阿部ブログ

日々思うこと

PIVOT BIO社が合成肥料を代替するProbioticsを開発・販売〜持続可能な農業の実現に向けて

2018年11月15日 | 雑感
米PIVOT BIO社が、PIVOT BIO PROVENと言うトウモロコシの植え付け時に使用するできる液体のProbioticsを開発し、来年2019年から販売を開始する。このPIVOT BIO PROVENは、合成肥料を代替する商品で、窒素を生み出すProbioticsを遺伝子操作で創りだした。PIVOT BIO社は、シリーズBで下記投資家から7,000万ドルを調達した。

•Bill & Melinda Gates Foundation
•Breakthrough Energy Ventures
•Data Collective
•Monsanto Growth Ventures
•Temasek Holdings
•DARPA(米国防高等研究計画局)

何故、PIVOT BIO PROVENは必要とされるのか? それは、ハーバー=ボッシュの窒素固定法以降、陸上の生物系が必要とする2倍以上の活性窒素が、窒素肥料や化石燃料の燃焼などによって生成されている。活性窒素とは、活性窒素とは、窒素分子以外の形になった窒素で、アンモニア、硝酸態窒素、窒素酸化物、亜酸化窒素、尿素、タンパク質、核酸などである。生物によらない人為的な活性窒素生成量は、地球の許容量の約3倍に達しているといわれ、特に亜酸化窒素は、それ自体が強力な温室効果ガスであり、合成肥料の散布によって、土壌の微生物群が、肥料の窒素を亜酸化窒素に転換し増加し続けている。これが地球温暖化や気候変動の問題を複雑にしている。また、活性窒素は、海洋生態系を著しく劣化させており、藻が繁殖した中国の緑色の湖やメキシコ湾、五大湖の酸素欠乏ゾーンの発生など極めて深刻な環境破壊を伴っている。この為、国連持続可能な開発会議(リオ+20)において、窒素汚染対策を推し進めるとの宣言がなされている。

PIVOT BIO PROVENは、自然界に存在する微生物の本来の能力を利用してトウモロコシなどの作物に栄養を提供するので、持続可能な農業を推進する上で、有望な製品である。このような合成肥料によらない農業の研究は先進国で進められており、2018年5月9日、名古屋大学は、窒素固定酵素とその関連遺伝子(26個)をシアノバクテリアに導入し、初めて光合成生物で窒素固定酵素を働かせることに成功したと発表。これは植物への窒素固定酵素の導入に役立つことが期待され、合成肥料がいらない農業の実現への大きな前進である。また、現在、原子力発電所150基分に相当する大量のエネルギーを投入して合成窒素肥料を生産しているが、PIVOT BIOや名古屋大学などの研究成果が農業分野へ実装されるようになると劇的なエネルギーの節約ともなると期待される。

○主要参考文献(含むURL):
★PIVOT BIO社
https://www.pivotbio.com/ 

★資金調達
https://blog.pivotbio.com/news/pivot-bio-closes-70-million-series-b-financing-to-deliver-first-and-only-clean-alternative-to-synthetic-nitrogen-fertilizer-for-u.s.-corn-farmers 

★空気を肥料とする農業に向け大きく前進~光合成生物に窒素固定酵素を導入
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180509/index.html 

