阿部ブログ

日々思うこと

大麻解禁の動向〜日本でも変化の兆し〜

2018年10月17日 | 雑感
平成31年4月30日に今上天皇が退位(譲位)され、5月1日に皇太子殿下天皇に即位される。天皇になる為には、「践祚大嘗祭」と言う宮中祭祀を経る必要がある。この践祚大嘗祭で最重要なのが神御衣(かむみそ)で、皇太子は、阿波国(徳島県)忌部氏の三木家が大麻で調製した「麁服(あらたえ)を着て天皇霊と一体となる儀式を経て天皇に即位する。また、伊勢神宮の式年遷宮の際に、今上陛下の娘である黒田清子さんが、大麻を頭に巻いて遷宮を先導しているが、大麻は、神の依代(よりしろ)となる神聖な植物であり代替不可と言われている。

大麻は、太古から現在に至るまで、宮中祭祀や神道祭祀、一般のお祭りには欠かすことのできないものであり続けている。
大麻は、日本の社会文化に深く根ざして様々な生活シーンの中で利活用されてきた。大麻の実は、スーパーフードであり、人の健康に有用な400以上の化学化合物を含有し、七味唐辛子にも大麻の実は入っている。更に大麻は昔から万能薬として知られており、HIV、アルツハイマー病、うつ病、強迫性障害、不眠症、てんかん、気管支喘息、帯状疱疹、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、クローン病、パーキンソン病など約250種類の疾患に効果がある。米国では慢性痛患者の8.9%が自己治療で大麻を使用している。
大麻が、現在のように日本に於いてタブー視されるようになったのは、昭和23年に連合国軍司令部(SCAP/GHQ)の指令により大麻取締法を制定した事にある。当時の日本政府は、敗戦直後であり食うにも事欠く有様の社会情勢の中で、大麻産業に従事する約800万人の生活基盤を破壊すると反対したが、占領下にあり主権が制限されている状況下では、指令を受け入れざる負えなかった。この為か大麻取締法には法の「目的」が書かれていない特異な法律となっており、日本だけが大麻自体の研究や医療大麻の使用も禁止されているなど特殊な法環境になっている。

大麻を厳しく禁じている日本だが、大麻を巡る状況には少なからず変化が観られる。2年前までは購入が出来なかった癌に有効とされる大麻抽出物質の「カンナビジオール」、所謂「CBDオイル」がAmazonなどで購入できるようになった。
米国でも、2018年6月25日に米国食品医薬品局(FDA)が、カンナビジオール(CBD)をベースにした「てんかん発作治療薬」エピディオレックスを認可した。
現在、米国の30の州とコロンビア特別区では、医療用マリファナが合法とされている。しかし、大麻とその抽出物を研究者に供給することを認可されている米国で唯一の施設はミシシッピ大学(オックスフォード)だけである。全米の医師がエピディオレックスを合法的に処方できるようになるためには、米国の麻薬取締局(DEA)が9月24日までにこの薬剤を別のカテゴリーに再分類する必要があるが、今後米国でも大麻研究の規制は緩和されるだろう。
現在、先進国では嗜好用大麻の所持や使用の非犯罪化が行なわれ、カナダは10月17日に大麻所持と使用を解禁した。ドイツでも警察が、大麻を取り締まるよりも、阿片系麻薬(コカイン、モルヒネ、ヘロイン)や覚せい剤、非合法ドラッグの捜査に警察アセットを投入するべきとの見解を示すなど「大麻=悪」と言う単純な図式は変化しつつある。

インパクト投資(Impact Investing)の新たな潮流〜Theory of change からmainstream approachへ

2018年10月15日 | 雑感

インパクト投資(impact investing)は、2007年、ロックフェラー財団が初めて使った新機軸の投資に関する概念で、世界最大のインパクト投資家団体である「Global Impact Investing Network(GIIN)」によれば、「企業、組織、ファンドへの投資であり、金銭的なリターンをもたらすとともに、社会的及び環境的なインパクトを生み出す投資」(Investments made into companies, organisations, and funds with the intention to generate social and environmental impact alongside a financial return.)と定義している。このインパクト投資が、世界的に浸透するきっかけは、2013年のG8サミットに於いて英国のキャメロン首相が、インパクト投資をグローバルに展開することを目的として「Global Social Impact Investment Steering Group:GSG)」の設立を提案したことによる。
国連の責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)によると、2016年には450以上の機関投資家がインパクト投資を実施し、その運用資産は約143兆円に達し、日本におけるインパクト投資の市場規模も、2017年で約718億円と2016年度の337億円から倍増している。
(※PRIは、投資判断にESG(Environment、Social、Governance)を組込むことや、投資先企業にESGに関する情報の開示を求めるなど6つの原則を示したもの)。

