阿部ブログ

日々思うこと

国内資源の開発

2010年07月28日 | 日記
2006年3月、年間75~125㌧の産出量を誇る世界最大のインジウム鉱山である豊羽鉱山(札幌市)が閉山した。この鉱山から採掘される亜鉛鉱石中のインジウム濃度は3300ppmを越え、これに匹敵する鉱山は他に存在しないが、翌2007年、経済産業省はジスプロシウム、タングステン、そしてなにあろうインジウムの3元素について、代替材料を産官共同で開発する計画「希少金属代替材料開発プロジェクト」を発足させた。また文部科学省も同じ2007年に「元素戦略プロジェクト」を発表している。閉山にいたる理由は様々あるが、我が国に国家戦略が欠如している典型パターンである。
かつて日本は、世界遺産・石見銀山に代表されるように有数の金属資源の輸出国であったが、将来的に資源価格が高騰し続けるとなると日本は資源国家として復活する可能性も皆無ではないと考えている。原油価格が高騰した時、今までは採算にのらなかったサンドオイルやシェールガスなどの開発が進んだように国内の閉山した鉱山の再開発が進む可能性がある。
この場合にキーとなるものが、黒鉱鉱床ベルトの存在である。黒鉱(グリーン・タフ)は、伊豆半島から静岡-糸魚川構造線に沿い、さらに新潟から東北地方の日本海側、北海道西部に抜けるラインに存在する長大な鉱床である。この黒鉱からは銅、亜鉛、鉛などが得られるが、この副産物として多くのレアメタル・レアアースが副産物として抽出される。しかもモナザイトなどの鉱石からレアアースを採取する場合にはトリウムなど放射性物質が副産物するが、黒鉱にはそれが無い。
この黒鉱ベルト地帯には、かつて様々な鉱山が存在していたが、前述の通りその多くは採算性の悪化によりほとんどが閉山している。特に秋田県北部にはレアメタルを随伴する有力な鉱床が存在する事が確認されているが、元々秋田県内の黒鉱ベルト地帯には有力な鉱山が目白押しである。小坂鉱山(鉛、亜鉛、銅、銀、金)、尾去沢鉱山(銅、金、銀、亜鉛、鉛、硫化鉄)、荒川鉱山(銅、鉛、亜鉛、硫化鉄)、花岡鉱山(銅、鉛、亜鉛、重昌石、金、銀)、院内銀山(銀、金、亜鉛、鉛)、餌釣鉱山(銅、鉛、亜鉛)、吉之鉱山(銅、亜鉛、鉛)、釈迦内鉱山(銅、亜鉛、鉛)、深沢鉱山(銅、亜鉛、鉛)、松峰鉱山(銅、亜鉛、鉛)などである。
また黒鉱ベルト内には、金鉱山が多数存在する。伊豆半島の土肥金山、清越金山、蓮台寺金山、縄地金山、天城鉱山、天正金鉱、大仁金山、伊豆猪戸金山など。静岡・富士川沿いには、梅ヶ島の安部金山、日陰沢金山、富士金山、奥三河では津具金山、山梨には大月の金山、身延の川尻金山、塩山の黒川金山、午王院平金山、竜喰金山、黄金沢金山、早川の黒桂金山、保金山、雨畑金山、黒桂山金山、韮崎の御座石金山、金沢金山。新潟県・青海町の橋立金山、北海道には鴻之舞鉱山などがあった。
金銀価格の上昇や、レアメタルの価格高騰が続けば黒鉱ベルト地帯などにある閉山鉱山の多くが採算レベルに乗ってくる可能性もあり、今から国内鉱山の現状調査を行ない、有力な閉山鉱山の確保により海外ではなく国内での資源開発を戦略的に行なう事も検討するべきではないだろうか。
但し、海洋開発と同様に海外の鉱山技術導入や鉱山技術者召致が必要である。

