読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

堀江、村上両氏も読んでおくべきだった、「タックス・シェルター」(幸田真音著/朝日新聞社刊)

2008-10-05 19:52:04 | 作家;幸田真音
~急死したワンマン社長から海外に隠した資産の管理を託されていた中小証券会社の財務部長・深田道夫は、その遺産だった絵画の売却で得た450万ドルを秘密に運用したことから人生が狂いはじめる。深田にまとわりつく投資のプロたち。お互いを意識する存在ながら深田の脱税を不意に知ってしまった国税調査官の宮野有紀。金の魔力に翻弄される人間たちの本性を描いた長編経済小説。~

<登場人物>
谷福證券㈱・・・深田道夫(42、財務部長)、谷山福太郎(69、社長)、谷川正子(福太郎の妻)、谷山玲子(35、福太郎の娘)、順介(35、娘婿)

国税庁・・・宮野有紀(40)、森村聡子(44)、水島かほり(32、現モーリス・ブライアン証券)
財務省・・・藤村美和(44、有紀の先輩)

坂東勝人(39、深田と同郷。元欧州系銀行勤務)、
稗田明日美(35? アトラス・キャピタル・マネージメント アジア部門 営業部長)

私にとっては10作目の幸田作品。本書のタイトルになっている「タックス・シェルター」とは、「租税回避商品」。「租税回避」というと、本作でもその重要なスキームになるSPC(特別目的会社)設立の舞台となるケイマン諸島の「タックス・ヘヴン」のことが思い浮かびます。深田が、急逝した谷山社長の個人資産の管理・運用に坂東と明日美に示唆されるシーンで次のような会話があります。

(深田)「しかし、さすがにタックス・ヘヴン。税金天国だけのことはありますな。金を持っている人間は、なにかと特典が享受できる地域だとは聞いていましたが、会社設立までそんなに簡単にできるとは思っていなかったなあ・・・」

(明日美)「たしかにタックス・パラダイスという言い方もしますから、租税天国と訳す方もいらっしゃるようですが、正確にはタックス・ヘイヴンです。失礼ながら天国(ヘヴン)ではなく、避難所のヘイヴンですので」

この間違いは私も最近まで犯していた勘違いで、<ケイマン諸島は「税金天国」ではなかった?「ヘイヴン~堕ちた楽園~」(アメリカ/2004年)>(07年7/30付記事)でも記していますが、「heaven」(天国)ではなく、「外国企業に対し、税制上の優遇措置をとっている国または地域。租税回避地。租税避難地」であって「tax haven」(タックス・ヘイヴン)。「haven」は「安息の地、避難所」の意味であり、タックス・ヘヴン=tax heavenという英語はないのですね。

幸田さんの作品は、経済に疎い私には一種の教科書。本作でもいろいろな金融情報が満載です。「週刊朝日」2005年1月7日~12月30日号に連載されたものを2006年9月に単行本化したものですから、2006年1月16日、 証券取引法違反の容疑により東京地検による家宅捜査を受けたライブドア事件、6月23日、証券取引法のインサイダー取引容疑で起訴される村上ファンド事件が起きる前年に書かれた小説。幸田さんの面目躍如とも言える視線が光る一冊です。

ところで本作では、谷山福太郎が絵画の収集が高じ、美術館建設を考えていたことが織り込まれています。現実でも1984年に野村證券などを創設した二代目野村徳七氏(1878 - 1945)の収集品を主な展示品として開館した野村美術館がありますね。しかし、むしろこのモデルと考えられるのは、山崎種二氏と山種証券(現SMBCフレンド証券)が蒐集した作品によって設立した山種美術財団によって1966年に開館した山種美術館でしょう。

山崎種二(1893年12月8日- 1983年8月10日)は、日本の相場師・実業家・教育家。群馬県に生まれる。山種証券(現SMBCフレンド証券)、株式会社ヤマタネの創業者であり、米相場と株式相場において成功を収める。

<備忘録>
「85万3000円」(P110)、「ケイマン諸島のSPC設立」(P147)、「タックス・ヘイヴン」(P148)、「原油先物市場」(P285)、「WTI」(P307)


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