歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

ラモン『パーセル_劇場のための音楽』

2009年12月26日 | CD パーセル
Henry Purcell
Ayres for the Theatre
Dioclesian / King Arthur / The Fairy Queen / The Indian Queen
Tafelmusik
Jeanne Lamon
SK 66 169

1994年録音。70分50秒。Sony Classical。パーセル晩年の劇音楽4作品からの合奏曲集。もともとの器楽曲だけでなく、"Fairest Isle"とか"Come, If you dare"とか(『アーサー王』)歌われる曲も、器楽のみの演奏で出てきます。どこをとっても名旋律。こりゃいいわ。わたしは4作品とも、全曲盤でもよく聴くんですが、『ダイオクリージャン』『アーサー王』『妖精の女王』はそれぞれCD2枚組、『インドの女王』もCD1枚たっぷりかかる大作なので、こういう触りの部分を集めた音源はうれしい。繰返し、ずーっと聴いていたいCDです。パーセルの死後、1697年に出版された楽譜を、そっくりそのまま演奏してるようです。当時の、パーセルの劇音楽の人気のほどが垣間見られて面白い。

高らかにトランペットの鳴り響く爽快な曲もあれば、繊細優美をきわめた弦楽合奏の曲もありで、しかしどの曲もパーセルの劇音楽らしく人なつこさにあふれていて、パーセル好きにはたまりませんな。

演奏は、清新で風通しがよく、それでいて決してそっけないわけではなくて、若々しい活気に溢れている。パーセルにぴったり。北米のグループは、トリニティ・クワイヤといいアラディア・アンサンブルといいこのターフェルムジークといい、パーセルやらせるとすごくいい。トランペット、ティンパニ、さらに通奏低音の撥弦楽器(テオルボ、アーチリュート、ギター)の音がにぎやかです。

全50トラック。パーリー・オブ・インストゥルメンツがハイペリオンに同様の劇音楽集をCD3枚組で録れていますが、その1枚目が、このターフェルムジーク盤とまったく同じ曲順なんですわ。

ターフェルムジークはもちろん名前は知ってましたがCDははじめて買いました。カナダの古楽オーケストラ。アラディア・アンサンブルの指揮者であるケビン・マロンがこのターフェルムジークのCDでバイオリン弾いてますよ。ターフェルムジークで経験を積んでから自分でも指揮するようになったのね。

ホグウッド『パーセル_劇音楽集成』

2009年10月04日 | CD パーセル
Purcell
Theatre Music
Kirkby, Nelson, Lane, Roberts, Lloyd(s)
Bowman(ct)
Hill, Covey-Crump, Elliott, Byers, Bamber, Pike(t)
Thomas, Keyte, Shaw, George(b)
The Academy of Ancient Music
Christopher Hogwood
475 529-2

1974-83年録音。66分33秒/69分39秒/61分04秒/66分58秒/74分12秒/72分02秒。DECCA/L'Oiseau-Lyre。収められた音楽の多くが1690年以降のパーセル晩年の作なので、作品そのものが充実してるのも大事なポイント。そしてホグウッドのパーセルはいいですねえ。予想以上によかった。足かけ10年をかけて録音されたもので、カークビーが途中から加わっていたりとメンバーには交替がありますが、演奏は一定の質を保って安定しています。パーセルの世俗声楽曲は、セミ・オペラ群のCDと、そしてこの6枚組をもっておけば、まづキモのところは押さえたことになるでしょう。

CD1。《Abdelazer》《Distressed Innocence》《The Married Beau》《The Gordian Knot Unty'd》《Sir Anthony Love》。1枚目は声入りの曲は少なめ。『アブデラザール』序曲からはじまって、トラック2に例の「ロンド」が入ってます。前半のソプラノソロ2曲はジョイ・ロバーツという人。後半のジュディス・ネルソンともども悪くありません。70年代の録音にしては音も鮮明。

