阿部ブログ

日々思うこと

レアアースとトリウム

2010年05月29日 | 日記
レアアース残土再処理と土壌改良

1.レアアース
レアアース(希土類)は、レアメタル(希少金属)の一種でネオジウムなど17元素の総称。レアアースは微量添加剤として用いられ、原単位に占める重量比率が低いが、このレアアースは、日本が世界をリードする省エネルギーに寄与する産業モーター、電池、ディスプレイなどの製造には不可欠の資源である。
過去10年間で、米国のマウンテンパス鉱山を始めオーストラリアなどのレアアース鉱山は殆ど生産を中止し、2007年には中国がレアアース世界市場の97%を生産している。日本のレアアースの国内市場は「鉱物資源マテリアルフロー2008」(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC))によれば、25,325㌧と推定されている。日本は、大部分のレアアースを中国からの輸入に頼っている。

2.中国のレアアース政策と日本
中国政府は、1997年以降、レアアースの輸出許可制度をスタートさせたのを皮切りに、外国企業の鉱山開発、製錬分離事業への投資禁止や加工貿易禁止、及び新たに輸出税を課すなど、枯渇資源保護・環境保全を目的にレアアースの輸出を制限する政策を進めている。これに危機感を募らせたトヨタ自動車の奥田相談役は、2007年に資源外交協議会の緊急会議を数度開催し、政府、商社、資源専門家など関係者と対応策を検討した。奥田氏は、同会議で中国のレアアースやロシアのレアメタルなど資源の安定供給が必要であると強く主張したが現実的には、抜本的解決策は無いのが実情。この為、トヨタ自動車は、今まで大手商社に資源確保を任せていたが、今後はグループの豊田通商を通じて、海外での採掘権益を手に入れる戦略に転換した。豊田通商は2013年までにレアアースを中心とする資源開発に400億円を投じると報道されている。(日経2009.8.12)また三菱商事は、カナダのネオ・マテリアル・テクノロジーズ社とブラジルのピティンガ鉱山のレアアース開発について覚書を交わし、事業化調査費用などとして250万ドル(約2億3千万円)を負担。共同2企業体の設立も視野に入れて、最低でも20%の鉱物の購入権を取得するとしている。


3.レアアース採掘と環境汚染
小平が中東には石油があり、中国にはレアアースがあると発言しているようにレアアースが希少で高価な資源である事は、広く中国人民に浸透しており、レアアース成金も多数存在している。この為、違法な採掘や乱開発が多発しており、悪質な業者になると、直接採掘現場に硫酸を流し込み浸出採取する乱暴な採掘手段がとられるケースがあり、深刻な環境汚染を引き起こしている。この採掘方法だと1000㌧の鉱石からレアアース2㌧しか採取する事が出来ず、残りは再処理される事なく残土として放置されている。またモナズ石からレアアースを採取する場合、テーリング(廃棄物)にはトリウムと言う核燃料となる放射性物質が含まれており、中国では貯水池に貯めている。これが集中豪雨で黄河に流出すると言う事故が発生した為、中国政府は直ちにレアアースの生産を中止させ、輸出も制限した為、レアアースが高騰した。さらに採鉱企業や製錬業者などの生産管理や監視を強化し、レアアース生産の総量規制を設けるなど対策を講じた。また悪質な採鉱企業を淘汰するため統合廃合を行い大手4企業グループに再編する政策を進めている。

4.レアアース残土再処理と土壌汚染再生
戦略研としては、違法採掘や乱開発後に放置されているレアアース残土を再処理して何割かのレアアース購入権(可能であれば10割)を得る代わりに、日本が有する最新の土壌汚染再生技術とノウハウをもって採掘現場及び近隣地域の環境を再生させるプロジェクトを日本・中国両政府からの支援を受け企画できないかを検討したいと考えている。

以上

■追記:
ウラン資源に恵まれない中国やインドは、ウランに変わる核燃料としてトリウムに着目している。レアアースを抽出する際には、放射性物質であるトリウムは厄介な不純物として廃棄蓄積されており、資源として利用されていない。最近、清華大学が中心になってトリウム利用推進を訴え、IAEAと共催でトリウムに関する国際会議を開催したり、2007年12月20日、立命館大学で、日本・中国・インドの温暖化専門家会議が開かれ、その声明文の中に、原子燃料としてトリウム利用を検討すべきだとの文言が盛り込まれたりしており、注目されている。
いまや世界の資源・エネルギー・環境政策は一連の環を形成している。その環をつなぐ両端にトリウムとレアアースが存在しているとの認識に基づき、プルトニュウムを含む放射性廃棄物を発生させるウラン原子炉からトリウム原子炉への転換が必要であると考える。

