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臨床試験のグローバル化における倫理および品質の問題

2009-03-16 | トピック
一流の米国系製薬会社は臨床試験の場を急速に海外へ移しており、倫理や品質管理のほか、現地で得られた知見の科学的有用性を米国人に反映させることに疑問の声が上がっている。
デューク大学臨床研究所(DCRI)の研究者らによると、多くの臨床試験が東欧およびアジアの発展途上国で実施されているが、これらの国は米国の試験参加者よりも貧しく、教育水準も低いことが多い。
「FDAはそのような試験を監視することになっているが、その機構は現在のような状況に対応できるように形づくられてはいない。米国国外を拠点とするFDA調査員の数は2002年以降、毎年15%増加している。一方、米国で活動する調査員の数は同じ時期にちょうど5%を超える程度で減少している」(略)

Schulman医師とデューク大学フュークアスクールオブビジネスのSeth Glickman医師が率いる研究チームは、clinicaltrials.gov registry(治験・臨床研究登録機関)を利用して、2007年に行われた企業主導の第3相臨床試験の募集動向を調べた。(略)同研究チームによると、試験の3分の1(509件中157件)が完全に米国国外で実施されていた。また、試験実施機関の半数を超える施設(24,206施設中13,521施設)が米国国外にあることも明らかになった。
研究者らはさらに、1995年および2005年のNew England Journal of Medicine誌、Journal of the American Medical Association誌、およびLancet誌上で臨床試験結果を報告している論文300報を調べ、この10年間に海外の臨床試験実施施設数が倍増し、米国および西欧の施設数が減少していることを確認した。

「事業コストが低いことを含め大量の試験参加者が得られるなど、海外での臨床試験へと誘う力は強い。例えば、インドにおける臨床試験の参加者1人あたりのコストは米国のわずか10分の1である」とGlickman医師は述べている。
「しかし、この流れを後押しする力も同じく強い。いくつかの善意の政策が相まって、実際には米国での時宜にかなった臨床試験の実施を妨げる壁がつくられている」と、Schulman医師は語る。

著者らによると、海外における臨床試験の一部の試験では、研究を試験対象集団の健康上のニーズに合わせることについての懸念が強まっている。「企業が上市・販売する気のない国で医薬品の試験を行っていることはほぼ明らかである。これは、倫理的に大きな問題である」と、Glickman医師は言う。研究者らは、新興市場において企業が現地で流行しているマラリアや結核などの治療薬ではなく、アレルギー性鼻炎、線維筋痛症、および過活動膀胱などの治療薬を試験していた例を多数みつけた。
(略)
「海外での臨床試験に関わった人すべてがなんらかの利益を得ることは明らかである。一般に、そのような試験は地域の経済を潤し、教育水準を高め、優れたヘルスケアを受けられるようになる。また、多様な集団で新薬や新しい医療機器の試験を行うことは重要である。しかし、そのためにも、試験を適切に続けるには試験参加者を保護し、試験の依頼者に最高レベルの倫理基準を遵守させる健全な研究体制が必要である」と、Glickman医師は述べている。
2009年2月18日 全文



8 コメント

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頭脳流出 (ちゃしば)
2009-03-17 07:15:53
米国の医療費が高いため、海外で高度な医療を受けたほうが安いとして医療ツアー(Medical Tourism )が米国でそれなりの割合となっているようです。たとえば・・

http://www.medicaltourismco.com/oncology/cyberknife-cancer-radiotherapy-overseas.php

考えて見れば、『神の手』みたいにマスメディアに取り上げられる米国の医師といえば美容整形ばっかりだという印象を持っているのは私だけでしょうか?

臨床試験を海外で・・というのは、そういった現象の一面である可能性もあると個人的には思っています。だって、シンガポールなんかでは、狭い地域の中で日本ならそれぞれの施設の目玉として宣伝しそうな機器を持った施設がひしめいているみたいです。これが海外からの医療ツアーを当て込んだものだったりするんですよね(^_^;)。しかも、米国から遠隔支援があったり、米国の専門資格を有しているスタッフがいたりすることをうたっています。

※御参考までに・・・・・
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2009 Feb 26. [Epub ahead of print]
Internal Audit of a Comprehensive IMRT Program for Prostate Cancer: A Model for Centers in Developing Countries?Koh WY, Ren W, Mukherjee RK, Chung HT.
Department of Radiation Oncology, The Cancer Institute, National University Hospital, Singapore.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19250761
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国際臨床試験 ()
2009-03-17 21:44:26
は、日本にはよいことかと思っていました。
でも、こちらはそうでもないですね・・
倫理的に正しい試験を行ってほしいです。

お示しのURLは、サイバーナイフ?