CD2。《Bonduca》《Circe》《The Virtuous Wife》《The Old Bachelor》。マーティン・ヒルが安定した歌唱。『ボンデュカ』の"Jack, thou'rt a toper"はアカペラのキャッチ。ポール・エリオットが聴けるのがうれしい。それぞれの曲が充実していて聴きごたえがあります。

CD3。《Don Quixote》《Amphitryon》。いよいよカークビーが登場。前半にデイビッド・トーマスのワンマンショーめいた部分があってちょっと閉口ですが、そこを我慢すればあとは快調。

CD4。わりと曲数の多いのが全9トラックの《Teodosius》。ほかは小規模な作品で、《The Double Dealer》《The Richmond Heiress》《The Rival Sisters》《Henry the Second》《Tyrannic Love》。《Teodosius》というのは《Dioclesian》と同様ローマ皇帝の話でしょうね。こういうネタも当時のロンドンではメジャーだったんでしょうか。

CD5。小規模作品群。歌曲が多くて楽しめる。テナーはカビィクランプが活躍しています。トラック14"My wife has a tongue"はふたたびアカペラのキャッチでポール・エリオットが登場。エリオットはこのアルバムではキャッチ用員なのです。カークビーがいいのは言うまでもないけど、ネルソンもとてもいい。トラック3は「メアリー女王の葬送音楽」のマーチと同じ音楽。

CD6。まとまった作品はなく、歌曲1~3曲からなる小品。そしてZ748~752の「パバン」、「バイオリン、バス・ビオール、オルガンのためのトリオ・ソナタ」Z780、「シャコニー」Z730。"Sweeter than roses"というエアをジュディス・ネルソンが歌っています。この曲、カークビーも『パーセル歌曲集』のCDで歌っているんで、聴き比べができます。テナーのソロはすべてカビィクランプ。

ピノック『パーセル_オード集』

2009年05月24日 | CD パーセル
Purcell
Come, ye sons of art, away
Welcome to all the pleasure
Of old, when heroes thought it base
Smith, Priday, Amps, Chance, Wilson, Ainsley, George, Richardson
Choir of The English Concert
The English Concert
Trevor Pinnock
427 663-2

1988年録音。68分03秒。Archiv。ピノックのオード集。パーセル5枚組セットの中で、これだけはさきだって単発で買っていたもの。オード3曲それぞれのタイトル邦訳は『来たれ、汝ら芸術の子ら』『来たれ、すべての喜び』『その昔、勇者は故郷にとどまるを潔しとせず』。ピノックの指揮はていねいで、悪くないと思います。合唱は各パート4人ていど、オケもこぢんまりとした人数のはずですが、ピノックはめいっぱい歌わせていますね。

これを買ったのはですねえ、やっぱり狙いは《Come, ye sons of art》でして、ガーディナーので満足してはいたものの、なにしろあれはモダン楽器だし、録音も70年代だし、まちっと新しいのを聴きたくなったんですな。ソリストはスミス(S)チャンス(CT1)ウィルソン(CT2)リチャードソン(Bs)です。わたしはチャンスとスミスどちらもきらいなので、100%満点はつけません。スミスは声が澄んでいなくて、歌い回しにクセがある。チャンスはここではまあ許容範囲ではありますがこの人の歌はどっか図々しくて下品な感じがするのね。なお、CTはデュエットが2曲とソロが2曲ありますが、ソロはどちらもチャンスがとっています。

ほかの2曲のオードはこのCDではじめて聴いたんですが、聴きごたえのある曲であり、演奏であると思います。《Come, ye sons of art》が1694年、《Of old, when heroes thought it base》が1690年でいづれもパーセル円熟期の作であるのに対し、《Welcome to all the pleasure》は1683年とちょっと若い時期の曲なんですが、聴いてるとやっぱりそれがうなづけますわ。やや安定感に欠けるけれども斬新な作風。曲のおしまいがフェードアウトで終わるのが面白い。ここの終わり方はピノック巧く振ってます。

