阿部ブログ

日々思うこと

スウェーデンが “Nordic Battle Force”構想を提案

2013年07月29日 | 雑感
今年秋に北欧諸国、即ちスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの国防大臣、参謀総長会議が集合して北欧の防衛体制について討議する会議が開催されるが、この会議に先駆けスウェーデンの陸軍総長Sverker Göransson大将が北欧における軍事協力の基本として“Nordic Battle Force”(以下、NBF) 構想を参加各国に提案している。
スウェーデン軍のGoransson大将によれば、NBFは、2016年には発足可能とし、モジュラー化した部隊として防御、攻撃、対テロ、平和支援活動な広範な任務に対応できる部隊として編制する考えて、このモジュラー部隊は、任務により3~7個中隊から構成され、400名から1200名の兵員規模と通常の大隊規模で、必要に応じ海空部隊や特殊作戦部隊も適宜編制に組み込まれる。

だが既にEU向けの北欧部隊として、NBG(Nordic Battle Group)がある。この部隊はスウェーデン軍が主体で、ノルウェー、フィンランド、アイルランド、エストニア、ラトビアの各軍が参加している。スウェーデンが提唱するNBFは、このNBGとは別の北欧防衛戦力と位置づけている。フィンランドなどはNBFについて懐疑的であるが、スウェーデンは軍事的に再起しつつあるロシアの状況を踏まえて本気のようだ。

しかし、NBFにしろ、NBGにしろ戦闘部隊としては小規模であり、モジュラー型とする構想なれど、その戦力の有効・効果についてはたかが知れている。私見であるが、新たな防衛スキームを構築するならば、北欧・東欧連合部隊として構想するべきだ。
特に、最近ポーランドが国防力の整備に注力しており、2030年までに総額100億ズロチ (約31億ドル) を投じて海軍艦艇、航空機など第一線戦力の近代化と兵装の充実化を図っており、特に海軍の近代化計画を粛々と進めている。
特にポーランド海軍は、2030年までに最新鋭の潜水艦×3隻を新規調達する予定で、対潜能力を持つ哨戒機×3機の他、2015年~2026年に沿岸防衛用艦艇×3隻と掃海巡視船×3隻を調達する計画だ。北欧の防衛を考える場合、バルト海と北海の海上防衛力として、近代化されたポーランド軍の役割は少ないない筈だ。
陸軍にしても“Patria AMV” (Armoured Wheeled Vehicle)が、予定通りアフガニスタン派遣部隊をはじめ、第12機械化旅団 (Szczecin)、第17機械化旅団 (Miedzyrzecze)に配備され、今年中に納入完了となるし、着々と装備は更新されている。まあ、北欧+ポーランドの連合防衛部隊の創設は、ロシア・ウクライナにとっては心穏やかではないだろう。新たな対露包囲網か?との疑念を生むだろう。

さて、ポーランドもご多分に漏れずEU諸国と同様、財政難から国防費の削減で、2013年度の当初予算314億5,000万ズロチが281億ズロチに削減されており、計画通りに装備が調達出来るか怪しい雰囲気だが、北欧諸国だけでの新たな新編戦力の整備は無駄の感がある。

鬼塚英昭氏の『日本の本当の黒幕』を読了~三菱の出自~

2013年07月15日 | 雑感
鬼塚英昭氏の『日本の本当の黒幕』を読んだ。正直面白かった、一気呵成。
           

様々腑に落ちる点が幾つもあり、特に大正から昭和における政治殺人の背景・動機が、良く理解出来た。この本を書く動機は、当初、三菱を調べていたが、調べるうちに、どうにも田中光顕が気になり始め、途中から主題を三菱から田中に変えたとある。成程、三井・住友と違い、明治維新のドサクサに紛れて成り上がった三菱のやり方がわかる。
特に三菱の情報収集能力は、他の財閥を圧倒しているように見える。過去ブログ「2.26事件を三菱合資会社は東京憲兵隊より早く部隊蜂起の情報を得ていた」にも書いたが、憲兵隊などよりもいち早く情報を得る能力、そして戦略的に情報を三井や住友と一部を共有しつつ、自らを保全するなど如何にも策士。

さて、田中光顕だが、鬼塚氏が参照していないデイビッド・タイタス著の『日本の天皇政治~宮中の役割の研究~』にも134ページから138ページに渡り田中光顕について言及している。

