コリアンダー 6
※ セイント・アントニィズ・ファイアーとは、皮膚の水泡、焼かれるような痛み、四肢の壊死などの症状が現れる病気に対して9世紀につけられた名前です。ライ麦パンの原料のライ麦にしばしば寄生する糸状菌(エンドファイト;endophyte)が作り出す麦角アルカロイドによる中毒は、ヨーロッパ中世ではしばしば蔓延しました。足や手の血管が収縮して血液の循環が悪くなり、赤く脹れたり痛んだりした後、重症になると壊疽を起こして炭のように黒くなって崩れ落ちます。妊婦は死産し、脳神経系に作用すると幻覚や痙攣などが現れます。人々はその症状から「聖アントニウスの火に焼かれる病」と呼びました。聖アントニウス会の修道士が麦角中毒の治療術に優れるとされたことから、ヨーロッパで麦角中毒は「聖アントニウスの火」 (St. Anthony's fire) とも呼ばれてきました。これは聖アントニウス※に祈ると治癒できると信じられてきたからです。
ブリューゲル(1525-1569)の” 謝肉祭と四旬節の喧嘩“の画面を4つに割った、右下の画面中央には麦角中毒で手足を失った人物が、その傍らには、病の原因となったであろうライ麦パンが描かれています。施しを受けているにもかかわらずその人物は虚ろで不安に満ちた形相をし、幻覚を見ているようです。
謝肉祭と四旬節の喧嘩 Pieter Bruegel the Elder 1559
画面中央の少し下の左側に、でっぷりと肥えたビール腹の男がビールの樽の上に乗って串に刺して肉を掲げ、これから始まるレント(四旬節)を代表するやせ細ったサンマに似た魚を板の上にのせた男と対峙している。引き車の上にはライ麦パンとプレッツェルがのっている。食料の少ない寒く厳しい冬に向けての季節がこれから始まります。
St. Anthony of Padua、エル・グレコ( El Greco ; 1541 – 1614 ) 画
※ 聖アントニウス
聖パドヴァのアントニオ( Sant'Antonio di Padova、1119-6/13/1231 )、カトリック教会で、失せ物、結婚、縁結び、花嫁、不妊症に悩む人々、愛、老人、動物の聖人。
つづく。
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