歌い手ですばらしいのはエインズリー(T)。この人は日本ではいまいち知られていませんけど、古楽も近代ものもかっこよく颯爽と歌えるテナーです。

えー、それにしてもピノックという人は、よくいえばていねいなんですが、いつもこう、なんとなくのっぺりとした指揮をする人ですね。まちっと彫りの深い指揮を心がけるとぐっと陰影が増して巧く聞こえたのにと思います。《Of old, when heroes thought it base》などはほかの指揮者──たとえばパロットだとどう振るか、ちょっと聞き比べてみたかったところ。

サマリー『パーセル_フル・アンセム&オルガン曲集』

2009年04月24日 | CD パーセル
Purcell
Full Anthems & Organ Music
Music on the Death of Queen Mary
Laurence Cummings
Oxford Camerata
Jeremy Summerly
8.553129

1994年録音。72分20秒。NAXOS。オックスフォード・カメラータのパーセル。プログラムの前半は、オルガンの伴奏でフル・アンセムを歌ってます。後半は『メアリー女王の葬送音楽』。歌手は12人で、パーセルのアンセムにしては少なめの人数。シャンティクリアもこれくらいでしたかね。レベッカ・オートラム、ロビン・ブレイズ、アンドルー・カーウッド、ジェームズ・ギルクリストなどが参加。

オックスフォード・カメラータの他の演奏とおなじくしっかりした技術で、すっきりと聴かせてくれる。いつものように個性不足な点も否めないけど、このパーセルに関してはそれがさほどマイナスには感じられないです。彼らくらいの過不足ない実力派のグループにこそ、パーセルのアンセム全集を録音してほしい。

パーセルのアンセムはいろんな指揮者がCDを出していて、それぞれ録音している曲が同じでないので、どの曲をどの指揮者が録音してるのか、一覧がないと不便ですね。そろそろそういうメモを作る準備をしないと。

パーセルのアンセムは、楽譜はそう込み入ってるわけぢゃないけど、実際に歌ってみるとむつかしそうです。わたしは高校時代に"Man that is born of a woman"を歌ったことがあるだけで、その後、歌い手としてはパーセルとの縁はないんですが、いろいろ歌ってみたかったです。

マンロウ『パーセル_メアリー女王の誕生日のためのオード』

2009年04月19日 | CD パーセル
Purcell
Birthday Odes for Queen Mary
Come ye sons of art away ・ Love's goddess sure
Burrowes, Bowman, Brett, Lloyd
Early Music Consort of London
David Munrow
5 86050 2

1975年録音。49分29秒。EMI。パーセルの作曲したメアリー女王の誕生日のためのオードは数曲残っているんですが、『来たれ、汝ら芸術の子ら』は1694年の、『愛の女神はたしかに』は1692年のものだそうです。マンロウが『来たれ、汝ら芸術の子ら』を録音しているのはだいぶ前から知ってたんですが、ようやく聴きました。

結論から言うと、『来たれ、汝ら』もけっして悪くないけれど、はじめて聴いた『愛の女神はたしかに』のほうに聴きほれました。この曲は『来たれ、汝ら』とほぼ同じ規模のオードで、『来たれ、汝ら』に劣らぬ名曲だと思います。声楽の扱いはむしろ『愛の女神は』のほうが手が込んでいて聴きごたえがある。

『来たれ、汝ら』はこれまでにガーディナーのとピノックのを聴いてきて、特にガーディナーのはモダン楽器ながら水際立ったさわやかな名演だったので、この曲の演奏に関してはわたしの要求が高くなってるところがあります。ガーディナーのはソリストにフェリシティ・ロットとトーマス・アレンを迎えて華やかですからねえ。それにくらべるとこちらのノーマ・バロウズとロバート・ロイドはどうしても地味。

