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日本語の諸問題(13) 形容詞に活用はあるのか

2009年01月17日 | 言語

 「かろ(かっ)、く、い、い、けれ」、このおまじないのような言葉を聞いて、これが日本語形容詞の活用だと分かる人は、よっぽど中学時代に国語の試験でいい点を取ろうとがんばった人である。まったく無駄な努力であり、形容詞は活用などしないのに、まさに嘘を教えられた被害者でもある。
 形容詞というのは「美しい花」とか「桜は美しい」というように「美しい」が形容詞である。「美しい」「広い」「大きい」などは動詞のように活用はしない、するのは形容詞語幹に付く助動詞にある。助動詞は動詞に準ずるもので活用する(活用しない助動詞もあるが)。形容動詞「静かな」の「な」は助動詞「なる」の「る」が消失したものであり、英語の be 動詞に当たるものである。意味は「そういう状態にある」、つまり、形容動詞 (形容詞的意味を持つ動詞) などという品詞は存在しないのである。名詞語幹に助動詞が付いた言葉にすぎない。
 
 ー形容詞の語幹ー
 形容詞の語幹の中には例外的に名詞機能を持っているものもある。例えば、「タカをくくる」という言葉があるが、この場合「タカ(高)」は明らかに名詞である。つまり、形容詞「高い」では語幹「高(たか)」に形容詞形成の接尾語「い」(古文では「き」)が付いたものである。「高(たか)」は次のように単語を作ってゆく。「高い」「高く」「高さ」「高々と」「高窓」「高見の見物」「高まる」「高める」「たかる」「高ぶる(振る)」、つまり、形容詞の「高い」もこれら単語群の一つに過ぎない。動詞・助動詞は活用するが(それも、「読ま」「読み」「読め」のように、-a   -i   -e  の3種類だけである)。形容詞「高い」は活用するのではなく、これ自身独立した言葉である。語幹にまったく別の接尾語が付いただけである。
 
 未然形とされている「高かろう」は「から-う」からの音変化した接尾語であり、助動詞「かる」は「から、かり、かれ」と活用する。仮定形とされている「高ければ」には「けれ」が付く(「かれ」からの音変化であろう)。つまり、形容詞「高い」の「い」とはまったく別の機能の接尾語である。これらを一つの活用形にまとめることには無理があるし、学習者に誤解を与える。この仮定形「ければ」は「かれ・ば」が音変化して出来たものであり、活用するのは「かる」の部分である。この「かる」は古文にはあるが、国文法では助動詞に分類されていない。あくまでも形容詞の活用語尾とされている。これは根本的におかしい。
 
 ー助動詞「かる」ー
 古文で、「良ろしかるべし」という言葉がある。この「かる」は文語形容詞の活用語尾とはせず、「たる」「なる」と同じ助動詞とするべきである。文語表現の「若かりし頃」の「かり」は「若く・有り」から出来た言葉とされているが、それより、助動詞「かる」の名詞形(連用形)とした方がより自然である。従って、「かり」は名詞形なので、名詞に付く接尾語「し」が付いて「若-かり-し-頃」との言葉ができた。つまり、「若ければ」と同じく元は「かる」である。 要するに、「高い」という形容詞が活用するのではなく、「高(たか)」という形容詞語幹に付く助動詞「かる」が活用するのである。文語の形容動詞とされている語尾「たる」「なる」も形容詞語幹に付く「かる」も、これらはすべて「そういう状態にある」という意味を持つ助動詞とすべきである。「なる」は動詞の意味もあり、 英語の  become  に当たる。
 

 結論として、形容詞語幹に付く助動詞「かる」(そうある)を設定すべきである。日本語の文語表現「良かれと思って」「良からぬ噂」とか「遅かれ早かれ」「浅からぬ因縁」という言葉は古語の「かる」が残存している好例である。これらは古文ではない。今でも日常よく使われる現代日本語の文語表現である。
 このように考えると、日本語の単語の構造がよく分かる。例えば、「長(なが)」は次のように造語してゆく。「長い」「長く」「長さ」「長々と」「長らく」「長袖」「長めの袖」「眺(長)める」「流(長)す」「流(長)れる」(古語は「流る」)の如く言葉が作られてゆく。「日本語に文法はない」と言った人がいるらしいが、日本語はむしろ理路整然とした単語造語法と文法体系を持っている。それを意味不明の難解なパズルのようにしたのは他でもない、「国文法」である。

  この助動詞「かる」はすでに万葉集にも用例があることを書いているので併せて読んで欲しい、(「すべからく」の語源 2021・10・30)

 <追記>
 アルタイ系言語を学ぶと、名詞に付く動詞形成の接尾辞が重要な位置を占めていることに気付く。一見、日本語とは異質の言語のようなイメージを抱くが、実は日本語にも存在する。「帯(おび)」から「帯びる」、「曇(くも)」から「くもる」、「真似」から「真似る」など、その他、擬態語「そよそよ」から「そよぐ」、「ころころ」から「ころぶ(転)」、擬音語「ざわざわ」から「騒ぐ」(「ざわつく」は動詞「付く」が付いたもの)。これら「る」「ぐ」「ぶ」などが動詞形成の接尾語である。国語の授業でも、このように日本語の単語の構造も教えることが大切であると思う。そうすれば、生徒も日本語、ひいては言語そのものに興味をもつようになるはずである。正直言って、現在の国文法(学校文法)には国語教師も生徒も皆うんざりしている。
 

  


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形容詞、形容動詞 (大橋行雄)
2018-07-11 00:50:43
「美しい」は形容詞の終止形で、「く、い、い、けれ」と活用します。
「美しかろう」は、「美しく―ある(ろ)― う」で、「ある」は存在の動詞「あり」が判断の助動詞に転成したものです。

「大きな」の「な」は格助詞「に」+「判断辞「あり」が「なり」となり、この連体形「なる」が助動詞「な」に変化したものです。

「華麗」「健康」「元気」「荘厳」などの漢語は活用を持たないため、判断辞「な」を伴って日本語に取り込んだもので、「ビューティフルなケーキ」などと同じ外来語の取り込みです。

「高さ」「旨さ」「厚み」「親しみ」などは、属性表現の語を質的に捉え直す接尾語「さ」「み」を形容詞の語幹に付けたもので、接尾語、接頭語もこのような意義を持った一語です。

意義を持たない形式だけでは、語として使用できません。■
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