阿部ブログ

日々思うこと

モサド長官がトルコを訪問し、対イラン戦略、シリア内戦について討議

2013年06月14日 | イスラエル
オバマ大統領のイスラエル訪問以降、2010年5月に発生したトルコ人射撃事件で冷え込んでいたトルコとの関係改善にイスラエルが積極的に動いている。背景には、イランの核開発の進展、混迷するシリア内戦、トルコ国内で活発化するイラン情報機関の活動がある。特にイスタンブールの騒動にはイランの関与が示唆されている。

両国の外部環境に鑑み、イスラエルは、モサド(MOSSAD)タミル・パルド(Tamir Pardo)長官をトルコに派遣し、トルコ国家情報機構(MIT)のハカン・フィダン(Hakan Fidan)長官と6月10日に会談。両国の情報機関同士の緊密な情報共有と対イラン、対シリア情勢で連携して対応する事を申し合わせた。特にイランの核開発について最新の状況をトルコに提供したようだ。

イランの核開発は、ネタニアフ首相が設定した限界ラインを超えつつあるとの認識で、イランは核関連施設の増強を促進しており、年間30発の核爆弾を製造できる能力を獲得する手前にある。既に20%濃縮ウランを190kg保有しており、もしこの濃縮ウランが250kgに達すると、遠心分離器で数週間から2ヶ月程度で、濃縮度90%のウランが製造出来る。

シリア内戦については、S-300供与と化学兵器使用問題、トルコへのパトリオット配備と国境付近での銃撃事件や、ゴラン高原におけるシリア政府軍と反政府勢力の戦闘によるイスラエル軍の国境監視に関する最新情報を交換。特に化学兵器問題では、イラクで6月1日、イラク軍がバグダッドで掃討作戦を行い、ラジコン機とサリンなどの毒物を押収。検挙された関係者は、アルカイダ系の組織の指令を受けていたと自白している。イラク国内からサリンなどがシリアに流入する可能性もあり、イスラエルは懸念を深めている。シリアだけでなく、周辺国でのイスラエル=トルコ両情報機関が協調して監視する必要がある。
全く別件ではあるが、イスラエル沖の天然ガスを海底パイプラインでトルコに供給する構想もある。
過去ブログを参照→「イスラエル=レバノン沖の天然ガス資源

イスラエルの動きは活発だ。6月12日には、モシェ・ヤーロン(Moshe Yaalon) 国防相が訪米しており、チャック・ヘーゲル国防長官と会談しており、内容は、やはりシリア情勢で、S-300のシリア輸出問題と化学兵器使用問題。それとシリア反政府勢力への武器支援の要請だ。また6月17日、オバマ米大統領がプーチン大統領と北アイルランドで会談するが、シリアへのS-300供与についてのメッセージをオバマ大統領に託す。今月17日18日両日、G8首脳会議「UK Presidency of G8 2013」が英国ロックアーンで開催されるのに先だって両大統領が会談するのだ。
イスラエルの分析によればシリアは今後2極化、若しくはトルコから退去したクルド武装勢力とイラク・クルド族も加わって3極化する可能性があるとしている。

世界ユダヤ人会議開催~バチカンとスコットランド国教会~

2013年05月04日 | イスラエル
今日から、ハンガリーにて世界ユダヤ人会議が開催。ヘブライ語でכל ישראל ערבים זה לזה
会議の標語は上記の通り、全てのユダヤ人はお互いに責任を負う、だ。
本部はニューヨークで議長は、ロナルド・S・ローダー氏だ。議長はアートコレクターで有名。

同会議の開催前の5月1日には、ペレス大統領がバチカンを訪問している。
イスラエルの大統領は、ローマ法王に「あなたが何をしても、どこへ行っても、栄える」(I列王記2:3)と刻印された旧約聖書を贈呈している。新法王にエルサレム訪問を提案したイスラエル大統領の提案を、法王は受諾している。画期的な事だ。

反面、イギリス連邦王国からの独立問題が熱いスコットランドの国教会が、約束の地に関するユダヤ人の歴史的権利を全面否定する報告書を発行している。同報告書によれば、神により特定の人に特定の土地への権利が与えられることはないとの主張してる。親ユダヤのスコットランド国教会に何があったのか? 実に興味深い。 

イスラエル=レバノン沖の天然ガス資源

2013年04月07日 | イスラエル
イスラエルは、EEZ(Exclusive Economic Zone)防衛力の強化を計画している。何故ならば、安息日の2013年3月30日、イスラエル沖合で初めての天然ガス生産が開始されたからだ。

