阿部ブログ

日々思うこと

イギリスの国防力見直し~ドラスチックな兵力削減と核戦力の抜本的見直し~

2011年11月27日 | 日記
国家財政が厳しいのは何もギリシャやスペイン、イタリアなどだけではない。イギリスの国家財政の状況も極めて厳しいものがある。
そのような環境下で米国と共に対テロ戦争を共に戦い、今もイギリスはアフガニスタンに派兵しているがこれらの出費も莫大であり、維持が難しい。これが為、金くい虫の軍隊と戦略核兵器の更新問題が浮上しており、様々な議論が巻き起こっている。
特にイギリスが今後も核保有国でありつづけるのか?と言う根本的な問いかけが、危殆に瀕した国家財政問題のあおりを受けて表面化する事態となっている。

そもそもイギリスは、私から見ると核軍縮を押し進めてきた国である。
冷戦中のイギリスは、潜水艦発射弾道ミサイルの核弾頭シェバラインと、戦術核兵器WE-177爆弾の二本柱で核戦力体系を構築運用していた。
旧ソビエト崩壊による冷戦終結に伴い、防衛政策を根本的に見直しする流れで戦術核WE-177は、1998年の「戦略防衛見直し」(Strategic Defense Review:SDR)の方針に沿い全て廃棄した。

最近回顧録が出てたブレア率いる労働党政権は、2006年戦略核兵器トライデントを更新し、今後も核保有国のステイタスを維持することを決定。2010年の保守党・自由民主党連立政権は、原子力潜水艦艦隊の延命を行いつつ、戦略核ミサイル・トライデントの更新を行うと発表。但し最終決定がなされるのは2016年である。

このトライデント更新問題が殊更に重要なのは、今回更新が行われるとイギリスは少なくとも2060年代までは核保有国であり続けることとなる点。これは現役のヴァンガード級原子力潜水艦の後継原潜が就航するのが2020年代とすると退役する時期0年代以降となる。
もう少々詳しく書くと今の原子力潜水艦は退役まで燃料の交換が不要であり、20年から30年の運用に耐える優れものである。因みに燃料はウラン235とジルコニウムの金属合金燃料で、ウラン235の比率は97%以上と言う最高度に濃縮された燃料体である。
さて、イギリスの原子力潜水艦は現在4隻体制で、この原潜4隻を徹底に保守し2030年代まで運用延長可能にする。この間に次期原子力潜水艦隊の設計・開発製造を行い、1番艦は2028年に就航させ、順次後継艦を実戦配備する。(何隻が建造されるかは現状不明)この次世代原子力潜水艦も丁寧に保守しながら最大運用期間である2060年代まで実運用すると、必然的に搭載する戦略核ミサイル・トライデントも

まあ、机上ではこうなるが、実際の国際環境や軍事バランス、そして国家財政状況によっては、後述する空母アーク・ロイヤルのように直ちに退役、即ち核戦力破棄となる事態は十分に予測されうることだ。もし第二次世界大戦の戦勝国であるイギリスが核戦力を破棄することは、日本同じように米国の核の傘に入るか?(イギリス国内にも米軍基地が存在するので日本と同じ環境)、EU&NATOの軍事勢力の一部としてある一定の機能を果たしていくようになるのか?

上記の核戦力の保持云々以外でもイギリスの国防力見直しは進んでいる。

イギリス陸軍は、2020年までにドイツ駐屯軍の全て撤退させる予定で、しかも2015年までに約7000名の定員削減を行うとしており、全陸軍の総兵力は8万4000万人規模にまで縮小する。イギリスの近現代において最低の現有兵力である。実兵戦力の削減に伴い戦車の40%、重砲など重火器類の35%を削減する。またドイツ駐屯の戦闘1個旅団は解隊となる。

空軍は、現在のハリアー等の老巧戦闘機・攻撃機を廃棄し、最新型のF35とユーロファイター・タイフーンに換装する。またマルチロールタイプのトーネード開発計画は中止とし、国内外の空軍基地を閉鎖、更に今後5年間で5000名の人員を削減する。

イギリス海軍においてはは、空母アーク・ロイヤルの2014年退役を予定を繰り上げ、可及的速やかに退役させるとともに、現在建造中の新型空母2隻の内1号艦のみをアーク・ロイヤルの後継として実戦配備し、もう1隻は予備役として勾留される。空軍同様、海軍においても約5000名の人員を削減する。

人員削減は、陸海空3軍のみならず、国防省及び関連機関を含め今後5年をかけ定年退職など含め約3万2000人もの削減を行うとしており、このようなドラスティックな人員削減と核兵器を含む戦力装備の改廃などにより、今後の国土防衛力の低下は致し方ないとの論調が支配的ではあるが、軍事など先端衛産業の弱体化やイギリスの威信低下にに拍車をかけるのでは?との見方もあり、各方面から厳しい批判が寄せられている。


超弩級カルトムービー 『ロッキー・ホラー・ショー』  

2011年11月27日 | 日記
超弩級カルトムービー「ロッキー・ホラー・ショー」舞台版のチケットの販売が今日(11月27日)から始まった。

この企画は、"ロッキー・フリーク"の古田新太氏と「劇団☆新感線」の「いのうえひでのり」氏によるもので、構想20年をへてようやく日本上演となった。
当然の如く他の"ロッキー・フリーク"もはせ参じるこのロックミュージカルが、年末年始の日本各地で騒ぎを巻き起こすのは確実!

『"俺たちの聖典(バイブル)を見せてやるぜ!』とあるが、皆さん是非ご覧あれ!!
(俺は観にいかないけど:絶対ついて行けない...)

この「ロッキー・ホラー・ショー」の原作はリチャード・オブライエンで、動機は、これまた有名なロック・ミュージカルの「ジーザス・クライスト・スーパースター」のヘオロデ王役にキャスティングされていたが、理由不明なまま解役され、「ふてくされ」そして「キレタ」リチャードは、「だったら俺独自のロックミュージカルを作ってやる!」と意気込んで制作したのが、この「ロッキー・ホラー・ショー」である。

1975年にロンドンで初演。その後アメリカやオーストラリアなどでも上演され、喝采を浴びた。後に映画化されたが、これはヒットせず、閑古鳥が鳴く状況だったが、関係者は奇妙な事実に気づく。それは奇抜と言うか超弩級変態映画(ファンの皆さんには申し訳なし)にも関わらず、これまた超のつくリピーターを獲得することとなった。

ストーリーは、恩師に婚約の報告をしようと出かけたブラッドとジャネットの二人である、山中で車がパンクしてしまい、電話を借りようと近隣の古城を訪ねる。しかしその城では超変態パーティーが開かれていた。
パーティーの主役はフランクン・フルター。彼は凄い人間だ。いや科学者だ。だって人造人間を開発しているから。それも美男子ロボットで名前はは「ロッキー」。やるねー~

まあ、これ以降は実際の公演を観て欲しい。
俺は行かないけどね~



来年の通常国会に 『秘密保全法案(仮称)』 が提出されるが、一言述べたい

2011年11月24日 | 日記
国家的な機密情報の保全については、兼ねてから問題視されて来た長年の課題と言えるが、法律を作ったから解決する問題でもないが、無いよりはましか。。。
この法律は所謂「スパイ防止法」ではないので、この法律は問題なく国会を通過すると思われる。

海上自衛隊イージス艦の情報漏えい(2007 年)など、関連事案の発生を受けて、そのあり方が議論されてきたが、今、新たな段階を迎えようとしている。10 月7 日、政府は「政府における情報保全に関する検討委員会」(委員長・藤村修官房長官)を開き、来年の通常国会に、「秘密保全法案」(仮称)を提出する方針を確認した。
この検討委員会は、日本政府における情報保全に関し、秘密保全に関する法制の在り方及び特に機密性の高い情報を取り扱う政府機関の情報保全システムにおいて必要と考えられる措置について検討する事を目的とするもので、以下のメンバーで構成される。

■委員長  内閣官房長官
■副委員長 内閣官房副長官
■委員   内閣危機管理監
      内閣官房副長官補(内政担当)
      内閣官房副長官補(外政担当)
      内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)
      内閣情報官
      警察庁警備局長
      公安調査庁次長
      外務省国際情報統括官
      海上保安庁警備救難監
      防衛省防衛政策局長

この委員会の他、有識者会議があり、メンバーは、縣公一郎早稲田大学政治経済学術院教授、櫻井敬子学習院大学法学部教授、長谷部恭男東京大学大学院法学政治学研究科教授、藤原靜雄中央大学法科大学院教授、安冨潔慶應義塾大学法科大学院教授と言う面々。

この委員会の他、政府における『情報保全に関する検討委員会』があり、これも民間・学会の有識者をメンバーとして、日本政府の情報保全システムに関して様々議論を重ねている。当該委員会のメンバーは以下の通り。

 小池英樹  電気通信大学大学院情報システム学研究科 教授
 小屋晋吾  トレンドマイクロ㈱ 戦略企画室統合政策担当部長
 神成淳司  慶應義塾大学環境情報学部 准教授
 杉浦隆幸  ネットエージェント㈱ 代表取締役社長
 中村康弘  防衛大学校電気情報学群情報工学科 准教授
 羽室英太郎 警察大学校附属警察情報通信学校 情報管理教養部長

さて、この秘密保全法案は、秘密情報を漏えいした公務員に対する罰則を強化する内容で、情報管理や報道の自由との関係など、様々な観点から法案の意義や問題点をめぐる議論が行われるが、この法律の背景には、国家公務員における情報漏洩事件の多発がある。最近の機密漏洩に関する事案としては、以下のようなものがある。

(1)神戸海上保安部の海上保安官が、中国漁船による巡視船衝突事件に係る捜査資料として石垣海上保安部が作成したビデオ映像をインターネット上に流出させた。

(2)情報本部所属の一等空佐が、職務上知り得た「中国潜水艦の動向」に関する情報を、防衛秘密に該当する情報を含むことを認識した上で、部外者に口頭により伝達。

(3)在日ロシア大使館書記官から工作を受けた内閣情報調査室職員が、現金等の謝礼を対価に、職務に関して知った情報を同書記官に提供したものでシェルコノゴフ事件と呼ばれる。

(4)海上自衛隊三等海佐が、イージスシステムに係るデータをコンパクトディスクに記録の上、海上自衛隊の学校教官であった別の三等海佐に送付し、当該データが別の海上自衛官3名に渡り、更に他の自衛官に渡ったもので、これはMDA秘密保護法違反である。

(5)在日中国大使館駐在武官の工作を受けた日本国防協会役員(元自衛官)が、その求めに応じて防衛関連資料を交付。

(5)在日ロシア通商代表部員が、現金等の謝礼を対価に、防衛機器販売会社社長(元航空自衛官)に米国製戦闘機用ミサイル等の資料の入手・提供を要求。

(6)在日ロシア大使館に勤務する海軍武官から工作を受けた海上自衛隊三等海佐が、現金等の報酬を得て、海上自衛隊の秘密資料を提供したものでボガチョンコフ事件と呼ばれる。

(7)警視庁公安部外事2課の国際テロ対策に係るデータがインターネット上へ漏洩した事案。漏洩データには、警視庁職員が取り扱った蓋然性が高い情報が含まれていると認められている。

これら上記事案頻発している為、単なる国家公務員法などでの対応ではなく、国家機密の防護と漏洩防止を主眼とした法律と体制整備が必要と判断したものである。まあ、上記の事案など偶々発覚したもので氷山の一角の一角であろうが~

この手の法律の穴は色々あるが、ポイントの一つとしては、もう少々対象範囲を広げる必要がある点。国家公務員だけではなく、勿論地方公務員(警視以下の警察職員含む)や国会議員とその秘書(事務所関連者含む)、及び政党関係者も含むものでないと、漏洩は止まないだろう。
また本格的な国家機密防衛にはやはり、カウンターインテリジェンス機関の創設が望まれる。警察庁や警視庁公安部などでは対応に限界があるのは間違いなく、警察関係者は大いに反対するだろうが、ここは国家存立の観点から、一元化した組織、若しくは外事部門は警察に残し、国内防諜組織を組成するのが望ましい。

この際、公安調査庁は関連法案共々廃止し、警察外事部門への一部編入と国内防諜組織への編入を行うのが、人的リソースの有効活用となろう。
潜在的敵性団体・個人などの監視・偵察は、国内防諜組織が担う事とする。

防衛省の情報・対情報関連組織においては、警務部隊の隊内監視機能の強化と増強、及び調査隊の更なる充実、及びサイバー諜報戦への対応能力拡充を期することが殊更に重要である。特に情報関連隊員については、ICTによる防諜監視を実施することが必須。

まあ、色々述べたが、最低でも国家公務員を対象とする秘密保全の法律であれば、やはり人的かつICTを駆使した監視・偵察を行う組織は必須であろう。法律を作って罰則を強化しただけでは、情報の漏洩は今後も水面下で起こり続ける事は議論の余地がないだろう。
でも、そもそも国家として秘密など、この日本国・政府にあるのだろうか? 個人的には防衛計画なども公開してOKだと思う。どうせ計画通りには行かないから。それと人間の考えることはみな同じで、既に公開されている情報などで十分推測可能である。
秘密は持たないのが「第一原則」とし、秘密文書やデータも守秘期間が過ぎたら全部公開するべき。この意味での国家文書管理組織の重要性がわかるだろう。これは後日機会があれば書きたい。

キャノングローバル戦略研 『排他的経済水域における安全保障と産業活動』 ~その3~

2011年11月23日 | 日記
日本がリードする海底資源開発 ~海洋を産業フロンティアに~

大阪府立大学 大学院工学研究科 海洋システム工学分野・山崎哲生教授)

・海洋ポテンシャルを産業に如何につなげていくのかが課題。今後の日本における海洋産業を立ち上げ育成する事が大切。

・最近では忘れ去られているが世界に冠たる石見銀山、明治維新後の富国強兵を支えたのは国内石炭産業と金属鉱山の存在が大きい。また戦後復興をになったのは鉱業であった事は最初に述べておきたい。

・最近では、資源メジャーが海洋資源、特に枯渇が懸念されているベースメタル「銅」などの資源開発に関心を示している。

・海底資源開発を産業化するためには、全体の産業戦略があり、海外進出の戦略を立案する事が重要である。この時、誰が主体となるのか?従来だと日本の機器メーカーが主体となる場合が殆どであるが、言わば彼らはツールを提供するだけ、本来ならば海洋産業分野でビジネスをやる人・組織が主体とならねば本当の意義あるプロジェクトの展開は難しいだろう。これは省庁の縦割りもあり、これは実に頭の痛い問題である。 

