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日本語の諸問題(14) 「する」の連用形「し」と文語形容詞語尾「し」について

2009年03月12日 | 言語

 古文形容詞の活用にはク活用(高し)とシク活用(美くし)があるとされている。先に述べたように形容詞は活用などせず、形容詞語幹につく接尾語「かる」が「から、かり、かれ」と活用するにすぎない。私は「高し」の語尾「し」(終止形)は起源的に不規則動詞「する」の連用形(名詞形)の「し」と同じものだと思っている。その根拠は朝鮮語にある。

 -朝鮮語との類似性ー 
 朝鮮語の形容詞には二種類あり、一つは  ku-n (大きい)がそれで、形容詞語幹  ku に接尾辞  -n  が付くと日本語の「大きい」のように名詞を修飾する。あと一つは語幹に ha-da (する)を付けて動詞と同じように使う。朝鮮語では動詞  ha-da  は二つの意味を持っている。例えば、「研究 ha-da 」は日本語と同じく「研究する」であるが、「健康  ha-da」は「健康する」ではなく「健康である」との意味である。朝鮮語の ha-da は「する」と「そういう状態にある」との二つの意味があり、後者は日本語の形容動詞に相当する。現代日本語の「する」には「そうである」との意味はないが、文語形容詞語尾「し」として残っている。

 文語形容詞「高し」の「し」も、動詞「する」が本来、「そうある」との意味も持っていたと考えるのが自然である。「高し」とか「うるわし」は国文法では終止形とされているが、それだけの説明では不十分である。たしかに、「天気晴朗なれども波高し」では終止形でいいが、昔、「うるわしのサブリナ」というアメリカ映画があった。この場合「うるわし」は終止形ではなく、名詞形と見なさざるをえない。そうでなければ、「うるわしの」と助詞の「の」が付くはずがない。ここに形容詞語尾「し」が本来、動詞「する」の名詞形(連用形)であった証拠でもある。他にも、「いとしのクレメンタイン」「なつかしのメロディー」とか「なしのつぶて」「重しがとれた」などの用例がある。

 唐に渡り、かの地で生涯を終えた阿倍仲麻呂の有名な歌
  

    「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも 」(古今集)
 

 この「いでし月」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形とされているが、この解釈はおかしい、「い」は「居る」の語幹、「で」は「出る」の語幹で「い出る」との言葉が生まれた。「居直る」「居座る」も同じ語法。
 つまり、「し」は「する」の名詞形、「いでし」は三つの動詞の名詞形だと見るべきではないか。「いでし月」とは「いで(居出)」という名詞形に、そういう状態にある意味をもつ「する」(文語は「す」)の名詞形「し」が付いたものと考えられる。その証拠に「いでし月」を「いでたる月」とも言い換えられる。「し」は助動詞「たる」(そうある)と同じ意味を持っているのである。この「し」が独立して、名詞を修飾する接尾語となった。(例、若かりし頃)
 シク活用とされる「うつくし」「うるわし」が名詞の機能をもった語幹と見なせば分かりやすい。そのため、「うるわしのサブリナ」とか「いとしのクレメンタイン」「なしの礫」との言葉が可能であったのである。 

 <追記>
 国文法では形容詞は活用するとされている。しかし、前述したように形容詞「高い」の「い」(古文の「き」)が活用するのではなく、「高(たか)」という形容詞語幹に、「高く」(副詞形成接尾語)、「高し」(終止形成接尾語)、「高き」(名詞を修飾する接尾語)、「安かる」(そうあるとの意味の接尾語「かる」)などが付いて様々な意味の言葉を作ってゆく、(「安かろう」は「安・から・う」から、「安かった」は「安・かり・た」からきた)。「若かりし頃」も「かり」は「かる」の名詞形、「し」は先の「い出し月」と同じ用法である。「若ければ」の「けれ」も「かる」の完了形「かれ」からの音変化と考えられる。(「古語辞典」では「若ければ」は「若く・あれば」から来たとされているが、語源はどうであれ、形容詞活用語尾に「かる」はある)。これらの接尾語はそれぞれ独立した言葉であり、一つの活用と並べることには元々無理がある。
 なお、「蒼(あお)き狼」「古き良き時代」の「き」と同じ用法がチュルク語にもある。ウズベク語で yoz-gi  kanikul  夏の休暇 ( yoz  夏、kanikul  休暇、gi  または  ki  は名詞を修飾する接尾辞 )
 日本語は明らかにアルタイ語文法を持っており、チュルク語、朝鮮語とも親縁性があると考えられる。


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