イスラエルは、ハイファの西方沖合約97km、水深1500メートルの地中海に位置するタマル(Tamar)ガス田の掘削プラットフォームと、その海底パイプラインを防衛警備する為に、OPV (Offshore Patrol Vessel)4 隻を調達する。予算規模は4億ドルで、調達先は韓国。韓国でOPVの船体、主機や電気系統を搭載し、実際の戦闘システムはイスラエル製。ヘリを搭載するOPVは、1200~1400t級で最高速度は24kt。

タマル・ガス田の推定埋蔵量は約2700億立方メートルで、海底パイプラインを経由してテルアビブの南、アシュダッドに陸揚げされるが、自国のEEZ内での天然ガス資源により、イスラエルのエネルギー安全保障は大きく改善される事となる。タマル・ガス田に隣接するリバイアサン鉱区の推定埋蔵量はタマル・ガス田を大きく上回るとも言われ、イスラエル沖合での天然ガス資源開発が今後本格化する。現在は、洋上LNGプラントの建設計画が検討されているので、ガス発電プラントやLNGプラントなど日本企業の出番もあるだろう。

現在のイスラエル国内における天然ガス需要は発電向けが5億立方メートル/日、工業向けが2.5億立方メートル/日。合計7.5億立方メートル/日だが、将来的には完全に自国内の天然ガスで賄えるだろう。タマル・ガス田は徐々に9.85億立方メートル/日まで生産量を引き上げる予定なので余剰分は輸出に回すことができる。計画では2015年に15億立方メートル/日の生産を達成する予定。
因みにイスラエルの電力発電の4割は石炭だが、今後天然ガス発電に置き換わっていく。一人当たり平均6.6kwhと言われるイスラエルの電力消費の大部分は天然ガス発電となるのは自然流れだ。

イスラエル初の天然ガス田のタマルの開発費用は32.5億ドル、ガス田発見から生産までは、何と2.5年と言うから驚きだ。しかしイスラエル沖での天然ガス田はタマルだけではない。イスラエル沖で石油・天然ガス探索しているのは米国のノーブル・エナジー社だが、前述のリバイアサン(Leviathan)、ドルフィン(Dolphin)、タニン(Tanin)、ダリト(Dalit)などが発見されており、イスラエル沖合の天然ガス推定埋蔵量は、総計35兆立方フィートと莫大だ。

中でもリバイアサンの推定埋蔵量は17兆立方フィートと言われており、現在、2016年の生産開始に向けてプラットフォームの建設が進んでおり、生産量は最大で16億立方メートル/日で、ガスは海底パイプラインでハイファへ陸揚げされる。リバイアサンのガスは、半分を国内向け、残りの半分は輸出に回される。しかし輸出するには液化する必要があるが、これはオーストラリアの石油・天然ガス会社ウッドサイド社が担当する事が決まっている。

このようにEEZ内に莫大な天然ガス資源とプラットフォーム、海底パイプラインなど重要施設の防衛を確実にする為には、OPVを新規に調達して万全なものとする事は、確かに重要な事であるが、イスラエル沖合のLevant堆積盆地にある天然ガス資源は、レバノン沖にも達していることが判明しており、今後両国で天然ガス資源など海底資源を巡って紛争になる可能性は高い。

既にレバノン議会の議長は、イスラエルがレバノンの天然資源を盗むのであれば、それを阻止すると発言し、レバノンの首相も、地中海のガス田の所有権の争いに関し、レバノンはイスラエルの脅しにおびえることはない、と発言している。問題なのはイスラエルとレバノンの領海線が確定していない点で、シリア内戦、キプロス情勢なども勘案すると、前述の通り東地中海での資源紛争が顕在化する事はありうるだろう。

レバノンは、国内総生産の175%に達する540億ドルの対外債務を抱えるが、もし天然ガスの輸出により外貨を稼ぐことが出来ると債務の解消を達成する事が可能となるだろう。米国の地質調査所によればイスラエルと同様規模のガス資源の埋蔵があるとされており、液化天然ガスプラントやパイプラインに巨額の投資が必要とはなるが、地政学的に不安定な地域ではあるが、投資する企業はあるだろう。

レバノン海軍のNazih Baroudi提督は、レバノン海軍が自国の排他的経済水域(EEZ)を警備し、将来建設されるであろう天然ガスプラットフォームや海底パイプラインを保護できるようにすると、米国海軍研究所の会報誌に書いている。これを裏付けるように米国は、沿岸警備艇をレバノン海軍に売却している。売却されたのは43.5メートルのTrablous。

いずれにせよイスラエルの天然ガス生産開始と周辺でのガス開発が進捗するとレバノンとの軋轢は避けられないだろう。