・日本は特に海底熱水鉱床開発を促進するべき。またREE開発も積極的に投資&開発を行うべし。但し加藤先生が既に講演されているので、これ以上述べないが、違う視点からだとニュージーランドは農業国であるがゆえに中国依存度が高い燐酸など肥料の継続的な確保に懸念を示している。これが為、海山の団塊上で存在するリン酸塩鉱石を自国のEEZ内で採取する事を検討するなど興味深い取組みの事例も散見される。 

・近年銅の価格を見るとREE並みに高騰しており、これは高成長を続ける中国、インドなど新興国の需要が劇的に伸びている事に原因がある。

・このままだと銅不足による経済成長の足枷になるのではないかと懸念されている。実は「銅」は、ニッケル、コバルトに匹敵するレアメタルである。既に主要な銅山では採掘鉱石の0.5%~0.6%程度の低品位鉱を採掘せざるおえない状況にある。つまり需要増加が低品位化を促進している。

・鉱山開発においては、インフラ整備から必要な奥地、高地での開発によるコスト増が資源メジャーを悩ませている。また採算性を確保することもママならないため、経営にも多大な影響とリスクが存在する。今後の陸上における鉱物資源開発は採算ベースを確保するのは極めて難しい環境となるだろう。最近でもアフガニスタンで大規模な銅鉱床が発見され、中国が権益を確保したが、戦争状況にある他、インフラ整備からはじめないと駄目で多大な投資と時間が必要。それと採掘から発生する酸性廃棄物は現地に残地されており、その内顕在化する大きな問題である。

・日本EEZ域内における海底資源の推定賦存量は貨幣価値にして300兆円を超えると推定されている。しかしこれは海底資源を回収する意思と実行が伴わないと意味がない数字。特に海底熱水鉱床は世界第一位、コバルトリッチクラストは世界第二位である。特にコバルトリッチクラストは、REE資源埋蔵泥の近傍に存在するし、そもそもREEを含有してもいる。基本的に海底鉱物資源は、金属成分が多く、しかも多品種の元素を得ることができるので、非常に資源獲得手段として効率的である。

・極めて有望なポテンシャルを有する海底資源開発をオールジャパン体制でスピード感を持ってやること。そうしないと日本は茹で蛙になる可能性が高い。中国や韓国など着実に歩む亀にもそのうち追い越されるだろうし、危機感を募らせている。

・前述の通り海洋開発実施主体を明確にすること。また国としては「海洋開発庁」を新たに創設し予算要求と執行主体の一体化を図ること。更には培った海洋技術を海外で展開する事を念頭に事業を行い、EEZ域内は当然の事、太平洋での海洋産業覇権の確立を目指すべきである。

・意外な事にコバルトのマーケットは規模はREEより小さい。海底資源開発を行う際に金属の含有バランスを考えて採取量を定めるなど戦略方針が事前に必要で、特に陸上産出国を破綻させず、海洋資源開発をする方向性が一番望まれるやり方である。

・私見としては、①陸上の資源メジャーとの協調的開発を行うパターン、②圧倒的な産出量による現状の金属資源市場を破壊するパターン、③国内限定の公共事業としての展開パターンの3つが想定されるが、現実的には①だろうし、行く行くは海洋資源メジャーを目指す企業体を日本として生み出すのであれば国際協調は避けて通れない。

キャノングローバル戦略研 『排他的経済水域における安全保障と産業活動』 ~その2~

2011年11月22日 | 日記
「新しい海底鉱物資源レアアース資源泥の発見とその開発可能性」(東京大学工学系研究科 システム創成学専攻・加藤泰浩准教授)

・レアアース(以降、REE)の特性は磁気特性、光学的特性にある。これは原子の電子軌道・配置に起因するものであり、完全なREEの代替は難しいだろう。

・日本のみならず先進国などで必要とされるREEの内一番重要なポイントは、重希土類の開発である。特にイオン吸着鉱床は中国南部にしか存在しないため、完全なREEの脱中国が出来ない状況にある。中国も重希土類の輸出のためにカットグレードが500ppm程度のものも製品として輸出している。これはかなり無理していると言わざるおえない。特にREE生産においてはトリウム・ウランが濃集している為に深刻な環境汚染が広がっているだろうが、中国政府がこの手のデータを一切公開していない為、詳らかではないが放射能汚染は確実に存在する。

・オーストラリアの場合、REE鉱石を国内での抽出は許さないが鉱石自体は輸出しても良いとの政策で、これをマレーシアに持って行き、この地でREEの抽出プロセスを行おうとしているが住民の強力な反対に遭って頓挫している。REE取得の為にはトリウム・ウラン問題を避ける事が出来ない。

・南太平洋で発見したのREE泥は、海底2メートルから7メートルにわたり存在し、REEが濃集堆積している。このニュースは国内メディアだけでなく海外でも大きくニュースとして配信された。これは日本のみならず世界各国でREEがストレスになっているのがわかる。

・REE泥には分析の結果、重希土類が中国産の2倍から3倍の含有量があり、かつ陸上埋蔵量の800倍もあると推測している。

・REE泥の探査は容易である。特に陸上で産出するREEとは違いトリウム・ウランなど放射性物質が随伴産出しない特徴がある。これは朗報だ。

・この海底REE泥のもう一つの特徴が、REEの抽出が容易な点。REE泥に塩酸・硫酸を掛けるだけでREEを溶出する事が出来る。塩酸だと97%、硫酸だと80%の溶出率を誇る。

・今回の調査の結果、南太平洋タヒチ沖(76域)には1500ppmのREE泥が発見されている。この調査地域タヒチはフランスのEEZ内である事から、フランスがREE開発に進出することが予測されている。このREE泥は厚さ2メートルから7メートル程堆積している為、フランスが開発することは十二分に経済合理性も含めて可能性は高いだろう。

・REE泥は太平洋域に広く存在している。今回の調査海域の場合、タヒチなど南太平洋域と比較するとハワイ西側のREE濃度は少し落ちるが、平均30メートルから最大70メートル堆積している為、その資源量たるや莫大なものがある。このREE泥を回収出来れば今のREE危機は回避できるし、今後のREEに関する不安材料は払拭されることとなる。

・REE泥の生成は海底火山からの熱水など豊富な資源を含んだ鉱水が海中を漂いそれが海底に堆積したものと考えれれる。火山噴火により沸石が生成し、この沸石が海水に含まれるREE吸着をして海底に堆積する時の核となったのではないか?

・日本の排他的経済水域(EEZ)内におけるREE泥の分布で最大のものは、多分、南鳥島海域にあると考えている。南鳥島は1億2000年前にできた島で、南太平洋域から数億年を掛けて日本列島に近づいてきた島で、最も中央海嶺の活動が活発だった白亜紀を経ている為に、REE泥が莫大な量が蓄積されている堆積層が存在すると期待されている。南鳥島は、REEを濃集しつつ日本近海に移動してきた宝の島と言える。

・このREE泥をエアリアリフト方式で泥を回収し、船上で酸にてリーチングする方法が考えられているが、真水は海洋上では貴重なので、海水でリーチングできるかを検証した所、出来ると言う結果が出ている。REE泥の回収は三井海洋開発と一緒に進める予定。

・リーチングの後、残った泥は南鳥島の埋立てに使えると考えている。ロンドン条約で海洋投棄は厳しく制限されているので埋め立てが現実的な対応だろう。 

・REE楊泥の実証実験の結果、平成24年度予算請求において220億円でREE探査船予算を計上してこれが通っている。ただしこの船が出来るのは4年後であり、その間の間隙を埋める為に経産省が別途REE泥調査に要する費用を捻出する話が進んでいる。

・REE泥の回収などこの手の技術は、フランスの会社が技術を所有しており、彼らがタヒチなどでの開発を行うのではないか?残念な事に、海洋国家を標榜する日本にはまともな海洋開発技術がないのが現実。とても残念な事だが、外国船をチャーターしてREE泥の回収を行うなど具体的な行動が必要である。

・REE泥の資源価値は、1隻の収集船で約300万トン/年と推定している。例えばタヒチのサイト76の場合、700m×700mの広さでREE泥堆積層10mで、含有量0.66g/cm3、抽出率975ppmとすると総REE量3700t(酸化物換算)となる。これにジスプロシウム量は146tで日本のDy消費量の18%から20%に相当する。

キャノングローバル戦略研 『排他的経済水域における安全保障と産業活動』 ~その1~

2011年11月21日 | 日記
2011年11月18日(金)財団法人キャノングローバル戦略研究所シンポジウム『排他的経済水域(EEZ)における安全保障と産業活動』

今回のシンポジウムは『海洋立国研究会』の活動結果の報告と言う意味合いが強いのだと言う。
この『海洋立国研究会』はキャノングローバル戦略研究所の理事・研究主幹である湯原哲夫先生が中心となって調査研究を行ってきた。
湯原先生は、三菱重工で初期の高速炉「もんじゅ」の開発に従事、その後海洋開発など幅広い分野で活躍され、今は東京大学特任教授であり、
かつキャノングローバル戦略研究所で精力的に調査研究活動されている。

さて『海洋立国研究会』のメンバーも流石に錚々たるものだ。
キャノングローバル戦略研究所からは、湯原先生をはじめ、上之門捷二氏、美根慶樹氏、段先生、青柳さん、和田良太氏。
大学関係者としては、東京大学の尾崎雅彦教授、早稲田大学・卓爾准教授、多部田准教授。
そのほか、元海上自衛隊幕僚長・古庄幸一氏、元産総研の山崎哲生氏、資源専門家の谷口正次氏、高島正之氏、村木豊彦氏など。
これからの政官への具体的な政策提言と、その政策実現にむけた将に正念場の時だが、自分も微力ながら貢献出来ればと考えている。


■シンポジウムの開会挨拶は、福井理事長(元日本銀行総裁)が挨拶された。お近くで拝顔するのは初めてだ。福井さんの挨拶主旨は以下。

・世界経済は、定常状態な危機的な経済状況が続いており、重要な局面に対しているとの認識している。
・経済のサプライサイドを見据えて原子力政策などの見直しが必要である。
・我が国は、戦後、国家安全保障を明確に意識しないできたが、これからは国家安全保障を明確に組み入れた国家戦略の立案と実行が必要。
・つまり国の今後のナビゲーションでは安全保障を勘案して国の在り姿を考える必要があると言うこと。
・日本は、陸上面積は世界62位であるが、EEZを含む面積は6位であり、その資源エネルギー的ポテンシャルは非常に大きいものがある。
・これらかの日本にとってのフロンティアは海洋に求めるべきである。今回のシンポジウムの意義はココにある。

■湯原先生の講演「海洋新産業創出のステップ」

・新たな海洋国家の条件には5つある。
  ①海洋資源力、
  ②海洋(海事)産業力、
  ③海洋環境力、
  ⑤海洋軍事力(海上保安力)。
 特に自らの海洋権益を守るための外交・軍事力が必須。

・海洋基本法が議員立法で成立しているが、この法律の中心は、権益確保と海洋資源と環境の3つで、具体的には「権益確保と安全保障」、「環境保全と管理(アジェンダ21)」、「海洋産業立国」を掲げている。

・海洋基本法の目的は、海洋の平和的・積極的な開発・利用と環境保全の調和を図る新たな海洋立国を実現するとある。

・基本理念で重要なのは以下の3つ。
  ①海洋の開発と利用は我が国経済社会の存立基盤である、
  ②海洋ほ安全確保は重要であり、積極的な取組みを行う、
  ③海洋産業は経済社会の発展基盤、国民生活の安定性向上の基盤、健全な発展を図る事。

・海洋基本法の基本的施策で重要なのは、①海洋資源の開発及び利用の推進、②排他的経済水域の開発推進、③海洋調査の推進、④海洋科学技術に関する研究開発の推進、④海洋産業の振興及び国際競争力の強化である。

・海洋基本法も制定から5年を経過しており、基本計画の見直し時期にきている。

・海洋産業については、やはり海洋に存在する資源エネルギー開発が最重要で、マンガン団塊やコバルトリッチクラストなど海底鉱物資源の開発、また海洋石油・天然ガス、メタンハイドレート開発とその潜在資源量は膨大。

・海洋産業については海洋における風力発電や潮力、波力発電など再生可能エネルギーの開発を進める必要がある。勿論、漁業など水産業や造船など海事産業の振興も併せて政策実行することが肝要。

・海底資源開発や海洋産業化のプロセスにおいて参考となるのがノルウェーやイギリス、海洋再生可能エネルギー分野ではデンマークの水上風力発電所、海底資源開発ではブラジル。これら各国の成功要因を分析すると、やはりポリシーメイキング、すなわち確りとした政策方針の確立が基本にないとだめだと言うこと。日本んは海洋政策の明確な政策方針がない。単純に企業に金を渡して「ハイお仕舞」と言う感じでその場の一過性の予算付与で終わるのが常だ。これを変えねばならない。

・それと日本で開発した海洋技術については、基準・規格やワンセットとして海外に進出する事が極めて重要。この視点が国も企業も認識が甘い。

・ノルウェーの海洋産業創出に係わるステップは5段階。第一ステップは一番重要な「政策目標と法律の制定・整備」、第二ステップは長期の公的資金を投入して複数の企業及びベンチャー企業へ支援を行うと言う、言わば今後の海洋産業の役者となる人たちが活躍できるように財政支援すること。

・それとやはり海洋産業特有の技術開発・製造技術が必要となるために国家プロジェクトとして様々な実証実験を実海域で行うことで商業化への早期ステップアップを施行すること。最後は第五ステップで、海洋産業を輸出産業とし国際競争力を持って海外展開できる施策を講ずること。前述の通り、海洋産業に関してシステムとして輸出することと、併せて技術標準と認証を一緒にして輸出する事が肝要。それと積極的に途上国でプロジェクトを創出して国際連携を密にする事。

・1990年代、日本は海洋開発のトップランナーであった。2000年以降、主要国が海洋政策や基盤技術開発、ベンチャーへの公的資金支援、実海域での実証プロジェクトなどを精力的、また着実に実施展開してきたが、デフレによる国内経済の長期低迷の影響もあり、今や日本は周回遅れの状態。もはや日本は海洋開発のプレーヤーとして認められていない。早急に政策目標と基盤整備を実行し、4つの独立行政法人がバラバラに行っている海洋研究開発の一本化などやらねばならない事は山ほどある。

・海洋開発からその産業化までシームレスに行う為には、公設民営によるRDD&Dが有効な手段となると考えている。例えば米国メイン州の場合、2030年までに5GWの浮体式洋上風力ファームが計画されているが、このプロジェクトはメイン州の州法においてその実施を法的に保障している。(保証ではなく保障)RDD&Dの場合、それぞれのステージでプレヤーが入れ替わるが、事業全体のオーナーシップは変わらず州法の保障を背景として最後までプロジェクトをやり遂げる主体として存在し続ける。