このPRIが、8月20日に、「IMPACT INVESTING MARKET MAP」と言う報告書を公表した。この報告書では国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)とPRIの報告フレームワークを融合させた手法を提示し、10の投資分野を提示している。

10の投資分野は、①Energy efficiency、②Water、③Green Buildings、④Affordable housing、⑤Renewable energy、⑥Education、⑦Sustainable agriculture、⑧Health、⑨Sustainable forestry、⑩Inclusive financeである。
報告書には、この10分野それぞれに、①Definition、②Criteria、③BUSINESS TYPE、④THEMATIC CONDITIONS、⑤FINANCIAL CONDITIONS、そして⑥KPIが分かり易く図示されている。

このインパクト投資には、従来のTheory of changeに準拠した企業へのインパクト投資も堅調だが、新たな動きとして、企業の製品やサービスが環境・社会に対し好ましい影響・効果をもたらしている非上場を含む中堅から大企業に対し投資するメインストリーム型(mainstream approach)のインパクト投資が注目されており、今後の拡大が期待されている。

○主要参考文献(含むURL):
★Global Impact Investing Network(GIIN)
https://thegiin.org/ 

★国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)
https://www.unpri.org/pri 

★Impact investing market map
https://www.unpri.org/download?ac=5292 

★2018年PRI報告フレームワーク
https://www.unpri.org/Uploads/t/o/v/PRI_Reporting-Framework_2018_full_Japanese.pdf 

★G8インパクト投資タスクフォース国内諮問委員会http://impactinvestment.jp/about/ 

★社会的インパクト評価ツールセット 実践マニュアル
http://impactinvestment.jp/images/sharedmeasurement_manual_160614rev.pdf 

★社会的インパクト投資(social impact investing)の定義
社会的インパクト投資とは、支援を必要とする受益者を対象とした、社会的分野における投資家と投資先との間の取引のことである。対象とする受益者はリスクを抱えた人々であるべきであり、提供される財は、公共と民間の良い点をミックスしたものであるべきである。これらの取引は、多くの場合、仲介者を使って行われる。投資先は、少なくとも、社会的インパクトに関する公式な評価を提供するとともに、社会的活動の義務的報告条項を記載すべきである。同時に、投資家は、少なくとも社会的インパクト投資のための義務的報告条項を有し、ゼロ以上の期待収益率を有するべきであるが、市場収益率を上回らないべきである(実際の収益率はそれ以上の可能性もある)。
Social Impact Investment is a transaction between an investor and investee in a social area, targeting beneficiaries in need.
Beneficiaries targeted should be at risk populations and the good provided should have a mix of public and private good characteristics. These transactions are often made using intermediaries. The investee in the transaction should, at least, inscribe a compulsory reporting clause of its social activity in the statutes, as well as provide a formal evaluation of social impact. In parallel,the investor should, at least, have a compulsory reporting clause for social impact investments and have return expectations aboveor equal to zero, but not above the market rate of return (actual return may be higher).

ペンス米副大統領がハドソン研究所で演説〜ボーンアゲイン・クリスチャンであるペンスが宗教弾圧を批判

2018年10月10日 | 雑感

ペンス米副大統領が、ハドソン研究所で講演を行い、大きな反響を巻き起こしている。ペンスを招いたのは、ハドソン研究所の中国戦略センター所長で、『China 2049 ——秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略』の著者であるマイケル・ピルズベリー。ペンタゴンのヨーダと呼ばれた稀代の戦略家アンドリュー・マーシャル(Andrew Marshall)の下で核戦略や対中国防衛政策を担当してきた中国専門家で、典型的なPanda hugger(親中派)であった。ピルズベリーは、CIA、DIAなど諜報機関の資料、北京の中南海や北戴河会議も盗聴していると言われるNSAの傍受記録、中国政府の機密文書や反体制派などへのインタビューなど膨大なデータを分析した。その結果、1840年のアヘン戦争以降の欧米日による侵略と屈辱に復讐すべく、中華人民共和国建国100周年に当たる2049年までに、米国から政治・経済・軍事の主導権を奪取しパックス・チャイナを目指すという長期戦略を見出している。
米国では過去にも、中国の諜報活動に関するCox Report(1999年)があり、現在は、米議会の超党派諮問機関「米中経済安全保障再考委員会」が調査活動を行っている。つまりトランプ政権になって初めて中国の脅威を認識しているのではない。現在も親中派は少数ながら存在するものの、2015年までには反中国派が大勢を占めるようになったと言われている。今回のペンス演説で訴えている内容は、米国の国家的な共通認識と考えて良い。ピルズベリーも現在はDragonslayer(反中派)である。

