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宇宙を素粒子物理学で解明する面白さ

2012年05月26日 21時11分54秒 | Weblog

 「宇宙は何で出来ているのか?」「宇宙はどのように始まったか?」「宇宙に終わりはあるのか?」「宇宙の果てはあるのか?」「宇宙の外の世界はあるのか?」と言った疑問を多く持つ私たち。宇宙については、多くの謎があるのも確かである。宇宙ステーションに長期滞在した若田光一、イトカワという小惑星に接触し構成物を持ち帰ってきた「はやぶさ」、宇宙空間をはるか遠くまで見ることができるハッブル宇宙望遠鏡やきぼう宇宙望遠鏡、アメリカ・サンディエゴにあるパロマ電波望遠鏡等、宇宙を観測する手段が多くなってきている。
 宇宙は本当は何で出来ていて、どんな状態であり、今後どうなっていくのであろうかと言った疑問に、明快に答えてくれる本がある。この本が、村山斉著「宇宙は何でできているのかー素粒子物理学で解く宇宙の謎ー」(幻冬舎新書)である。村山斉は、東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)に在籍するリーダー的な研究者であり、宇宙を天文学ではなく素粒子物理学と数学を応用して解き明かそうとする人物なのである。この本を読み終えて、感動した。なるほど、従来、宇宙につては天文学が解明の役割を担う学問分野だと思っていたが、宇宙の構成物をミクロの世界から解き明かす素粒子物理学の素晴らしさを実感した。かつて、ガリレオが「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」と言った。惑星や恒星の世界が数学で書かれているという奇妙な話は、凡人では理解できない。しかし、色んな現象は、数学的な理論や物理学の理論で説明され得るのである。ニュートンが万有引力を発見した契機は、「どうして月は地上に落ちてこないのに、りんごは落ちるのだろう?」という疑問解明がスタートだった。今世紀になって、宇宙の始まりは「ビッグバン」という強大な爆発によってできたことも分かっている。その時から、宇宙は既に137億年の歴史を刻んでいる。しかも、まだ宇宙は膨張し続けているのである。しかも、加速度を増して・・・。
 さて、宇宙の話なのに、何故素粒子の話が出てくるのか、という部分から話は始まる。主にそれは、ビッグバンが関係している。COBEという衛星によって観測された、マイクロ波宇宙背景放射の異方性によって、宇宙がビッグバンから始まったことはほぼ証明された。そしてビッグバンが起こった頃というのは、宇宙は極小のサイズ、つまり素粒子のレベルだったわけです。著者も元々は素粒子物理学で学位を取ったようですが、今は宇宙論の研究をしている。また本書では、相対性理論や量子論なんかについても、本書の流れに必要な部分だけを抜き出して、その概略を随時説明している。本書の主眼は相対性理論や量子論にはないので、あくまでも補足的な部分の説明になりますが、それらについてごく入り口を大雑把にイメージしたい、ということであれば、なかなか分かりやすい説明になっていると思う。
 そして話は第一の命題、「宇宙はどんな物質で出来ているのか」という話になる。ここで説明されるのが、20世紀物理学の金字塔と言ってもいい、「標準模型」と呼ばれる理論である。これは、物質の最小単位が原子ではなく実はクォークと呼ばれるものであり、それらクォークの様々な性質を分類、あるいは組み合わせることによって、様々な事柄に説明がつく、というもの。トップクォーク、ダウンクォーク、ニュートリノといった物質、スピンや色と言った性質を持つものがある。
 第二の命題である「物質にどんな力が働いているのか」という部分。ここでは四つの力(重力・電磁気力・強い力・弱い力)について説明される。その説明の基本となっているのが標準模型である。それぞれの力は、物質間でそれぞれの力に対応した粒子がキャッチボールされることで説明される。その後で、ノーベル賞を受賞した小林・益川理論と南部理論について話が進んでいく。弱い力はパリティ保存則を破る、という、とんでもない現象が見つかり、これをどう説明すべきか物理学者は頭を悩ませました。その中で小林・益川理論は、クォークは第二世代までではなく、第三世代以上あるはずだ、そうだとすればパリティ保存則の破れを説明できる可能性がある、と説明した。そして実際それが実験で証明されたため、小林・益川理論はノーベル賞を受賞することになった。また、ノーベル賞を受賞した南部理論の南部陽一郎は、独創的なアイデアを相当昔から思いついていた凄い人であることも説明された。
 現在、宇宙空間にある天体を全て集めても、宇宙エネルギーの0.5%にしかならない。そして、ニュートリノという物質を合わせても、1%程度。それ以外の99%は、何で出来ているのか?その1つが「暗黒物質(ダークマター)」といわれる物質であり、23%を構成する。その残りの76%は、何で出来ているのかというと「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」と呼ばれているものなのです。ここで゜暗黒の゜と言っている意味は、それらがなんの物質(物質ではないかも知れない)で構成されているのかがわからないのです。しかし、この暗黒物質やエネルギーは、アイシュタインの相対性理論の中で解明された、光が重い重力を持つもののそばを通過するとき屈折するという理論で測定できるのです。何が構成物質であるかはわからないが、膨大なエネルギーを持つ何かが存在することが、時空の歪みの測定で観測できるのである。今後の科学の進歩で、この暗黒物質が何で出来ているかを解明していけるのだろうと思うのです。
 