例えば、「宮内大臣時代(1898~1905)の田中の行動を見れば、明治40年の官制中の宮内省の任務規定に盛り込まれている対政府関係は、「廷事における天皇」の筆頭マネージャーと言う宮内大臣の資格から生ずるのだということがわかる。そうしたマネージャーとしての田中は、猛烈な強固さで宮廷の自律性をまもった。きわめてささいな典礼上の問題でも譲ろうとしなかったのである。」とあるが、同書を読めば、宮廷の自律性の本質がわかるだろう。

その反面、「田中は政府に対して一線を画そうとしたが、同時に宮廷や天皇に向かってもつよい態度でふるまった。(中略)田中はまた、天皇の思召しさからってでも宮内大臣としてせねばならならぬと信ずることは貫ける人間だ、と言う評判を得ていた。田中の伝記作者富田幸次郎は、当時、面と向かって天皇に直言しようとする者はいなかった。元老であろうが侍従長であろうが同様であったと記している。
しかし、田中は、「同志が対話するごとく」天皇と論じ合うのがつねであった。あるとき天皇は、田中がかたくなにさかららった為、激しく怒っていた。
「お前は陸軍少将ではないか、それが大元帥の命令をきかぬというのは軍律上不都合だ」。
田中は言いかえした。
「おそれながら、私は陸軍少将の資格でもうしあぐるのではありません。宮内大臣としての立場から是非ともおききいれを願わなければなりません」
何故、同志が対話するごとく天皇に話をする事が出来たのかは、繰り返しになるが鬼塚氏の著書を読むとわかる。

タイタスは田中光顕に言及した最後に面白いコメントをしている。
「田中にとって天皇とは、維新の「柱石」たる仲間の一人、田中なりの「職務」観からも寡頭政治家たちの間に根強かった競争的盟友意識からも、叱責を加えてもかまわない戦友の一人だったのだ、とすら思えないではないのである」と。
そう田中光顕と明治天皇は戦友だ。

中露合同海軍演習とロシア東部軍管区の臨時演習

2013年07月14日 | 雑感
7月5日からロシア海軍と中国海軍による合同軍事演習が、日本海で実施され12日に終了。中国海軍からは7隻が参加。

(1)ルージョウ級ミサイル駆逐艦(115)
(2)ルージョウ級ミサイル駆逐艦(116)
(3)ルーヤンⅠ級ミサイル駆逐艦(169)
(4)ルーヤンⅡ級ミサイル駆逐艦(170)
(5)ジャンカイⅡ級フリゲート(538)
(6)ジャンカイⅡ級フリゲート(546)
(7)フーチン級補給艦(881)

演習終了した翌日の13日早朝、ルーヤンⅠ級ミサイル駆逐艦1隻、ルーヤンⅡ級ミサイル駆逐艦1隻の計2隻が対馬海峡を通過し南下した。

この中露合同演習が終了した12日、プーチン大統領は、ロシア連邦軍東部軍管区に対し、臨時演習の命令を発令し、直ちに太平洋艦隊諸職種戦闘任務艦隊がウラジオストックから出航した。

(1)スラバ級ミサイル巡洋艦:親衛ロケット巡洋艦「ワリャーグ」
(2)ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦:「ブイストルイ」
(3)ウダロイⅠ級ミサイル駆逐艦:「マルシャル・シャーポシニコフ」
(4)ウダロイⅠ級ミサイル駆逐艦:「アドミラル・ヴィノグラードフ」
(5)グリシャⅤ級小型フリゲート:MPK-221
(6)タランタルⅢ級ミサイル護衛哨戒艇:R-20
(7)タランタルⅢ級ミサイル護衛哨戒艇:R-19
(8)タランタルⅢ級ミサイル護衛哨戒艇:R-18
(9)ロプチャーⅠ級戦車揚陸艦:「オスリャブヤ」
(10)ソニア級沿岸掃海艇:553
(11)ソニア級沿岸掃海艇:593
(12)ドゥブナ級補給艦:「イルクト」
(13)フィニク級測量艦:GS-397
(14)ユグ級海洋観測艦:V.A.VORONTSOV
(15)オビ級病院船:IRTYSH
(16)ゴーリン級航洋曳船:SB-522

諸職種戦闘任務艦隊は、13日早朝に宗谷岬の西北西約110kmの海域を北東進し太平洋に抜けた。この艦隊の上空掩護の為にロシア空軍・第3航空・防空軍司令部所属のSu-27戦闘機が、ゼムギ飛行場とソコロフカ飛行場から出撃し任務についている。
因みに同じ13日の16時頃には、合同演習を終えた中国海軍の残りの艦艇5隻が宗谷海峡を通過している。