・2011年は、海洋再生可能エネルギー元年と言える。初めて海洋再生可能エネルギー分野に予算がついた。来年度24年概算要求で海底鉱物資源開発と探査に165億円、メタンバイドレート開発のために153億円、洋上風力、海流・潮流・波力発電に108億円と予算を計上されており、今後の継続的予算措置を強く望むものだ。だが、問題点は日本の場合企業に金をつけるやりかた。現状の法整備と基盤整備もないまま金を配分しても、またもとの木阿弥となるだろう。

・時間があるので、参考資料について簡単に述べる。最初に波力発電の開発が世界で進められている。特に欧米では開発競争がおこり1000のアイディアから100の研究開発案件がでて、10の実海域での実証を経て数プロジェクトが実用化される。

・特に海洋開発の先端分野ではシーメンス抜きん出ており、シーメンスが海洋産業界を席捲する可能性がある。この他、イギリスのベンチャーが頑張っているし、シーメンス以外ではロールスロイス、、ロッキードマーティンがベンチャーを買収・連携して海洋開発を積極的に進めている。

・カナダにある潮位差12.9メートルの所に潮流潮位発電所を建設するプロジェクトが進んでいる。この潮位差は世界2位だろう。

・韓国も潮力発電、波力発電に力を入れている。黄海に面している海域では潮位差が大きいので実用化され可能性が高いし、韓国政府はこの潜在的エネルギーポテンシャルを最大限に活用する明確な意思を持って計画を遂行している。

・ABBはデンマークやドイツなどでの洋上風力発電所向けに海底送電網を構築する計画があり、これは着実にを実行されるだろう。

・海洋再生可能エネルギーの利用を促進させるなどの話を官僚の皆さんにすると、まずは調査をまずやらねば、と言うが、そうこうしている内に他国は先に進んで行く。今や周回遅れではなく2周遅れになるだろう。

核廃棄物の分離変換処理~核廃棄物は人類の手に余る

2011年11月20日 | 日記
東海大学・原子力工学科の高木直行教授から勧められて『総説 分離変換工学』(本体・税・送料込み4600円:原子力学会、2004年)と言う書籍を読み進めている。

分離変換工学(Overview of Partitioning Transmutation Technology Development)とは、原子力発電システムから生じる長寿命核種を分離し、核反応によって短命核種、あるいは安定核種に核変換する技術で、現在大きな問題となっている放射性廃棄物の存続期間を短縮するとともに、高レベル放射性廃棄物の減量を実現するもの。

核変換技術で研究例が多く、比較的有望とされる方法が示されている。
即ち①高速炉による核変換、②軽水炉による核変換、③加速器を用いた核変換の3つである。最後の加速器とは「加速器駆動未臨界炉システム(ADS)」であるが、これが今のところ一番期待される技術らしい。
このADSの記述の一部に「溶融塩炉熱中性子システム」がある。溶融塩炉は言わずと知れたオークリッジ国立研究所で開発された実験炉MSREの事だ。この溶融塩炉に核変換の対象物であるマイナアクチニド(MA)溶かし込み、これに陽子や中性子を加速器で照射して核変換させる、と言うもの。
加速器を使っての核変換は、従来の原子炉では許容されなかった燃料成分構成でも対応出来る利点がある為、核変換専用システムとしては高いポテンシャルがるとされる。
だが、しかし同書を読み進めていくと、どれもこれお決め手に欠けるとがよく分かる。
この『総説 分離変換工学』の2章にも簡単に書かれているが、従来の研究の延長にはない核変換・分離の研究があってしかるべきだ。その例として①極限環境を利用した核変換処理、②レーザーを利用した核変換処理、③電子はぎ取りによる核変換処理、④その他の新方式による核変換処理、などだ。
個人的には③の電子はぎ取りと、④の新方式による核変換処理に期待したい。特にブラック・ライト・プロセスに注目したいと考えている。

さて、やはりエンリコ・フェルミが予言した通り、放射性廃棄物の処理と処分は人類最大の負担となっている、特に日本においては。
福島第1原発事故が無くとも、既に大きな問題となっていた放射性廃棄物処理の問題。これは格段に大きな問題として日本政府、電力会社に重くのし掛かる。

確実に福島第1原発の第1号炉から3号炉までは確実に廃炉だろうし、4号炉は今後使われることは無いだろう。つまり福島第一原子力発電所全部が解体・廃棄される事となるだろう。そうなれば、福島第1原発から出る放射性廃棄物の量は想像を絶する。
既存原発の廃棄物保管施設も限界に来ており、ましては最終処分場など存在していない。(幌延で穴は掘っているものの実際の廃棄物は搬入しない取り決めを自治体と締結している)
炉心溶融していること確実な1号炉、2号炉、3号炉から出る高レベル放射性物質の扱いは極めて頭の痛い問題だ。しかも3号炉ではMOX燃料を使っているため、厄介なプルトニウム問題にも対処せねばならない。

『総説 分離変換工学』を読んで分かる事は、やはり原子力は人類の手に余ると言う事実。この本に書かれている分離変換技術が確立する事があっても決し放射性廃棄物がゼロになる事はないからだ。
やはり従来の研究成果に捕らわれない、新たな核変換処理技術の探索が必要だと改めて再認識した次第。

国債危機から見える、金融危機の兆候

2011年11月20日 | 日記
バブル崩壊の影響が未だに企業経営に影響を与えていた事が、オリンパスの例で明らかになっている。
これは先の金融危機の際に顕現化しなかったデリバティブ損失の影響がこれから出てくる事を何かしら予見させるものだ。これがEU域内の国債危機がトリガーとなっているのは皮肉なものだ。

今『国際金融同盟~ナチスとアメリカ企業の陰謀』と言う本を読んでいるが、この本の主役は国際決済銀行(BIS)だ。BISには世界大戦など関係なく、国際金融取引が行われ、国家対国家の戦争という形態を表面上取っていても国際的な企業には関係が無いことが様々書いてある。その国際的な決済は滞ること無くBISで粛粛と行われていたし、アウシュビッツからの金歯も同行に搬入されていたのは不思議でも何でもない。当然だ。

この本を読んで、久し振りにBISのホームページを見た。
最近では「バーゼルⅢ」が金融界の耳目を集めているようだが、これは表向きの事。一番の問題は前述の国債危機に端を発するであろう新たな金融危機だ。
特にイギリス、フランス、イタリア、ドイツなどの銀行のバランスシート外の損失、簿外のデリバティブ損失が深刻さを増しているだろう事が透けて見える。特にフランスのCDS残高が米国を超えてNo1に躍り出ているのは、明らかに危険な兆候だ。
超弩級の破壊力を持つでデリバティブ、特にCDSがもたらす金融破壊は、凄まじい様相を呈するだろう。将に死屍累々。

足下、日本では野村をどうするか。

まあ、たまには我々の生活を直撃する「お金」にも関わるのでBISのホームページを一度見られるのも良いかと思う。

ミャンマーの民主化 その次は

2011年11月18日 | 日記
11月に入って俄かにミャンマー関係のレポートが発表されている。アウンサンスーチー女史や軍事政権の動向が注目されているし、残された数すくないフロンティアだと考えられている背景がある。

(1)11月 1日『ミャンマーの民主化を希望する』キヤノングローバル戦略研究所
(2)11月 2日『民主化加速するミャンマー 経済環境整え、国際社会へ』 三井物産戦略研究所
(3)11月16日『動き始めたミャンマーをどう見るか~経済制裁解除が飛躍へのカギ握るが、ネックとなる脆弱なインフラ』大和総研
(4)11月16日『いよいよテイクオフか ミャンマーの金融資本市場~アセアン最後の本格市場の夜明け』みずほ総合研究所

ミャンマーは、中国との経済的・政治的結びつきが強く、ある種中国版「戦略的拒絶地域」的なエリアと言えるのではないか?
対ミャンマーへの日本としてのアクセスは、米国はもとより、インドとの連携により中国を牽制しつつ展開するのが最良と判断している。
中国はアフリカ、中東からの資源・エネルギーをマラッカ海峡経由ではなく、旧援蒋ルート経由で直接中国内陸部へ輸送するルートの構築に躍起となっており、この動きは監視しつつもインド洋の安全保障を勘案するに中国海軍の進出は、インドのみならず東南アジア各国を刺激するので、ここはインド、特に海軍との連携を蜜に中国の資源・エネルギールートを遮断できるように軍事的、経済的に環境を作為する事がとても重要である。

さて、ミャンマーの次はいよいよ北朝鮮。
拉致問題は文字道理「埒」が上がらないが、恩讐を超えて国交の回復をする事が国益にかなう。
この為には韓流ブームを逆手にとって韓国を潜在敵国として取扱い、次の政権には北朝鮮との国交回復断行、人材交流やタングステンやレアアース、ウランなど資源開発と社会インフラ全面のリニューアルを提案するべき。これがスマートシティの超拡大版で所謂「朝鮮特需」となる。
朝鮮戦争で日本経済はテイクオフする事が出来たが、今度は平和裏に北朝鮮の経済開放を実現するもの。現在の体制はそのままで良い。これは中国と同じ考えであり、現実的な選択だろう。
それと核兵器を保有したいのは日本も同じ。核に関しては水面下で非核化を話し合うこと。これは米国の意向が大きく影響するが、北朝鮮を吼える犬としておきたい彼らは納得はするまい。
でも国交回復し、日本海経済同盟をバーチャルに作れると今後の展開が楽しみだ。日本海は地中海みたいになる。
ただしこれまた米国が黙っていないので、厄介だが断固たる決意を持って実行するべし。それと反日国家・韓国にダメージを与える必要がある。この為、サイバー戦は有効である。

いずれにせよ、北東アジアの安定と成長を確実にする外交・防衛・経済・サイバー空間などフル・スペクトルでの戦略実行を行うことが肝要。

欧米の原子力バックエンド政策と日本の対応 (詳細版)

2011年11月17日 | 日記
欧米の原子力バックエンド政策と日本の対応原子力発電には、他の発電法にはない特有の後処理工程が存在する。それをバックエンドと呼ぶが、このバックエンドは、使用済核燃料の輸送・処分核燃料再処理・MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料)工場の運営、低レベル及び高レベル放射性廃棄物の輸送・処分等を含む一連の処理を言う。

バックエンドには現在2つの方式が存在する。
一つは、使用済核燃料を再処理せずに直接処分する方式。もう一つは使用済核燃料を再処理して、プルトニウムなど残存核燃料物質をリサイクルする方式で、所謂「再処理方式」である。直接処分方式はアメリカ、カナダなどウラン資源が豊富な国が採用しており、再処理方式はフランス、日本などが採用している。

直接処分の場合、核廃棄物の量が大きい為、広大な中間貯蔵施設や最終処分地が必要となる。また再処理方式は、原子燃料となる資源の有効活用が図れる可能性はあるが、特にプルトニウムを抽出するため核不拡散上の問題や、再処理の際に環境に排出される放射性物質や10万年を超える超寿命で毒性の強い超ウラン元素の取扱いが大きな課題となっている。

米国では、福島第一原発事故後に発表されたエネルギー政策文書 『確実で安全なエネルギーの未来のための青写真』 において、シェールガス革命などを反映してか原子力そのものへの言及は少ないが、米国の原子力政策の根本は、マサチューセッツ工科大学の報告書『原子力の未来』(2003年、2009年)と『核燃料サイクルの将来の内容から大きく離間することはないと思われる。

米国の原子力政策の核心は、
①ウラン資源は当面枯渇しないため、今後も軽水炉を主体として、使用済核燃料の直接処分を継続する。
②使用済核燃料の中間貯蔵施設を建設し長期的保管(100年程度)を行う。何故ならば将来的に、超ウラン元素の消滅処理の実現など抜本的な技術
課題が解決した場合に、長期保管しておいた使用済核燃料を廃棄物ではなく資源として取り扱うことが可能。 
③高レベルベル放射性廃棄物については 地層処分による永久的処分が必要であり、最終処分場を建設する必要がある。

上記のように米国の原子力政策は明確であり、今後も基本政策がぶれる事はないだろう。ただしバックエンド政策に関しては、ユッカマウンテンの最終処分地の放棄に起因して、今後の政策を慎重に議論する重要な審議会が、2010年1月20日オバマ大統領の大統領覚書により設置された。
この審議会は「アメリカの原子力の未来についての審議会(Blue Ribbon Commission on Americas Nuclear Future)」と命名され、この審議会において最終処分場問題、核燃料サイクル全体の問題について審議を行い、最終報告を設立から2年以内にエネルギー長官への勧告・提言する事となっている。

審議会の委員は15人で処分小委員会、原子炉及び核燃料サイクル技術小委員会、移送及び貯蔵小委員会が設置される。現在まで 全体会議を9回開催し、2011年5月13日に開催された全体会議では各小委員会のからの提言草案が提示されている。

「アメリカの原子力の未来についての審議会」の概要は以下の通り。

■審議会の設置目的:
核燃料サイクルのバックエンドを管理する政策について過去の経緯を踏まえつつ包括的な調査を実施し、使用済核燃料及び高レベル放射性廃棄物の貯蔵並びに軍事/民間からにおける核燃料、高レベル放射性廃棄物及び核関連開発から発生する様々な放射性物質の処理に関して、現実的に選択しうる手段を対象として検討を行う。
また、下記の諮問事項に関する勧告・提言を行う。

 ①経済合理性とバックエンド政策の持続可能性、 核不拡散とテロ対策を判断基準とした新たな核燃料サイクルのあり姿と研究開発計画の評価
 ②使用済核燃料を長期間にわたり安全貯蔵するための選択し得る手段(最終処分を含む)
 ③深地層処分を含めた使用済核燃料及び高レベル放射性廃棄物の永久処分についての選択し得る手段の提示
 ④核燃料サイクルの現状と今後の在り姿を想定した場合の核燃料及び放射性廃棄物の管理についての法的規制を含むルールを策定するための選択し得る手段の提示
 ⑤核燃料サイクルを巡る政策決定過程における様々な選択可能な手段の提示
 ⑥使用済核燃料と放射性廃棄物の管理に関する決定が、広く公開され、かつ高い透明性を持って、幅広い国民の関心・関与の下での選択し得る手段の提示
 ⑦1982年制定の「放射性廃棄物政策法」を含めた現行法の改正又は新法の制定の必要性の有無と概要

■審議会の活動スケジュール:
小委員会勧告・提言草案を受けた議論を経て全体報告書草案を2011年7月29日に提出。報告書草案に対するパブリックミーティングを開催し、2012年1月に最終報告を提出する。
 
