「藤田菜七子」超え 重賞初騎乗・初制覇の快挙「今村聖奈ジョッキー」の強さの秘密を「調教捜査官」が明かす (デイリー新潮 2022/07/09)
今村聖奈騎手
新たなスターが誕生した。7月3日(日)に小倉競馬場で行われたGIII ・CBC賞(芝1200メートル)を、今村聖奈騎手(18)騎乗のテイエムスパーダ号が制したのだ。
今村騎手は今年3月にデビューしたばかりで、今回が重賞初騎乗。
女性騎手の重賞初騎乗・初制覇は史上初とあって、翌日のスポーツ紙各紙が一面トップでこの快挙を大きく報道。
あの藤田菜七子ジョッキー以来のフィーバーが巻き起こりつつある――。
圧巻の逃走劇
まずは競馬記者がレースを振り返る。
「スタートを上手に出した今村騎手は、勢いよくハナをきり(先頭に立ち)、逃げの体制に入りました。そのまま前半600メートルを31秒7という超ハイペースで通過。後続の馬を突き放し、気がつけば1分5秒8という日本レコードをたたき出しての圧勝でした」
見事な逃走劇を演じたというわけだが、
「ファンをさらに驚かせたのは勝利後のインタビューでした。“プレッシャーは?”と問われると、“走るのは馬なので、馬の邪魔をしないことが私のするべき事だと思って乗っていました″と、18歳で初重賞への挑戦なのに、いたって冷静なんです」
ルーキーらしからぬ落ち着きぶりにはネットでも、“どんだけメンタル強いんだ″“本当に新人騎手?”“大物感がすごい”といった、驚嘆の声が多数上がった。
ちなみに今村騎手、快挙達成直後の最終レースでも、豪快に差し切って1着でゴールインし、これでデビュー以来通算19勝。
同期の中でもダントツトップをひた走る強心臓の凄腕新人ジョッキーは、いかにして生まれたのか。
なるべくしてなった
ここで、人気予想家で、CBC賞も今村騎手騎乗のテイエムスパーダ号に本命を打ち、見事的中させた、「調教捜査官」こと井内利彰氏にご登場いただこう。
「実は僕、デビューする前から彼女のことを知っていて。というのも、彼女が競馬学校時代に、研修で、栗東トレーニング・センターにきていたんですよ。そこで調教で馬に跨がっている姿がすごくよかった。専門用語でいうと、『鞍はまりがいい』というのですが、馬が走りたい時に邪魔をしない。もちろんどんな走り方のときもではなく、いい走り方をしているときに、それをサポートしてあげるという感じですね。今回のCBC賞でもまさにそんな騎乗でしたが、それを研修の段階でできていました」
今村騎手のお父さんは、元JRAジョッキーで、現在は調教助手を務める今村康成氏ということもあり、幼い頃から競馬は生活の一部だったようだ。
「よく厩舎にも通っていて、小学校高学年の頃には、もう騎手を目指していたそうです。彼女自身がとにかく競馬が好きで好きでたまらないという感じなんです。昔から知っている関係者の間では、彼女はジョッキーになるべくしてなった、という感じですね」
藤田菜七子の存在
その“好き”こそが、彼女の強さにもつながっているという。
「彼女はレースに乗る ときも、必ず事前に自身が乗る馬はもちろん、一緒に出走する他の馬の特徴、クセを、それぞれの過去のレース動画や、過去に騎乗していたジョッキーに訊くなどしてチェックして、今回のレースがどんな展開になるのかを考えるそうです。さらに、当日の馬場の状態を自ら歩いて確認する。そこまで準備した上でレースに臨むんです。それでも、勝てないときは勝てないわけですが、そのときも、なぜ勝てなかったのかもきちんと検証し、次につなげていく。だからこそ、大舞台でも慌てず、冷静にレースを運ぶことができるというわけです」
また、この活躍の陰には、藤田菜七子騎手の存在も大きいという。
「藤田騎手がデビューした時は、16年ぶりのJRA女性騎手登場ということで、マスコミが大きく取り上げた結果、大フィーバーとなりました。とにかく女性ジョッキーというだけで彼女の一挙手一投足が取り上げられ、イベントにも引っ張りだこ。まるでアイドルのような扱いでした。本人もいろんな意味で大変だったと思います。でも、藤田騎手がそうやって道を切り拓いた、今村騎手はじめ、若手の女性ジョッキーたちは、『女性だから』という騒がれ方はそこまでされず、競馬に集中できているということはあると思います」
競馬は知らないけど
さて気になるのは、彼女の将来だが、 「彼女のすごいところは、とにかくめちゃくちゃ謙虚なんです。常に馬主さん、調教師さん、先輩騎手、ファン、そういう周りの支えがあって今の自分がいるという意識で動いています。だからこそ、周りも彼女を応援したくなる。実は、あの武豊さんもそうなんですよ。レジェンドなのに、威張らず、誰とでも気さくに話される。このままの姿勢で、競馬が好きという気持ちを持ち続けていけば、いずれは、競馬ファン以外の方々にも“競馬は知らないけど、今村聖奈は知っている”というくらいのジョッキーになっていくんじゃないかなと思いますね」
デイリー新潮編集部