合唱やオーケストラはいま聴いても聴き劣りしません。ホグウッドは曲によってハープシコードとオルガンを弾き分けてます。それにしてもマンロウの指揮した録音としてはもっとも大がかりなものぢゃないのこれ。マンロウのセッションて、ふだんはせいぜいで総勢10人とか、そのくらいだったでしょ。メンバー表がないので正確には分からないけど、このパーセル、合唱だけですくなくとも20人くらいはいますよ。

なおこの録音が75年で、翌76年にはガーディナーがエラートに『来たれ、汝ら』を録れているんですよ。いやまあ、ガーディナーがこのマンロウの録音を聞いたかどうかは別にしてもさ、「マンロウに先を越された!」とは思ったでしょうよ。というか、その76年に、マンロウは亡くなっているんですよね。ああもしかして、ガーディナーが『来たれ、汝ら』とともに『メアリー女王の葬送音楽』を録音したのは、マンロウへの追悼の意味もあったんですかね。

わたしとしてはマンロウの指揮でついでに「メアリー女王の葬送音楽」も録音しといてほしかったけど、そしたら翌年亡くなったマンロウ自身への追悼曲みたいになっちゃってたよね。うーむ。

ガーディナーの指揮で『愛の女神はたしかに』も聴きたかったなあ。この曲はほんとにいいよ。

マッキントッシュ『パーセル_インドの女王』

2009年02月08日 | CD パーセル
Purcell
The Indian Queen
Bonner, Bott, Covey-Crump, Harvey
The Purcell Simfony
The Purcell Simfony Voices
Catherine Mackintosh
HONCD5035

1994年録音。60分11秒。HONEST/Linn。器楽は弦が4人、オーボエとリコーダーを持替えで吹く人が2、それにトランペット、打楽器、ハープシコードが各1。コーラスはSATB各1(コーラスのSのテッサ・ボナーはソロも歌う)、それにソリストとしてボット、カビィクランプ、ハーベイが加わります。

最小編成で聴くパーセルの劇音楽ですけど、これいいですよ。パーセルのこの手の作品は、あるていどの人数でにぎにぎしくやるのが当り前と思ってましたけど、これくらいの小ぶりな編成でこれだけ充実した音楽を鳴らすことができるというのは発見でした。

それにしてもこの《インドの女王》って曲はすてきです。充実している。途中、《妖精の女王》や《来たれ、汝ら芸術の子ら》からの借用もあってなつかしい。1695年、パーセルの死の年の初演だそうです。最晩年の傑作。

圧巻はテッサ・ボナーが歌う"They tell us that your mighty powers above"でしょうか。これだけシンプルなメロディーでこれだけ濃いニュアンスを語れるパーセルはやっぱり天才。歌い手ではテナーのカビィクランプが、ベテランらしい味わいぶかい歌唱で特に耳に残ります。

パーセル協会版の新しい校訂の楽譜にもとづく演奏だそうです。これまで序曲の前に演奏されていた"1st Music"と"2nd Music"が、Act IVとAct Vの間に演奏されています。

マロン『パーセル/テンペスト』

2008年12月27日 | CD パーセル
Purcell
The Tempest / If ever I more riches did desire
Trumpet Sonata / Trumpet Overture to 'The Indian Queen' / Chacony
Aradia Baroque Ensemble
Kevin Mallon
8.554262

1997年録音。76分14秒。NAXOS。セミ・オペラ《テンペスト》を中心に、パーセルのいろんな曲種の世俗曲を収めています。パーセルの世俗音楽の入門CDとして悪くない。例のブリテンの曲やなんかでパーセルに関心持った人がはじめて買うCDとして、とてもいいと思います。《テンペスト》はいい曲なのに録音が少ないのでその意味でも貴重。歌手は特にソプラノが清新で耳に残ります。ただイギリスのプレイヤーたちによるものと較べるとあっさりしてコクが足りないと思われるかも。