■現状の審議会勧告・提言草案の内容:
(1)高レベル放射性廃棄物のための永久的深地層処分場が必要である。
米国は、今後も使用済核燃料を再処理しない。この結果として使用済核燃料は発生し続ける。また民間のみならず軍用に供せられた核物質及び廃棄物がこれに加わるが、最低でも民間の原子力発電から排出される使用済核燃料については厳密に管理されるべきである。 この為には、最終処分場を建設し、高レベル放射性廃棄物を長期間に渡り安全に環境から隔離することが重要。特に現在の技術からして地層処分が最良の方法と考えられる。

(2)放射性廃棄物の管理を唯一の目的とした組織を新設すべきである。
現在まで、米国における放射性廃棄物政策の運用管理はエネルギー省が担ってきたが、殊、使用済核燃料を含む放射性物質の管理は、独立した新たな管理組織を設立する必要がある。
この組織は、放射性廃棄物のみに関し厳格かつ明確に定義された任務を有し、併せて独立した規制・監督権限を具備し、財政的裏づけをしっかりと持つ事。

(3)核燃料サイクル技術の研究・開発を継続して実施するべきである。
今後の核燃料サイクル技術の研究開発如何では、安全で環境に配慮した経済的な原子力エネルギーを得ることができるため、当該分野への研究 開発及び実証検証に対する財政的支援は継続するべきである。
また現行の直接処分方式における軽水炉技術の安全性検証、及び使用済核燃料&高レベル放射性廃棄物の貯蔵と処分に関する技術については、廃棄物の減量処理など改善研究を行うべきで、この為、第四世代炉(ガス冷却炉、 溶融塩炉、小型モジュール炉等)の開発を継続するべき。

また、核不拡散、テロ対策の観点からも、連邦政府は改良型原子炉や核燃料サイクル技術への長期的で安定した研究、開発及び実証を財政支援を含めて支援継続するべきである現状、エネルギー省の原子力エネルギー研究開発予算は約5億ドルであるが、MIT報告書『核燃料サイクルの将来』の指摘もあるとおり倍の年10億ドルは必要である。

(4)米国は核不拡散の中心的役割を担い続けるべきである。
911以降、対テロ戦争を継続している米国において、商業ベースの核燃料サイクル施設への多国間協力に対する支援、原子力セキュリティー技術、原子力利用監視技術、核物質保有及び核兵器に関する国際協定を改善するため共同でのスキームを組成し、既存の多国間協定の枠組み内での改善を含む取り組みの強化が等が求められる。
 
(5)早急に使用済核燃料の大規模集中的管理が可能な中間貯蔵施設の建設が必要である。
最終処分前の中間貯蔵又は最終処分のための、原発から十分離隔した場所にある施設で、核燃料及び使用済核燃料を保管する施設の建設と早期の運用開始が必要であり、集中的な中間貯蔵施設は、最終処分場が開設されるまでの間、使用済核燃料や高レベル放射性廃棄物を管理するもので、コストや安全上の問題を減少させ、かつ、今後の核燃料リサイクル技術の確立を想定した場合にも有益である。

これは福島第一原発事故を分析すると、原子炉から十分に離れた場所での貯蔵には利点がありる。特に原子炉には冷却材としての水が大量に必要である事から立地が限定されるが、中間貯蔵施設はそういった制限がなく、災害や事故が最も起こりにくい場所に建設することができる。
現在、原子力発電所の敷地内における使用済核燃料保管の方法は、乾式であれ水中保管であれ、十分安全に管理されており安全であるが、集中的な中間貯蔵施設が稼働するまでには、時間がかかる為、その間は引続き数十年間の貯蔵に耐えるよう、保管施設の補強強化を行い安全性を高めるて保管する必要がある。

使用済核燃料の保管のための安全性においては、核燃料劣化の仕組みについての継続的な調査及び研究、燃料の貯蔵期間を延長することにより発生し得る不測の事態を特定する研究が重要で、特に乾式貯蔵方法の利用拡大について、その実現可能性を調査研究することも有益である。

参考補足として福島第一原発事故を受けての検討方針として、以下2点が示されている。
(1)各原発内及び他の集中的な中間貯蔵施設における使用済核燃料について、冷却プールか乾式キャスクへの移行を積極的に進める動きがある。特に乾式キャスク貯蔵施設開発について、前向きに検討を進める。
(2)福島第一原発事故以前は、集中的な中間貯蔵施設及び最終処分場の用地選定及びライセンス付与については、非常に慎重なペースで検討を行うと言う提言とする予定だったが、福島以後、この議論をもっとスピーディーに行う事とする。

米国でのバックエンド政策については、福島第一原発事故の調査が進展しすると2012年1月の最終報告の内容、特に使用済核燃料の保管・移送・処分について調査・検討結果が審議会報告の内容に反映される可能性も十分に考えられるので、審議会の議論については今後とも注視が必要である。

さて、EUにおいては、原子力利用を推進する「原子力の研究・研修活動に関する欧州原子力共同体(EURATOM)第7次枠組計画(2007 年~2011 年)」において27億5100万ユーロを上限とする予算を計上し、放射性廃棄物等処理の研究も含まれる。現在EU加盟国27カ国中14カ国が原子力発電所を稼動させ、現在143基の原子炉が存在する。毎年、使用済燃料が3600トンと放射性廃棄物85000立方メートルが排出され、使用済核燃料の再処理から高レベル放射性廃棄物が280立方メートルが生成する。

EUにおいて高レベル放射性廃棄物の大部分は中間貯蔵施設に置かれ、現在、スウェーデン、フィンランド、フランスでは最終処分場の計画が進んでいるものの、最終処分場が実現している加盟国は未だ存在していない。このような中、EUは使用済核燃料及び放射性廃棄物の管理の枠組みを策定する指令「使用済核燃料及び放射性廃棄物の責任のある安全な管理のためのEURATOMの枠組みを策定する2011年7月19日の理事会指令2011/70/EURATOM」を発出し、各加盟国は、この指令に基づき核廃棄物処理の全過程における管理に関する国内法を制定し、核廃棄物の管理の具体的要件を国家として計画に落とし込み2015年8月23日までにEUに報告する事となっている。

このEU指令に示されている国家としての具体的に規定する項目を列挙する。
即ち、(a)核廃棄物の国家管理政策の全体目標、
   (b)重要なマイルストーンとスケジュール、
   (c)全廃棄物(廃炉を含む)及びその将来の廃棄物量の予測表、
   (d)発生から処分に至る廃棄物管理の考え方又は計画及び技術的解決方法、
   (e)処分施設閉鎖後の当該施設の長期管理に関するその期間と計画、
   (f)廃棄物管理に必要な研究・開発等、
   (g)国家としての計画実施の責任及び進捗管理指標、
   (h)廃棄物に関係する費用の評価及び並び算出根拠及び算定条件、
   (i)資金調達のスキーム、
   (j)透明性確保の方針又は手順、
   (k)他国と締結した廃棄物管理に関する協定、である。

この指令は紆余曲折を経て制定までに約10年の歳月が費やされたいわくつきの指令である。当初は、具体的な年限を指定して核廃棄物処分に関して規定する内容であったが、各国の財政事情など含め様々な反対により、採択に至らず、結局、EUが2007年に設置した「欧州原子力安全規制者グループ」(ENSREG)の検討に委ねられ、今回の核廃棄物に関する当該指令は、ENSREG の検討を経た2009年7月の報告内容にに基づいて、2010年11月3日にEUに再度提案され、ようやく採択された背景がある。

米国、EUともに原子力のバックエンド政策については決め手にかけるが、我が国も同様であり、震災後はより困難さを増している状況にある。
原子力開発の黎明期から使用済核燃料を再処理工場でプルトニウムを抽出し高速炉で再度燃料として利用すると言う核燃料サイクル構想の実現に邁進してきたが、1997年に稼動する予定であった六ヶ所村の再処理施設はいまだ稼動せず、高速炉「もんじゅ」もナトリウム漏れ事故後、運転を再開したものの、福島第一原発事故の余波もあり高速炉開発予算が削減され、実質的に核燃料サイクルは破綻状態に陥っている。

特に国内に溜まり続けるプルトニウムの原料処理の為にMOX燃料として利用する政策が進められているが、実はMOX燃料の再処理には六ヶ所村の再処理施設とは別の再処理工場が必要なのだが反原発に靡く国民世論、復興財源にも事欠く厳しい国家財政などを勘案すれば、これ以上バックエンドへの投資は現実的に不可能である事は自明である。

今後、我が国における原子力政策に関する政策論議が活発化する中で、脱原発と言う選択肢もあるが、今までの核廃棄物とこれから廃炉となる原発からでる高レベル廃棄物などバックエンドに係わる問題が襲い掛かるのは避けることが出来ない。

今こそ現実に目を向けて国家としてEUと同様に核廃棄物の減量処理、若しくは消滅処理技術の研究開発に本格的に取り組むべき時である。この際、重要な事は原子力人材、特に核燃料サイクル、高速炉開発に従事した研究者や科学者を積極的に徴用し、現在まで培われた原子力技術者の温存と、新たな技術分野への転進を支援するなどの配慮が是非とも必要である。

尤も個人的には「嘘つき原子力村の住民は抹殺するべし」との意見だが~国益を考えると温存となるのは仕方がない。

欧米の原子力バックエンド政策と日本の対応

2011年11月17日 | 日記

原子力発電には、他の発電法にはない特有の後処理工程が存在する。それをバックエンドと呼ぶが、このバックエンドは、使用済核燃料の輸送・処分、核燃料再処理・MOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料)工場の運営、低レベル及び高レベル放射性廃棄物の輸送・処分等を含む一連の処理を言う。

バックエンドには現在2つの方式が存在する。
一つは、使用済核燃料を再処理せずに直接処分する方式。もう一つは使用済核燃料を再処理して、プルトニウムなど残存核燃料物質をリサイクルする方式で、所謂「再処理方式」である。直接処分方式はアメリカ、カナダなどウラン資源が豊富な国が採用しており、再処理方式はフランス、日本などが採用している。
直接処分の場合、核廃棄物の量が大きい為、広大な中間貯蔵施設や最終処分地が必要となる。また再処理方式は、原子燃料となる資源の有効活用が図れる可能性はあるが、特にプルトニウムを抽出するため核不拡散上の問題や、再処理の際に環境に排出される放射性物質や10万年を超える超寿命で毒性の強い超ウラン元素の取扱いが大きな課題となっている。

米国では、福島第一原発事故後に発表されたエネルギー政策文書 『確実で安全なエネルギーの未来のための青写真』 において、シェールガス革命などを反映してか原子力そのものへの言及は少ないが、米国の原子力政策の根本は、マサチューセッツ工科大学の報告書『原子力の未来』(2003年、2009年)と『核燃料サイクルの将来の内容から大きく離間することはないと思われる。米国の原子力政策の核心は、①ウラン資源は当面枯渇しないため、軽水炉を主体として、使用済核燃料の直接処分を継続する。②使用済核燃料の中間貯蔵施設を建設し長期的保管(100年程度)を行う。何故ならば将来的に、超ウラン元素の消滅処理の実現など抜本的な技術課題が解決した場合に、長期保管しておいた使用済核燃料を廃棄物ではなく資源として取り扱うことが可能。③高レベルベル放射性廃棄物については地層処分による永久的処分が必要であり、最終処分場を建設する必要がある。

EUにおいては、原子力利用を推進する「原子力の研究・研修活動に関する欧州原子力共同体(EURATOM)第7次枠組計画(2007 年~2011 年)」において27億5100万ユーロを上限とする予算を計上し、放射性廃棄物等処理の研究も含まれる。現在EU加盟国27カ国中14カ国が原子力発電所を稼動させ、現在143基の原子炉が存在する。毎年、使用済燃料が3600トンと放射性廃棄物8500立方メートルが排出され、使用済核燃料の再処理から高レベル放射性廃棄物が280立方メートルが生成する。

EUにおいて高レベル放射性廃棄物の大部分は中間貯蔵施設に置かれ、現在、スウェーデン、フィンランド、フランスでは最終処分場の計画が進んでいるものの、最終処分場が実現している加盟国は未だ存在していない。このような中、EUは使用済核燃料及び放射性廃棄物の管理の枠組みを策定する指令「使用済核燃料及び放射性廃棄物の責任のある安全な管理のためのEURATOMの枠組みを策定する2011年7月19日の理事会指令2011/70/EURATOM」を発出し、各加盟国は、この指令に基づき核廃棄物処理の全過程における管理に関する国内法を制定し、核廃棄物の管理の具体的要件を国家として計画に落とし込み2015年8月23日までにEUに報告する事となっている。

米国、EUともに原子力のバックエンド政策については決め手にかけるが、日本も同様であり、震災後はより困難さを増している状況にある。我が国では原子力開発の黎明期から使用済核燃料を再処理工場でプルトニウムを抽出し高速炉で再度燃料として利用すると言う核燃料サイクル構想の実現に邁進してきたが、1997年に稼動する予定であった六ヶ所村の再処理施設はいまだ稼動せず、高速炉「もんじゅ」もナトリウム漏れ事故後、運転を再開したものの、福島第一原発事故の余波もあり高速炉開発予算が削減され、実質的に核燃料サイクルは破綻状態に陥っている。

特に国内に溜まり続けるプルトニウムの原料処理の為にMOX燃料として利用する政策が進められているが、実はMOX燃料の再処理には六ヶ所村の再処理施設とは別の再処理工場が必要なのだが反原発に靡く国民世論、復興財源にも事欠く厳しい国家財政などを勘案すれば、これ以上バックエンドへの投資は現実的に不可能である事は自明である。

今後、我が国における原子力政策に関する政策論議が活発化する中で、脱原発と言う選択肢もあるが、今までの核廃棄物とこれから廃炉となる原発からでる高レベル廃棄物などバックエンドに係わる問題を避けることが出来ない。今こそ現実に目を向けて国家として核廃棄物の減量処理、若しくは消滅処理技術の研究開発に本格的に取り組むべき時である。
この際、核燃料サイクルやに高速炉「もんじゅ」の開発に従事した研究者・科学者を積極的に徴用し、原子力人材の温存と活用を図るべきである。

今日、慶応大学の武藤先生をお見掛けした~

2011年11月15日 | 日記
今日、東京駅丸の内改札を出たところで慶応大学の武藤教授をお見かけした。背中にはリュックサックを背負って颯爽と歩いておられた。勿論、お声をお掛けする時間は無い。可成りの早足だ。

武藤先生は、米国ではセキュリティ分野での専門家として知られ、意外な研究では海中音響学、即ち潜水艦のソナーに関する研究だ。勿論、これは軍事機密と言う事で、成果を世間に知らしめる事は出来ないが、重要な研究成果であると高く米軍など評価している。

