小松格の『日本史の謎』に迫る

日本史驚天動地の新事実を発表

閑話休題  ー STAP騒動に思う ー

2014年12月21日 | Weblog

 今年はSTAP細胞に始まり、STAP細胞で終わった感がある。この一連の騒動は日本に限らず、学問の世界に内在する矛盾と問題がすべて凝縮されているように思う。小保方晴子がなぜ盗作、捏造、改竄という三拍子揃った不正行為を行ったのか。その理由は理解できる。小保方氏は任期付きの研究員であったようである。つまり、任期中になんらかの成果を出さなければ理研から追放される身分であった。そこで一発逆転の大芝居を打ったのであろう。このような話は世界中どこでも起きており、別に小保方氏が特別であったわけではない。このような事例を集めた本も何冊か出版されている。

 ー人文科学でもあるー

 文系の場合は他人、主に外国人の論文や著作の盗用・盗作がほとんどである。今から半世紀ほど前、私が学生であった頃、当時、日本の中央アジア(シルクロード)研究の第一人者であった京都大学教授・岩村忍の書いた『マルコ・ポーロ』(岩波新書)を読んだ。私自身、中央アジアへの憧れから大学でペルシャ語を学んでいたときであった。それから20年ほどたったある日、毎日新聞の記事に我が目を疑った。この『マルコ・ポーロ』がアメリカ人学者がすでに出版していた『ヴェネチアの冒険者』という題の本の翻訳にすぎないというのである。

 これを告発したのはアメリカの大学に留学していた一日本人であった。この人は留学先の大学図書館でたまたま読んだ英語の『ヴェネチアの冒険者』が、岩村忍著の『マルコ・ポーロ』とそっくりであることに気付いたと言う。両者はほとんど同じ文であり、末尾の参考文献もすべて一致するとのことであった。たしかに、この『マルコ・ポーロ』は出典もきちんと銘記されており、読みごたえのある本であったことは憶えている。参考文献には英語だけでなく、イタリア語の文献も使われており、さすが京大教授ともなるとラテン語も出来るのかと感心したものである。実は、それがすべて盗作であったのである。無論、原著者のアメリカ人学者の名前はどこにも出てこない。すべて岩村忍が書いたことになっている。

 この岩波新書『マルコ・ポーロ』がいまだ全国の図書館にあり、また Amazon でも売られている。とんでもないことである。岩村忍は小保方氏とは違い、すでに京大教授であり、国家公務員としての身分保障はあったのに、なぜこのような盗作をしたのか。翻訳本として出版するのが学者として、また人として取るべき道であったのに・・。私事で恐縮であるが、今、インターネットで売られている 『ソヴィエト後の中央アジア』(大阪大学出版会)は、原著者、ジュリボイ教授から個人的に頼まれて、その大半は私(小松)がウズベク語から翻訳したものである。 ただ、岩村忍にとって幸いだったのは、この告発が本人の死後であったことである。もし存命中であったら、原著者もしくはその家族から著作権法違反で巨額の賠償金を請求されたことであろう。

 <追記>

 ごく最近も研究不正に関する本が出版された。黒木登志夫『研究不正』(中公新書・・2016年)。この本には世界中の研究不正として42例が取り上げられている。勿論、「STAP細胞」「旧石器ねつ造事件」も。著者はこれらは氷山の一角にすぎないと断言しておられる。自然科学、人文科学を問わず、学者、研究者の不正行為は今後とも無くならないであろう。

 最後に、この指摘を受けて岩波書店はこの岩波新書『マルコ・ポーロ』を絶版にしたと回答しているが、これだけで済む問題ではないと思う。たしかに、同社は岩村忍に騙された被害者ではあるが、いまだに全国の図書館にあること自体おかしい。日本の学術文化を牽引してきた有名出版社として、全国の図書館(大学も含めて)から自社費用ですべて回収して廃棄処分にするべきではないか。これこそ、原著者のアメリカ人学者に対する礼儀でもある。

 

 

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