阿部ブログ

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キャノングローバル戦略研 『排他的経済水域における安全保障と産業活動』 ~その1~

2011年11月21日 | 日記
2011年11月18日(金)財団法人キャノングローバル戦略研究所シンポジウム『排他的経済水域(EEZ)における安全保障と産業活動』

今回のシンポジウムは『海洋立国研究会』の活動結果の報告と言う意味合いが強いのだと言う。
この『海洋立国研究会』はキャノングローバル戦略研究所の理事・研究主幹である湯原哲夫先生が中心となって調査研究を行ってきた。
湯原先生は、三菱重工で初期の高速炉「もんじゅ」の開発に従事、その後海洋開発など幅広い分野で活躍され、今は東京大学特任教授であり、
かつキャノングローバル戦略研究所で精力的に調査研究活動されている。

さて『海洋立国研究会』のメンバーも流石に錚々たるものだ。
キャノングローバル戦略研究所からは、湯原先生をはじめ、上之門捷二氏、美根慶樹氏、段先生、青柳さん、和田良太氏。
大学関係者としては、東京大学の尾崎雅彦教授、早稲田大学・卓爾准教授、多部田准教授。
そのほか、元海上自衛隊幕僚長・古庄幸一氏、元産総研の山崎哲生氏、資源専門家の谷口正次氏、高島正之氏、村木豊彦氏など。
これからの政官への具体的な政策提言と、その政策実現にむけた将に正念場の時だが、自分も微力ながら貢献出来ればと考えている。


■シンポジウムの開会挨拶は、福井理事長(元日本銀行総裁)が挨拶された。お近くで拝顔するのは初めてだ。福井さんの挨拶主旨は以下。

・世界経済は、定常状態な危機的な経済状況が続いており、重要な局面に対しているとの認識している。
・経済のサプライサイドを見据えて原子力政策などの見直しが必要である。
・我が国は、戦後、国家安全保障を明確に意識しないできたが、これからは国家安全保障を明確に組み入れた国家戦略の立案と実行が必要。
・つまり国の今後のナビゲーションでは安全保障を勘案して国の在り姿を考える必要があると言うこと。
・日本は、陸上面積は世界62位であるが、EEZを含む面積は6位であり、その資源エネルギー的ポテンシャルは非常に大きいものがある。
・これらかの日本にとってのフロンティアは海洋に求めるべきである。今回のシンポジウムの意義はココにある。

■湯原先生の講演「海洋新産業創出のステップ」

・新たな海洋国家の条件には5つある。
  ①海洋資源力、
  ②海洋(海事)産業力、
  ③海洋環境力、
  ⑤海洋軍事力(海上保安力)。
 特に自らの海洋権益を守るための外交・軍事力が必須。

・海洋基本法が議員立法で成立しているが、この法律の中心は、権益確保と海洋資源と環境の3つで、具体的には「権益確保と安全保障」、「環境保全と管理(アジェンダ21)」、「海洋産業立国」を掲げている。

・海洋基本法の目的は、海洋の平和的・積極的な開発・利用と環境保全の調和を図る新たな海洋立国を実現するとある。

・基本理念で重要なのは以下の3つ。
  ①海洋の開発と利用は我が国経済社会の存立基盤である、
  ②海洋ほ安全確保は重要であり、積極的な取組みを行う、
  ③海洋産業は経済社会の発展基盤、国民生活の安定性向上の基盤、健全な発展を図る事。

・海洋基本法の基本的施策で重要なのは、①海洋資源の開発及び利用の推進、②排他的経済水域の開発推進、③海洋調査の推進、④海洋科学技術に関する研究開発の推進、④海洋産業の振興及び国際競争力の強化である。

・海洋基本法も制定から5年を経過しており、基本計画の見直し時期にきている。

・海洋産業については、やはり海洋に存在する資源エネルギー開発が最重要で、マンガン団塊やコバルトリッチクラストなど海底鉱物資源の開発、また海洋石油・天然ガス、メタンハイドレート開発とその潜在資源量は膨大。

・海洋産業については海洋における風力発電や潮力、波力発電など再生可能エネルギーの開発を進める必要がある。勿論、漁業など水産業や造船など海事産業の振興も併せて政策実行することが肝要。