そして今日14日、ロシア空軍偵察機IL-20が、やはり宗谷海峡を越え道東沖から三沢方面に向けて直進し、航空自衛隊がスクランブルしている。

海洋政策研究財団が北極をテーマとするフォーラムを開催~北極のポテンシャルに注目~

2013年07月11日 | 雑感
海洋政策研究財団は、7月24日に「北極をめぐる課題と我が国の取組」と題して海洋フォーラムを開催する。講師は、北極担当大使の西林万寿夫氏。

過去ブログでも書いたように、西林氏は、今年5月15日、日本がオブザーバー資格を得た北極評議会(Arctic Council:AC)の閣僚会合に北極担当大使として参加しており、今後の北極圏における日本の取り組みについて講演されるのだろう。

日本は、北極評議会のオブザーバー資格についての申請を2009年7月に提出。2012年11月6日の北極評議会オブザーバー及びアド・ホック・オブザーバー会合に、当時の吉良州司外務副大臣が出席し、アド・ホック・オブザーバーからオブザーバー資格を得て活動したいとの決意表明を行い、年明け2013年3月20日に、西林氏が北極評議会・高級北極実務者(Senior Arctic Officials:SAO)会合に出席。評議会加盟国メンバーに日本のオブザーバーへの昇格について協力要請を行った。
そして5月の第8回北極評議会・閣僚会合で晴れてオブザーバーとして承認されるに至った経緯がある。しかし、今回オブザーバー資格を得たのは、中国、インド、イタリア、韓国、シンガポールの6カ国。これでオブザーバーは合計12カ国となった。因みに既にオブザーバーなのは、フランス、ドイツ、ポーランド、スペイン、オランダ、英国。

北極評議会の加盟国は、当然の事ながら北極圏に接する国で構成されており、カナダ、グリーンランドを含むデンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国の8カ国。これに北極圏の先住民族が参画している。
(1)イヌイット極域評議会(ICC:The Inuit Circumpolar Council)
(2)ロシア北方民族協会(RAIPON:The Russian Association of Indigenous Peoples of the North)
(3)サーミ評議会(The Saami Council)
(4)アリュート国際協会(AIA:Aleut International Association)
(5)北極圏アサバスカ評議会(AAC:Arctic Athabaskan Council)
(6)グイッチン国際評議会(GCI:Gwich'in Council International)

北極が注目されるのは、勿論、北極海航路もあるが、やはり一番は、その莫大な鉱物資源であり、石炭・石油・天然ガスなどのエネルギー資源の存在だ。グリーンランドでは今、農業ブームが起きている聞くから、北極圏の変化は、2週間以上早い梅雨明けでめげそうな我々の想像を超えているのだろう。
何せ、北極圏には世界のパラジウムの40%、プラチナの15%、ニッケルの10%、タングステンの9%が埋蔵されていると言われている。それと世界の漁獲量の10%、森林資源も8%と、これまた膨大。この資源に魅せられて中国がグリーンランドやアイスランドなどに食指を伸ばしている。我々はこれを看過するのか?

韓国の次期戦闘機選定が一時中断 ~アベノミクスによるウォン安が影響~

2013年07月11日 | 雑感
過去ブログ「韓国の対抗部隊「甲」は日本・自衛隊 ~次期戦闘機KF-Xが山場~」でも書いた通り、韓国の次期戦闘KF-Xの調達が山場だが、総予算73億ドルに収まる提案が提示されず、やむなく選定作業を一時中断する決定が下されている。

韓国軍は、次期戦闘機60機を5年間(2017年から2021年)で調達する計画だが、これは建国以来、最大の兵器調達。このKF-X計画は3段階のフェーズに分けて進められるプロジェクトで、第1フェーズの「Technology Development」は、2012年12月に終了。この最初のフェーズでは、調査団を米国とスペインに派遣して候補機の評価分析を実施している。この際、最も実機に近似する機体に試乗できたのは、トランシェ3と同等のフェーズ1エンハンスメント・ソフトウェアを実装したタイフーンだけで、15回の飛行評価の機会を得ている。しかし、空軍垂涎のF-35は、シミュレータのみで、評価らしい評価ができないまま調査団は帰国している。第2フェーズは、試作機製造を含む「Engineering and Manufacturing」。最終段階の第3フェーズ「Joint Production and Joint Marketing」がゴール。

実は、今回のKF-Xは、韓国単独のプロジェクトではなく、共同調達者としてインドネシアが費用の20%を負担するスキームのプロジェクトなのだ。韓国国内に設置されている共同開発センターには、インドネシアの軍人/軍属が37人派遣されているが、今回の選定作業の一時中断にインドネシア国防省も苛立ちを見せている。

