読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

資本主義の限界が見えた現代、だからこそ始まる「マルクスの逆襲」(三田誠広著)

2009-08-01 11:24:43 | 本;エッセイ・評論
~かつてマルクスは、一つの世代を丸ごとかかえ込むほどのブームを巻き起こした。しかし、その後は過去の遺物と化し、社会主義国家もすでにほぼ崩壊している。だが今、資本主義もまた行き詰まりを迎え、日本でも格差が拡大し、社会のなかに自分を位置づけて生きがいを感じることが、難しくなってきている。マルクスが仕掛けた謎を考える意味は、むしろ高まってきているのだ。時代の熱狂を体験した作家が、現代日本の再生に向けて、マルクスの謎を読み解く。~

<目次>
序章 なぜマルクスなのか
(マルクスは魅力的?;マルクスはイワシの頭?;マルクスは大貧民の味方?;マルクス主義はまちがっていた?)

第1章 マルクスの時代背景
(マルクスってどんな人? マルクスの思想って何? マルクス主義は科学的か? 貧富の格差はどこから生じたか? 人間にとって自由って何? 大貧民はいかにして救われるか)

第2章 日本のマルクス主義
(日本共産党って何? 過激派はどこから来たか? 若者はなぜ過激になるのか? 大学は何のためにあるの? マルクスは殺人を容認する? 赤軍派はなぜ一線を越えたのか?)

第3章 マルクスは敗北したのか
(挫折感って何? もう一つの社会主義? 日本はマルクス主義国家? 日本的控訴経済成長の秘密? いまや日本は大貧民国家? 会社はコミュニティー?)

終章 マルクスの逆襲
(マルクスの夢の再現? これからの日本をどうする? 無国籍資本が世界を崩壊させる? いまこそマルクスの出番?)


まず、三田誠広さんといえば、「僕って何?」(1977年)を書いた芥川賞作家であり、かつて「野辺送りの唄」(1981年)を読んだことがあります。私にとっては暫くぶりに読む三田さんの著作です。そんな三田さんが、マルクスについて書いてる本だというので、手に取りました。本書を執筆した理由について三田さんは次のように語っています。

~マルクスを解説するつもりはない。そうではなく、なぜ昔の若者たちがマルクスを信じ、マルクスのために命をかけようとしたのか。その謎を解くために、大まかに歴史的な流れを振り返ろうというのが、この本を書き始めた当初の意図だった。しかし、この本を世に出す意味はもっと重いものになった。~


そして、「団塊の世代」「全共闘世代」である著者が、当時一つの世代を丸ごとかかえ込むほど若者を魅了したマルクスについて語る意味について、その三つの要因について次のように触れています。

~第一に、いま定年を迎え、老後とか余生といわれる時期にさしかかっている全共闘世代の人々に、わたしたちの青春時代に、大学キャンパスで、国会前、アメリカ大使館、新宿などの繁華街、あるいは成田三里塚や王子野戦病院のあたりを包み込んでいた、あの熱狂はいったい何だったのかということを、じっくり考えていただきたい。

第二に、ニートやフリーターの増加で、将来、大きな社会問題になるのではないかと危惧されている、団塊ジュニアと呼ばれる若者たちに、父親の青春時代にあった熱狂を伝えるとともに、その意味についても、いっしょに考えてもらいたい。

第三に、もっと若い世代、大学生や高校生の人にも、マルクスというものについて、ある程度の知識をもってもらいたい。マルクスの目標は、二つあった。社会における貧富の格差の解消と、社会の中に自分を位置づけてそこに生きがいを感じさせる、その社会のシステムを実現することである。~


1907年ウクライナのオデッサ生まれのモルデカイ・モーゼというユダヤ人の長老が書いた「日本人に謝りたい~ あるユダヤ長老の懺悔 ~」という本を以前読んだことがあります。著者によれば、マルクスに資金援助して「資本論」を書かせたのがユダヤ財閥であったというのです。