ペンス副大統領の演説は、トランプ大統領の発言を援用する形で、中国による米国の政治・政策への介入や、世界における悪意ある影響と干渉について様々な事例を挙げて語っているのが特徴だが、ボーンアゲイン・クリスチャンであるペンス副大統領の面目躍如たるのは、中国におけるキリスト教、仏教、イスラム教に対する迫害について語っている点である。
「中国政府は先月、中国最大級の地下教会を閉鎖した、全国的に。中国当局は十字架を取り壊し、聖書を燃やし、信者を投獄していている。そして、明白な無神論者である共産党がカトリック司教任命という直接的な関与についてバチカンと合意に達した。中国のクリスチャンにとって、これらは絶望的な時代である。」
この中国とバチカンとの合意に達した背景には台湾問題がある。中国は台湾と国交を持つ国々に対し断交するよう工作を行っており、最近でもドミニカ、エルサルバドル、パナマなどが台湾と断交した。米国はRobin Bernstein駐ドミニカ大使、Jean Manes駐エルサルバドル大使、Roxanne Cabralパナマ代理大使を本国に召還している。ペンス副大統領は、仏教とイスラム教の弾圧についても言及。
「中国はチベット仏教も厳しく取り締まっている。過去10年間で150人以上のチベット僧侶が、中国による信仰と文化への弾圧に抗議するために焼身自殺した。新疆ウィグル自治区では、中国共産党が収容所に100万人のウィグル人イスラム教徒を投獄・収監し、思想改造を行っている。その収容所の生存者たちは自らの体験を、中国政府がウィグル文化を破壊しイスラム教徒の信仰を根絶しようとする意図的が明白である」。
ペンス副大統領は、自国民を抑圧・弾圧する国が長続きした事がないことは歴史が証明しているとし、ピルズベリーの『China 2049』を引用し、「中国は米国の行動と目標に明確に反対した動きをしており、米国の同盟国や敵と独自の関係を築きつつあり、それは中国のいかなる平和的、生産的意図とも矛盾している」と。

最後に、今回のペンス演説は、11月の中間選挙にどのような影響を及ぼすだろうか? 一つは中国が対米措置として課した関税は、中間選挙において重要な役割を果たす産業と州が対象となっている。中国の関税ターゲットの80%以上の郡が、2016年の大統領選でトランプとペンスに投票しているとの推計もある。中国は、明らかに中間選挙に影響を及ぼす意図がある。仮にロシアと共同しサイバー攻撃やプロパガンダなどで選挙工作を成功させたとしても、米国の対中認識や安全保障戦略が揺らぐことはない。米国の覇権に挑戦する中国への明確な対抗と言うことで一致しているからだ。中国はトランプ現象を表層的に捉えると言う状況認識の誤りを犯している。今後、中国は如何にして平和的な台頭に政策移行するかがポイントとなろう。

ボーンアゲイン・クリスチャンのペンスは、ハドソン研究所での演説をこう締めくくった。
「天が未来を見るという信仰、そして神のお恵みによって、アメリカと中国はともにその未来を満たすだろう。アメリカ合衆国に神のご加護がありますように」。

○主要参考文献(含むURL):
『China 2049 ——秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略』
https://www.amazon.co.jp/China-2049-%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%94%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC/dp/4822251047/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1539906008&sr=1-1&keywords=%E4%B8%AD%E5%9B%BD+2049 

