阿部ブログ

日々思うこと

ロシア太平洋艦隊がイラン寄港、地中海へ移動する

2013年04月23日 | ロシア
過去ブログでも書いているが、ロシア海軍がシリア内戦を見据えた活動を活発化させている。

ロシアが地中海艦隊を編成する意向
ロシア海軍がいよいよ黒海&東地中海域で軍事演習を開始

ロシア海軍がシリア情勢を睨み東地中海で演習予定

2013年3月19日にウラジオストクを出港した、ロシア太平洋艦隊第9支隊が、イランのバンダレ・アッバース港(ペルシア語: بندر عباس‎ Bandar-e ʿAbbās)に寄港している。バンダレ・アッバース港は、ホルムズ海峡北岸に位置する都市で、昔からインド洋を中心とする交易で繁栄してきた港町。

第9支隊の編成は、対潜艦アドミラル・パンテレーエフ、揚陸艦アドミラル・ネヴェリスキー、ペレスウェート、海洋給油船ペチェンガ、救助船フォーチィ・クリロフの5隻で、揚陸艦には、ロシア海軍歩兵部隊が乗船している。
バンダレ・アッバース港に寄港しているのは、対潜艦アドミラル・パンテレーエフ、揚陸艦アドミラル・ネヴェリスキー、ペレスウェートの3隻で、明日24日まで滞港する。第9支隊は、24日以降、スエズ運河を経て地中海に入ってシリアのタルトゥス港に入る。

ロシア海軍、特に太平洋艦隊の艦船が地中海に派遣される事は、現シリア・アサド政権を支援するロシアの強い国家意志を感じさせるに十分だ。片や米国務長官は、シリアの反政府勢力への支援を倍増させると明言している。支援は金額にして2億5000万ドルで、食料品や医薬品など非殺傷物品に限定しているとは言え、特殊部隊による戦闘訓練支援が行われており、特に化学兵器使用問題が浮上してから、BC兵器に対する訓練は拡大している。今後支援は拡大され、型落ち装甲車や、ボディアーマーなど防護装備品など供給されると推測されている。

このような西側の反政府支援に対してシリア大統領は、反政府テロリストを支援しつづければ、高い代価を支払うことになるし、現政権に敗北という選択肢はない発言している。ソビエト時代から中東地域で重要な地位を占めてきた2代にわたるアサド政権は、ロシアにとってシリア内戦は座視できない状況であることは理解出来る。

戦略物質ヘリウムの供給不足が継続中

2013年04月22日 | ロシア
米国は、戦略物質として燐鉱石を指定しており、インド、中国への輸出を除き実質的な禁輸を実施しているが、ヘリウムも食料と並んで戦略物質である事は、余り知られていない。水素と違いヘリウムは工業的に生産する事が出来ないので、現在は天然ガス田から随伴抽出生産しているのが現実。この戦略物質ヘリウムが、世界最大の生産国である米国での減産により、ヘリウムの供給不足が継続している。

地球上に存在するヘリウム埋蔵量は、456億立法メートルと推測されており、2030年までにヘリウム生産量は2億1300万~2億3800万立法メートルに達すると観られている。2030年頃には現在最大の生産国である米国から、ロシアに首位の座が移るだろうとも予測されている。ヘリウム市場に占めるロシアの割合が現在の2%から40%以上になるからだ。理由は後述する。因みに、全世界で年間1億7500万立方メートルのヘリウムが採掘されており、米国で年間1億4000立方メートル、アルジェリア1600立方メートル、ロシア600立方メートル。

ヘリウム生産の嚆矢は、1903年の米国カンザス州デクスターで、同地における石油採掘の際に噴出するガスを分析した所、1.84%のヘリウムが含まれている事が判明した事による。米国のグレートプレーンズ地下には莫大なヘリウム資源が存在するが、ヘリウムは当初、軍事用途だった。ノルマンディー上陸作戦で使われた阻塞気球がそれだ。

さて、米国は、冷戦の長期化を見据えて戦略物質たるヘリウムの国家備蓄を行ってきた。1965年カンザス州ブシュトンに建設したパイプラインを経由してテキサス州アマリロの天然ガス田にヘリウムを注入する地下貯蔵方式で、1995年にはヘリウム・ガスの備蓄量は、10億立方メートルに達している。1996年には、国家備蓄管理が鉱山局から土地管理局(Bureau of Land Management:BLM)に移されヘリウムガスの民間放出が開始されており、放出は2015年まで継続される計画。この土地管理局による放出で備蓄の総量は半減したと推測されているが、前述の通り工業生産出来ないヘリウムの備蓄は今後も継続される。

ヘリウムの産出国は、米国の他、カタールのラスラファンのLNGプラント、岩谷産業が権益を有するカタールヘリウム2プロジェクトも2013年5月以降、生産を開始する。それとアルジェリアのアルズー(1994年)、スキクダ(2007年)でヘリウム生産を行っている。冒頭でものべたロシアやポーランドのオドラヌフ、オーストラリアのダーウィンでも2010年以降生産を開始している。