ケビン・マロン&アラディア・アンサンブルはシャルパンティエ同様パーセルでも実にフレッシュです。トラック6で入ってくるトライアングルの音とか、ちょっとしたことなんだけど「おっ」と思わせる小技が効いてる。

トラック7のアリア"Dry those eyes which are o'erflowing"、トラック14のアリア"Halcyon days, now wars are ending"、トラック16の二重唱と合唱"No stars again shall hurt you from above"あたりがとくに聴きもの。パーセル円熟期の優美なメロディーラインを楽しめます。

《チャコニー》Z.730や《トランペットと弦楽のためのソナタ》Z.850も収録。Z.850はNHKの『名曲アルバム』でもやってました。ヘンデルもトランペットの鳴らしかたはかっこいいけど、パーセルはよりかろやかです。

録音はエコーが強め。なおかつ古楽器の音がシャカシャカしていてやや気になります。こういう音色の古楽器録音は昔はときどきありましたけどね。録音場所はトロントの教会だそうです。それからこのアンサンブルは来年の生誕350年を期してのことでしょうが、パーセルの劇音楽の録音を始めました。わたしはホグウッドの6枚組をすでに持っているのであわてて買うのはよしときますが、興味はあります。

ガーディナー『パーセル/ディドーとエネアス』

2008年12月23日 | CD パーセル
Purcell
Dido and Aeneas
Ode for St Cecilia's Day《Welcome to all the pleasures》
Watkinson, Mosley, Holton, Tindall, Shaw, Chance
Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner
PHCP-5195 (432 114-2)

1990年録音。67分19秒。PHILIPS。ガーディナーがようやく録音した『ディドーとエネアス』。ディドーにキャロライン・ワトキンソンを持ってきたのが意外でした。ワトキンソンは古楽の世界ではベテランのアルトで、わたしはこの人の出た『リナルド』『セルセ』『メサイア』『復活』『ソロモン』などなど聴いてきたんで愛着あるんですが、90年のガーディナーなら、もっと一般受けするメゾを連れてこられたでしょうに。

70年代以降、ガーディナーはパーセルをあれやこれや録音してきて、そのどれもがすぐれた演奏ばかりだったのに『ディドー』はなかなか出してくれなかった。そのガーディナーが満を持して、という期待を持たせて出てきたCDなんですが、この録音、悪くはないんだけど、地味です。数ある『ディドー』の録音のなかで、上から数えて指を折るまでのこともない。なんかね、ガーディナーとしてはもうパーセルからは気持ちが離れてたんぢゃないですかね。でも『ディドー』まだ録音してなかったんでこの際入れとこか、みたいな。いやこれはわたしの勝手な想像ですけどね。

ワトキンソンは上のほうの音がちょっとヒステリックに聞こえる。ディドーは本来ソプラノの役で、ベルガンサやフォンオッターのように「上も出るメゾ」ならともかく、ワトキンソンのような「根っからのアルト」には荷が重すぎた。エネアスのジョージ・モスリーという人もたいしたことありません。ベリンダのルース・ホルトンが爽やかでいい感じ。総じて女声はしっかりしてますけどね。

パーセルでいちばん有名な作品と、手ごろな長さのオードを1枚で聴けるのが強みか。

シャンティクリア『パーセル/アンセム集』

2008年11月10日 | CD パーセル
Evening Prayer
Purcell Anthems and Sacred Songs
Chanticleer
Capriccio Stravagante
WPCS-11695

2003年録音。59分09秒。Warner Classics。国内盤タイトル『シャンティクリア、パーセルを歌う』。シャンティクリアが、スキップ・センペ指揮カプリッチョ・ストラバガンテと共演してパリで録音したCD。地味な内容なのに、よく国内盤が出ましたなあ。シャンティクリアのパーセルというのは意外なレパートリーですが、なかなか面白いです。競合盤がしばしば収める〈メアリー女王の葬送音楽〉をあえて避けて、プログラムの面でも独自色を出しています。バース・アンセム5曲、フル・アンセム2曲に加えて、圧巻なのが約5分間ぶっとおしのユニゾンで歌いきる"Now that the sun hath vailed his light (Evening Hymn)"。この全8曲。