ハエを利用した有機廃棄物処理と昆虫飼料の可能性〜栄養価の高い昆虫食と昆虫飼料に注目

2018年11月15日 | 雑感

九州・福岡に本社を置くムスカ(MUSKA)と言う会社が、ハエを利用して家畜糞や加工残渣から、栄養価の高い有機肥料と飼料を100%リサイクルすることに成功した。このイエバエは日本に広く分布し学術名をMusca Domesticaと言う。一般的にハエは、不潔で身近にいる典型的な害虫と思われているが、有機廃棄物問題と食糧増産問題を解決する有力な昆虫として注目を集めている。日本国内だけでも食品廃棄物は年間約2,900万トン以上出されるが、この食品廃棄部を餌にしてイエハエの幼虫を育て、成長過程で出る排泄物を再利用し、幼虫そのものと混ぜてこれを飼料とする。イエバエは、1週間で成長し、有機廃棄物を完全に分解し、排泄物をもたらす。成長したイエバエの幼虫とその排泄物そのものは、栄養価が非常に高く、同社によれば、イエバエの幼虫と排泄物を用いた養殖用飼料として普通の餌に混ぜて与えると、真鯛の場合、約40%の増体効果が確認され、家畜に与えると5%の餌摂取効果が得られると言う。また、病気に対する耐性も向上することが判明している。更に宮崎大学との共同研究の結果、イエバエの幼虫と排泄物による肥料を使って二十日大根を栽培したところ、一般の有機肥料を使った場合よりも身の締まりが良く、粒が揃っているという結果となり、また、一般栽培のものの糖度が通常2.0~2.5なのに対し、イエバエの肥料の場合は、4.0と2倍高いことが確認された。同社によれば農作物の肥料として利用すると1年以上完熟させた堆肥よりも収穫量を約15%引き上げることが可能としている。
人類は過去、家畜や人糞を農業肥料として広く利用してきた歴史があるが、ハエの幼虫とその排泄物も農業肥料や家畜・養殖等の飼料に適している。また、昆虫そのものを食糧とする昆虫食(Insect eating)は珍しくなく、ハチの子やイナゴなどは日本でも食されてきた。世界では約1,400種類の昆虫が食材として利用されていると言われる。このムスカのイエバエは、旧ソビエト連邦で45年にわたり1,100世代の選別交配によって生み出された、スーパーイエバエともいえる品種で、この特許を日本のアビオスが取得しイエバエ事業を立ち上げたが、2016年に分社化し、これが現在のムスカとなっている。
今後世界人口が100億人に達すると予測される中、食糧増産と生産性向上は至上命令であり、且つ地球環境に悪影響を及ぼさず持続可能であることが不可欠である。この観点から、ムスカのイエバエによる肥料・飼料生産は非常に魅力的で有効なものであると考えられ、同技術と関連企業等の動向には要注目である。

○主要参考文献(含むURL):
NUSUKA
https://musca.info/ 

ムスカイエバエとムスカシステムの解説アニメーション
https://www.youtube.com/watch?v=QvobbUwbhgY 

磁性ソフトマテリアルを3Dプリンタで創る

2018年11月01日 | 雑感
ソフトマテリアルは,文字通り柔らかい材料のことで、身の回りにも液晶デイスプレイ、ペットボトル、コンタクトレンズ、チーズ、コンニャク、石鹸膜など多岐にわたり、我々の生活の利便性を高めるのに役立っている。これらのソフトマテリアルは、分子が紐状に繋がった高分子、ゴム、ゲル、コロイド、液晶、タンパク質、糖質、DNAなどの総称であり、金属やセラミックスなどハードマテリアルとは大きく異なる性質を示すが、このソフトマテリアルの中でも光、熱、溶媒、電場、磁場などの刺激に反応して、三次元形状を変える材料に注目が集まっている。
最新の研究では、磁場を制御することによってスピーディーに三次元形状を変える取組が行なわれており、磁気応答性の良いソフトマテリアルとして、軟質コンパウンドへの磁性粒子組み込み材料や、ポリマーシートでの不均一磁化プロファイルなどが対象とされているが、課題は、三次元形状の変形速度が数時間から数日かかる点にある。これをクリアできるとロボティクス、エレクトロニクス、生物医学などの広範囲な分野で利用が期待出来る。
英国・科学雑誌Nature(558,7709 2018年6月14日)の「Printing ferromagnetic domains for untethered fast-transforming soft materials」によれば、ソフトマテリアルのプログラムされた強磁性ドメインを3Dプリンタで造形し、磁気駆動による複雑な三次元形状の高速変形を可能にした報告されている。論文によれば、強磁性微粒子含有のエラストマー複合材料(シリコーンゴムマトリックス内にネオジム=鉄=ホウ素強磁性微粒子を埋め込んだもの)を3Dプリンタの素材として利用し、積層造形中に磁場を加えることにより、材料粒子を加えた磁場方向に向かせてパターン形成すると言う手法を用いている。これにより、三次元積層された複雑な形状のソフトマテリアルをこれまで不可能であった一連の高速な変形操作が可能となった。今回の成果を基にして、今後は、形状記憶のソフトエレクトロニクス、跳躍できる機械的なマテリアル、医薬品を輸送するソフトロボットなどへの適用を行うとしている。
20世紀は、ハードマテリアルの時代で、21世紀は、ソフトマテリアルの時代と言われており、最終的には、人間脳を模倣した脳型コンピュータとソフトマテリアルによる生体システムの融合が究極と言われており、バイオプリンタなどの適用も十分に期待される。

○主要参考文献(含むURL):
Printing ferromagnetic domains for untethered fast-transforming soft materials
Nature volume 558,pages274–279 (2018)
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0185-0