ユダヤ教の秋の祭礼が終わり、ガザは紛争の危機に瀕する

2018年10月08日 | 雑感
米トランプ大統領は、イスラエル建国70年周年となる、5月14日にエルサレムへ米大使館を移転した。その後、パレスチナへの圧力を高め続けている。
移転後から、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRAW)の支援資金を減額し続け、最終的に2018年9月1日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRAW)への支援を完全に止め撤退した。10日にはワシントンにあるパレスチナ代表部を閉鎖し、東エルサレムのパレスチナの病院への資金援助2千万ドルを停止した。UNRAWの閉鎖に伴い西岸地区154人、ガサでは113人のパレスチナ人が解雇。エルサレム市のバルカット市長は、UNRAW施設の閉鎖に伴い、対応策としてエルサレム市による教育、福祉、医療サービスを提供するスキームに移行することを明らかにしている。UNRAW撤退により、UNRAWのクラヘンブール代表とヨルダンのサファディ外務相が会議をを行い、今後は、ヨルダンが主導して支援を継続すると発表した。英国の労働党コービン党首は、米トランプ政権を「恥知らず」と非難し、英国が穴埋めすべきだと主張。国連総会と並行開催されたパレスチナ支援調整委員会では、EU、ドイツ、フランス、クウェートなどがUNRWA継続事業に1億ドルの寄付を決愛知している。因みに米国は、UNRAWの活動費用の1/3を支援していた

今回のUNRAWの撤退に就いては、イスラエル国防軍も懸念を表明している。UNRAWが運営する学校が休校・閉鎖となれば、時間を持て余した若者がテロに走る可能性があると指摘。また支援打切りで、教育や医療サービスなどが行えなくなると、特にガザにおいては大量な人命に関わる危機を回避するための対応策が喫緊必要であるとしている。この発言の裏には、今年春以降のガザでの緊張状態を深刻に受け止めているイスラエル当局が、ユダヤ教の秋の例祭が終了したタイミングで、何かしらハマス側からの軍事的アクションがあれば、直ちにハマスの攻勢を完全に防御しつつ、ガザへの攻撃を行う意図がある。イスラエルのリーバーマン国防相は「ガザ国境の暴動で苦労させられたが、無事にユダヤ教秋の例祭を終えた。これで休暇は終わった。ハマスはそれをよく心得るべき。」とTwitterに書き込んている。事実、イスラエル軍は、ガザ蜂起に伴い発生する全てのシナリオに備える必要があるとの指令により、イスラエル国防軍の南部軍は、ガザ国境に展開する第143師団の歩兵部隊を前衛増強し、狙撃手や地対空ミサイルシステム「アイアンドーム」2個中隊を配備。ガザに続く4本の道路を完全閉鎖し、イスラエル国防軍が完全にガザ周辺を掌握した。この防衛強化では、予備役のロテム対テロ特殊戦部隊も動員されている。

表面的にはイスラエルの国防と諜報能力は完全に観える。が、もし、ガザに軍事的攻撃をイスラエルが行うならば、イラク国内のシーア派地区に配備されているイランの戦術弾道ミサイル(射程700km)や、シリア国内のイラン革命防衛隊の戦術ミサイル、そしてレバノンのヒズボラ所有のミサイルからの一斉攻撃を受ける可能性がある。これは、中国が考えている飽和戦術と一緒である。安い囮のミサイルを大量に撃ち込み、機を見て本物のミサイルを何発か発射する。地下からの国境越えや、海岸防衛も欠かせなく、米軍の無償供与に頼るイスラエルにとっては、失うモノが多い作戦となるだろう。
しかし、ユダヤ人もパレスチナ人も同じアラブ人で同族同士で殺し合いをしている、恐ろしく悲しむべきことだ。

※国連パレスチナ難民救済事業機関(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East:UNRWA)は、パレスチナ難民を救済する目的で1949年に設立され1950年5月に活動を開始。

ロシア、シリアへS-300供与完了〜ロシア軍の電子戦部隊も・・・

2018年10月03日 | 雑感
米国は、対露制裁の一環で、ロシアから Su-35戦闘機と最新鋭のS-400防空システムを購入した中国への制裁を行った。対象は、人民解放軍・装備発展部 (EDD : Equipment Development Department) と、部長の李尚福である。関税戦争中の中国には、殆ど影響はないが、ロシアは、現在も実戦運用中のS-300 防空システムをシリアに供与し、強力なロシア電子戦部隊も同国に展開する。