<内容>

序章 ものすごく小さくて大きな世界
宇宙という書物は数学の言葉で書かれている
10の27乗、10のマイナス19乗の世界
世界は「ウロボロスの蛇」
第1章 宇宙は何でできているのか
リンゴと惑星は同じ法則で動いている
リンゴの皮の部分に浮かぶ国際宇宙ステーション
「4光時」の冥王星まで20年かかったボイジャー
太陽光を分析すると太陽の組成がわかる
「発見できないが存在する」と予言されたニュートリノ
ニュートリノは毎秒何十兆個も私たちの体を通り抜ける
すべての星を集めても宇宙全体の重さの0・5%
宇宙全体の23%を占める「暗黒物質」
宇宙の大部分を占めるお化けエネルギーとは
ビッグバンの証拠になった太古の残り火
宇宙は加速しながら膨張し続けている
こんなにわからないことがあるとわかった21世紀
第2章 究極の素粒子を探せ!
皆既日食で証明されたアインシュタイン理論
なぜ見えない暗黒物質の「地図」がつくれるのか
遠くの宇宙を見るとは昔の宇宙を見ること
光も電波も届かない、宇宙誕生後38万年の厚い壁
物質の根源を調べることで宇宙の始まりに迫る
電子の波をぶつけて極小の世界を観測する
光は波なのか粒子なのか - 量子力学の始まり
原子核のまわりを回る電子は波だった!
電子の波長を短くして解像度を上げる電子顕微鏡
加速器で誕生直後の宇宙の状態をつくりだす
私たちの体は超新星爆発の星くずでできている
原子が土星型であることを明らかにしたラザフォード実験
これ以上は分割できない素粒子、クォーク
「標準模型」は20世紀物理学の金字塔
第一世代のクォーク、「アップ」と「ダウン」
誰も探していないのに見つかってしまった謎の素粒子
クォークには3世代以上あると予言した小林・益川理論
物質は構成せず「力」を伝達する素粒子もある
第3章「4つの力」の謎を解く - 重力、電磁気力
重力、電磁気力、強い力、弱い力
力は粒子のキャッチボールで伝達されると考える
質量はエネルギーに変えられるという大発見
「質量保存の法則」の綻びにブリタニカ執筆者も興奮
性質は同じで電荷が反対の「反物質」
毎秒50億キロをエネルギーに変える太陽の核融合反応
不確定性関係 - 位置と速度は同時に測れない?
エレクトロニクス技術として実用化された「トンネル現象」
コペンハーゲン解釈 - 神はサイコロを振るらしい
同じ場所に詰め込めるボソン、詰め込めないフェルミオン
原子と原子は電磁気力でくっついている
電磁気力は粒子が光子を吸ったり吐いたりして伝わる
電磁気力の届く距離も不確定性関係で決まる
物理学史上最も精密な理論値
第4章 湯川理論から、小林・益川、南部理論へ - 強い力、弱い力
未知の粒子の重さまで予言していた湯川理論
湯川粒子はアンデス山頂で見つかった
新粒子発見ラッシュで研究者たちは大混乱
「なぜか壊れない粒子」の謎をどう説明するか
陽子の寿命は宇宙の歴史よりとんでもなく長い
思いつき自体がストレンジなストレンジネス保存の法則
陽子・中性子はクォーク3つ、中間子はクォーク2つ
3つの色がついている? 単独では取り出せない?
クォーク理論を裏付けた「11月革命」
強い力を伝えるのはグルーオン
クォークを取り出せないのはグルーオンの色荷のせい
クォークが元気だから体重が増える?
太陽が燃えているのは弱い力のおかげ
月とTGVまで発見してしまった大型加速器
弱い力を伝えるのはWボソンとZボソン
パリティを保存しない「タウ-シータの謎」
「右」と「左」には本質的な違いがあった!
「CP対称性の破れ」を説明した小林・益川理論
「クォークは2世代でなく3世代以上ある」ことが肝心
「三角形」をめぐる日米の激しい実験競争
素粒子に質量を与える? 正体不明のヒグス粒子
右利きが多いのは「自発的対称性の破れ」?
第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎
ゴールに近づいたと思ったらまた新たな謎
暗黒物質がなければ星も生命も生まれなかった
「超ひも理論」は夢の「大統一理論」を実現するか?
本当の時空は10次元まである?
暗黒物質検出、一番乗りはどこか?
反物質のエネルギーは0・25グラムで原爆並み
物質は10億分の2の僅差で反物質との生存競争に勝利
イチゴ味がチョコ味に? ニュートリノ振動の正体
東海村から神岡へニュートリノビームを飛ばせ!
収縮? 膨張? 宇宙に終わりはあるのか?
宇宙の将来をめぐる仮説は「何でもアリ」の状況
一人一人の人生とつながる素粒子物理学

        


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