さて、武藤先生との出会いは2009年の事、当時の浜田防衛大臣が、6月8日(月)10時~藤沢キャンパスで1時間程講演を行った。(浜田防衛大臣は有名なハマコウのご子息である)
この講演前に武藤教授の研究室を大臣が訪れ、武藤教授が研究しているペルチェ素子を使った温度差発電装置、床発電、超指向性音源などの説明を受けていた。
この様子を毎週日曜日18時30分から放送のTBS「夢の扉」のスタッフが撮影していたが、TBSは無駄に捨てられているエネルギーに着目して研究を続けている武藤教授の研究室に張り付いて取材をしている。

この様々な場所に存在しながらも有効活用されていないエネルギーを電気エネルギーに変換する技術をパワー・ハーベスト技術(power harvesting technology)と言う。
床発電について武藤教授は、現在JR東日本と共同で2006年から東京駅丸の内駅北口のSuicaゲートを使って床発電の実証実験を行きた。これは、武藤教授がJR東日本の大塚会長(当時社長)に提案して実現したもの。
武藤先生を久し振りにお見掛けしたのも東京駅とはなんと言う奇遇?か。

さて、この床発電は圧電素子(ピエゾ素子)をSuicaゲートの床下に敷詰め、床を歩く人の振動エネルギーを電気に変え蓄電池に貯めると言うもので、1人当たり0.07W~0.7Wの発電量があることが実験の結果明らかになっている。
2008年には、Suicaゲートだけでなくコンコースも含めた90平方メートルに拡大してNEDOの支援を受け実験を行い500kWの発電量を得たと言う。

また床発電の他、ペルチェ素子という熱電素子2枚を使い、この素子間の温度差で発電する装置を武藤研究室で実際に見る事ができる。改良が続けられてきた二代目の発電装置は、パソコンのCPUクーラーの上にペルチェ素子をおき、保冷剤で冷やして温度差を生じさせて発電し、モーターを回すという仕組み。
さらには和歌山県・白浜の有名温泉旅館で実験する予定の温度差発電がある。温泉と気温の温度差で発電するもので、これは24時間365日発電が可能。

発電条件が限定されている太陽電池、風力発電、床発電などと違い、火山国日本において温泉と言う地熱エネルギーを有効活用する将来有望なパワー・ハーベスト技術である。(これも実験室で見る事ができる)今後も武藤教授の研究に注目していきたい。

谷沢栄一氏の 『世間通と人間通』 を読んで

2011年11月13日 | 日記
ブックオフで谷沢栄一氏の『古典の読み方』を懐かしくて即購入。祥伝社のNONブックシリーズの内の一冊であるが、親元に居るときこのシリーズ本はかなり読んだ。
樋口清之氏の『梅干しと日本刀』、同郷である渡部昇一氏の『日本、そして日本人』や『歴史の読み方』、松原泰道氏の『法句経入門』などだ。

谷沢栄一氏の『古典の読み方』は名著だと思う。この本は昭和56年に刊行されているが、その後絶版となっていたが、クレスト社から旧稿に手を入れて新版としてす出版しないか?との問い合わせがあり、見事『人間通と世間通~古典の英知は今も輝く~』として平成8年に再刊された。この本もブックオフで即購入。そして早速読み返して見ると構成が変わっている事に気づく。

『古典の読み方』は、①論語、②ジュリアス・シーザー、③プルターク英雄伝、④三国志、⑤悪霊、⑥この世の果て、⑦箴言集、⑧マイ・シークレット・ライフ、⑨日本文化史研究という章立てだったが、『人間通と世間通』では、これに①イソップ寓話と②チャタレイ夫人の恋人が追加されている。

感銘を受けたのは、チャタレイ夫人の恋人。

谷沢氏は福田恆成氏の言葉を引き「かれ(ロレンス)が『チャタレイ夫人の恋人』の終末において到達した救いは、もはや激しい情熱ではなく、『あたたかい心』『やさしい心』であったことを想い起こすがよい」と。つまり「あたたかい心」「やさしい心」こそ、性の出発点であり、かつ到達点であったのではなかろうか、と述べている。
谷沢氏は、更に人間に与えられたもので完全に公平なものは「性」であると断言されておる。成る程と想う。

このチャタレイ夫人の恋人の章には、あるエピソードが書かれており、男として考えさせられる一件だ。

「ある一流大学の教授で、若くしてその名を謳われて順風満帆の日々を送る男がいた。夫婦とも学者の家に育ったお坊ちゃん、お嬢さんであったらしい。二人は飯事のような夫婦生活を送っていたものと想われる。そのうち無聊の妻がテニス・スクールに通いはじめた。周知のように、この種の有閑夫人を集めるスポーツ練習場には、まともな教師と共存のかたちで、情事のお相手を努める誘惑男(ジゴロ)を置いている。
そのうちの一人が教授夫人に目をつけ、腕によりをかけて蕩し込みに努めた。天下に有名な男の女房をこっそり食べて、ひそかに教授の鼻をあかす気分はまた格別である。夫人はたちまち陥落した。
そして、このとき初めて女の喜びを知る事が出来たのである。
彼女は一大決心をした。夫と子供ももなにもかも捨てて、その色男(ジゴロ)と一緒になるべくして家出した。閉口したのは悪戯男(ジゴロ)である。世間に名の通っている恰好ののよい教授の妻だから、陥して楽しかったというもの、その女がすっぽんぽんの丸裸で飛び出してきたのでは、もはや三文の値打ちもない。もちろん冷静に突き放した。女は窮して立ち往生である。
そこで教授は、過ぎた事は問わないから家に戻ってくれと招き寄せた。通常なら元の鞘におさまって一件落着であろう。
しかし、女房は戻らなかった。恥を知った故であろうか。勿論、それもあるだろう。と同時に夫を深く恨んだからではあるまいか。
この夫と、もし平穏無事な生活を送っていたら、ついに生涯、自分は女として当然味わうことのできる喜びを、知らずに終わる結果となった筈だ。女の一生を、あたら空しく棒に振ることになったのではないか。この恨みはよほど深く心の奥底にわだかまったように推測される。」

引用が長くなったが、深く考えさせられる話だ。

見渡して見れば職場でも毎日椅子に座ってお茶をすすって一日を過ごし、私生活でも「趣味に生きているのよ私は。男なんて不要~」なんて女性が多いが、折角女性として生まれ、結婚せずとも女としての喜びは当然に追求して然るべきではないか?
家庭は女の為にあるし、子供を産んで育てるという「母」として喜び、そして女性としての喜びを知らずして朽ち果てるであろう、女性をそばで見るのは嬉しくはない。何のために生まれてきたのか?

スローセックスを唱導、実践しているアダム徳永氏曰く「男は愛するために生まれ、女は愛されるために生まれる」、また「セックスでした伝えられない「愛」もある」と。けだし名言である。

それと谷沢氏は「第三の手」として舌による「オーラルセックス」について語っているが、個人的にはアダム徳永氏の「アダムタッチ」が効果的と思う。舌と唾液でベロベロされて嬉しいか? 唾液は乾くと臭いもするし、到底お勧めできない。

最後に、武家はともかく、江戸時代の庶民は性を謳歌していたであろう事は、春画や様々な伝承記録から明らかであり、明治維新以降の南西日本(薩長土肥)の堅苦しい気質が、現代の「性の事情」に大きく影響していると思っている。
大体、薩長が天皇に軍服を着せた時点で、明治維新は日本の歴史上における大きな汚点だと言う方もいるが、自分はこれに大いに賛成する。軍服は俺みたいな輩が着る物だ。

大きく話がそれたが、谷沢氏の著書で一番鋤なのは『読書通 - 知の巨人に出会う愉しみ』(学研新書)である。石川準吉氏の「国家総動員史」や市川本太郎氏の「日本陽明学派之哲学」「日本古典学派之哲学」「日本朱子学派之哲学」3部作など読んで震えがくるほど、面白い! 是非ご一読を。

戦略的拒絶地域 と GDR (国防計画見直し)における「アクセス拒否」

2011年11月12日 | 日記
11月8日のブログに「トッド・フランク法と紛争鉱物、及び米統合軍(AFRICOM)の創設」を書いたが、今回は米国防省は「4年毎の国防計画見直し」(Quadrennial Defense Review:QDR)と「戦略的拒絶地域」との関連について書いて見たい。

米軍が、アフリカ全域を担当する統合軍(AFRICOM)を創設し、特に①コンゴ民主共和国(DRC)、②ギニア湾、③ダルフール、④ソマリアを重点的に偵察・監視にある事を書いた。この中で「戦略的拒絶地域」はDRCである。
DRCは南アフリカと肩を並べるほど、希少資源が集中している地域で、この「戦略的拒絶地域」であるDRCを守る為に米国は、あらゆる手段を行使して他国の介入を阻止するだろう。

この「戦略的拒絶地域」について参考になりそうな文書がある。それは米国防省が今年2月に提出したQDRである。それと5月27日に公表された「国家安全保障戦略」も参考になる。
この「国家安全保障戦略」によりオバマ政権の国家戦略が明らかになったが、ブッシュ政権時代とは大きく趣を異にしている内容だ。

「国家安全保障戦略」と言う文書には、深刻な財政赤字、科学技術、医療、教育、移民など現代米国が抱える様々な問題課題を含む包括的な内容を含む文書であり、注目すべきは可能限り軍事的衝突を回避する為、軍事・情報機関はもとより、国際機関等を活用して武力行使の必要性を回避するとしている。この国際機関等には、米国民主主義基金 (NED:National Endowment for Democracy)やフリーダムハウスなどNGOも含まれる。これらNGOの準軍事工作機関的な活動については、今は書かないが後日書きたい。が、これだけは明示しておきたい。米国の認識は、もはや単独では、現在の国際情勢に迅速に対応する事が極めて難しい環境となっている事。この為には軍隊のみならず文民組織の支援も全面的に受けた上での統合的な体制でないと、様々な危機に対処できないという認識は、2010年QDRにも反映されている。

QDRは、1996年の「軍隊の戦力構成見直し法」により、国防計画・政策を全体的かつ包括的に見直し4年毎に連邦議会に報告される文書で、今後の国防政策/方針を知る上での基本文書である。
さて、2010年版QDRを一言で言うと『バランス』である。これはブッシュ政権から継続して国防総省の親分であるゲイツ国防長官がQDR発表時にも述べている通りで、伝統的な軍事脅威への対応準備と、イラク、アフガニスタンなどでの非正規戦の戦闘能力とのバランスなどの見直し全体最適を行う事が必要との認識であり、この為F-22の生産を正式に終了させ、C-177輸送機調達、及び次世代航空母艦の調達を延期するなど軍事資源の再配分を実施している。

さて、2010年版QDRで注目すべきは「アクセス拒絶」。それとこれに対となる「サイバー戦」の2つ。
「アクセス拒否」とは敵対国家、及び敵対勢力による「戦略的重要地域」、及び「戦略的拒絶地域」への戦力展開、抑止し、必要に応じて戦力を無効化・排除する為の軍事・準軍事行動をいう。

QDRでは、deter and defeat aggression in anti-access environments と表現されている。これはアクセス拒否環境下における攻撃抑止と打破とでも訳すのだろうが、QDRにある「アクセス拒否/地域拒否」(anti-access/area-denial)能力については、米軍の軍事能力を高めつつ必要な態勢構築が必要であり、具体的には、海外遠征打撃能力の向上、特殊部隊支援潜水母艦などを含む対潜水艦能力、中東、インド洋、中央アジアなど前方展開基地の抗湛性向上、宇宙空間資源の利用促進と安定的なアクセス確保及び緊急対処能力、C4ISR、敵対国家勢力のレーダー、各種監視システムシステムへのサイバー戦を含む積極攻撃、米軍の持てる戦力の効率的確な統合作戦力の構築など盛り沢山だ。

また将来の想定敵は、陸上、航空、海洋、宇宙、サイバー空間のフル・スペクトラム支配を競う能力を開発/保持するとしており、特に「サイバー戦/対サイバー戦」に対処する為、第704軍事情報旅団陸軍ネットワーク戦大隊などに代表されるネットワーク侵入と論理爆弾設置、対衛星兵器と支援システムの侵入・破壊、それと「コンピュータ・ネットワーク防衛」(CND)と呼ばれる陸戦システム、海洋、航空、重要インフラなどへ対サイバー戦能力を高める為の投資拡大、それとサイバー戦に係わる組織体制の改善や、CIA、FBIなど関連する連邦機関省庁、関連国防、情報通信企業、同盟国との協力支援関係の拡大など、来るサイバー戦で勝利する為の包括的アプローチの必要性とサイバーコマンド部隊の拡大や民間人も含めた教育訓練についてもQDRは記述している。

要は、敵対勢力の「戦略的拒絶地域」への「アクセス拒否」する為には、陸・海・空・宇宙・サイバースペースと言うフル・スペクトラムで、米国の持てる能力の全てをかけて殲滅する。つまり手段は選ばないと言う訳だ。

但し、911以降、10年近くにわたって戦争状態が継続し、財政赤字が深刻の度合いを増すなかで米国債の格付けが下げられ、国内経済の立て直しの為にTPPなどブロック経済を指向しているかのような時代錯誤の政策をうたなければ成らない程、米国の国力を削いでいるのは確かである。
現状では、米軍の軍事的優位は圧倒的ではあるが、将来にわたってそうであるとは考えて鋳ないことがQDRを読むとわかる。
米国は自国に必要不可欠な資源・エネルギーを確保し、地政学的に重要な地域をコントロール化に置くためには、当該地域を「戦略的拒絶地域」として「アクセス拒否」して、将来現出するであろう次の戦争での勝利を確実にすると言う強烈な「国家の意思」をヒシヒシと感じるし、目的を完遂するだろう。

「山猫は眠らない」と言う海兵隊狙撃手・ベケット上級曹長の人気シリーズの最新DVDが出た。シリーズ4作目「復活の銃弾」だが、既にベケット上級曹長は引退しており、その息子がコンゴや周辺国での兵器横流し&売買する悪徳軍人の犯罪を摘発すると言うもの。
コンゴなど中部アフリカの状況を垣間見るには良いかも知れない。少年兵の話をも織り込まれているし。

何はともあれ、新たなヒーローの誕生だ~海兵隊狙撃手ベケット軍曹。彼も「アクセス拒否」の為に大活躍するのだろう。

『原子力広報対策の考え方』 ← 是非ご一読!

