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ALGOの塾長日記~愚公移山~

-学習塾方丈記-

学習指導の由なしごとを
    徒然に綴ります。

二つを繋ぐもの

2007年05月21日 | 中学受験 行雲流水録
とてもとても美しい夕日を見ました。この美しさをどう文に表しましょうか。今年はじめての雪を見ました。この雪を書きあらわすのに、一番ぴったりの言葉はなんでしょう。文を書くとき、いちばん楽しくいちばん苦労する瞬間です。

いろんな人がぴったりの言葉を一生懸命考え、工夫をこらしてきました。たとえば、太宰治の「千代女」という短い小説に、こんな一節があります。主人公の女の子に、作文を教えている先生の言葉です。
「雪がざあざあ降るといってはいけない。雪の感じが出ない。どしどし降る、これもいけない。それではひらひら降る、これはどうか。まだ、足りない。さらさら、これは近い。だんだん、雪の感じに近くなってきた……いや、まだ足りない」

この先生は、自分はたいして作文がうまくないのに、無理矢理この女の子の家に来て、おしかけ家庭教師をしているのです。そのせいか、かなり苦労しているようです。その点、小林一茶という俳人は、みごとに雪を表現しています。
   「うまそうな 雪が ふうわりふわりかな」
どうです? ぼたん雪が空から落ちてくるさまが、ありありと目にうかぶような表現です。「うまそうな」という言葉が、とても心に響いてきます。

他にも二つほど、心に残る表現を紹介します。松谷みよこの童話、「モモちゃんとプー」の中の一節です。
「あかちゃんは大きな口をあけ、なみだをふりとばして、おう おう おう れいいれいい れいい となきだしました。」
はじめてこの文章を読んだとき、私は首をかしげました。赤ちゃんは、「おぎゃあおぎゃあ」と泣くはずです。「れいい れいい」なんて泣くわけはありません。ところが、自分の家に子どもができて、驚きました。たしかに「れいい れいい」と泣くのです。松谷みよこは、昔からある「おぎゃあ」という表現にまどわされず、自分の心と耳で赤ちゃんの泣き声を聞いて、みごとに書き表していたのです。

もう一つ、日本を代表する詩人、谷川俊太郎の詩を紹介します。
    「人類は小さな球の上で 眠り起きそして働き
           ときどき火星に仲間をほしがったりする
     火星人は小さな球の上で
           何をしているか 僕は知らない 
     (あるいは ネリリし キルルし
           ハララしているのか)
     しかし ときどき地球に仲間を 欲しがったりする
              それは まったく たしかなことだ」

谷川俊太郎さんは、ふざけているのでしょうか。いいえ、そうではないと思います。火星人が火星の上で、私たちに計り知れない、何か不思議なことをしている。それをどう言葉で表現するのか。やはり、ネリリし、キルルし、ハララしている というのが、一番ぴったりするような気がしたのでしょう。想像力と言葉、この二つを繋ぐものは瑞々しい感性なのだと、いつも教えられます。

澪標
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