モルデカイ・モーゼとは、ユダヤ財閥の一つ「サッスーン財閥」の顧問となり、日本の国体、神道、軍事力の研究に従事。1941年米国へ亡命、ルーズベルト等のニューディル派のブレーントラストとして活躍。1943年頃から対日戦後処理の立案にも参画した人物だとされています。

<日本人に謝りたい~ あるユダヤ長老の懺悔 ~>
http://inri.client.jp/hexagon/floorA6F_he/a6fhe800.html

<日本人に謝りたい その1 - ミスターフォトンの浮世鍋>
http://blog.goo.ne.jp/photon1122/e/ab0219f4e63570a6d1ca16a4e00010d6

モルデカイ・モーゼが語るところによれば、ユダヤ民族の理想の地として、その実験の地として敗戦国・日本という国を作り変えようとし、一方でユダヤマネーに自由を与えるために、国家を必要しない共産主義を、マルクスを通じて流布させる目的があったのだと。

三田さんは1970年代に生まれたデリバティブをはじめとするヘッジファンドなどの金融工学に基づいたファンド系の金融に対し、マルクスがもたらした負の側面を次のように述べています。

~現在、世界を席巻しようとしているファンドとは、無国籍資本だといっていい。良識を失った無国籍資本は、計画的な経済成長を阻害し、経済の混乱を招いた怪物のような存在であることは否定できない。無国籍資本には、愛すべき国はない。ひたすら資産が増大することだけを求めるガン細胞のような危険な存在、それが無国籍資本だ。アダム・スミスの「見えざる手」は、無国籍資本には働かない。~



三田さんは、こうした当時の世界中の若者を魅了したマルクスによって主張された「連帯感」、「大富豪と大貧民という格差社会の解消」を読み解きながら、時代によって翻弄された社会主義、共産主義の失敗の原因を究明しつつ、日本の現状を打開するために次のような提唱を行なっています。

~労働者が意欲を失い、働くモチベーションをもてなくなった社会は、必ず疲弊するだろう。無国籍資本に頼らない穏やかな経営、会社や地域社会がコミュニティーであるような、そういう社会を実現しない限り、日本という国に、未来はない。~

~わたしは同世代の高齢者にも、子供たちの世代にも、そしてこれから社会に出る若者たちにも、呼びかけたい。いまからでも遅くはない。団結しようではないか。そして、新しいコミュニティーを築くために、一歩を踏み出すのだ。~

~ゲバ棒を持つ必要はないし、過剰に禁欲的になることもないが、金銭の魔力に惑わされずに、一人ひとりが良識をもち、自分にできることを少しずつ始める。まずは家族を大切にすることだ。仲間と楽しくやることも大切だ。そして郷土や、この国のために、自分にできないことはないかと考えてみる。そこから、この国の未来がひらける。マルクスの逆襲が、これから始まるのだ。~


戦後日本の驚異の復興をして、それが政官民の揺るぎない構造の中で生まれたことから「日本は世界で唯一成功した社会主義国である」と言われます。マルクスの思想を受け継いだソ連をはじめとする社会主義国、共産主義国が崩壊する中で、なぜ日本が成功したのか?三田さんはそこに「村」による共同体が日本に根付いていたことを指摘します。

しかし、高度成長によってその「村」のシステムが壊され、土地からの自由を得た地方の農家の若者が都会へ流出し、農地は疲弊し、核家族化によって家族の連続性が希釈化したことによって、現在の格差社会に至っているのだと述べています。この様相こそが、皮肉にもマルクスが指摘した資本主義の崩壊の一つの風景であると。

思えば、昔、普通にあったような三世代による共同生活では、家族の会話の中で実体験としての100年という時間を俯瞰することが可能でありました。一方、核家族による会話の中では、今を中心とする10年くらいのスパンでしか話題が及びません。こうした会話のスパンが源泉となって、企業社会において成果主義を生むのではないかと思えるのです。