2011年11月09日 | 日記

原子力に関係する広報に関する対応策が詳細に記載されています。
ご一読あれ~
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『原子力PA方策の考え方』
(一九九一年三月、科学技術庁委託/日本原子力文化振興財団作成)

原子力PA方策委員会
●委員長=中村政雄(読売新聞社論説委員)
●委員=田中靖政(学習院大学法学部教授)
    赤間紘一(電気事業連合会広報部部長)
    片山洋(三菱重工業広報宣伝部次長)
    柴田裕子(三和総合研究所研究開発部主任研究員)
●オブザーバー=松尾浩道(科学技術庁原子力局原子力調査室)、村上恭司(同庁原子力局原子力利用推進企画室)
●事務局=松井正雄(日本原子力文化振興財団事務局長)

Ⅰ 全体論
A.広報の具体的手法
1 対象■
①対象を明確に定めて、対象毎に効果的な手法をとる。
(1)父親層がオピニオンリーダーとなった時、効果は大きい。父親層を重要ターゲットと位置付ける。子供が立派に育つかどうかには、やはり父親の責任が大きい。母親の常識形成にも影響が大きい。父親は社会の働き手の最大集団であり、彼らに原子力の理解者となっていただくことが、まず、何より必要ではないか。真正面から原子力の必要性、安全性を訴える。
(2)女性(主婦)層には、訴求点を絞り、信頼ある学者や文化人等が連呼方式で訴える方式をとる。「原子力はいらないが、停電は困る」という虫のいい人たちに、正面から原子力の安全性を説いて聞いてもらうのは難しい。ややオブラートに包んだ話し方なら聞きやすいのではないか。
(3)不安感の薄い子供向けには、マンガを使うなどして必要性に重点を置いた広報がよい。タレントの顔は人々の注意を引きつける能力はあるが、人気タレントが「原子力は必要だ」、「私は安心しています」といえば、人々が納得すると思うのは甘い。やはり専門家の発言の方が信頼性がある。タレントを使うくらいなら、マンガの方がよい。
 タレントさえ使えば、こと足れりとする今の広報のやり方ではだめだ。
②対象は父親、主婦、子供(教育も含む)、訴える内容は原子力発電所の必要性と安全性、食品の安全性、原子力を中心とした科学的知識の普及などだろう。テレビ広報は、経費の割に効果がうすいのでやめた方がよい。
③中年男性層がきちんとした知識を持ったら影響力は大きいだろう。どの媒体が最適か、調査の価値はある。原子力の広報を担当してきた歴史の長い代理店、調査担当の人を集めて、費用対効果を一度よく検討する必要がある。その時のターゲットを中年男性に絞ってみてはどうか。
④対象を一つに絞って、期間を区切って、その期間中頻繁に広告を流す、ということを広告の基本としたらよい。
⑤今年はこの職業と、ターゲットを決めて一年間地道な広報をやってみる。結果を見て来年のターゲットを決める。
⑥事実を知らせることが必要である。サラリーマン向けには事故時など関心が高まった時に、簡単な原子炉のしくみなどを、わかりやすい資料にして提供する。次には、その家族向けに作った簡単な資料を父親が家に持って帰るようにする。主婦層は反対派の影響を受け易い、と同時に父親からの影響も受け易い。対象別にやるときは、具体的に「今年の対象はこれだ」と対象を一つに決めてやる、科学技術庁の広報は、医師、教師などの公共的な信頼性のある人々に向けて行うとよい。専門的雑誌は多数あるだろうし、広告料も手頃なのではないか。医療専門誌などターゲットを明確にしたら反応もとらえやすい。派手なものより地道な広報が効果的だと思う。
⑦極論すれば、対象を特定した広告は、対象外の人には通じなくてもよい。

2 頻度
①繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る。いいこと、大事なことほど繰り返す必要がある。
②短くともよいから頻度を多くして、繰り返し連続した広報を行う。政府が原子力を支持しているという姿勢を国民に見せることは大事だ。信頼感を国民に植え付けることの支えになる。

■[G]3 時機(タイミング)■
①タイムリーな広告は効果大。定期的に出ているコラム広告などは、効果は小さい。チェルノブイルや美浜炉事故が起きた時、スウェーデンで原子力発電所廃止を決めた時など、国民の関心が原子力に向いている時期に広告すれば国民は注目する。コラム広告は、関心のない人をひきつける魅力に欠けるのではないか。反対派と積極推進の人は読む必要がない。
②広報効果の期待できるタイミングを逃さず、時機に応じたタイムリーな広報を行う。事故が発生したときは、国民の関心が高まっている。原子力広報のタイミングは最適である。
③時機を得た広告は効果大である。不測の事態に備えて、予想される簡単な解説図を準備したりして対応なども考えておく。
④何事もない時の広報は難しい。事故時を広報の好機ととらえ、利用すべきだ。教科書や講演会、講習会は定常的に実施しても見てもらえる、聞いてもらえるが、パンフレットや新聞広報などは何もないときの注目度は低い。積極的に近づきたい、知りたいという気持ちになる対象ではないからだ。事故時はみんなの関心が高まっている。大金を投じてもこのような関心を高めることは不可能だ。事故時は聞いてもらえる、見てもらえる、願ってもないチャンスだ。
⑤原子力に興味のない人を振り向かせるには、事故などのインパクトの大きい時機でなければ無理だ。こういう時には、関心が高くなっている。父親を対象とする場合でも、農業、個人経営等の職業別対応も考えなければならない。
⑥原子力の広告が読まれるのは事故時とエネルギー危機の時だけだろう。一般紙に出す広告は事故時だけにしたらよい。専門誌への広告は常時出したらよい。
⑦事故時の広報は、当該事故についてだけでなく、その周辺に関する情報も流す。この時とばかり、必要性や安全性の情報を流す。美浜2号炉の安全性を確かめるため日本原子力研究所で模擬実験をやったが、あの事故の様子を映像で取り上げるよう働きかけるべきだった。
⑧事故が起こったりして一般人が原子力に対して好意的でない時機には、大々的広報は反感をかう。やり方については、十分考慮すべきだ。やはり日頃の草の根的な広報に力を入れるべきだろう。
⑨事故後、時間が経つにつれて「実はここが悪かった」式の記事が出るなどは広報上最悪だ。あとで訂正記事が出ても効果が薄いことを見ればわかる。しかし、あとからでも正確な報道をしてもらう必要がある。できれば、最初からほぼ間違いないところを報道してもらうよう情報提供すべきだ。科学技術庁が、モンルイ号事件(六フッ化ウランを積んだコンテナ船がベルギー沖で沈んだ事件)の報道に対し、記者クラブを通じて積極的に正しい情報を出し続けたのはよかった。素早く対応したから効果的だった。
⑩夏でも冬でも電力消費量のピーク時は話題になる。必要性広報の絶好機である。広告のタイミングは事故時だけではない。

4 内容(質)
①国民の大部分が原子力を危険だと思っているのが現状であるから、広報は"危険だ"を前提に置いて、徐々に安全性を説いていく方がよい。
②訴求点をストレートに出す。ごまかしてはいけない。「隠す」、「ごまかす」という感じを持たれては何もならない。誠意を示す広報であるためには、担当者の姿勢、心構えが重要である。
③情緒に訴えるやり方は避ける。原子力をイメージとしてとらえてもらうのではなく、事実を知ってもらう。原子力に限らず、長寿ですらプラス面のほか、マイナスもある事実を知り、プラス、マイナスの中から生まれるバランス感覚こそが大事だ。これまで、日本は外国の知識、経験、国家の保護の下に生きてきた。国民にも甘えがあり、真剣なバランス感覚を磨く機会が乏しかった。コメの自由化も同じことで、事実認識の中から正しい判断が生まれる。
④原子力には、隠されたものというイメージがある。このイメージ払拭のためにも、堂々と正面から訴える。原子力はこそこそ隠れてやるものではない。安全性に自信がないので、腰が引けるのだろうが、現状が人前に出せない状態なら止めるべきだ。そうでないならもっと胸を張って、訴えてほしい。
⑤一般人が信頼感をもっている人(医者、学者、教師等)からのメッセージを多くする。医者や教師が正しい理解をしているかどうかが問題で、彼らに情報を提供する必要がある、医者の放射線の知識は極めてプアだときく。しかし、専門家意識だけは持っている。難しいかもしれないが、彼らに正しい理解を求める作戦がいる。

5 考え方(姿勢)
①原子力が負った悪いイメージを払拭する方法を探りたい。どんな美人にもあらはある。欠点のない人がいないように、世の中のあらゆるもの、現象には長所と短所がある。差し引き長所がどのくらい短所を上回るかが現実の選択基準になる。不美人でも長所をほめ続ければ、美人になる。原子力はもともと美人なのだから、その美しさ、よさを嫌みなく引き立てる努力がいる。
②原子力は、腫物に触るような扱いをされているように見える。これまで「原子力は美人だ」と言いすぎた。胸を張りすぎた。反対運動はその反作用でもある。欠点を指摘されて、急に卑屈になった。そこが一般の人から見ると不自然に映る。素直に原子力の長所と短所を言われるようにすることが大事だ。逃げ回るのはいけない。喧嘩の弱い人のやり方だ。
③国のPRは民間のPRに比べて、量的に少ないのではないか。原子力の「必要性」、「安全性」は電力会社が主張するより、本来、国が主張すべきことだ。この二つの前提があって、初めて社会的に認知される存在になり得るからである。科学技術庁は原子力のハードを開発すれば、国民は黙ってついてくると思っている。大間違いだ。前提を国民が疑っているというのに。
④原子力は一般的に短所ばかり言い立てられている。長所をアピールすべきだ。マスコミも短所ばかりを取り上げる。長所は、まずニュースにならないからだ。そのため、短所ばかりを世間に知られることになる。「ほう、なるほど」と思うような長所を取り上げさせるよう努力すべきだ。原子力開発の初期は長所がニュースだった。その時期が過ぎて、長所は「当然のこと」で、ニュースではなくなった。
⑤いまのPAは「みんなで考えましょう」で終わっている。もっとダイレクトに「ここが長所だ」とやるべきだ。「みんなで考える」ことは大事だが、考えてもらうには情報を十分に提供する必要がある。長所と短所を提供し、両方を見比べて考えてもらうこと、そのとき、短所も長所もダイレクトに言ってもらいたい。大部分の人々は、本当はよく知らないのだ。
⑥チェルノブイル事故によって、輸入食品の汚染が言われるようになり主婦層の不安が増大したため、主婦向け広報を行ってきた。主婦は反対派の主張に共感しやすいというところから広報する必要があった。しかし、いまは小康状態にあり、一つの転機に来ているとは思われる。主婦は食品の安全性に関心があるので、チェルノブイル事故に関心を持った。その関心に真正面から応える記事でなければ受けつけてもらえない。イメージ広報がだめなのは当然だ。原子力施設などを見るチャンスは、ないよりはあったほうがよい。
⑦広報の対象を決めたら、彼らがどのような雑誌を読んでいるか、調査が必要だろう。一つの対象に集中的にやったならば何かしらの効果はある。彼らが原子力に対する自信を持った時、それを他人に伝えることで影響力をもつことも期待できる。
⑧知らないがために不安が大きくなるのだから、基礎的データで知るための事実を提供する。原子力は"危険"が前提のエネルギーであるから知ってもらうことが多くあるはずである。
⑨関心を持たない人に関心を持たせる方法が問題だ。雑誌はかなり専門化している。雑誌に相応した情報選びが必要だ。たとえば、食品関係の雑誌に載せる放射線関連の記事などは適材適所である。具体的な情報を提供するのが大切なのであって、あえて原子力のイメージを和らげる必要はない。それぞれの媒体にあった情報を載せることに意味がある。
 広告は、例えば、「日経メディカル」のように提供元を明記してもよいから、内容は責任ある人の署名入りの記事がよい。
⑩原子力による電力が"すでに全電力の三分の一も賄っているのなら、もう仕方がない"と大方は思うだろう。環境、自然食品などエコロジーに関心の強い女性は、地域の消費者センターのような所を頼りにしている。センターには放射線測定の機具等も揃っているようだ。そういったところのオピニオンリーダーを理解者側に取り込めたら、強い味方になる。女性等は必要性よりも安全性に関心があり、学習意欲も十分に持っている。体験学習の場を設けるなど接触したらよい、大部分はグループ活動をしているのでアプローチが容易だ。
 消費者センターは機関紙を発行している。"どうしたら安全に生活できるか"が機関紙の主なテーマであるから、原子力関連記事なら無料掲載も可能だと思う。

6 手法
① 広報の中心を"原子力発電所"に置きすぎる。放射線やその他の分野から理解を深める手法も考える余地がある。放射線や放射能が日常的な存在であることを周知させる必要がある。大腸菌も大量に目の前にあると分かれば不気味だが、少々なら平気と思うのは、日常的存在を感じる習性が身についているからである。
②安全性や生活との密着性を機会ある毎に直接的に訴えていく。川も海も火山も暴れると恐い。ただし、対策があれば安心できる。安全とは無策で存在するものではなく、努力して作り出すものである。泥遊びをすれば手が汚れるが、洗えばきれいになる。危険や安全は程度問題であることをわれわれはもっと常識化する必要がある。
③利用実態をオープンに知らせる。原子力が日常生活から離れた存在でないことを知れば、「見えない恐怖感」を和らげられるのではないか。
④原子力広報は、まず"安全だ"と打ち出すのではなく、"核分裂という現象は危険だ、その危険をどう安全に変えているか"という手法を探る。これまで「安全」を強調しすぎた。だから何か起きると「それみたことか」、「日頃言っていたことと違うじゃないか」ということになる。世の中に危険でないものは無いのに、原子力だけは「安全だ」ということ自体おかしい。危険でも安全に注意して扱えば安全になる。青酸カリでも火でも、何でも同じだ。
⑤基礎的な知識がないと、ちょっとしたニュースに対しても不安感が募りがちであるから、日頃から系統立てた安全性の説明が必要だ。戦争でも情況判断ができれば、あわてなくてすむと聞く。軽重の判断をするには基礎知識が欠かせない。文科系の人は数字を見るとむやみに有難がる。数字の怖さを知らないからだ。過信して判断を誤ることがある。理科系の人間は数字のいい加減さを知っているので過信はない。有効性についても判断を誤らない。
⑥関係機関は個々に広報活動をしており、結集した力になっていない。やり方等ある程度統制したら、効果が上がるのではないか。科学技術庁、通商産業省、各電力会社、電気事業連合会等で、それぞれ似たようなパンフレットを作っている。その金を集めて、効果的に作ってはどうなのか。個々に作った方がいいものもあるだろうが、共通の方がいいものもあるように思う。
⑦「一方的に話す」広報には限度がある。多数を集めて講演会をするよりは、小人数のディスカッションで参加者が自由に発言できる場を設けたほうが、理解促進につながるだろう。よい語り手も育つ。広報の相手が不特定多数であるほど効果は拡散する。講演会もよほどうまく話さないと多人数では効果が薄い。つまり、人の話を聞いただけでは、いまいち納得できないところを、突っ込んで聞けないから消化不良になる。質問をし、人の質問も聞き、「なるほど」と納得してもらうと原子力について自信のようなものを植えつけることができるだろう。特に、原子力について敵意をもつような人にはディスカッションが好ましい。納得した人が増えれば、ロコミで「原子力はやはりやらねばならない」ということが広まるのではあるまいか。
⑧原子力広報は、何を、どこまで知ってもらうことが目的なのか。単に拒絶反応を払拭するのが目的か。関心のない人にも関心を持たせようというのか。どんな人に、何を、どこまで、という前提が明確にあって、初めて広報手法が決まってくると思う。
⑨主婦から拒絶反応を拭うには、やはり食品が切り口だろう。食品照射についての理解を深めようとするなら、食品そのものヘアプローチするのが効果的だ。主婦の場合、自分の周りに原子力発電所がなければ、原子力発電を他人事としか受け取っていない。したがって、情報に対する興味が初めからない。興昧がない人に注意を喚起する必要があるのか。
⑩父親に訴えるべきことは何か。事故時は心配のないことを伝えればよいが、平常時には必要性と安全性だろう。広告は文字が多くいろいろな情報を盛るよりも、グラフや表などで情報を出す方がよい。例えば、食品に含まれる放射性物質の量を表に示すなど、事実情報を簡潔に提供するのが効果的だ。
⑪消費生活アドバイザーの国家試験問題に、原子力を取り入れたらどうか。
⑫ニュースはできるだけ"作る"ことを考えるのがよい。「食品を調べてみたら放射性物質の量は○○だった」といったように。

