阿智胡地亭のShot日乗

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映画「父と暮らせば」を観ました。   シリーズ黒木和雄監督の原爆三部作と遺作 その1

2017年01月06日 | 音楽・絵画・映画・文芸

父と暮らせば」
2005年1月31日 作成  発表時のタイトルは「宮沢りえと役者の力」

神戸朝日ビルデイングの地下にある映画館に「父と暮らせば」という映画を見に行きました。
今回見た映画の主演女優は宮沢りえでした。「たそがれ清兵衛」という映画を見てから、彼女はタレントではなく役者だと思うようになっていました。
そして今回「父と暮らせば」の彼女を見て、前よりもっと強く、この人は凄い役者になっていると思いました。
「たそがれ清兵衛」を見た後、彼女の事はそれまでは、芸能三面記事的なことしか知らなかったなあと思いました。
それはリエママと言われている母親のいうままに操られているタレントであるとか、何かのストレスで大痩せしたとかいうようなことです。
「たそがれ清兵衛」での彼女は役に成り切っていて、その役柄の人間そのものがスクリーン上で動いていました。

吉永小百合という映画女優は随分息が長い女優さんですが、彼女はどんな役を演じても、スクリーンに映っているのはやはり吉永小百合です。
しかし宮沢りえはスクリーン上で宮沢りえではなく、その役柄の人でした。

「いい映画だったから、見て来たら」とあいかたから言われて、「父と暮らせば」という映画を殆ど予備知識がないままに見に行きました。
登場人物はたった3人で、父親役の原田芳雄とその娘の役の宮沢りえ、もう一人大学助手役の浅野忠信という俳優さんでした。
時代と場所の設定は昭和23年の広島市内です。映画の初めから終わりまで父娘のセリフは、全部広島弁と言うことは事前に聞いていました。
広島言葉も私が好きなことを知っているので、そのこともこの映画を薦めてくれた理由の一つのようでした。

 たった3年間広島で単身生活をしただけの私の耳ですから、判別能力は大したことはありませんが、私には役者の使う広島言葉は何の違和感もなく、
広島に生まれ育った人が終始喋っているように思えました。アクセントも、そしてセリフにはもっと重要だと思うリズムも完璧でした。
(最後に流れるクレジットロールで確認したら、広島方言指導になんと3人の人の名前が出ていました。監督がセリフ回しに完璧を期し、役者もそれに応えたなと思いました。)
ピカの爆風で倒れた屋根の下に父親が埋まり、猛火が迫る中、彼を必死で救おうとして逃げない20歳の娘を叱咤して、逃げさせた父親。
傷ついた父親を見殺しにして自分だけが助かったと自分を責め続ける娘。
「うちはしあわせになったらいけんのじゃ」と彼女のセリフにありました。
 そのシーンを見ると同時に、10年前に神戸のあちこちで同じような目にあった人が沢山いたことが頭に浮かびました。
元々がもう何度も上演された舞台劇の映画化であるということや、出演者がほぼ親子二人だけと言うこともあり、
セリフは一つ一つが長くて緊張感がありました。それを宮沢りえは美津江という役柄の人に成り切って喋りました。
スクリーンの上には美津江しかおらず、宮沢りえはどこにもいませんでした。
映画が始まってすぐに、私の前から俳優そのものは消えて、今このような人達が目の前にいると思って見ていました。
勿論プロデユーサーと監督がいなければ、また原作と脚本がなければ映画は出来ませんが、引き込まれる映画や舞台には
役者の力も本当に大きいと強く思いました。
広島で勤務していたある夏の暑い日に、たまたま通りかかったビルの壁に銅板がはめ込まれているのに気付き、何気なく読んだら、
「この場所の真上560mの高さで原子爆弾が炸裂しました」と書いてありました。思わず青い空を見上げました。
「その瞬間、爆心地の温度は太陽の表面温度6,000度の2倍の12、000度になりました」とも。
声高に言うこともなく、何も押し付けることもない。ただ自分と同じような人たちがあの瞬間まで生きていて死んだ、
そしてその経験を伝えずにまだ生きている人もいることを映像で伝える。映画というメデイアも凄いけど、
そのことを全身で伝えきる役者というのも凄い職業だなあ、そしてあの役柄になりきった宮沢りえという役者は、
どうやったらあんなことが出来るのだろうと思いました。 

 

父と暮せば  (引用元:シネ・ヌーヴォのサイトから)。

 

父と暮せば

2004年/衛星劇場+バンダイビジュアル+日本スカイウェイ+テレビ東京+メディアネット+葵プロモーション+パル企画/35ミリ/ビスタ/カラー/100分/企画:深田誠剛/製作:石川富康、川城和実、張江肇、金澤龍一郎、松本洋一、鈴木ワタル/監督:黒木和雄/原作:井上ひさし/脚本:黒木和雄、池田眞也/撮影監督:鈴木達夫/美術監督:木村威夫 /音楽:松村禎三/録音:久保田幸雄/照明:三上日出志/美術:安宅紀史/編集:奥原好幸/VFXプロデューサー:大屋哲男/助監督:水戸敏博 ■出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信

♦『TOMORROW/明日』で長崎原爆をみつめた黒木が、広島原爆をテーマに描いた傑作。井上ひさしの傑作戯曲「父と暮せば」の映画化。広島の原爆投下から3年、生き残った後ろめたさから幸せになることを拒否し、苦悩の日々を送る主人公・美津江。そんな娘を案じ亡霊として舞い戻った父・竹造との、励まし、悲しみを乗り越え、未来に目を向けるまでの4日間を描いた感動作。『TOMORROW/明日』『美しい夏キリシマ』とともに「戦争レクイエム」三部作と評された。黒木自らが「原節子の再来だ!」と絶賛した娘・美津江を演じた宮沢りえが素晴らしい。


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