ALGOの塾長日記~愚公移山~

-学習塾方丈記-

学習指導の由なしごとを
    徒然に綴ります。

行為の内に潜むもの

2010年09月22日 | 中学受験 行雲流水録
私たちは、砂漠に緑をというと無条件に良いことと受け留めがちですが、安易な賛意は禁物のようです。なぜなら、樹木は地中深くの水分を根が吸い上げ、葉から蒸散させます。このため乾燥地帯で植樹すると、裸のままの土壌より多くの水が奪われてしまうことがあり、乾燥地帯・半乾燥地帯では水が特に貴重なのに、地域にとって利用可能な水がかえって減少するという皮肉な結果を招きかねないからです。

現在、中国で進められている『退耕還林』…黄河中流域で、作物の栽培や放牧をあえて制限し、植林するという政策…は、土壌流出を防ぎ、洪水の危険性を減らす狙いで行われています。しかし、この施策が、黄河の水が下流部で干上がる『断流』の一因にもなっていると考えられているようです。

今、発展途上国は増え続ける食糧問題の改善や生活の安定のため、大規模な開墾が実施しています。しかし、実はここにも大きな問題が隠れています。作物は先程述べたように根を通じて地から水分を吸い上げます。このとき同時に土中に薄く広く敵らばっている塩分を地表まで集めてしまうのです。皮肉なことに、農耕そのものが歳月を重ねるうちに、農地を作物に適さない土壌に変えてしまうのです。

実際に、古代メソポタミアでは塩類集積が進み、500年間で穀物生産が半分まで減り、これが文明衰退の一因と考えられています。日本では多量の雨水が塩類を洗い流してしまうので、この種の被害が報告されていませんが、世界では深刻な問題となっているのです。人間の歴史は、農耕を始めて以来、洪水・灌漑・干魃・塩害など、水とどう付き合うかを軸に展開してきました。まさに、水一匙の匙加減が文明を左右してきたのです。

よかれと思う行為がかえって思いもかけない結果をもたらすことは、実生活でもよくあることです。私たちは、そんな中で日々判断を下し、行動していかねばなりません。判断を下しつつ、表面上の影響はよしとしつつも、その行為の内に潜むものを考える視点が求められていることを忘れてはならないでしょう。


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