7 その他(学校教育)
①教育課程における原子力・エネルギー問題の取り上げ方を検討する。教科書(例えば中学の理科)に原子力のことがスペースは小さいが取り上げてある。この記述を注意深く読むと、原子力発電や放射線は危険であり、できることなら存在してもらいたくないといった感じが表れている。書き手が自信がなく腰の引けた状態で書いている。これではだめだ。厳しくチェックし、文部省の検定に反映させるべきである。さらに、その存在意義をもっと高く評価してもらえるように働きかけるべきだ。
②教師が対象の場合、大事なのは教科書に取り上げることだ。文部省に働きかけて原子力を含むエネルギー情報を教科書に入れてもらうことだ。高校で家庭科が必修科目になったことでもあるし、今がチャンスだ。
(原子力の日)
③「原子力の日」記念のイベント開催、といった広告はやめたらよい。まず、ポスターを貼る場所が問題だ。関係者のところにしか貼れない、これでは意味がない。「原子力の日」だといわれても感激はない。まして、過去にあった男女で抱き合うようなポスターを見せられて、原子力に親近感が持てるわけがない。原子力に明るいイメージを持たせるためには事故を起こさないことだ。原子力がなければどんなことになるか、例をあげて説明するのがよい。
④国民の大半は"原子力はいやだがやむを得ない、でも事実を知りたい"という意識を持つ。この層の不安に答えていく。「わずかな放射線でも危険だ」というように思わせる記述がある。では自然界の紫外線や、土の中の放射能による放射線はどのように考えるのか。胸のエックス線検査はどうなるのか。どこまで危険なのか。なぜ未解明な部分が残るのか。事実をよく知らせる努力がほしい。「原子力の日」のPAは正確な知識の普及の機会にしてほしい。
⑤景品等は実用性のある魅力あるものにする。知恵をしぼってもらいたい。景品を付けても、その人は景品に興味があるのに過ぎなく、記事の内容に興味はない。
⑥対象別になにを訴えるか、目的をはっきりさせないとだめだ。テレビの何々ショウといった番組で影響力の強い人がしゃべったのを聞いて、賛成になったり反対になったりする主婦もいる。男性の場合は、事実をはっきり知ってから賛否を決めるだろう。今後は、何を伝えるかをはっきりさせないとだめだ。科学技術庁のスタンスをどこに置くのか。それがはっきりしたところで広報手法が決まってくるだろう。
(見学)
⑦施設見学での多少危険な経験は、印象的で理解促進に役立った、という意見を聞いたことがある。英国でも炉心の真上に見学者を立たせるように見学コースを改めた。「皆さんの足元に炉心がある」という説明が却って安全性の信頼を深めたという。ベリホフ氏(ソ連アカデミー副総裁)は見学者に白衣を着させることの是非にまで立ち帰って検討するといっていた。
(事故対応)
⑧事故に関する説明は、もっと分かり易く、テレビも新聞も分かり易く報道する。政府が正確さを重視して難しく書いて発表しても、報道の段階で間違って翻訳されたのでは何もならない。だいたい日本の専門家は難しすぎる。本人がよくわかっていないからではないか。それならもっと勉強すべきだ。
(広告)
⑨国民の反対が出るくらいの、アピール度の高い、強烈な広告を出したらよい。当たりさわりのない広告はやめること。
⑩国民を一つの対象として広報効果を上げるのは難しい。対象別に対応すべきだ。誰にも好かれようとして、誰にも関心を持たれない広告をする結果になってはいないだろうか。
⑪漠然とした情報の垂れ流し的広報は無意味だ。広告を業者に発注するときの国の姿勢に問題がある。「何かアイディアを出せ」という言いかたで代理店に迫るだけではだめだ。「国民にこの際何を訴えるのか」、「この際何を主張すべきか」、国のスタンスを示すことが重要だ。国に方針がなく、業者に漠然と発注するから、垂れ流し広報になる。
⑫イメージ広告はやめて、情報をきちんとダイレクトに出す。ムードで、原子力は必要だという気持ちにさせることができるだろうか。原子力は化粧品の広告と同じ調子でやるべきではない。「事故を起こすかもしれない」という不安、「原子力をやらなくてもエネルギーは不足しない」という充足感に具体的に訴える必要がある。
⑬いま広告は"知識が得になる"という形を考えるのがよい。情報は多くを盛り込むことはない。話題となり得る客観性のある情報、また、役立つデータなど、一点あればよい。
 言葉が多いと読んでもらえない。情報量は限定される方がよい。
⑭QA方式ならば、Qは1問だけにして、すっきりしたものにする。「それだけでは不十分じゃないか」、「もっと出せ」と読み手が不満を感じたら成功ではないだろうか。もっと情報をほしがる気持ちにさせたのだし、関心を持って読んでもらえたのであるから、そういう作り方もある。
⑮定番手法にこだわらず、自由な形で一般人に議論を投げかけるような内容もよい。ただし、うんと核心を突いたものでなければならない。ごく平凡な人が、率直に持つ疑問がよい。なまはんかなインテリ面で考えたものではだめ。
 女性科学者の日常を紹介した広告などはたいして意昧がない。
⑯必要性を訴える場合、主婦層に対しては現在の生活レベル維持の可否が切り口となろう。サラリーマン層には"1/3は原子力"、これを訴えるのが最適と思う。電力会社や関連機関の広告に、必ず"1/3は原子力"を入れる。小さくともどこかに入れる。いやでも頭に残っていく。広告のポイントはそれだと思う。
(反対派)
⑰ 反対派の広報のうまさは、皆が知りたいと思っている点を広報していることだ。見習うところが多い。一から一〇まで説明しようとすると、くどくなる。反対派は、一点に狙いを定めて攻めたてるから楽だともいえるが、一般の人々の気持、生活スタンスに立って訴えている。この点は見習うべきだ。日本原子力産業会議の調査でも、推進側より反対派の説明の方が説得力があると答える人が多い。

B.PAのPRについて
1 国の役割
①原子力広報に対する国民の目には"国はもっと推進活動をすべし"と"国の積極的推進活動は信頼感を弱める"の二つがある。配慮を要する。原子力発電は、国家的事業として推進している国の重要施策であって、電力会社が勝手にやっていることではない、という姿勢を常に見せておく必要がある。その反面、安全でないのに安全性を強調し、不安感を不当に抑えつけている。「欠陥を隠す」、「業界をかばう」という姿勢を見せると逆効果になる。
②国の積極的姿勢をアピールするのはよいことだ。原子力が日本にとって、地球にとって必要であることは、あらゆる機会をとらえて強調する必要がある。
③国が積極的に取り組む姿は大いにアピールすべきだ。国が本気でなく、腰が引けているという印象を国民に与えてはならない。やはり、国が支持していることが、原子力に対する信頼感の基盤になる。
④必要性の広報は通商産業省がやるべきことか、科学技術庁はやらなくともよいのか。通商産業省は立地広報、科学技術庁は全国広報なので両者でやらなければならない。ちなみに事故の報告は通商産業省の仕事である。
⑤緊急時の広報は通商産業省の仕事であるということだから、科学技術庁は平常事の広報だけでよいわけだが、そうなると必要性の広報にも力を入れねばならない。

2 科学技術庁長官
①当面は、山東科学技術庁長官に大いに活躍願う。この知名度の高い大臣のキャラクターを生かすこと。同長官は他の政治家にはない大きなプラス面がある。【★訳注】
②同じことを話しても、山東長官は聞かせる。人を引きつける力がある。広告に顔を載せるだけなら、並のタレントと同じ効果しかない。ニュースを作って、そこで新聞やテレビの側から取材させる機会をつくるべきだ。効果的広報をいうなら、山東長官にテレビに出てもらうのが手取り早い方法だ。イベントも新聞やテレビがニュースとして取り上げるようなものなら、大いに結構だ。

★注――当時の科技庁長官は、元テレビタレントの山東昭子だった。彼女は子役で芸能界に入り活躍を続けたが、人気が低迷していた一九六九年に「クイズタイムショック」で番組初の五週連続勝ちぬきを達成し「クイズの女王」「頭脳タレント」として人気が再燃し、一九七四年の参院選で自民党から出馬して大勝した。

3 ポスター・広告
①原子力広報を担当させられる業者は「広報ポスターは意味がない」という。関係者のところにしか貼って貰えないようでは、仲間うちのなぐさめあいではないかという批判がある。だが、それでも、原子力事業者にはポスターは力強い呼びかけとうつる。そのくらい心細い思いで原子力の御輿はかつがれている。もっと心強い関係者への励ましとしてのポスターを作ったらどうか。無理に反原発や無関心の人の気を引くことはない。
②ムード的ポスターは無意味である。原子力に明るいイメージを持たせるには、事故を起こさないことだ。いくらごまかそうとしても放射能があることは誰も知っている。原子力がなければどんなことになるのか、例をあげて必要性を強調するのはよい。
③ポスターもPAの一環として位置付けて作成し、全国の学校、JR・地下鉄、展示館や博物館、プラントメーカー、電力会社などに配布すること、特に学校と駅は効果が期待できる。
④ポスターを貼ってくれそうな相手を選んで送らなければだめだ。ポスターよりも車内中吊り広告の方が効果的だろうが、場所取りや経費が大変かかるであろう。
⑤車内ステッカーも注目率がよいが、場所取りの競争が激しくてなかなか難しい。
⑥広告は情報を一つだけに絞れば読んでもらえる。
⑦中吊り広告は効果あると思う。入試問題を広告にした中吊りを見たことがあるが、あれは効果的だと思った。ただし、そこで何をやるかが問題だ。原子力の基礎的な知識や、環境における原子力の優位性をクイズにするなど、工夫したら効果のあるものになろう。
⑧新聞の折り込み広告はどうか。印刷、紙代は別で一枚一円程度だろう。折り込み広告は効果的かもしれない。
⑨父親に訴えるべきは何か。事故時は心配のないことを伝えればよいが、平常時は必要性と安全性だろう。広告は文字が多くいろいろな情報を盛るよりも、グラフや表などで情報を出す方がよい。例えば、食品中に含まれる放射性物質の量を表に示すなど、事実情報を簡潔に提供するのが効果的だ。

4 イベント
①イベントの多い現在、「原子力の日」そのものの広報は意味がない。「原子力の日」と聞いても、原子力に対する理解を深めようという気分にならない。言葉に強い響きがないからだ。しかし、なくしてしまえば、原子力の存在を国民に訴えるチャンスが一つ減ることになるので、あった方がいい。ただし、工夫してほしい。
②テレビ局が取り上げざるを得ないような、インパクトの強いイベントなら効果がある。イベントは人の関心を引くことが大事だ。賛否を問わず、仲間うちだけで見るのではなく、ニュース性を持たせる必要がある。
③反対派からまともな学者が出てくるのであれば、政府主催の討論会も意味がある。議論をして負けると分かっている討論には、反対者も賛成者も出演するのは嫌だろう。どちらにとってもその立場を発言することができ、聞いている人も面白いように企画できれば、大いにやるべきだ。
④放射線測定講座はすでにやっているが、あまり知られていない。ここでも「PAのPR」の必要性を実感せざるを得ない。

5 その他
(ラジオ・テレビ)
①記事にするにはどうしたらよいのか、新聞記者も交えて検討したらよい。ダイレクトメールは毎月送らなければ効果は薄い。
 NHKは政府広報をやっているのだから、原子力広報も流してくれるのではないか。
 ラジオはどうか。テレビほどの経費はかからないし、聴取者も多いと思う。
(講師派遣)
②一般市民を対象とした草の根の広報として講師派遣の事業を実施している。
 この事業は日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団を中心にかなり実績を上げていると聞く。どの点がよかったのか一年に一度くらい分析してみてはどうか。
(一日科学技術庁)
③新聞に科学技術庁の名前が出る回数は少ない。科学技術庁の情報発信が少ないので存在感が薄い。国内の全都道府県で、ソフトで楽しい「一日科学技術庁」を実施し、日本の科学技術レベルを内外情報を交えて伝える。地元マスメディアは必ずや報道するものと思われ、効果が期待できるのではないか。
(反対派)
④反対派リーダーと何らかの形でつながりをもったらどうか(討論会の開催など)。反対派とまじめな討論会が開かれるならば、当局は反対派の気持も汲んで原子力利用をしていこうとしていることを国民に示すチャンスになる。メディアも取り上げるだろう。反対派が応じないので、本当に困っているなら、呼び掛けをメディアを通じて行えばよい。呼び掛け自体が記事になる。
(学校教育)
⑤学校は重要な組織であると心得て、学校教師には科学技術庁からダイレクトメールを直送したらどうか。読まれる率も高いし、国の積極的姿勢も同時に示すことができる。
(見学)
⑥原子力発電所を見学しても何も分からなかった、という人が多い。放射線測定器を持って実際に測定しながら見学ができたら理解につながると思う。
(地方誌)
⑦全国の自治体に当たってみたら、原子力広報を掲載してくれる自治体があるかもしれない。新聞の地方支局も当たってみるとよいだろう。雑誌もよかろう。
⑧ミニコミ誌などは可能性がある。
⑨積極的姿勢を見せることに意味がある。