マルクスの思想がヨーロッパで実を結ばなかった原因については、本書で次のように解説されます。

~共産主義というのは理念である。絵に描いたモチのような理念かもしれないが、集団でその理想を追い求めれば熱気が出る。ソ連や東欧諸国はまだ社会主義の段階だった。しかし理想の共産主義国家を実現しようというコンセンサスが国民にあれば、個人の労働が、そのまま理想の国家の実現に結びつくことになる。国家と個人の対立などは存在しなくなるはずだ。~

~だが、実際の社会主義国家は、共産主義に移行する前に崩壊した。個人の欲望は多様である。上から押し付けられた理念は長くは続かない。革命直後の熱気が冷めると、労働者たちはエゴイズムにとらわれるようになった。与えられたノルマをこなすだけで、あとはなるべく楽をしようとするようになり、世のため人のためによりよきものを作ろうという意欲を失ってしまった。そのため、ソ連や東欧の工業製品は、デザインが古くすぐに故障するものになり、国際競争力をもつことができなくなった。~

~ソ連や東欧の人々が理想としながら、ついに実現できなくなった、人々が強い絆で結ばれたコミュニティー。そんな理想のシステムが、実は少し前の日本には存在したのだ。すなわち「村」と呼ばれる農業共同体だ。~



カール・ハインリヒ・マルクス(Karl Heinrich Marx, 1818年5月5日 - 1883年3月14日)は、ドイツの経済学者、哲学者、ジャーナリスト、革命家。20世紀において最も影響力があった思想家の一人とされる。親友にして同志のフリードリヒ・エンゲルスとともに、包括的世界観及び革命思想として「科学的社会主義」(学問的社会主義)を打ちたて、資本主義の高度な発展により共産主義社会が到来する必然性を説いた。

『共産党宣言』の結語「万国のプロレタリアよ、団結せよ!」“Proletarier aller Länder, vereinigt Euch!”の言葉は有名である。マルクスの経済学批判による資本主義分析は主著『資本論』に結実し、『資本論』に依拠した経済学体系はマルクス経済学と呼ばれる。

<カール・マルクス - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9


フリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels, 1820年11月28日 - 1895年8月5日)は、ドイツ出身のジャーナリスト、実業家、共産主義者、軍事評論家、思想家、革命家、国際的な労働運動の指導者。カール・マルクスと協力して科学的社会主義の世界観を構築、労働者階級の歴史的使命を明らかにし、労働者階級の革命による資本主義がもたらした発達した生産力の継承と資本主義そのものの廃絶、共産主義社会の構築による人類の持続的発展を構想し、世界の労働運動、革命運動、共産主義運動の発展に指導的な役割を果たした。

<フリードリヒ・エンゲルス- Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%AB%E3%82%B9


三田誠広(みた まさひろ);一九四八年大阪生まれ。作家。早稲田大学文学部卒。一九七七年『僕って何』で芥川賞受賞。日本文藝家協会副理事長。日本文藝著作権センター理事長。著作権問題を考える創作者団体協議会議長。武蔵野大学客員教授。『いちご同盟』『永遠の放課後』『星の王子さまの恋愛論』『空海』『西行 月に恋する』『海の王子』他、著書多数。


<三田誠広 - Wikipedia>
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%94%B0%E8%AA%A0%E5%BA%83


<備忘録>
「アポリア」(P13)、「マルクスについて語ることの意味」(P15)、「マルクスの機能」(第一P24、第二P23)、「ドイツの成立」(38)、「疎外」(42)、「社会主義の源流」(P48)、「マルサスの主張」(P49)、「マルクス経済学の最大の特色」(P52)、「変態ジャン・ジャック・ルソー」(P54-5)、「資産としての穀物」(P56)」、「U.K」(P59-60)、「産業革命の源泉」(P67)、「シェントリー」(P61-3)、「マルクス主義の理念」(P72)、「挫折感」(P118)、「『ファシズム』の由来」、「サンディカリズム」(P131)、「マルクスの提案」(P133)、「敗戦を支えた日本のビジョン」(P139)、「日本で実践されていたマルクスの夢」(P140)、「ヘーゲルの弁証法」(P159)、「無国籍資本」(P195)、「良識ある投資」(P201)、「グローバル経済もモデル」(P211-3)


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