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ALGOの塾長日記~愚公移山~

-学習塾方丈記-

学習指導の由なしごとを
    徒然に綴ります。

『読解力』調査

2007年05月17日 | 中学受験 行雲流水録
【国際学習到達度調査(PISA2000/2003 ※PISAの調査は高校1年生を対象にした調査)】がきっかけとなり、日本の高校生の『読解力』低下が話題になったことを記憶されている方も多いのではないでしょうか。さらに、PISA調査では、日本の高校生の『読解力』調査の平均得点が2000年の8位(522点)から2003年では14位(498点)に低下していました。しかし、2000年の調査では、こうした学力以外のことも調査されていて、「趣味で読書をすることはない(2000年調査/2003年は同じ調査項目はありません)」と答えた日本の高校生が実に55%もいたと示しています。ちなみに、これは参加32ヵ国中、最も高い割合でした。。『読解力』の平均得点が参加国中1位だったフィンランドの場合は22%でしたから好対照をなしています。

確かに順位が低下したのは問題ですし、点数や順番がどうだったかは気になるところです。しかし、むしろ重要なのはそうしたことの背景にあることでしょう。参加国全体から見れば、日本の高校生の特徴の1つは、「趣味で読書をすることはない」と答えた高校生が半数以上もいることで、日本を覆う効率主義・結果第一主義の弊害が大きく影響しているのかもしれません。

もう少し子ども全体の読書活動を調査した結果を見てみることにします。【親と子の読書活動等に関する調査(2005年文部科学省)】で、小学2年生、小学5年生、中学2年生、高校2年生が1ヶ月に読んだ本の数が「0冊」「1冊」「2冊」の割合、つまり1ヶ月に読んだ本の数が少ない子どもの割合を見ると、学年が進むにしたがって増加することが示されています。特に「0冊」は、小学2年生では2.0%だったのが、高校2年生では26.2%となります。実に高校生の4人に1人は1ヶ月の間に1冊の本も読んでいないことになります。このことが先ほどのPISA調査の結果に現れたと推測できます。このような結果を見ると、「日本の子どもたちは……」と言いたくなってしまいます。

しかし、ここにもっと考えさせられる1つのデータがあります。それは【保護者が1ヶ月に読んだ本の数】。このデータは調査を受けた子どもたちの保護者が1ヶ月に読んだ本の数を示しています。これをよると、割合が高校生の場合とほとんど変わらないのです。つまり、高校生と同じように保護者の方たちもほとんど読書をしていない。残念ながら、大人たちの読書の実態を国際比較したデータはありませんが、もしそうした調査があれば、かなり厳しい結果が予想されます。果たして、読書は子どもの時だけすればよいものでしょうか。もし、大人たちが読書や本の価値をあまり認めていないのであれば、子どもたちが大人に近づくにしたがって読書をしなくなるのは当然のことかもしれません。

齋藤孝氏は「読書力」という著書の中で次のように述べています。『日本ではいつのまにか、本は、「当然読むべき」ものから「別に読まなくてもいい」ものへと変化してしまった。…(中略)…自分の生きている社会の存立基盤を考えると、読書を核とした向上心や好奇心が実に重要なものだと思えてくるのである。私は、自分自身の自己形成が読書に大きく負っていることを認識している。自分が考えるときに、読書によって培われた思考力が生かされているのを感じる。対話をするときにも、読書経験が大きくプラスに働いていると日々感じている。』

こうした齋藤氏の指摘は、たとえば、「この世に本がなかったとしたら」と考えてみると、さらにわかりやすくなるでしょう。私ごとで恐縮ですが、私の小さい頃の愛読書は、まだ始まったばかりの訪問販売で買ってもらった学研の学習事典(この場合は正確には「読書」とは言わないかもしれませんが)でした。私の育った島には、小説や雑誌など売れる本中心の品揃えの小さな本屋が1軒だけしかありませんし、本はホントに高価でした。したがって、本といえば学校の図書室のわずかなものが全ての時代、苦しい家計から24ヶ月の月賦で買ってもらった21冊の事典は、なにものにも代え難い宝物に思えました。物語の世界の面白さから離れ、事実を示す文字と図と写真を飽きることもなく毎日見ていました。私にとってあの学習事典は好奇心の源だったと思いますし、熟読や調べものすることの楽しさを教えてくれたような気がします。大人になってから、自分の人生経験だけでは得られない多くの知識を本を頼りに広げられたとも思います。恐らく、この世に本がなかったら、今の私とは全く別の人間になっていたでしょう。

みなさんは本をどのような目的で読まれますか。まず、私たち自身たちが「読書」の価値を問い直し、そのことを自分の姿や言葉を通して子どもたちに伝えていきたいものです。そうしたことが、ひいてはPISA調査で見られた「読解力」低下の解決にもつながっていくのではないか、とも思うのですが…。

澪標
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