しかし、韓国はつくづく運の悪い国だ。アベノミクスによる円安に連動して、ウォン安となっているからだ。韓国銀行が6月10日に発表した輸出入物価指数によると6月の輸入物価指数は104.73で前月比2.2%上昇したと発表している。原因は、6月のウォン・ドル相場が2.2%のウォン安・ドル高になったこと。第1回の入札は、6月18日に公示され28日までに合計30回の札入れが行われたが不調に終わった。7月2日に再開され25回の札入れが行われたが、これまた不調。これは、ロッキード、ボーイング、EADS3社の提示価格が73億ドルを超えており、様々な条件を変えても韓国側の調達条件を満たす事が出来ない状況を解決できないでいる。

これで韓国の次期戦闘機選定は、秋以降にずれ込む事となる。しかし、日本発異次元の金融緩和によるウォン安と言う経済トレンドは、変わる事はないだろう。韓国軍の本命はロッキードF35。しかし開発途上のこのステルス機を韓国が調達するには、結局、機数を減らす事が最善の判断となるだろうが、軍は納得するか? 今年度内に機種の選定を行わないと、韓国経済の変調により計画そのものが無期延期となる可能性があるが~

このような状況はインドも同じ。つまりインド・ルピーの対ドル相場が下落しており、調達案件について、相対的に海外企業が有利な状況。インド国内の防衛企業が、政府に対し保護策を講じるよう陳情する事態となっている。シェール革命と製造業回帰により米国経済が大きく復調すると、米ドル建てでの武器調達は、最新の防衛システムを構築しようとする国々においては頭の痛い問題だ。

イスラエルの優れもの近接防空システム“アイアン・ドーム”

2013年07月09日 | 雑感
アイアン・ドーム(פַּת בַּרְזֶל)は、Counter-RAMに分類される防空システムで、Rafael Advanced Defense Systems Ltd.社製。
このアイアン・ドームは、2011年年3月末に、イスラエル空軍の第947大隊の2個高射中隊を、それぞれベエルシェバとアシュケロンに展開させたのが初めての実戦配備で、初戦果は、4月7日ガザ地区から発射されたBM-21ロケット弾の撃破。迎撃したのはアシュケロンに展開していた中隊。

アイアン・ドームは、着弾した場合の人的・物的被害の有無など脅威分析を行って迎撃する。ただの野原に着弾すると分析されると、アイアン・ドームはそのまま着弾させるのだ。アイアン・ドームのインターセプター(迎撃体)は“タミル(Tarmis)”と命名されており、アイアン・ドーム1個中隊は、それぞれ20発のTarmisを備えた発射機3基と、対砲・対迫レーダーELM-2084(フェーズドアレイ、Sバンド)、射撃管制ユニットで構成される。アイアン・ドーム発射機は1基当たり約5000万ドルと高額で、迎撃体タミルも1発5万ドル以上するので、導入から運用に掛かる費用は、国防費を圧迫する事になる。

しかし激しさを増すロケット攻撃に対し、イスラエル政府は、厳しい財政状況にも関わらず米国の資金援助の確約を待たずに、4月10日、更に4個高射中隊の追加配備を決定。早くも8月31日には中隊の編成を完了し、直ちにアシュドッドに配備され実戦配備に就いた。2012年3月には第4番目のアイアン・ドーム高射中隊がグッシュ・ダンに展開。最後の中隊は、11月17日に実戦配備に就いている。現在、5個中隊で任務についているが、第6番目の中隊は、この7月中に編成を完了し、実戦配備される予定。これらアイアン・ドームの配備は、米国のFY2012予算から7000万ドルの資金援助を得て実現したもので、イスラエルの財政上、3個中隊以外の予算措置が行われず、宙ぶらりんの状態だったが、米国が支援の手を差し伸べた。

因みに1番目~第4番目のアイアン・ドームは、85%のキルレシオを記録した初期型モデルで、第5、第6番目の中隊には、より覆域拡大版の改良モデルのアイアン・ドームが配備されている。この措置は、中短弾道ミサイル防衛システム「デビッド・スリング」の調達が遅れている事によるもの。

