったとしても。だから総司が産まれる直前に姿消したそうだよ。そして一人で育ててきたんだろうね・・・。並の苦労じゃなかったと思うよ。オヤジは捜そうとしたらしいけど、この時ばかりは百合恵さんもオヤジに命がけで立ち向かったそうだ。実母になれなかった自分でも、今いるオレを引き剥がされたら死ぬほど辛いのに、そんな思いをどうして二度もあの人に味あわせるのか、妻を、愛人を、イヤ、女を何だと思っているんだ、と、子どもを何だと思っているんだ、と。めっちゃ怒って戦ったらしいよ。それは百合恵さんの味方であるシッターに聞いたんだけどね。産んだ経験はなくてもあの人も母親だ。母は強し、だね。それにミュージシャン、芸術家でもある。芸術家ってのはやっぱり人より激しいんだろうな。それをどこにぶつけるか、だ。体が弱くてなかなか表現者でいられない分、百合恵さんは内にいろいろ秘めていたのかもね、それが母性と結びついて余計にって感じなのか・・・そこは女じゃないオレにはよくわかんかねーけどさ。」
 アタシは・・・ちょっぴりわかるかも。乳離れする頃って、今の店長とみゆ希さんの子の美佳ちゃんくらいだろう。あの美佳ちゃんがいなくなるなんて・・・絶対、アタシでも絶対耐えられないよ!! 想像もしたくない!!
「とにかくその辺の事情を知っている人もみんな、百合恵さんに加勢してオヤジはタジタジだったんだと。それで総司のことは諦めた。揚句オレにも逆襲されて・・・。まあ、オヤジも詰まる所は守るべきものを守りたかったんだろうね・・・祖父さんもかなりのガンコ者で暴君だったらしいから、それをキッチリ後継することがオヤジの責務だったんだろうって、この頃やっとオレも理解できてきた気がする。まだ、和解にはいたってないけどな。ちなみに祖父さんは感情が激しすぎたのが祟ったのか、オレがほんの小さい頃に亡くなったそうだ。全然覚えてねーけど。脳溢血かな、急死だったとさ。・・・だから余計オヤジは必死になったんだろうね。」
 ふとユウさんは息をついて視線をいったんはずすと
「・・・ごめん。随分ヘビーな話だったよね。くたびれただろ、ちょっと休憩?」
と、テーブルのグラスを二つとも手に取った。
「お代わり取ってくる。何がいい?」
「あ・・・いえ、自分で・・・」
「いいから。」
「じゃあ・・・アセロラドリンクで。」
「アセロラね、OK! 何か曲入れといてよ、好きなの。話聞いてくれたお礼にリクエストに応えるよ。あ、もちろんオレの歌じゃなくてもいいよ。・・・イヤ、やっぱオレの歌の方がいいや。他の歌手のだとアラが出ちまう。」
「あ・・・はい!」
 アタシは遠慮することも忘れて思わず素直に答えてしまった。そしてニッコリして出ていくユウさんを笑い返して見送った。でも、笑い返した表面の裏では今聞いたばかりの話の重さを量っていた。凄い・・・そして重すぎる・・・。ユウさんだけじゃなく、みんななんて重い物背負ってきてるんだろう、と。それなのに凄いな・・・ユウさんの歌はそんなこと全然知らないみんなの心を震わせる。元気づけ、励ます。ううん、あんなユウさんだからできるんじゃないだろうか・・・。そしてそれはお父さんである浅野氏にも言えることなのかも知れない。だってあの人は世界に誇る日本の代表的ピアニストだもの。その家庭の内情はどうあれ、何か強い魂のようなもの?を持つ人には違いない。

 その後のアタシはすっかりミーハーに戻ってしまった。すみません、ユウさん、アタシもチャラ系のミーハーかも知れません。ていうか、こんなおいしすぎる経験はそうそうないよ~!! 憧れのミュージシャン独り占め!!・・・どころか、一緒にデュエットで歌わせてまでもらったんだよ~!! しかもワタシだけが知っているユウジのヒ・ミ・ツ~!!! なんつって!!
 て、・・・バカか、アタシは・・・。そうじゃないでしょ・・・。そう、今日ここにいるユウさんはユウジじゃない。浅野祐一朗という一人の人間なんだ。そしてそれは総くんのお兄さんで、・・・厚かましいけど新しいアタシの友達でもある、厚かましいけど。そして・・・。
アタシのこの気持ちは有名人に対する憧れから来る、ひとり遊びの恋なのか、それとも一人の男性に抱いた恋心なのか、それとも・・・。つーか、アタシって・・・・・・なんでこんなにあちこちに気になる男を作るのよ・・・・。うう・・・自己嫌悪。イヤイヤ・・・。


・・・TO BE CONTINUED.
コメント
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