シャンティクリアは、いかにもエンターテイナーらしく、そしていかにもアメリカらしい歌いっぷりをするグループ。これと古楽器アンサンブルのしぶい音色とはときにミスマッチのように聞こえもします。しかし、ほかでは聴けない個性的なパーセルだという以上の魅力をこの演奏は備えていると思います。じつに風通しのよい、人懐こさを感じさせるパーセルです。

パーセルのアンセムのアルバムはいろんな指揮者がリリースしていて重複しあう曲の聴き比べが楽しい。このシャンティクリアの次にはヘレベッヘのCDを続けて聴いたんですが、〈Rejoice in the Lord alway, Z.49〉〈Remember not, Lord, our offences, Z.50〉〈Hear my prayer, O Lord, Z.15〉〈My Heart is inditing, Z.30〉の4曲が重複してました。

シャンティクリアは全員男声ですが、メンバー表はソプラノ3、アルト3、テナー3、バリトン&バス3、となっています。トリニティ・クワイヤの《ダイオクリージャン》に出ていたイアン・ハウエルが、ソプラノとして参加しています。

パロット『パーセル/ディドーとエネアス』

2008年10月27日 | CD パーセル
Purcell
Dido & Aeneas
van Evera, Parry, Lax, Ørbaek, Andrews
Taverner Choir & Players
Andrew Parrott
SRCR 2515

1990年録音。61分41秒。Sony Records。このパロットの『ディドーとエネアス』は、おとぎ話めいたバロック・オペラではなく、現代人にもじゅうぶんアピールする刺激に満ちた音楽劇です。もちろん古楽器を使って、人数もしぼって当時の演奏を再現しようとしてるんですけど、結果的に、古楽の復元とかいう枠を超えて、なんというか、コンテンポラリーな感覚に満ちたたいへんユニークなパフォーマンスになってます。あくまで音楽の美を追及したピノックとはまるで違う行きかたですが、数ある競合盤の中にあってこのパロットのもじゅうぶん存在意義をアピールしうる有力盤だと思います。

ディドーのバンイブラ以外の歌い手は、わたしははじめて名前をきく人ばかりです。ブックレットによると、エネアスのベン・パリーや魔法使いの女を歌うヘイデン・アンドルーズ(男)は俳優その他としても活躍するマルチタレントだそうです。第3幕はじめの水夫の歌もいかにも酔っぱらいが歌ってるように歌ってるし。こういう歌い手たちの起用や歌わせ方が良いほうに作用して、バロック・オペラによくある持って回った感じが全然なくて、たったいま書かれたばかりの舞台作品ででもあるかのような臨場感が生まれています。

器楽も合唱も最少編成。弦5部はすべて各パート1人。これに通奏低音のテオルボ/ギターとハープシコードが入って、それから楽譜にはないパーカッションや効果音(鳥の音や雷の音)が加えられています。ついでに言っときますとコンサート・マスターはマンゼ。そして合唱は上から4・2・2・2の10人編成。でも聴いていて人が少なすぎる感じはありません。この人数でちょうどいい。

ディドーのバンイブラは、この人はパロットを買うとたいていもれなくついてくるのでわたしはそうとう聴いてます。ハスキーな声質なのでこの役にはどうかなあと不安あったんですが、悪くないです。スレンダーで、セレブな感じで、現代的な雰囲気の女王さまになってます。ベリンダを歌うジャネット・ラックスというソプラノもいいです。

これはパロット2回目の録音。1回目はCHANDOSへの録音でディドーはカークビー、ベリンダはネルソンでした。