イスラエルは、2014年7月までに、更に2個中隊の配備を目指しているが、これはシリア情勢の緊迫化も背景にある。既に6月28日、北部の港町ハイファ近郊にアイアンドーム1個中隊を配備した。イスラエル全土を効果的に防衛する為には、最低14個中隊が必要と言われ、保守・運用を勘案すると20個中隊は欲しいようだが、前述の通り財政状況がそれを許さない。例えば仮に14個中隊体制を早期に実現するとした場合、複数年契約で6億8000万ドルの費用が掛かると試算されている。今のイスラエル政府にこれを負担する能力はない。必然的に米国の支援に期待するのだが、今のところ米国から援助は順調のようだ。
6月6日には、イスラエルの防衛システム開発の為の資金援助額が、当初の9600万ドルから3倍近い2億8400万ドルに増額する事が米下院軍事委員会で承認されている。この内アイアンドーム関連は1500万ドル相当が当てられるが、今までの米国からの支援総額はアイアン・ドームだけで2億5000万ドルに達している。いよいよ来年から遅れていたデビッド・スリングの配備も始まるので、イスラエルの防空体制の強固さは、今や世界一だろう。

キャプジェ・ガルチェン・リンポチェ来日と “パンチェンラマ”問題

2013年07月03日 | 雑感
チベット仏教のディクン・カギュー派の高僧であられるキャプジェ・ガルチェン・リンポチェが7月中旬に来日される。ガルチェン・リンポチェは、現代チベット仏教を代表する高僧のお一人で、米国を中心として活動されている。
ガルチェン・リンポチェは、転生活仏でカギュー派開祖のジクテン・スムグンの高弟の転生者に認定されておられる。ガルチェン・リンポチェは、中国共産党のチベット侵略時には、武器をとって戦った武闘派で、中国占領後は、20年の長きにわたり強制収容所に隔離されていた。この間、無為に過ごすことなを研究されている。

◎過去ブログご参照→「チベットはチベット! 断じて中国ではない

中国と戦ったキャプジェ・ガルチェン・リンポチェ来日の報に接し、考えるのが中国政府の偽“パンチェン・ラマ”問題だ。
パンチェン・ラマ11世であるゲンドゥン・チュキ・ニマ(ジェツン・テンジン・ゲンドゥン・イェシェ・ティンレー・プンツォック・ペルサンポ)は、4月25日に24歳となった。
1995年5月14日にダライ・ラマから正式にパンチェン・ラマ11世として認められた直後の5月17日に、家族と一緒に中国当局に拉致され、以後消息を絶っている。当時は6歳だった。既に拉致から18年の時が過ぎ去った。

チベット亡命政府は、中国政府に対し、パンチェン・ラマ11世の消息と解放を要求しているが、一切無視している。このパンチェン・ラマ11世が拉致された時期のチベット自治区党委書は、後に国家主席となる胡錦濤。チベットでは、反中国デモが活発化しており、胡錦濤は、抗議デモを容赦なく弾圧し、逮捕した僧侶には公開裁判の上、死刑判決や長期重労働など重罪判決を言い渡し、無慈悲にチベット民衆と僧侶を圧殺した。
チベット全土が動乱状態にある中、1989年1月28日、パンチェン・ラマ10世が急死した。パンチェン・ラマ10世は当時から毒殺されたとの噂が絶えず、チベット人は胡錦濤が殺害を指示したと考えている。多分真実だろう。

パンチェン・ラマの死去により、抗議デモはますます大規模化し、手に負えなくなった胡錦濤は、共産党史上初めてとなる戒厳令を布告。時に1989年3月8日午前零時。後の天安門事件に先立つもので、この断固たる対応が後の国家主席への道を開くことになったが、チベット民衆を弾圧した胡錦濤の罪は非常に重い。
胡錦濤は、ダライ・ラマと違いチベットに居るパンチェン・ラマ11世も、先代同様に殺されている可能性が高い。チベット人にとってダライ・ラマを太陽。パンチェン・ラマを月であり、民族の存立にかかわる大切な存在として崇敬してきた。中国は、傲慢にも偉大なチベットの大地に根付く霊的血脈を断絶し、中国当局の言いなりとなる「偽パンチェン・ラマ」を擁立した。「偽パンチェン・ラマ」は、中国共産党幹部の子であるギェルツェン・ノルブで、彼は政治局員として中国政府の手先として利用されている。

しかし、チベットには第二、第三のキャプジェ・ガルチェン・リンポチェが生まれ、中国からのチベット解放に向けて武闘するだろう。我々は歴史的、文化的観点から、また中国の遅れた植民主義を打破するためにもダライ・ラマ亡命政府とチベット武闘派を支援するべきだ。そしてパンチェン・ラマ10世と11世の死についての真実を暴かなくてはならない。
だが、ダライ・ラマ法王が認定したパンチェン・ラマ11世には生きていて欲しいと願うのは、チベットの人たちでだけはないことは重々認識しておくことだ。