・海底資源開発や海洋産業化のプロセスにおいて参考となるのがノルウェーやイギリス、海洋再生可能エネルギー分野ではデンマークの水上風力発電所、海底資源開発ではブラジル。これら各国の成功要因を分析すると、やはりポリシーメイキング、すなわち確りとした政策方針の確立が基本にないとだめだと言うこと。日本んは海洋政策の明確な政策方針がない。単純に企業に金を渡して「ハイお仕舞」と言う感じでその場の一過性の予算付与で終わるのが常だ。これを変えねばならない。

・それと日本で開発した海洋技術については、基準・規格やワンセットとして海外に進出する事が極めて重要。この視点が国も企業も認識が甘い。

・ノルウェーの海洋産業創出に係わるステップは5段階。第一ステップは一番重要な「政策目標と法律の制定・整備」、第二ステップは長期の公的資金を投入して複数の企業及びベンチャー企業へ支援を行うと言う、言わば今後の海洋産業の役者となる人たちが活躍できるように財政支援すること。

・それとやはり海洋産業特有の技術開発・製造技術が必要となるために国家プロジェクトとして様々な実証実験を実海域で行うことで商業化への早期ステップアップを施行すること。最後は第五ステップで、海洋産業を輸出産業とし国際競争力を持って海外展開できる施策を講ずること。前述の通り、海洋産業に関してシステムとして輸出することと、併せて技術標準と認証を一緒にして輸出する事が肝要。それと積極的に途上国でプロジェクトを創出して国際連携を密にする事。

・1990年代、日本は海洋開発のトップランナーであった。2000年以降、主要国が海洋政策や基盤技術開発、ベンチャーへの公的資金支援、実海域での実証プロジェクトなどを精力的、また着実に実施展開してきたが、デフレによる国内経済の長期低迷の影響もあり、今や日本は周回遅れの状態。もはや日本は海洋開発のプレーヤーとして認められていない。早急に政策目標と基盤整備を実行し、4つの独立行政法人がバラバラに行っている海洋研究開発の一本化などやらねばならない事は山ほどある。

・海洋開発からその産業化までシームレスに行う為には、公設民営によるRDD&Dが有効な手段となると考えている。例えば米国メイン州の場合、2030年までに5GWの浮体式洋上風力ファームが計画されているが、このプロジェクトはメイン州の州法においてその実施を法的に保障している。(保証ではなく保障)RDD&Dの場合、それぞれのステージでプレヤーが入れ替わるが、事業全体のオーナーシップは変わらず州法の保障を背景として最後までプロジェクトをやり遂げる主体として存在し続ける。

・2011年は、海洋再生可能エネルギー元年と言える。初めて海洋再生可能エネルギー分野に予算がついた。来年度24年概算要求で海底鉱物資源開発と探査に165億円、メタンバイドレート開発のために153億円、洋上風力、海流・潮流・波力発電に108億円と予算を計上されており、今後の継続的予算措置を強く望むものだ。だが、問題点は日本の場合企業に金をつけるやりかた。現状の法整備と基盤整備もないまま金を配分しても、またもとの木阿弥となるだろう。

・時間があるので、参考資料について簡単に述べる。最初に波力発電の開発が世界で進められている。特に欧米では開発競争がおこり1000のアイディアから100の研究開発案件がでて、10の実海域での実証を経て数プロジェクトが実用化される。

・特に海洋開発の先端分野ではシーメンス抜きん出ており、シーメンスが海洋産業界を席捲する可能性がある。この他、イギリスのベンチャーが頑張っているし、シーメンス以外ではロールスロイス、、ロッキードマーティンがベンチャーを買収・連携して海洋開発を積極的に進めている。

・カナダにある潮位差12.9メートルの所に潮流潮位発電所を建設するプロジェクトが進んでいる。この潮位差は世界2位だろう。

・韓国も潮力発電、波力発電に力を入れている。黄海に面している海域では潮位差が大きいので実用化され可能性が高いし、韓国政府はこの潜在的エネルギーポテンシャルを最大限に活用する明確な意思を持って計画を遂行している。

・ABBはデンマークやドイツなどでの洋上風力発電所向けに海底送電網を構築する計画があり、これは着実にを実行されるだろう。

・海洋再生可能エネルギーの利用を促進させるなどの話を官僚の皆さんにすると、まずは調査をまずやらねば、と言うが、そうこうしている内に他国は先に進んで行く。今や周回遅れではなく2周遅れになるだろう。