読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

日本経済の現実がこの小説を追いかけた、「日銀券(上)」(幸田真音著/新潮文庫)

2008-06-09 13:22:39 | 作家;幸田真音
<目次>
序章
第一章 特例人事
第二章 経済決定会合
第三章 病める市場
第四章 密議
第五章 衝撃
第六章 暴落
終章

<主な登場人物>
《日本銀行》
真山康浩(68?)、総裁、日銀出身
高見秀一(60)、副総裁、大蔵省事務次官出身
芦川笙子(39)、副総裁、東和銀行~オックスフォード大留学~米国系大手投資銀行出身
中井昭夫(61)、審議員、経済学者、大学教授出身
渋沢栄三(67)、審議員、財閥系旭日商事出身
宮崎遼子(56)、審議員、大学教授出身
笹本四郎、審議員~カート・カウフマン(70)、経済学者
谷村晃、審議員、興和銀行出身
二宮太一郎、審議員、西日本電力・顧問出身

《日本短資》
三上健一(43)、資金営業部・営業部長
坂井敏道(27)、三上の部下。社長の遠縁、経営者候補

泉川輝一郎、首相
スティーヴン・ペンローズ、イングランド銀行

本作は、2004年10月、新潮社より刊行され、2007年4月に文庫化されています。日本銀行に関する小説といえば、城山三郎さんの「小説日本銀行」があります。昭和38年(1963年)に書かれた城山さん、36歳のときの作品です。この小説のモデルは、「一万田尚登(いちまだひさと;1893-1984)が日銀総裁であり、池田隼人(1899-1965)が大蔵大臣になった当時の日銀である」。

「東大出身のエリート達が、出世の階段を上るために、汲々として御殿使えをしている日銀の内部、その渦中にありながら『通貨の安定』という中央銀行の使命に燃える若い日銀マンが、内部の出世競争の権謀術策のなかで、その夢にやぶれ挫折していくという話の展開は、今読み返してみても十分に耐え得る面白さだ」。

「物語は、戦後のインフレに喘ぐ庶民生活、没落階級の日銀エリートと華族出身の娘の恋愛を背景にして展開していくという手法など、まさに、今全盛の企業小説の先駆けが城山三郎であることが良くわかる。当時から、独立性を確保しようとする日銀と、あたかも自分達の分室あるいは出先機関として日銀を支配下におこうとする大蔵省といった力関係が、この小説の舞台になった昭和の20年代から、つい最近まで続いていたことなどが、この小説で再確認できて、何とも可笑しい」。~「タカさん大いに語る」(http://members.jcom.home.ne.jp/takabaya1/syokai.html)より~

個人的に興味があるのは、一万田氏も池田氏も旧制第五高等学校の出身で、若き日の一時代を私の地元熊本で過ごしていることです。

さて、こんな視点で本作を見てみると、登場人物のモデルには次のよう方々が当てはまります。物語は2003年のゴールデンウィークから始まります。そして2004年の4月からいろいろな動きが蠢きだし、2005年4月1日以降の、1金融機関につき1預金者あたり元本1,000万円までとその利息の預金債権が預金保険法による保護の対象となったペイオフ解禁後に展開されています。

2003年に日銀総裁に就任したのは、日銀出身の福井俊彦氏(1935年9月7日生れ-)です。時の首相は勿論、小泉純一郎氏ですね。

「2004年2月14日、英エコノミスト誌はToshihiko Goldilocksと題した記事で、前任の速水優を『おそらく世界で最悪の中央銀行総裁』と評した上、連邦準備制度理事会(FRB)のアラン・グリーンスパン議長や欧州中央銀行(ECB)のジャンクロード・トリシェ総裁ではなく、より強力な量的緩和に踏み切った福井俊彦を世界で最も優れた中央銀行総裁と評価する記事を掲載した。2006年3月には、5年超続いた金融の量的緩和政策を解除、同年7月には実質的に約8年間に及んだゼロ金利政策からも脱し、短期誘導金利を0.25%(ロンバート金利は0.4%)へ引き上げた」。(ウィキペディア)

*Toshihiko Goldilocks(ゴルディロックス)とは、金髪の美女の俊彦とでも訳すのでしょうか?.

副総裁・高見秀一のモデルは、ねじれ国会の影響下の総裁人事ではじかれてしまった武藤敏郎(1943年7月2日-)氏ですね。「日本の財務官僚、経済学者。大蔵事務次官、財務事務次官、日本銀行副総裁を歴任した。小泉政権下では財務事務次官を務めており、小泉純一郎の政権公約『国債30兆円枠』の『生みの親』とも称されている」。(以上、ウィキペディア)(続く)


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