医療ツアーは別問題でしょうか。
確かに米国人のかたは外国で手術した方が上手で安いということで、どんどん行かれるようですね。

最後の論文はIMRTのものですか。・・(^^;ゞ

ありがとうございました。
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Unknown (ちゃしば)
2009-03-17 21:54:33
希さんですら『読めなかった』かぁ・・がくっ・・

 すべてはつながっているんですよ。

悲惨な状況になってゆくことが誰にも見えていないようなのが、怖いし悔しいです。別問題として切り離してしまえば、それで見えなくなってしまうのですがね。

米国向けに『医療の質を示し、安心させるため』の論文なんです。露骨に、本文では医療ツアーのことを詳細に示しています。そしてアジアの近隣の国々の状況も。

日本は医療ツアーから国名として外されているのが現状みたいです(米国と大差ないか、物価を考えると勧められないみたいな)。

もうひとつ。フィリピンのRexin-Gの件もありますよね。わざわざ米国から『治験』とか実際の『治療』に行く人だっているわけです。大多数は現地の人かもしれない。でも、米国人だって海外治験の流れに乗っている人だって出てきていることを忘れてはならないと思うのですが・・・・・。
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Unknown ()
2009-03-18 20:45:20
サイバーナイフは、海外で受けようというページだったのですね。米国にはないのでしょうか。

>米国向けに『医療の質を示し、安心させるため』の論文なんです。

2つめのURLですね?抄録だけではよくわかりませんが、そのような感じはしますね。

日本では、外国人が医療を受けにくい制度でしょうから、難しいのではないのでしょうか・・?よくわかりません。すみません。
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Unknown (ちゃしば)
2009-03-18 22:53:08
サイバーナイフだろうが、トモセラピーだろうが、FDAが『認可』した機器なら米国にはありますよ。傾向としては、高額な機器を導入したらマスメディア(特に新聞でしょうか?)への過剰な宣伝が目立ちますね。

以前、医療ツアーについていろいろ調べたことがあります。日本は米国以上に医療体系が優れていることをちゃんと書いてあります。でも、コスト的に割に合わないことで候補から外れているだけで、医療制度の壁についての記載はなかったと思います。

これに関してはもう、書きませんけど、最後にひとつだけ。

日本の製造業を支えてきたのはたとえば、世界的な技術を持った下町の町工場だったりしたわけです。でも、国内では利益を上げられる本格的な工場などに変えようとするし、企業は海外に工場を持ってゆく。同じことが米国の医療でも起きていると考えるべきなんです。

私の知り合いのインドの放射線物理士は、米国から遠隔で治療計画されていることを言っていました。最初はそれでいい。でも、ノウハウをつかめば、別に米国に頼る必要はなくなる。結局、米国自体も地盤沈下してゆくだけでしょう。

このニュースの怖ろしさは、もしかしたら、臨床試験をやらないのではなく、『できない』になりつつある可能性があることなんですよ。もし、IMRTが否定されたら、手作業で治療計画できる専門家、どれだけいるんでしょうかね?

    知らんぞぉ~!”
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遅くなりまして ()
2009-03-22 15:23:28
出張プラス帰省で大幅に遅れましてすみませんでした。

私からなにも付加することがないような、とても力の入った主張をありがとうございました。
IMRTもなにも他、一旦定着したら、それ以外の手法がもはや使用できない・・・?こまりますね。

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donny97515@yahoo.com (Medical Tourism)
2009-10-08 15:38:32
医療ツアー ( medical tourism )の詳細については.
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KyonSan543@docomo.ne.jp (Sri Lanka Vacation Packages)
2010-06-11 15:25:19
Arigato ne!
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