「宇宙は何で出来ているのか?」「宇宙はどのように始まったか?」「宇宙に終わりはあるのか?」「宇宙の果てはあるのか?」「宇宙の外の世界はあるのか?」と言った疑問を多く持つ私たち。宇宙については、多くの謎があるのも確かである。宇宙ステーションに長期滞在した若田光一、イトカワという小惑星に接触し構成物を持ち帰ってきた「はやぶさ」、宇宙空間をはるか遠くまで見ることができるハッブル宇宙望遠鏡やきぼう宇宙望遠鏡、アメリカ・サンディエゴにあるパロマ電波望遠鏡等、宇宙を観測する手段が多くなってきている。
宇宙は本当は何で出来ていて、どんな状態であり、今後どうなっていくのであろうかと言った疑問に、明快に答えてくれる本がある。この本が、村山斉著「宇宙は何でできているのかー素粒子物理学で解く宇宙の謎ー」(幻冬舎新書)である。村山斉は、東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)に在籍するリーダー的な研究者であり、宇宙を天文学ではなく素粒子物理学と数学を応用して解き明かそうとする人物なのである。この本を読み終えて、感動した。なるほど、従来、宇宙につては天文学が解明の役割を担う学問分野だと思っていたが、宇宙の構成物をミクロの世界から解き明かす素粒子物理学の素晴らしさを実感した。かつて、ガリレオが「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」と言った。惑星や恒星の世界が数学で書かれているという奇妙な話は、凡人では理解できない。しかし、色んな現象は、数学的な理論や物理学の理論で説明され得るのである。ニュートンが万有引力を発見した契機は、「どうして月は地上に落ちてこないのに、りんごは落ちるのだろう?」という疑問解明がスタートだった。今世紀になって、宇宙の始まりは「ビッグバン」という強大な爆発によってできたことも分かっている。その時から、宇宙は既に137億年の歴史を刻んでいる。しかも、まだ宇宙は膨張し続けているのである。しかも、加速度を増して・・・。
さて、宇宙の話なのに、何故素粒子の話が出てくるのか、という部分から話は始まる。主にそれは、ビッグバンが関係している。COBEという衛星によって観測された、マイクロ波宇宙背景放射の異方性によって、宇宙がビッグバンから始まったことはほぼ証明された。そしてビッグバンが起こった頃というのは、宇宙は極小のサイズ、つまり素粒子のレベルだったわけです。著者も元々は素粒子物理学で学位を取ったようですが、今は宇宙論の研究をしている。また本書では、相対性理論や量子論なんかについても、本書の流れに必要な部分だけを抜き出して、その概略を随時説明している。本書の主眼は相対性理論や量子論にはないので、あくまでも補足的な部分の説明になりますが、それらについてごく入り口を大雑把にイメージしたい、ということであれば、なかなか分かりやすい説明になっていると思う。
そして話は第一の命題、「宇宙はどんな物質で出来ているのか」という話になる。ここで説明されるのが、20世紀物理学の金字塔と言ってもいい、「標準模型」と呼ばれる理論である。これは、物質の最小単位が原子ではなく実はクォークと呼ばれるものであり、それらクォークの様々な性質を分類、あるいは組み合わせることによって、様々な事柄に説明がつく、というもの。トップクォーク、ダウンクォーク、ニュートリノといった物質、スピンや色と言った性質を持つものがある。
第二の命題である「物質にどんな力が働いているのか」という部分。ここでは四つの力(重力・電磁気力・強い力・弱い力)について説明される。その説明の基本となっているのが標準模型である。それぞれの力は、物質間でそれぞれの力に対応した粒子がキャッチボールされることで説明される。その後で、ノーベル賞を受賞した小林・益川理論と南部理論について話が進んでいく。弱い力はパリティ保存則を破る、という、とんでもない現象が見つかり、これをどう説明すべきか物理学者は頭を悩ませました。その中で小林・益川理論は、クォークは第二世代までではなく、第三世代以上あるはずだ、そうだとすればパリティ保存則の破れを説明できる可能性がある、と説明した。そして実際それが実験で証明されたため、小林・益川理論はノーベル賞を受賞することになった。また、ノーベル賞を受賞した南部理論の南部陽一郎は、独創的なアイデアを相当昔から思いついていた凄い人であることも説明された。
現在、宇宙空間にある天体を全て集めても、宇宙エネルギーの0.5%にしかならない。そして、ニュートリノという物質を合わせても、1%程度。それ以外の99%は、何で出来ているのか?その1つが「暗黒物質(ダークマター)」といわれる物質であり、23%を構成する。その残りの76%は、何で出来ているのかというと「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」と呼ばれているものなのです。ここで゜暗黒の゜と言っている意味は、それらがなんの物質(物質ではないかも知れない)で構成されているのかがわからないのです。しかし、この暗黒物質やエネルギーは、アイシュタインの相対性理論の中で解明された、光が重い重力を持つもののそばを通過するとき屈折するという理論で測定できるのです。何が構成物質であるかはわからないが、膨大なエネルギーを持つ何かが存在することが、時空の歪みの測定で観測できるのである。今後の科学の進歩で、この暗黒物質が何で出来ているかを解明していけるのだろうと思うのです。
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