第2の原子燃料 トリウム

2010年07月15日 | 日記
4月5日にチェコ共和国においてオバマ大統領が核廃絶に向けた宣言を発表したのは記憶に新しいが、この核廃絶宣言したチェコはトリウム溶融塩炉という原発開発において最前線を行く国の一つであることはあまり知られていない。このトリウム溶融塩炉については、当の米国においても7月に上院を通過した海軍の予算の中にトリウム溶融塩炉開発費が計上され2011年までに国防委員会に報告する事になっている。何故、今トリウム溶融塩炉が注目されるのか?それは偏在するウラン資源にある。特に原子力により社会基盤を整備し経済発展をより確実にしたい中国、インドにとっては悩ましい問題となっている。両国とも有力なウラン資源を持たないためオーストラリアなどに頼っているのが現状で、NPT非加盟のインド、軍事利用の懸念によりウラン資源の輸入に難がある中国などは、第2の原子燃料であるトリウムに必然的に注目するようになっている。このトリウムならば両国とも自国で調達できる。モナズ石などレアアースがそれである。レアアースにはトリウムが含まれており、放射性物質であるトリウムはレアアース抽出後の残土に残留したまま利用されず廃棄されている。インドは世界第2位のトリウム埋蔵量を誇り、中国はレアアースの57%を埋蔵する。もともとトリウム溶融塩炉は、冷戦期、米空軍において原子力を推進源とする爆撃機のエンジン開発の為に構想されたもので、1950年代から70年代にかけて実験炉を国立オークリッジ研究所に建設し実験を行い技術としては既に確立している。このトリウムに着目するのには十分な理由がある。ウランを燃料とする現在の原発と違い放射性廃棄物の発生量は約半分で、プルトニュウム(以下、Pu)も80%ほど減らせる事から核不拡散にも有効である。さらにPuをトリウム溶融塩炉で燃焼させる事も可能で、使用済み核燃料からPuを抽出後、トリウム溶融塩炉で二次利用する事ができる。今後、東芝など国内軽水炉企業とは一線を画して、三井物産の総合力を遺憾なく発揮し、このトリウム溶融塩炉の開発を進めている国と連携して、特に小型原発プラントの商用化に取組むべきである。これを核として電力インフラが未整備な地域におけるスマートなローカル・グリッドを構築・運用する一貫したインフラ・ビジネスを世界に先駆けて展開することはCo2を削減し、核不拡散を確実にしつつ、地球環境にも優しい意義ある事業となるものと思量する。

海水資源開発

2010年07月14日 | 日記
日本の排他的経済水域の広さは世界第6位と言われ、この海底にはコバルトリッチクラストやマンガン団塊、熱水鉱床、メタンハイドレートなどの豊富な海底資源が眠っている。但し海洋資源は、海底に存在するだけではなく「海水」自体が莫大な資源の宝庫であり、様々な元素が溶け込んでいる事は良く知られている。この海水から資源を回収する研究は1960年代から行なわれており、特に日本では45億㌧とも言われる海水ウランを捕集するプロジェクトが継続して行なわれ、現在では世界の最先端を行く研究実績がある。
海水ウランの資源化には、原子力研究所と電力中央研究所(電中研)が中心となり様々な実証実験を繰り返し、実用化の一歩手前にきている。鉱石ウランの価格が1.5万円程度とすると海水ウランは3.8万円と高額である事は事実である。但し、電中研の常盤井氏によれば、今の原子力発電原価は8円/kwhであり、この発電原価に占めるウラン費用は、実は0.17円/kwhに過ぎないと指摘する。同電中研の試算によれば海水ウランを原子力発電に利用すると発電原価は現行原価より1円~2円/kwh程度、上昇するとしているが、鉱石ウランについては採掘時に膨大なエネルギー消費とCO2を排出している事を考えれば海水ウランの利用は地球環境負荷軽減の観点から現実的な対応策であると評価できる。
またウラン吸着材料に天然由来のタンニンを用いると低コストかつ高効率で捕集する事ができる事がわかっており、前述の常盤井氏は、東京工業大学とベンチャー企業「NuSAC」を立ち上げ、海水ウランを捕集後、化学法濃縮技術で海水ウランを濃縮し、国産海水ウランによる原子燃料ビジネスの確立を目指している。
今のところウランの他、海水からはバナジウムを吸着する事が出来ているが、今後、中国国内の需要増により資源が逼迫する事が予想されるレアアースなど、戦略的に重要な資源を捕集する吸着材を官民挙げて研究開発する事で、100%海外に依存している鉱物資源を、日本近海の海水から資源化できる可能性がある。特に日本の場合には黒潮が高濃度の資源の運び屋となっており、将に海水資源は今後の資源開発のフロンティアであると言える。