基本事項
⑩基本的には、(1)政府は頼りになる、(2)人格的に尊敬される、(3)正直、誠実で、トラブルがあった時、一所懸命に説明する、(4)情報の透明度が高い、(5)現場を役人がよく知っている、ことが大事だ。

C. 一貫性のある広報をめざしたキーワード(略)
D. 広報実施機関としての国の望ましい姿、改善点(略)
E.放射線利用についての広報(略)

Ⅱ マスメディア広報
A. 総論
(ロビーの設置)
①原子力に好意的な文化人を常に抱えていて、何かの時にコメンテーターとしてマスコミに推薦出来るようにしておく(ロビーの設置)。新聞、テレビ、雑誌には、各分野でのコメントを求める専門家リストがある。原子力では反対派の人が多い。高木仁三郎氏は最も有名なコメンテーターだ。マスコミに彼の名前が載るたびに有名になる。役所が名簿を用意して「この人を使いなさい」と推薦するのも妙だ。コメンテーターにふさわしい人の名をマスコミが自然に覚えるよう、日ごろから工夫する必要がある。
②数名からなるロビーをつくり、コメンテーターの養成に努める。役所でレクをするときに、意識的に良識的コメンテーターの名前やそのコメントを出す。時には、その人を呼んでくるなどの対応が必要である。
③ロビーづくりは無理にしなくとも、記者クラブや論説委員との懇談会を利用したらよい。常設せずとも、必要があれば主婦連の人を集めて意見を聞くなど、臨機応変に対応したらよい。役所の広報誌に、常時、伝えたいことを掲載すれば読んでくれる可能性はある。

(スポークスマン)
④スポークスマン(役人を含む)を養成する。内閣官房長官と外務省報道官を除くと、役所にはスポークスマンがいない。いいスポークスマンは役所のプラスイメージになる。新聞記者が積極的に彼の意見を求め、記事の中に引用するようになる。そうすると、スポークスマンの考え方が新聞記者間に浸透するようになる。一種のマスコミ操作法だが、合法的世論操作だ。スポークスマンの知識と人格が.記者に感銘を与えるだろう。
⑤ちなみに、役人はスポークスマンとして信頼されるためにも、なるべく部署を変わらない方がよい。科学技術庁はPAを全く重視していない。江戸時代から戦前の日本みたいに、「知らしむべからず、依らしむべし」のやり方で、全くアナクロだ。そのくせ「マスコミはろくなことを書かない」とぼやいている。今は専門家や権威筋が判断すれば、黙って大衆が従う時代ではない。科学技術庁の原子力に関する世論調査にもあるように、「原子力発電を専門家だけに任せておけない」と思う人の方が「任せておけば安心」だと思う人を三倍も上回る時代なのである。技官の多い科学技術庁は、専門家の権威に頼りすぎるから、大衆の心がつかめない。広報、スポークスマンの重要性を認識していない。

(広告)
⑥事故などの場合、マスコミに情報提供してもニュースとして面白くない部分は記事にならないことが多い。であるなら、その記事にならなかったものを広告として出したらよい。「記事には取り上げてもらえなかったが、これが一番重要なことである。なぜこんな重要なことが記事にならないのでしょうね」といったコメントを添えるといい。

B. マスメディアの活用
1 活字メディア
①パブリシティ広報がベストである。いかにPA臭を無くするかがポイント。素材の提供をして、あとの料理の仕方は委せること。「正しい知識」の押し売りはだめ。専門家が正しい知識の理解を求めても、大衆に「聞きたくない」といわれたら、それまでだ。停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが、大衆であることを忘れないように。
②反対派が出す書物に対して推進派の手に成る書物は絶対量が少ない。その実態は、図書館の棚にもそのまま出ている。採算度外視の覚悟で出版数を増やすのはどうか。残念ながら、巧みな語り口で、面白く原子力推進を主張する本がない。正面切った原子力の推進派の教科書も少ない。推進派の本は誰も買わないが、反対派の本なら推進派が買うので、反対の本の方が売れるという一面もある。
③関係者の原子力施設見学会はどうか。原子力関係者の家族は是非原子力発電所を見ておく必要がある。家族が見て不安を感じたら、その不安は大切なPAのヒントだ。家族を納得させ得ないようなPAでは、一般の人々に訴える力も弱い。ワイフこそ最良の協力者である。ワイフが理解すれば、どこかの井戸端会議でも影響力を発揮するだろう。
④初めから「安全だ」といわず「危険だ」と表現し、読む気を起こさせる。そして、徐々に「だから安全なのだ」という方向にもっていく。その方が信用してもらえる。誰が考えても、原子力は危険なものだ。だから、安全装置が何重にもついている。モニターもしっかりやる。対策さえ十分なら安全に取り扱えるのではないか。
⑤書物は、行問を広く、漢字を少なく、写真やイラスト類を多くするなど、読み易い本作りを心がける。相手は読みたがっていない。無理に知る必要はないと思っている。初期の原子力開発時代には、原子力を知っていることがナウいのであったが、今は違う。だから工夫がいる。
⑥分かり易さではマンガが第一だ。正確さを損ないがちな点には十分留意した上でマンガを活用したらよい。ストーリーの面白さがいる、「美味しん坊」というシリーズマンガはストーリーもあるし、料理の中身についてもよく解説している。あの手口に学びたい。
⑦推進派の書物はなぜ少ないのか、分析する必要がある。また、面白く読まれるものにするための工夫をする。専門度の高い人と、筆の立つ人とを組み合わせるとか、専門家にしゃべってもらっていい直すとか、工夫の仕方はいろいろある。原子力を正面から見るだけでなく、後ろや横から、また上から見て、書く。
(1)マンガ形式で読み易くするのも一つの方法だ。
(2)一から一〇まで、"原子力はよい"という内容ではだめだ。「原子力は危ない」、「当局は何か隠している」と思っている人がたくさんいるから。
(3)あまりまともに原子力を取り上げない方が読まれる。読ませたい人の意見を聞いてみてはどうか。全く読みたくないのか。どう書けば読んでもらえるのか。論説委員や評論家に聞くだけではだめだ。
⑧形式だけマンガにしても内容がよくなければだめだ。「美味しん坊」は内容がよいから読まれている。推理小説の手法で、原子力を盛り込んで書いたら読み応えのあるものができると思う。推進派の人間は、手軽に本を書き過ぎる。手軽に書いた本が面白いはずがない。大学教授の書いたものをそのまま本にする。これもだめだ。図書館に本を無料で送ったら置いてもらえるのではないか。教科書的な本は当然に必要である。マンガチックなものや読み物風なものばかりではいけない。

2 映像メディア
①担当者もよく内容を理解しないまま、適当に「いいものを作ろう」と長年の間マンネリでやっている。癒着排除のため、毎年業者を変えて工夫をすることが必要だ。予算を消化するだけのようなPAをやっても意味がない。結局は"美人獲得競争"でタレントのいいのをつかまえた業者が手柄になるような映像メディアの利用はナンセンスだ。マンネリの三〇分映像より、テレビスポットを同じ料金で頻繁に流す方がPA活動としてはましである。
②テレビで討論会、対談、講座等を行う(政府提供では視聴率が悪いので工夫を要する)。まじめでおもしろい番組なら人はついてくる。原子力を、政治、国際情勢など時局に結びつけてやる方がよい。企画の善し悪しと同時にタイミングがある。
③クイズ番組に科学技術庁関連の問題を提出し、その中にエネルギー・原子力等を盛り込む。例えば、福井テレビの「もんじゅでクイズ」のように。
④既存の番組にうまく原子力に関する話題を取り入れて、半年~一年と継続する。
⑤単発ドラマを製作・放映する。原子力は"事故"で映画の対象になるが、もっとプラスイメージでドラマの中に入れる工夫をする。
⑥あるドラマの中に、抵抗の少ない形で原子力を織り込んでいく。原子力関連企業で働く人間が登場するといったものでもよい。原子力をハイテクの一つとして、技術問題として取り上げてはどうか。テレビでエレクトロニクスは技術紹介番組としてよく取り上げられる。なぜ、原子力は取り上げられないのだろうか。そこでは懸命に取り組み、汗を流している人もいる。これらの映像化の検討を考える。
⑦ドキュメンタリー的番組を製作・放映する。NHKが時々やるが、NHKのは批判色が強かったり、くせがありすぎる。もっと、フェアに素直に作れないか。民放の方がよいのではないか。TMIのニュース報道では、NHKが飛び抜けて問違いが多く、誇張が目立っていた。
⑧アニメマンガ番組を製作・放映する。テレビでのアニメのアイデアが不足している。子供に対する教育効果は大きい。
⑨いまのようにニュース番組の視聴率がよい時代には、国会議員や役人がテレビ出演するチャンスも多自いはず、その機会を大いに利用する。テレビ局に積極的にアプローチして、自らニュース番組への出番を作る努力をする。科学技術庁記者クラブのテレビ各社の記者と話し合ってみる機会をつくりその検討をしてみる。
⑩事故に対して関係者がどのように対応したか、といったようなドキュメンタリー番組を製作・放映する。事故を側面から見つめる番組である。
⑪草の根広報の一環として、山東長官が女性との対話集会を持つなど、ニュースとして取り上げられるような企画を考える。
⑫テレビスポットを数多く流す。何を訴えるかが大事。どうしても頭の中に叩き込んで、覚えてもらいたいことを訴える。
⑬PR臭の少ないパブリシティ広報を心がける。政府の広報だから、PR臭は抑えてほしい。
⑭何かの時には、原子力に好意的な文化人をコメンテーターとして推薦できるようにしておく。新聞、テレビがこの人のコメントを載せてほしいと思う人をリストアップし、その名前が自然にしみこむように、日頃の仕事の中で心がけていくことが大切である。

C.マスコミ関係者に対する広報
①広報担当官(者)は、マスコミ関係者との個人的なつながりを深める努力が必要ではないか。接触をして、いろんな情報をさりげなく注入することが大事だ。マスコミ関係者は原子力の情報に疎い。まじめで硬い情報をどんどん送りつけるとよい。接触とは会って一緒に食事をしたりすることばかりではない。
②関係者の原子力施設見学会を行う。見ると親しみがわく。理解も深まる。特に、テレビや新聞の内勤者の人たちにみせるのが効果が高い。彼らは現物を知らないので、観念的批判者になってしまっている。
③五~六人からなるロビーを作り、常に交流を図るのも一つの方法である。
④テレビディレクターなど製作現場の人間とのロビー作りを考える(テレビ局を特定してもよい)。特定のテレビ局をシンパにするだけでも大きい意味がある。テレビ局と科学技術庁の結びつきは弱い。テレビディレクターに少し知恵を注入する必要がある。
⑤人気キャスターをターゲットにした広報を考える。事件のない時でも、時折会合を持ち、原子力について話し合い、情報提供をする。例えば、有名な人に三〇分くらい話してもらい、質疑応答する。役所が情報提供する形式は面白くない(この場合の面白くないは、本当に面白くないの意昧)。何かことが起きて原子力がターゲットとなったときに、人気キャスターを集めて理解を求めることが出来るなら、これが最も効果的で、いい方法である。うまくやれば可能だ。それを重視させ得る知恵者を日頃からつかんでおく必要がある。
⑥広報担当官は、マスコミ関係者と個人的つながりを深めておく。人間だから、つながりが深くなれば、当然、ある程度配慮し合うようになる。
⑦日頃から、役立つ情報をできるだけ早く、かつまた、積極的に提供しておく。それが信頼関係を築く。記者にとってはありがたい存在になる。
⑧記者のポストが変わっても、情報の提供を継統していく。別の部局に移っても、情報資料を郵送する。ポストは二年くらいで変わるから、ずっと対象を広げていけば、強力な支援ネットを築くことになる。目先の人間だけを相手にする広報では底が浅くなってしまう。
⑨事実を伝え、その事実をマスメディアを通じて正確に流してもらうのが大前提である。平生から、特に社会部の記者とのつながりを深めておくことが大切である。
⑩役所の発行した資料でよいから、報道機関のデスクからOBに至るまで、常時送り続けることが、つながりを深めることになる。科学技術庁は、ニュースレターも何も送ってこない。これでは忘れられてしまう。
 ニュースになるか否かはともかく、資料は送る方がよい。新聞記者の原子力メーカー見学会などもよいのではないか。悪い噂が流れた時や事故時のマスコミ対応が非常に大事だ。新聞記者を避けるのは一番悪い。逆境の時こそマスコミにアプローチすべきチャンスでもある。

Ⅲ むすび
美浜発電所2号機事故のレクチャー

 原子炉事故のような事件が発生した際、その事故の概要、背景について親切な解説を新聞記者に対して行うことは、大変有益である。是非実行してほしい。その好例が、美浜2号炉事故の際、石川迪夫氏(当時、日本原子力研究所、現在、北海道大学工学部教授)によってなされたレクチャーである。
 午後6時頃から富国生命ビルの日本原子力発電所の一室で始まったレクは午前零時頃まで続いたようだ。石川氏の説明は、親切でわかり易かった。記者連中はよそでは恥ずかしくて聞けないような平易なことまで気安く聞くことができた。どんな質問にも石川氏は丁寧に答えた。
 このレクを機に、記者連中の書く記事は変わったように思う。内容が正確になり、うがちすぎの意地悪な推測記事が減った。
 このレクは日本原子力研究所が企画したものではないかと思うが、今までなかった企画だ。何より石川氏という適材を生かしたことにある。原子力界には常時、このような人を一~二人用意しておく必要がある。大学か日本原子力研究所のような中立機関であることが好ましい。こういう人材は非常に少ない。石川氏は「声がかかれば何時でも出動します」といっている。
 事件が発生したとき、新聞記者に噛みくだいた情報の提供が何故必要か。チェルノブイル原発事故発生直後、フランスの世論の原子力支持率が急降下した背景をフランスで調査した経験からそう判断できる。
 事故の後の世論調査で、93%の人々が「事情を知らされていない」、79%が「事実を知らされていない」と答え原子力の支持率を大きく下げた。
 調査してみると、政府も電力公社も情報を隠したわけではなかった。情報は提供していたが、ジャーナリストがそれを使いこなせなかった。技術的過ぎる説明で理解しにくく、興味を示さなかった。そのため、結果的に情報が提供されなかったことと同じになった。
 原子力に関する情報を一般大衆に対し、よりガラス張りにし、情報の質を高め、国民にわかり易い情報を提供するため、フランス原子力情報安全会議を新設したり、ミニテル利用のオンライン情報網を設けたが、事故後の情報提供の不十分さが国民の不信を招いたことを深く反省していた。