阿部ブログ

日々思うこと

キャノングローバル戦略研 『排他的経済水域における安全保障と産業活動』 ~その2~

2011年11月22日 | 日記
「新しい海底鉱物資源レアアース資源泥の発見とその開発可能性」(東京大学工学系研究科 システム創成学専攻・加藤泰浩准教授)

・レアアース(以降、REE)の特性は磁気特性、光学的特性にある。これは原子の電子軌道・配置に起因するものであり、完全なREEの代替は難しいだろう。

・日本のみならず先進国などで必要とされるREEの内一番重要なポイントは、重希土類の開発である。特にイオン吸着鉱床は中国南部にしか存在しないため、完全なREEの脱中国が出来ない状況にある。中国も重希土類の輸出のためにカットグレードが500ppm程度のものも製品として輸出している。これはかなり無理していると言わざるおえない。特にREE生産においてはトリウム・ウランが濃集している為に深刻な環境汚染が広がっているだろうが、中国政府がこの手のデータを一切公開していない為、詳らかではないが放射能汚染は確実に存在する。

・オーストラリアの場合、REE鉱石を国内での抽出は許さないが鉱石自体は輸出しても良いとの政策で、これをマレーシアに持って行き、この地でREEの抽出プロセスを行おうとしているが住民の強力な反対に遭って頓挫している。REE取得の為にはトリウム・ウラン問題を避ける事が出来ない。

・南太平洋で発見したのREE泥は、海底2メートルから7メートルにわたり存在し、REEが濃集堆積している。このニュースは国内メディアだけでなく海外でも大きくニュースとして配信された。これは日本のみならず世界各国でREEがストレスになっているのがわかる。

・REE泥には分析の結果、重希土類が中国産の2倍から3倍の含有量があり、かつ陸上埋蔵量の800倍もあると推測している。

・REE泥の探査は容易である。特に陸上で産出するREEとは違いトリウム・ウランなど放射性物質が随伴産出しない特徴がある。これは朗報だ。

・この海底REE泥のもう一つの特徴が、REEの抽出が容易な点。REE泥に塩酸・硫酸を掛けるだけでREEを溶出する事が出来る。塩酸だと97%、硫酸だと80%の溶出率を誇る。

・今回の調査の結果、南太平洋タヒチ沖(76域)には1500ppmのREE泥が発見されている。この調査地域タヒチはフランスのEEZ内である事から、フランスがREE開発に進出することが予測されている。このREE泥は厚さ2メートルから7メートル程堆積している為、フランスが開発することは十二分に経済合理性も含めて可能性は高いだろう。

・REE泥は太平洋域に広く存在している。今回の調査海域の場合、タヒチなど南太平洋域と比較するとハワイ西側のREE濃度は少し落ちるが、平均30メートルから最大70メートル堆積している為、その資源量たるや莫大なものがある。このREE泥を回収出来れば今のREE危機は回避できるし、今後のREEに関する不安材料は払拭されることとなる。

・REE泥の生成は海底火山からの熱水など豊富な資源を含んだ鉱水が海中を漂いそれが海底に堆積したものと考えれれる。火山噴火により沸石が生成し、この沸石が海水に含まれるREE吸着をして海底に堆積する時の核となったのではないか?

・日本の排他的経済水域(EEZ)内におけるREE泥の分布で最大のものは、多分、南鳥島海域にあると考えている。南鳥島は1億2000年前にできた島で、南太平洋域から数億年を掛けて日本列島に近づいてきた島で、最も中央海嶺の活動が活発だった白亜紀を経ている為に、REE泥が莫大な量が蓄積されている堆積層が存在すると期待されている。南鳥島は、REEを濃集しつつ日本近海に移動してきた宝の島と言える。

・このREE泥をエアリアリフト方式で泥を回収し、船上で酸にてリーチングする方法が考えられているが、真水は海洋上では貴重なので、海水でリーチングできるかを検証した所、出来ると言う結果が出ている。REE泥の回収は三井海洋開発と一緒に進める予定。

・リーチングの後、残った泥は南鳥島の埋立てに使えると考えている。ロンドン条約で海洋投棄は厳しく制限されているので埋め立てが現実的な対応だろう。 

・REE楊泥の実証実験の結果、平成24年度予算請求において220億円でREE探査船予算を計上してこれが通っている。ただしこの船が出来るのは4年後であり、その間の間隙を埋める為に経産省が別途REE泥調査に要する費用を捻出する話が進んでいる。

・REE泥の回収などこの手の技術は、フランスの会社が技術を所有しており、彼らがタヒチなどでの開発を行うのではないか?残念な事に、海洋国家を標榜する日本にはまともな海洋開発技術がないのが現実。とても残念な事だが、外国船をチャーターしてREE泥の回収を行うなど具体的な行動が必要である。

・REE泥の資源価値は、1隻の収集船で約300万トン/年と推定している。例えばタヒチのサイト76の場合、700m×700mの広さでREE泥堆積層10mで、含有量0.66g/cm3、抽出率975ppmとすると総REE量3700t(酸化物換算)となる。これにジスプロシウム量は146tで日本のDy消費量の18%から20%に相当する。