社会インフラの劣化と再生戦略の必要性

2010年05月23日 | 日記
2009年8月17日、ロシア最大の水力発電所で発電施設に水を送る管が破裂して大量の水が発電所内に流れ込み、作業員12人死亡したと報道された。約6000メガワットの電力供給がシベリア地域でストップしており、経済活動含め多方面に影響を与えている。事故の原因は現在時点で明らかにされていないが、ソビエト連邦時代に作られて老朽化したダムが適切にメンテナンスされておらず放置されていた状態が問題視されている。このようなダムなど社会インフラの老朽化は、各国で問題になっている。アメリカにおいては、ダムを含め、戦後建設された建物、道路、橋、水道などの社会インフラが一斉に更新時期を迎えており、アメリカではミネアポリスの高速道路橋が崩壊するなどの事故が発生している。例えば、アメリカの水道本管の長さは約160万km、橋梁の数60万ヵ所、公共車道640万kmにおよぶが、連邦道路管理局によると、2007年の時点で、橋梁のうち25パーセントが構造的に不完全であり、道路の劣化が原因で自動車の故障修理のために、毎年540億㌦を費やしているという。昨年来、注目を集めているスマートグリッド構想にしても、その背景には送配電網の老朽化があると言われる。我が国においても橋梁、トンネル、上下水道の老朽化が深刻化しており、遅ればせながら国土交通省は14万本の橋梁のDB構築を始めているが、最近の財政状況の逼迫により地方自治体には管轄するインフラの保守整備を計画的に進めるのが難しい状況なのが実情である。特に我が国においては、原子力発電所が大きな問題となりそうだ。建設から30年以上経過している原発の解体・廃棄問題が、今後浮上してくる。中国など経済発展途上の国々では高速鉄道の建設などインフラの新規建設が活況を呈しているが、我が国などは、国民と社会インフラが同時に高齢化する状況に適切に対処するソリューションが真に求められる状況となっている。米国のスマートグリッド構想の背景にある電力インフラ老朽化を、更に広げた社会インフラ全体を包含する日本版社会インフラ再生戦略が必要とされている。


リチウムイオン電池と長寿命鉛電池

2010年05月20日 | 日記
次世代の電池は、ソニーが1991年に開発したリチウムイオン電池とする向きが多いが、果たしてそうだろうか?

7月8日の日経1面にあるようにリチウム国内輸入量の7割がチリ産で調達先の多様化が課題となっており、かつ充電されたリチウムイオン電池は化学的に不安定で、昨年発生したソニーの製造工程でのミスにより爆発事故などが起こる可能性は依然として高く、安全性に課題を残している。

また、リチウム原料である炭酸リチウムの価格は高値を維持したままであり、他の電池と比較しても高価な電池である。

米国キャタピラーの子会社であるFirefly Energy Inc(以降FE社)は、現在の鉛蓄電池を改良する事により、リチウムイオン電池よりも20%~25%安価な電池の開発を進めている。

FE社は、鉛蓄電池内部での化学反応で生成する電気を鉛グリッドで集めるが、この部分を表面積の大きい黒鉛泡(発砲カーボングラファイト)に置き換えることで充電と高出力の放電の高速化を達成しており、製品化の第1段として、トラック用電池(商品名Oasis)を08年第1/4期から提供している。

この鉛電池の優位点は幾つかある。従来品に較べて~50%長く給電できる点と、従来の鉛電池の大きな欠点であった結晶が一切発生しない点。さらに、大きさが30%程度小さくでき、重量も20%軽い。ただ、従来の鉛電池よりは2倍のコストがかかるが、リチウムイオン電池に較べれば、はるかに低価格で安価である。

FE社の鉛電池はリチウムイオン電池並みの性能とコンパクト・軽量、長寿命、かつ製造コストの安さが期待されておりPHEV用として注目されている。

特に価格については、プリウスに実装されているニッケルメタルハイライド2次電池(ニッケル水素電池)の5分の1の製造コストながら、同程度の出力性能を誇る。

ニッケルも資源が偏在しており、資源獲得競争が激化しているのはリチウムと同様である。バッテリーの研究は未開拓分野であり、今後の動向に注目していく必要がある。