読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

映画で学ぶ挑戦の美学、「陽はまた昇る」(2002年)

2007-10-12 08:55:14 | 映画;邦画
監督:佐々部清
原作:佐藤正明「映像メディアの世紀」(日経BP社刊/文春文庫)
脚本:西岡琢也、佐々部清
音楽:大島ミチル
挿入歌:浅丘めぐみ「わたしの彼は左きき」
撮影:木村大作
出演:西田敏行、渡辺謙、緒形直人、篠原涼子、真野響子、石橋蓮司、倍賞美津子

「高度経済成長の最中の日本。カラーテレビも完成した当時、ビデオ事業は当たれば5000億円のビジネスになると言われ、家庭用VTRの登場が待ち望まれていた。当時業界8位、弱小メーカーと呼ばれていた日本ビクターもビデオ事業に乗り出した。しかし日本ビクターのVTR事業部は不良品続きで返品が多く、不採算部門でいつ事業の解散が行われてもおかしくない状態だった」。

「『部長就任はクビを言い渡されたようなもの』そんな噂すら流れていた。そんなビデオ事業部に異動することになったのは加賀谷静男(西田敏行)。加賀谷はビデオ事業部の有様を見て愕然とする・・・。しかし、加賀谷は内に情熱を秘め、新しい家庭用VTRを開発することを胸に誓う。そんな中、当時大学生の就職人気No.1の巨大企業であるソニーが革命的な家庭用VTRであるベータマックスを開発。国内で発売することを発表した・・・」。

2000年4月4日に、NHKの「プロジェクトX~挑戦者たち~」で放送されたVHS開発の経緯を追った「窓際族が世界規格を作った~VHS・執念の逆転劇~」が大きな話題となり、本作を生みました。「プロジェクトX」があれほど共感を読んだのですから、この手の作品をどんどん映画化してほしいものですね。

本作で登場する加賀谷静雄のモデルが高野鎮雄さんです。彼はこんなことばを残しています。

「権力によってではなく、感動によって人を動かすのが、真の経営者ではないか」

野鎮雄(1923年8月18日-1992年1月19日)は「日本ビクターの元副社長。事業部長だった頃にVHSの開発を指揮し、「VHSの父」と呼ばれる。1986年に副社長に就任した。愛知県出身。旧制刈谷中学校(現・愛知県立刈谷高等学校)を経て浜松高等工業学校(現静岡大学工学部)卒」。

本作は、ベータマックスvs VHF、大企業vs 中堅企業という図式の上での、逆転劇を描いた作品であることで、単にエンターティメントとして映画を観るだけではなく、企業戦略としてのテキストとしても多くのビジネス書でも扱われました。その中の一つに佐藤直暁著の「暗示型戦略」があります。著者は次のように語っています。

「ビクターのビデオ事業部長の高野という人は、えらい人でしたね。彼の戦略を調べると、実に理にかなっています。私の『暗示型戦略』のお手本というか、ひな型のようです。ビデオ製品の黎明期においては、製品は業務用が中心で、家庭用の製品はありませんでした。そして、技術も市場シェアもソニーがダントツで、あとのメーカーはほとんど体をなしていなかった」。

「高野の基本戦略は、まず『ソニーと技術提携して、技術導入する。そこで基本の技術力をつけ、業務用市場で成功する。その技術力をバックに、今度は、家庭向けの、安くて、軽い製品を開発する。そして、家庭市場に参入して、ナンバーワンになる』という遠大なものでした」。

「これは、私の言う『(プロセス)暗示型戦略』ですね。どういうプロセスを通って、ゴールに着くのかを部下に示していくのです。プロセスを示す利点は、部下がそのプロセスに意識を集めますので、チームとしての集中力が生まれやすいのです」。

「しかし、高野や部下たちは、たいへん苦労します。なにしろソニーとビクターでは、技術力において大人と子供の違いがありましたから。その苦労をどうやって切り抜けていったか、おもしろいエピソードがいっぱいありますが、それは長くなるので割愛」。

「高野の戦略が成功した、その分岐点は、松下幸之助の支持を取り付けたことでしょうね。ビデオ事業の陣取り合戦は、あとになって振り返ると、ビクターの親会社である松下電器がキーを握っていたことがわかります。松下の技術陣はビクターが大嫌いで、いつもけんか腰でした。もう少しのところで、松下電器は、子会社のビクターではなく、ソニーの陣営に入るところまで行ったのです。それを押しとどめたのが、松下幸之助です。彼は以前から、どういうわけかビクターに好意をもっていたようです」。

「高野は部下に家庭用ビデオの試作機を作らせていましたが、『世の中でいちばんいいものをつくれ』と言明していました。それができたと確信できたとき、幸之助を招き、試作機を見てもらったのです。幸之助は絶賛しました。これは勇気がわきますよね。幸之助は販売の神様と呼ばれた人です。独特の勘で、売れる商品かどうか、ぴたりと当てる人なのです。その人にほめられたら、これは勇気凛々でしょう」。

「これが、結局ビクターの技術者たちにとって『希望の星』となったわけです。しかし、高野は漠然と希望の星を待っていたのではないのです。希望の星がどこにあるかをよく知っていて、それを得るために緻密な準備をし、またいつ希望の星を取りにいくか、最善の時期を探っていたのです。つまり、戦略プロセスのどこに希望の星を埋め込むか、いつも考えていたのです」。

「やがて、プロセスどおりに物事が進み始めると、今度はプロセス自体が希望の星になっていきました。『このプロセスどおりやっていけば、絶対うまくいく』と、みんなが戦略プロセスを信じるようになったからです。リーダーは、希望の星を部下に与えるように努めていただきたい。特に、厳しい状況にあるときこそ、それが必要です。どうしたら、リーダーはそういう人間になれるのか、それが私の次のテーマかもしれません」。


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