ロシアは、9月17日のイリューシンIL-20の撃墜事件を受け、シリアへのS-300防空システムと49発のミサイルを供与。S-300防空ミサイルは、射程250キロで、一度に複数の標的を迎撃する能力を有するシステムで、配備先は、ホムス東方のT4と呼ばれるティヤス空軍基地とタイフール航空基地。これらの基地には、イランの革命防衛隊が配置についていたが、S-300配備決定により、同基地から10月1日までに撤収している。因みにS-300は無償供与ではなく、10億ドルをシリアはロシアに支払っている。S-300の初期運用はロシア軍が行うが、今回、シリアに配備されたS-300は、タルトゥース海軍基地に事前搬入されていたものをT4に展開したとみられている。尚、シリアに展開するロシア軍のS-300とS-400は、実戦配備についているが、イスラエルとの協議によりイスラエル機をロックオンすることはしていない。
ジョン・ボルトン米国家安全保障問題担当大統領補佐官は、シリアへのS-300の供与は、深刻な事態悪化をもたらすとし、シリアへのミサイル供与を見直すことを希望していた。また同補佐官は、シリアとレバノンへの攻撃、そしてロシア軍航空機撃墜の責任はイランにある、とコメントしている。これはイスラエルの主張と同じである。
IL-20撃墜事件後、プーチン大統領は、シリア・アサド大統領と電話会談を行い、シリア情勢や、反体制派が支配するイドリブ県における非武装地帯設置とその実施方法について意見を交わしている。またプーチン大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相とも電話会談を行い、S-300 の供与は、シリアにおけるテロとの戦いを遂行するロシア軍兵士などロシア国民への危険を排除するためであると説明。ネタニヤフ首相は、ロシアの高性能な対空ミサイルシステムが、国内統治もままならないシリアの手に渡ることは、中東の危険性を増大させると指摘。イスラエルは自らの安全保障と国益を防衛するとの確固たる決意を述べたとされる。

ロシア国防省は、S-300防空システムだけでなく、ロシア軍が実戦利用している航空管制システムをシリア空軍中央司令部に供与する。また、最大の脅威となりそうなのが、ロシアの電子戦部隊がシリアに本格展開すること。ロシアの電子戦能力は、米軍を凌駕する事がウクライナ紛争で明らかになっており、イスラエルも相応の対抗策を講じる必要がある程、強力な戦力である。また、ディフェンス・ブログ(2018年9月24日付)によれば、シリアに展開するロシア空軍のSu-35S戦闘機が、米ステルス戦闘機F-22を捕捉していたと報じている。Su-35Sは、OLS-35赤外線センサーとレーザー測距器を搭載しており、4つの目標を90kmからステルス機などを探知可能と言う。但し、センサーの特性上大気の状態や対象の角度により距離は変動する。レーザーでの測距は20kmである。
米軍によれば、赤外線センサーでは、攻撃対象までの距離が不正確で攻撃用のデータには利用出来ないが、赤外線センサーが二つ以上あれば、空戦アルゴリズムで精確な距離を計算することが出来るとしている。また、ステルス機と言えども大気中を高速移動する為、機体が熱を発する。これはレーダー断面積が小さくても熱のを捉えることにより当然ステルス性が減衰する。米軍は、ロシアや中国のステルス機を研究しており、既存のIRSTInfrared Search and Track (IRST) Block II podを改良し、Xバンドを利用することで敵レーダーの探知距離外から敵ステルス機を探知し、撃墜することを可能する開発を行なっている。

イスラエルはF35ステルス戦闘機を既に実戦配備しているが、シリアに於けるロシアのS-300防空システムと地上展開する電子戦部隊&サイバー部隊、またSU35Sの赤外線センサー&レーザーによりイスラエル軍の軍事的優位性を覆す、若しくは抑止・限定することは十分に考えられる状況にある。シリアに於ける最新の軍事技術、電子戦&サイバー攻撃の実戦使用は、近未来の軍事戦闘の萌芽であり、その作戦効果などを注視する必要がある。

ロシア軍は、マッハ8を超える極超音速ミサイルの開発に目途がつき、実戦配備する。米軍も保有していない極超音速ミサイルの存在は、大きな脅威である。ロシアの「ツィルコン」と呼ばれる対艦ミサイルは、秒速2.5キロメートルで飛翔し、射程500km。2017年に試射され成功しており、今後は、マッハ10の極超音速を目指して継続開発中である。このような対艦ミサイルが実戦配備され、また、S-400と同じようにロシア軍の最新鋭対艦ミサイルが中国海軍に輸出されるような事態になると、日本の海上防衛の大きな障害になるのは必至である。また、ロシアは、R-37M極超音速空対空ミサイルを、既に最新型のSu-57に搭載した。R-37Mは、射程300km、全長4.2m、重量 600kgで、飛行形態を工夫すると射程400kmも可能だと報道されている。(RT Russian Television:2018/9/26)