日本のヘリウムの8割以上は、米国からの輸入に頼っており、供給先の多様化は喫緊の課題とガス業界では認識されていた。実はヘリウムの供給逼迫は、2002年と2007年にも起こっている。2002年の時は港湾労働者のストライキが原因だったが、2007年はヘリウム生産プラントのトラブルが米国など主な生産国で発生した事で、この時は国内のヘリウムがほぼ枯渇する事態に至っている。

今回のヘリウム供給不足も、生産プラントのトラブルで、土地管理局のヘリウム貯蔵庫からヘリウム精製プラントに延びているパイプラインが劣化により一部破損し、この為、通常の生産量より2割減した事による。劣化しているのはパイプラインだけではなく、ヘリウム精製プラント全体の老朽化が進んでおり、抜本的な解決策を考える必要があるが、今回は世界最大のエクソンモービルのヘリウムプラントの定期修理が長引いた影響により再稼働が伸びたことや、アルジェリア国内の情勢の不安と、マリ共和国など周辺国での戦闘が散発するなどの影響で減産となった事。同じ時期にロシアのプラントも停止していた事も供給不足に拍車をかけた形となっている。これは2007年の事態と同じ状況だ。

いずれにしろ、世界的なヘリウム供給不足は、当面の間解消されない状況が続くが、ただ光明もある。先程のカタールヘリウム2プロジェクト。権益は、米国エアリキッド社50%、ドイツのリンデ社30%、岩谷産業20%となっており、確実にプラントが起動すればヘリウムの供給は改善される。それと後述するとしたロシアが本命だ。

ロシアのガスプロムは、既にヘリウムガス生産と販売に着手している。東シベリアのコビクタ・ガス田(0,45%)、、チャヤンダ・ガス田(0,8%)から随伴抽出したヘリウムをリンデ社とマチソン・トライガス(太陽日酸100%子会社)と販売する契約を締結している。まだまだ生産が本格化するのはまだまだ先だが、2020~2030年には東シベリアから年間500~600億立方メートルの天然ガスと共に1~2億立方メートルのヘリウムガスが随伴抽出生産されると予想されている。

ロシアも、米国同様の備蓄を検討しており、2050年までヘリウム需要は増え続けると予測されている現在、宇宙開発やビジネスを今後も展開するロシアにとってヘリウムは確かに戦略物質であり備蓄する価値がある。レアアースと同様にヘリウムの調達先を早急に多様化する事が欠かせないが、これは財務省の貿易統計から見る事ができる。
「統計品別推移表」ではヘリウム全体の輸入量と価格、「品別国別表」では輸入国ごとの輸入量と価格を検索できる。ヘリウムの品別コードは「280429100」である。

2013年2月ヘリウム輸入(品目コード:2804.29-100)
 米国     144339kg 
 英国        0kg
 カタール      0kg
 台湾       438kg
 中国       133kg
 シンガポール     35kg
 韓国       26kg

1月の輸入国は、米国と英国、カタールの3カ国だけだったが、2013年2月には英国、カタールからの輸入がゼロとなり、替わりに台湾、中国、韓国、シンガポールなど近隣国からの輸入が増えている。各国の余剰分などをかき集めて輸入しているのが分かる。それと2月のカタールからの輸入はゼロだが、新たなプラントが生産を開始すると輸入量は当然増えるだろう。

ロシアが地中海艦隊を編成する意向

2013年04月18日 | ロシア
シリア内戦でアサド政権を支援しているロシアだが、情勢を楽観視はしていないようだ。西側にしても反政府軍の精鋭ヌスラ作戦部隊がアルカイダに忠誠を誓って事態を受け、今まで通り武器援助を行うか困惑しているような状況だ。

このような中、ロシア海軍が、地中海を常時遊弋する海軍作戦部隊の創設を企図している。ソビエト時代には1967年から1992年まで、ソビエト海軍第5地中海艦隊所属の約30隻程度が地中海で活動していた。勿論、対抗部隊は米国第6艦隊。

新生ロシア地中海艦隊は、黒海艦隊から抽出して、2015年までに完全編成される。ロシア下院の国防委員会委員長であるウラジーミル・コモエドフ提督は、地中海艦隊は10隻程度の戦闘艦、対潜艦、掃海艦、支援艦から構成される必要がるとしており、必要に応じてバルチック、北方両艦隊からも臨時に編入して戦力を維持すると明言。地中海艦隊には、黒海艦隊所属の巡洋艦「モスクワ」が旗艦として艦隊の要になる。

ロシアは、地中海艦隊の編成に併せて、継続的使用が懸念されるシリアのタルトゥス海軍基地以外の根拠地を探しているが、アルジェリア政府に海軍艦艇への補給基地提供を要請した。ロシアは、相互防衛条約の締結と兵器供与と軍事技術提供をアルジェリアにもちかけたが、西側との関係悪化を懸念したアルジェリアは断っている。

アルジェリアの海軍基地marsa al kebirの使用については、中国も要請していたが、アルジェリアはロシア同様に断っている。同国のジブラルタル海峡を見据えた地政学的環境を考えると、軽々に両国の提案には乗れないのは自明だ。