歌わない時間

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アン・クリーヴス『大鴉の啼く冬』

2009年05月31日 | 本とか雑誌とか
アン・クリーヴス/玉木亨訳『大鴉の啼く冬』(創元推理文庫)読了。まあまあ。

日本でも2007年の複数のベストテンに入ったミステリですが、わたしはそれほど感心しませんでした。わりとじめっとした読後感でした。たしかに犯人は意外な人物で最後まで見抜けなかったけど、謎解きの面白みというよりは、シェトランドという、なじみの薄い北の島の地域社会への関心で読ませる小説。しかし、シェトランドについて多少ともイメージ──最果ての島とか、北の油田の近くとか──の湧くイギリス人ならいざ知らず、われわれふつうの日本人にはシェトランドという地名自体、ほぼ初耳なので、なんのイメージの湧きようもないんですよ。イギリスの人はこの小説を読んで「いかにもシェトランドらしい話だなあ」と思うんでしょうか。

登場人物同士がお互いにほとんど知り合いで、誰がいつどこにいたか立ちどころに知れ渡ってしまう、って点はミス・マープルのセント・メアリー・ミードとおんなじ。まああれとは時代が違うけど。知的障碍のある老人が出てきたりするところはマープル的ではありませんが、セント・メアリー・ミードを舞台に書き直したら、なかなかマープルものらしく納まりのいい小説になりそうな気がします。

この本で違和感あったのは、原文でおそらくイタリックに組んであるところを、教科書体で組んでいる点。こういうの、わたしははじめて見ました。分かりにくい。教科書体に気づかずに読み流しちゃうよ。感想をwebに載せている人は何人かいたけれど、このことに触れている人は今のところ見つからない。気がついてない人が多いんぢゃないかという気がします。

カバーの絵がブリューゲルの冬の狩りの絵にちょっと似ています。

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