レアアース大国 中国と日本

2010年07月14日 | 日記
レアアース大国・中国と日本

「中東には石油があり、中国にはレアアース(以下、REE)がある」と1992年の南方視察の際に小平は語った。事実、国際REE市場における中国のシェアは80%以上を占めており、我が国はREEの世界需要の半分を占め、その輸入先は殆ど中国からの風化花崗岩に頼っているのが現状である。その中国の工業情報化部が『2009~2015年希土工業発展計画改訂』を策定中であると8月17日、中国有色網が報道した。内容は毎年の輸出総量規制(3.5万t/年)とDy(ジスプロシウム),Tb(テルビウム)他3種類のREEの輸出禁止を検討していると言うもの。これらREEがないと話題の電気自動車のモーターなどが製造出来ない。昨年、中国政府は、輸出許可証の発給先を半減させ、さらに自国の自動車産業育成などのため輸出税を0~10%だったものを20%~25%に引き上げている。このREEの輸出規制は今後も強化されるのは間違いない。これを受け1990年代に安価な中国産のREEの流入により閉鎖されていたMolycorp Minerals社の鉱床(米国)が採掘再開に向けて準備を始め、8月12日付日経の報道の通り住商・豊田通商などが、脱中国に向けて対応を始めている。三井物産はどうすべきか?REEの問題は資源の偏在性にはない。REEの問題は偏在性よりもREE分離など中間工程の中国企業の寡占にある。REE分離は、原鉱石から磁力や浮遊などで選鉱し,希土精鉱にしてから焙焼・酸浸出などで化学処理した後,混合希土酸化物を得る。これを溶媒抽出で希土類酸化物の分離品にして,溶融塩電解で希土類金属にする。こうした工程は,実は中国企業が大部分を担っている。しかも中国政府主導によりREE企業は大手4社に再編(包鋼稀土、五鉱有色、中国有色鉱業、江西銅業)されようとしており、脱中国と言いながらREE分離工程は中国企業となっては真の調達多様化にはならない。

REEの採掘からREE分離・加工・輸送・販売など総合商社の総合力を活かした一貫したソリューションを提供するべきである。REE分離については信越化学工業が先駆的にREE分離精製工場を福井県に20億円かけて建設しており、こうしたノウハウ・技術を有する企業との幅広い連携により、他国の動向に左右されない、我が国先端技術産業の安定的かつ持続的な発展に寄与する事ができる。
以上

※米国は国家安全保障の観点から、中国以外で軍事用途に耐えうるチタンの新たな供給先を見つけることが国防高等研究計画庁(DARPA)の最優先課題となっている。

現代日本における「総力戦研究」の必要性

2010年07月13日 | 日記
戦前の我が国における調査活動において、特に優れた3つの成果を挙げることができる。一つは満鉄調査部による(1)「支那抗戦力調査」、(2)総力戦研究所の各種調査、それと新庄主計大佐による所謂(3)「新庄レポート」である。

新庄レポートは、当時エンパイアーステートビル7階にあった三井物産ニューヨーク支社の一画にオフィスを設け、参謀本部から命じられた「米国の国力調査」を、主に公開情報を詳細に分析した結果を報告書として纏めたもので、基礎データの収集は、物産社員の支援を受けながら行なった。

実際に新庄大佐には、ニューヨーク支社調査課の春見二三男氏が部下して配され、大佐の肩書きは「三井物産 紐育支店 嘱託」であった。

さて新庄レポートの結論は「日米工業力の差は重工業1:20、化学工業1:3であり、この差を縮めるのは不可能。この比率が維持出来たとしても、米国被害100パーセント、日本被害5パーセント以内に留める必要があり、日本側被害が増大した場合、戦力の差はさらに絶望的に拡大する」と言うものであった。

公開情報のみで3ヶ月と言う極めて短い期間で纏められた優れた調査活動と思う。

(新庄大佐は、米国にて病死。葬儀は奇しくも真珠湾攻撃の12月8日であった。)

残念な事に、戦前の優れた調査報告の数々は、帝国政府・参謀本部など中枢には正しく理解されず政策・戦略等に反映されることはなかった。

敵を知り己を知らば、百戦して危うからず、と孫子は言うが、現代日本においてはどうだろうか?7月13日付けの日経9面「経営の視点」に「環境車の鍵を握る化学産業~日本勢の優位どこまで」と言う記事が掲載されている。

これによると日本の電池産業の世界シェアは60%であるが、その材料となると80%を超えるという。但し、国内の化学会社が世界中にその優れた電池材料を日本としての戦略もなく販売すると半導体産業と同じ過ちを犯す可能性があると指摘する。

また基本的組成が変わらない有機電解液は技術革新の格好の標的で、増産だけに気をとられていると足をすくわれるとも重ねて指摘。敵を知るのは難しいかもしれないが、オールジャパンとして己を知り、例えば日本企業群として「環境車・電池産業+α」が世界を席捲するための総力戦研究・調査など、本当は現代においてこそ必要なのではないだろうか?